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岩松了「市ヶ尾の坂ー伝説の虹の三兄弟」(2018年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
市ヶ尾の坂.jpg
1992年に竹中直人の会で初演され、
当時から非常に世評の高かった、
岩松了さんの代表作の1つ「市ヶ尾の坂」が、
何と26年ぶりに再演されました。

その間別の演出家による再演はありましたが、
岩松さん自身の演出による再演は今回が初めてです。

これは凄い芝居なんですよね。

岩松さんの劇作は、
何気ない日常会話だけを淡々と連ねながら、
そこに別個の感情や心理を、
見えないように忍ばせて物語りが進行し、
それがラストになって急に目に見える形に浮上して、
観客に衝撃を与えるという構成が特徴です。

それが結構急な暴力であったり、
事件であったりする作品もあるのですが、
この「市ヶ尾の坂」では本当に最後まで、
劇的と称されるようなことは何も起こらず、
物語にちりばめられた謎が、
明らかになるようなことも何もありません。

それじゃ日常と同じで、
何も面白いことはないじゃないか、
と思われると思いますし、
凡百の劇作家が描けば、
そうなってしまうと思うのですが、
そこがそうはならないのが、
岩松さんの天才たる所以です。

この作品はラストが凄いんですよね。
それも、階段を女性が1人降りてくる、
というただそれだけのことなんです。
本当にそれだけなのに、
それがとてつもなく衝撃的で戦慄的で、
何か物凄いものを見た、
という気分にさせてくれます。
これは本当に見事なラストだと思いますし、
ちょっと演劇史の中でも、
あまり類例のないような場面ではないかと思います。

真面目にこのラストを見るだけで、
この作品を観る値打ちは充分にあると思います。

ただ、今回の再演に関しては、
台本が竹中直人の会に対するかなりあて書き的なものなので、
その点に違和感を感じる部分はありました。

初演の3兄弟は竹中直人、田口トモロヲ、温水洋一という、
極めて濃いおじさんメンバーですから、
26年前で皆さん若いとは言え、
それでもイメージ的には得体の知れないおじさん三兄弟であったのですが、
今回はそれを大森南朋、三浦貴大、森優作という、
とてもすっきりしたメンバーで演じていて、
特に幼児性のあるような三男のイメージが、
本当の少年のようなイメージに置き換わっているので、
全体のムードはかなり初演とは異なるものになっています。

それは岩松さんの狙いでもあるので、
それはそれで良いと思うのですが、
大森南朋さんの芝居は、
明らかに竹中直人さんが透けて見えるようで違和感がありますし、
四角い顔のお手伝いさんというのは、
これはもう初演の片桐はいりさんへの当て書きそのものですから、
それを他の女優さんが演じるのは、
それが手練れの池津祥子さんであったとしても、
かなり無理があるようには感じました。

まあでも現代小劇場を代表する素晴らしい戯曲であることは、
これはもう間違いがありませんし、
岩松さんの演出も普段より少し演出を華やかにしながらも、
前半は敢えて退屈さを出して観客の眠りを誘いつつ、
ラストでそれを後悔させる凄味を見せる、
ある種の意地悪さがさすがですし、
岩松さんの演出に載った麻生久美子さんの芝居が、
また格別に素晴らしくて、
これも惚れ惚れするような気分になったのです。

いずれにしても岩松さんの代表作が、
今回本人の演出で再演されたことは、
この上もなく貴重な機会で、
これはもう小劇場演劇がお好きな方であれば、
「これを見ずに死ねるか」と言っても、
決して大袈裟ではないのです。

皆さんも是非。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(追記)
この舞台の3場の終わりに流れるレコードの曲名を、
どなたかご存知はないでしょうか?
あのチークダンスを踊る奴です。
これは唐先生の「二都物語」のオープニングに流れたんですよね。
気になって気になって仕方がありません。
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大腸癌の治癒切除後のフォローアップ間隔と予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸癌の手術後の経過観察の頻度.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
大腸癌の治癒切除後のフォローアップの頻度についての論文です。

大腸癌の患者さんの3分の2は、
癌が固有筋層を超える進行癌ではあるものの、
遠隔転移はないⅡ期もしくはⅢ期の癌です。

Ⅱ期もしくはⅢ期の大腸癌の多くは、
治癒切除が可能ですが、
切除後の再発も稀ではないため、
定期的な検査などによるフォローアップが行われます。

ただ、
そのフォローアップをどの程度の間隔で、
どのような検査を組み合わせて行うことが、
最も有効であるのか、
というような点については、
国や地域によっても考え方は様々で、
世界的にスタンダードな方法が、
決められているという訳ではありません。

そこで今回の研究では、
1から2年に一度というフォローアップと、
半年に一度というより頻回の経過観察とを比較して、
その予後に与える影響を比較検証しています。

対象はスウェーデン、デンマーク、ウルグアイの24の専門施設で、
Ⅱ期もしくはⅢ期の大腸癌で治癒切除を受けた、
2509名の患者さんで、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は術後6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月で、
腫瘍マーカーのCEAと胸腹部のCT検査を施行し、
もう一方は同様の検査を、
12ヶ月と36ヶ月でのみ行います。
そして、術後5年の時点での両者の予後を比較するのです。

その結果、
患者さんの5年の時点の死亡率は、
2回のみの検査で14.1%、5回の検査で13.0%で、
有意は差は認められませんでした。
大腸癌による死亡リスクでみても、
2回のみの検査で11.4%、5回の検査で10.6%と、
これも統計的な差は認められませんでした。
その間の大腸癌の再発率は、
2回のみの検査群で19.4%、5回の検査群で21.6%と、
これも殆ど差はありませんでした。

このように、
治癒切除後であっても、
5年で2割の患者さんは再発している訳ですから、
術後の経過観察の必要性は間違いがないのですが、
通常の検査を間隔を詰めて行っても、
結果としては再発率や生命予後には、
差は認められませんでした。

この問題は必ずしも統計的な差のみで、
決定出来るような事項ではないと思いますが、
検査の内容など、
今後より多角的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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小児甲状腺癌は超音波検査でどの程度鑑別可能なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カラードップラーと小児甲状腺癌.jpg
2018年のthe Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に掲載された、
小児甲状腺癌の超音波診断の正確性についての論文です。

甲状腺癌の診断は、
超音波検査が最も有用で、
超音波検査により悪性が疑われた場合に、
皮膚から針を刺して甲状腺の細胞を採取する、
穿刺吸引細胞診が行われて、
悪性の疑われる細胞が確認されるか、
その可能性が否定出来ない場合に、
手術などの治療が検討されます。

成人においては、
これまでの大規模な研究の結果として、
嚢胞性の部分を含み、正常な甲状腺組織とほぼ同じエコーレベルで、
石灰化や腫瘍境界の不鮮明化、横幅に比べて縦(厚み)が大きい、
甲状腺外へ広がりが見られる、
などの悪性所見が見られなければ、
そのしこりが悪性である可能性は、
10%未満であることが分かっています。

そのために現行のアメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、
上記のような悪性の疑いが低いしこりでは、
大きさが1.5センチを超えない限り、
穿刺吸引細胞診を行なう必要性は低い、
という判断が示されています。

ただ、これはあくまで成人の場合です。

小児(通常18歳以下)においては、
甲状腺に発見されたしこりが悪性である比率は、
成人が5から10%程度であるのに対して、
22から26%の高率であると報告されています。

その点を勘案して現行のアメリカのガイドラインでは、
小児の甲状腺腫瘍は、
悪性を疑わせる所見が1つでもあれば大きさに関わらず、
充実性か部分的に嚢胞性の腫瘍で悪性所見がなくても、
大きさが1センチ以上であれば、
穿刺吸引細胞診の適応とされています。
ただ、この記載の根拠は実際には精度の高い臨床データが、
存在しているという訳ではありません。

小児の甲状腺腫瘍の穿刺吸引細胞診の適応は、
成人のデータからの推測による部分が大きいのです。

今回の研究はその点をより明らかにしようとしたもので、
経過の分かっている小児の甲状腺腫瘍236個を、
2人の経験のある放射線科医に、
ブラインドで超音波所見の読影を依頼し、
どのような所見が悪性の診断と関連が深いのかを検証しています。

その結果、
腫瘍の大きさや石灰化などの悪性所見、
嚢胞部分の比率やエコーレベルなどの指標により、
悪性や良性かの診断を行なったところ、
総合的にみると癌のうちで癌と診断される確率(感度)は58.7%
(95%CI: 46.7から69.9)、
癌でない場合に癌でないと診断される確率(特異度)は91.6%
(95%CI: 85.8から95.6)、
悪性の診断の的中率は78.6%
(95%CI: 65.6から88.4)、
良性の診断の的中率は80.9%
(95%CI: 74から86.6)と計算されました。

個々の所見でみると、
その腫瘍で嚢胞性の部分が25%を超えていることと、
エコーレベルが甲状腺組織と変わらないこと、
そしてドップラーで血流信号が見られないことが、
最もそのしこりが良性である根拠となると、
判断されていました。

成人のしこりにおいては、
良性と診断された場合に、
悪性である確率が10%未満であることが、
穿刺吸引細胞診を行なわない、
1つの指針となっていましたが、
今回の小児甲状腺腫瘍の検証では、
良性の診断の的中率は80.9%とやや低く、
それだけでは細胞診を行なわない、
充分な指標とはなっていない、
ということが分かりました。

今後成人と小児のしこりの診断上の違いを勘案して、
より信頼性の高い指標の確立が望まれるところだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺ホルモン補充療法の適正用量と脳機能について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
チラヂンの量と脳機能.jpg
2018年のthe Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に掲載された、
甲状腺機能低下症における、
甲状腺ホルモンの補充量と脳機能との関連についての論文です。

甲状腺ホルモンが不足すると、
脳の機能に影響があることは、
実験的にも臨床的にも間違いのない事実ですが、
軽症や潜在性の甲状腺機能低下症と、
臨床的に判断されるような状態であっても、
そうした影響があるかどうかについては、
まだ議論のあるところです。

甲状腺に原因のある甲状腺機能低下症の場合、
その重症度は通常血液のTSH(甲状腺刺激ホルモン)濃度で判断されます。

機能低下が強いほど、
TSH濃度は上昇しますから、
その数値が高いほど、
甲状腺機能低下の程度も重い、
ということになる訳です。

通常このTSHの基準値というのは、
0.5から4.0mU/Lくらいで設定されています。

甲状腺以外には病気がないという前提で考えると、
0.5未満であれば機能亢進に傾いている、
という判断になりますし、
4を超えていれば機能低下に傾いている、
という判断になります。

明確な機能亢進であれば甲状腺ホルモン自体の数値も上がりますし、
明確な機能低下であれば下がりますが、
軽度の機能亢進や機能低下では、
TSHは変動しても甲状腺ホルモンの変動は、
まだないか軽微なものにとどまります。
この状態を潜在性甲状腺機能異常、
というような言い方をすることもあります。

通常1つの目安として、
TSHが10を超えていれば、
ホルモンの補充療法が開始されることが一般的です。

ただ、それより軽症の機能低下症であっても、
患者さんがだるさなどの症状を訴え、
それが甲状腺の機能低下から起こっている可能性が、
高いと判断されるような場合には、
治療が開始されることもあります。

ここは医者によっても意見の分かれるところで、
検査至上主義の先生は、
TSHが一定の基準値内にあれば、
「甲状腺が原因の症状ではありえない」
という判断をして患者さんが体調不良を訴えても、
決して甲状腺ホルモン剤の使用はしません。
その一方で症状を重視するタイプの先生は、
軽度の異常であっても、
まずはホルモン剤をリスクのない範囲で使用してみて、
症状の改善の有無をみて継続するかどうかを判断する、
というような方法を取っています。

このどちらが良いのかと言うのは、
今の時点で断定的に言えることではありません。
TSHが基準値内であれば、
多くの場合に甲状腺機能は治療を要さない、
ということは事実ですが、
検査数値は短期間で変動することもありますし、
組織によって甲状腺ホルモンの感受性が異なり、
見かけ上数値は正常であっても、
組織によってはホルモン欠乏の状態にある、
ということもないとは言えないからです。

それでは、軽症の機能低下症でだるさなどの症状があり、
それがホルモン剤の治療により改善したとすれば、
治療は有効であると考えて良いのでしょうか?

必ずしもそうとは言えません。

軽度の甲状腺機能低下症の患者さんは、
少し過剰なホルモンを使用することを、
好む傾向がある、という報告が複数あるからです。
この場合患者さんにとっての甲状腺ホルモンの効果は、
多分に心理的な影響も加味されている可能性が高いと考えられます。

そこで今回の研究では、
アメリカの複数のクリニックで甲状腺機能低下症に対し、
甲状腺ホルモン(T4)製剤による治療を受け、
甲状腺機能が正常を維持している、
138名の患者さんを、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで3つの群に分け、
第1群はTSHの目標値を0.34から2.50、
第2群は2.51から5.60、
第3群は5.61から12.0mU/Lとして、
それを達成するように6週間毎にT4製剤を調整し、
登録時と半年後にQOLや認知機能、感情障害の有無などを、
同じように計測してその比較を行っています。

これは第1群がやや機能亢進傾向、
第2群が全くの正常で、
第3群はやや機能低下傾向を示しています。

その結果、
3群間の比較では、
認知機能、QOL、感情障害の有無などについて、
有意な差は認められませんでした。
ただ、患者さんは実際に投薬量が増加したか減少したかを、
正確には判断出来なかったのにも関わらず、
それが増加していると感じているときに、
その処方量を好ましいと感じていました。

これはつまり実際にはT4の使用量が、
甲状腺機能の基準値の周辺で上下しても、
生理的には特に変化があるという根拠はなく、
認知機能や感情にも変化があるという根拠はないのですが、
患者さんは薬の量が増えてということに対して、
良くなっているという印象を持つことが多い、
ということを示しています。

今回のデータは大変興味深いものですが、
これをもって甲状腺ホルモンの微調整には意味がない、
という意見には個人的には疑義があります。
甲状腺ホルモンの生理作用は、
今回検証されたような認知機能などのみでは、
検証困難な性質のものも、
含んでいるように思うからです。

ただ、甲状腺の分野では、
今回のような無作為の介入試験のようなデザインの試験は、
非常に数少ないので、
今回の検証は意義のあるものであることは、
間違いがないようには思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スタチンと認知症リスクのメタ解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンと認知症リスク.jpg
2018年のScientific Report誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤と、
認知症リスクとの関連についての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
コレステロールを下げるばかりではなく、
抗炎症作用などの多面的な作用を持ち、
それが動脈硬化の進行予防などに結び付いていると考えられています。

スタチンの心筋梗塞などの心疾患の予防効果は、
間違いなく実証された事実ですが、
認知症に対する効果についてはまだ議論があります。

スタチンの効果の1つとして、
コレステロールの中間代謝産物のイソプレノイドを抑制し、
これが認知症の発症に伴うβアミロイドなどの異常蛋白の蓄積を、
抑制する効果があるのではないか、
という考え方があります。

これが事実であるとすれば、
スタチンは認知症、特にアルツハイマー型認知症に対しては、
その発症を抑制するような効果が期待出来ます。

しかし、その一方でスタチンに使用において、
認知機能の低下が生じるような事例も報告されています。
また、疫学データにおいても、
スタチンの使用により一定の認知症予防効果が認められた、
という報告がある一方で、
そうした効果は認められなかった、
というような報告もあります。

今回の研究は、
これまでの主な臨床データを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題の検証を行っています。

これまでの25の臨床研究をまとめて解析した結果として、
スタチンの使用は全ての認知症の発症リスクを
15.1%(95%CI: 0.787から0.916)、
アルツハイマー型老年認知症の発症リスクを
28.1%(95%CI: 0.576から0.899)、
認知症の基準は満たさない経度認知障害の発症リスクを
26.3%(95%CI: 0.556から0.976)、
それぞれ有意に低下させていました。
ただ、脳梗塞などによる脳血管性認知症の発症リスクについては、
スタチン使用との間に有意な関連は認められませんでした。

ここでスタチンを、
組織移行などにおいて差のある、
水溶性スタチン(プラバスタチン、ロスバスタチン)と、
脂溶性スタチン(シンバスタチン、アトルバスタチン、
ピタバスタチン、フルバスタチン)とに分けて分析すると、
水溶性スタチンは全ての認知症リスクの低下と関連が認められましたが、
アルツハイマー型認知症との関連は弱く、
脂溶性スタチンはアルツハイマー型認知症のリスク低下との関連は認められた一方、
認知症全体との関連は認められませんでした。

このように、
スタチンがアルツハイマー型老年認知症などの、
発症予防に効果があるという可能性はありそうですが、
今のところ血管性認知症などの予防にもなるか、
と言う点は明確ではなく、
またどのような時期の認知症に対して、
有用性があるかどうかも明確ではありません。

今後より精度の高い研究により、
スタチンの認知症への有効性が、
検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心房細動の発症と個々のリスク因子による推測(フラミンガム心臓研究による解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
AFの生涯リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心房細動の生涯発症リスクを計算した論文です。

心房細動は年齢と共に増加する不整脈で、
その存在は脳卒中や心不全のリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることが分かっています。

その生涯の発症リスクは、
40歳以上の男性においては17から26%、
女性では21から23%と推計されています。

ただ、実際にこの生涯リスクが、
年齢以外の血圧や喫煙などの心血管疾患リスクで、
どの程度の影響を受けて変動するものなのかについては、
あまり正確なデータがこれまでに存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカにおける最も有名な疫学データである、
フラミンガム心臓研究のデータを活用して、
現在知られている心房細動のリスクと、
心房細動の生涯発症リスクとの関連を検証しています。

一般住民の55歳と65歳と75歳の時点での、
その後の生涯(95歳まで)の心房細動発症リスクが対象となり、
関連するリスク因子としては、
喫煙、飲酒量、BMI、血圧、糖尿病、心不全もしくは心筋梗塞の既往、
が検討されています。

個々のリスク因子を、
リスクなし、ボーダーライン、明確なリスクの3段階に分けていて、
喫煙は喫煙歴なしがリスクなしで、
喫煙の既往があるのがボーダーライン、
喫煙者が明確なリスクです。
BMIは25未満がリスクなし、25から29がボーダーライン、
30以上が明確なリスクです。
糖尿病は空腹時血糖で100mg/dL未満がリスクなし、
100から125がボーダーラインで、126以上が明確なリスクです。
アルコールは男性で週4単位以下、女性で週7単位以下がリスクなし、
それを超えるのが明確なリスクです。
血圧は上が120mmHg未満で下が80mmHg未満がリスクなし、
上が120から139で下もしくは80から89がボーダーライン、
上が140以上もしくは下が90以上か投薬治療中の高血圧が明確なリスクです。
心不全や心筋梗塞の既往については、
既往なしがリスクなしで、
既往ありが明確なリスクです。

55歳の時点で心房細動のない5338名の住民を解析した結果、
その時点以降の心房細動の生涯発症リスクは、
37.0%(95%CI: 34.3から39.6)と算出されました。
このリスクは女性より男性が高くなっていました。
リスク因子が全てリスクなしの場合の、
生涯リスクは23.4%(95%CI:12.8から34.5)であるのに対して、
ボーダーラインリスクが1つ以上あって明確なリスクはない場合には、
33.4%(95%CI: 27.9から38.9)となり、
明確なリスクが1つ以上ある場合には、
38.4%(95%CI: 35.5から41.4)と更に増加していました。
65歳時点と75歳時点で同様の解析をすると、
生涯リスクはより低くはなりますが、
同様の傾向が認められました。

このように心血管疾患リスクが増加するに従って、
心房細動の生涯リスクが明確に増加することが、
信頼性の高い疫学データで確認された意義は大きく、
心房細動の発症予防のためには、
まずはこうしたリスクの軽減が重要であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マクドナー「ハングマン」(長塚圭史演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ハングマン.jpg
今年脚本と監督に当たった映画「スリービルボード」が日本公開され、
高い評価を得たマーティン・マクドナーの、
今のところ劇作としての最新作で、
2015年にイギリスで初演された「ハングマン」が、
今世田谷のパブリックシアターで上演されています。

これはイギリスで死刑制度が廃止された、
1960年代が舞台となっていて、
当時有名な絞首刑執行人で引退後にパブを経営している、
ハリーという男が主人公です。
彼は廃止された死刑に関わる自分の仕事に、
それなりにプライドを持っていたのですが、
死刑制度廃止の日に意地悪な新聞記者に取材を受け、
冤罪の男の死刑を執行したのではないかと
疑いを掛けられたことで心穏やかではありません。
その同じ日にロンドンから来たという、
謎めいた男が初めてパブを訪れ、
自分がかつての冤罪が疑われている事件の、
真犯人であるかのような話を始めるので、
パブには不穏が空気が流れます。
翌日ハリーの1人娘が謎の男を話をした後で、
忽然と姿を消します。
男が連れ去ったのでしょうか?
翌日のパブの夜に再び男が現れた時、
疑惑は沸点に達して暴力の連鎖が始まります。

如何にもマクドナーという作劇で、
「スリービルボード」を観られた方なら、
同じ構造と匂いとをお感じになると思います。
中段はやや散漫な印象もして、
物語がどう転がるのか予測の付かないところがあるのですが、
ラストになってみると、
見事にシンメトリックな構造が浮上して、
マクドナーらしいブラックなひねりもあり、
観終わって時間が経つ毎に、
じわじわと味わいの広がる辺りがさすがです。

以下ネタバレを含む感想です。

これはオープニングでまず1963年の、
ヘネシーという男の絞首刑の様子が描かれます
ヘネシーは無罪を訴えるのですが、
主人公のハリーはそんなことには聞く耳を持ちません。
時は死刑が廃止された1965年に移り、
パブに現れた謎の男は、
自分が冤罪の真犯人であるかの如くほのめかし、
ハリーの娘を連れ去ります。
娘が男にさらわれたことを確信したハリーは、
翌日パブを訪れた男を、
リンチに掛けて首を吊し、
勢いで殺してしまうのですが、
そこにさらわれた筈のハリーの娘が元気に現れます。
謎の男の悪事というのは、ただのはったりだったのです。
一気に醒めたパブの客達は、
ハリーに協力してリンチに荷担したにも関わらず、
ハリー1人に責任を押しつけて姿を消します。
残ったのは変わり者の以前からのハリーの絞首人時代の手下の男で、
2人で男の死体の処理の算段を、
何か懐かしそうにするところで物語は終わります。

要するに最初に国家権力による、
冤罪の絞首刑が描かれ、
次に全く同じ冤罪の絞首刑が、
今度は民衆の自由意志により行われる様が描かれます。
国家権力による絞首刑は、
段取り良く10分くらいで終わり、
その一方で民衆による絞首刑は2時間が費やされます。
殆どの民衆はその責任を取らず、
全てがハリーとその部下1人に押しつけられるのは、
死刑が廃止されても変わることはなかったのです。

マクドナーらしい皮肉で深い死刑論だと思います。

このように構造的にはとても高いレベルで完成されているのに、
悪ふざけとも思えるような脇筋と、
緊張を巧みに崩すブラックな笑いや、
規格外れのろくでなし揃いの登場人物の造形などで、
そのバランスが常に脅かされるのが、
これもマクドナーの作品の魅力です。

この芝居はイギリスのパブの雰囲気が重要で、
英語のだじゃれのような台詞が多いので、
日本での翻訳上演は、
かなりハードルが高いのが実際です。

長塚圭史さんの演出は、
いつもながら感度の高い繊細で完成度の高いもので、
マクドナーの脱力的な部分は上手く残しながら、
観客に芝居の構造とテーマを、
伝えることに尽力した、
見応えのあるものでした。

セットの造形と美術は特に素晴らしいものだったと思います。
その一方でドタバタや暴力の部分は、
やや抑制的で破天荒さには欠けていたように思います。

今回はおそらくこの作品の日本初演ということもあって、
長塚さんとしては楷書での演出を心がけたのだと思うのですが、
次回は是非もっと羽目を外した感じの上演も、
試みて欲しいなと思いました。

この作品の魅力は単一ではないからです。

キャストは脇まで実力派が揃っていて、
ちょっと贅沢すぎるくらいのメンバーです。
主役のハリーを演じたのは田中哲司さんは、
すっかり最近は座長役者の風格がありますし、
その妻に秋山菜津子さん、娘に富田望生さん、
子分に宮崎吐夢さんとセンスの光る座組です。
要の謎の男を演じた大東駿介さんは、
なかなかの熱演ではあったのですが、
この役にはもっと初見での異様さが、
欲しかったと感じました。

正直マクドナー作品として、
代表作とは言えないと思いますし、
細部の処理には不満もあるのですが、
この面白い作品の日本初演としては、
その真価を充分に感じさせる優れた上演だと思います。

ご興味のある方は是非。
時間があればもう一回観たいのですが、
どうも無理なようです。
皆さんが代わりに観て頂ければと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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シベリア少女鉄道「今、僕たちに出来ること。あと、出来ないこと。」 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
できることと出来ないこと.jpg
小劇場界きっての前衛でオタク趣味、
シベリア少女鉄道の公演が先日まで、
赤坂のレッドシアターで上演されました。

この劇団のお芝居はネタバレ厳禁なので、
終演後の紹介とさせて頂いています。

今回の舞台は<シベリアクラシックアーカイブス>と題されて、
シベリア少女鉄道が2001年に第3回公演として上演した旧作を、
2018年版としてリニューアルした作品です。

これはかなりオリジナルをいじっていると思うのですが、
初演で主役の鳥居一人を演じた古参の藤原幹雄さんが、
その偽物や身代わりを演じているという凝った趣向もあります。

内容は土屋さん本人がコメントしているように、
やや地味な仕掛けの作品で、
どうしても後半がしょぼくなってしまう、
という欠点があるのですが、
とても愛すべき作品であると共に、
とても面白い作品でもありました。

個人的にはこれまでに観たシベリア少女鉄道の作品の中でも、
かなり好きな部類です。

上演時間は2時間5分で、
シベリア少女鉄道としてはかなり長い部類ですが、
退屈することはなく、
むしろ最後のドタバタを、
もう少し長く見ていたい、とすら思いました。

シベリア少女鉄道の作品の良いものには、
哲学的な深みがあるのですが、
今回の作品はシンプルですが深いテーマ性があり、
創作という行為の本質に繋がる問題を、
誰にでも分かる平明さで扱っている、
という点にその特徴があります。

それが題名にもなっている、
「今、僕たちに出来ること。あと、出来ないこと。」です。

演劇や映画のような、
集団で行う創作では、
当初のイメージがそのまま実現することはなく、
妥協が付きものである訳ですが、
その葛藤自体を複合的なドラマにして、
最後はそのドタバタを、
唯一無二の壮大なギャグにしてしまっています。

シベリア少女鉄道としては、
以前から定番のプロットの1つではあるのですが、
以前の作品では元になるドラマの部分の出来がかなり稚拙で、
役者さんの芝居も低レベルの物であったので、
後半のネタの部分に入るまでがかなり苦痛であったことと、
ネタに入るとドラマの部分がかき消されてしまっていたのですが、
今回は役者さんのレベルも、
ドラマをしっかり伝えられるレベルに達していたことと、
最後までドラマとネタとが並行しながら、
同時に結末に至っていたので、
以前とは桁違いに質の高い上演になっていたと思います。

これからの公演も、
とてもとても楽しみです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心房細動治癒後の脳卒中リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心房細動改善後の脳卒中リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
一旦治癒したと判断された心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中リスクを検証した論文です。

心房細動という不整脈は、
弁膜症などを原因としていないものは、
一種の心臓の老化に伴って生じることが多く、
この不整脈があると、
脳卒中の発症リスクは5倍に増加するとされています。

そのため脳卒中の予防のために、
抗凝固剤というタイプの薬が使用され、
適切に使用されればそのリスクを3分の2低下させることが、
精度の高い臨床データにより確認されています。

非弁膜症性心房細動は、
一時的に心房細動が起こってそれが数時間から数日で自然に元に戻る、
一過性心房細動と、
7日以上心房細動の状態が続き、
抗不整脈剤や電気的除細動により元に戻る持続性心房細動、
そして心房細動が長期間継続し、
薬や除細動治療でも再発して、
カテーテル治療などが必要となる慢性心房細動に分けられます。

心房細動は不整脈が一旦なくなり、
洞リズムに戻れば治癒と判断されます。
しかし、抗不整脈や電気的除細動のみならず、
カテーテルアブレーション治療においても、
再発は稀なことではありません。
これまでの報告では、長期的にみると、
カテーテルアブレーション後長期洞リズムが維持されるのは、
20%程度とされています。

ここで問題となるのは、
一旦洞リズムに戻って安定した状態が続いている時に、
脳卒中予防の抗凝固剤の使用をどう考えるのか、
ということです。

上記文献の記載によれば、
イギリスでは治癒後の心房細動の抗凝固療法について、
明確な指針は示されていないようです。
ただ、これは日本のガイドラインでも同じだと思いますが、
通常カテーテルアブレーションが成功した後、
2か月程度は抗凝固療法が継続されますが、
その時点で洞リズムであれば、
「もう治っているので薬は要りません」
と言われることが実際には多いようです。
実際にクリニックを受診される患者さんでも、
そうした経過の方は結構いらっしゃいます。

しかし、実際には洞リズムに戻った後でも、
再発率は非常に高いのが実際なので、
抗凝固療法は継続した方が良いという意見もあるのです。
一方で抗凝固療法には出血などの有害事象もありますから、
どのような患者さんにどのくらいの期間、
抗凝固療法を行うのが妥当であるのか、
その点についての明確な指標がないことが、
一番の問題ではないかと思います。

それでは、一旦治癒と判断された心房細動の患者さんにおいて、
その後どの程度脳卒中のリスクがあるのでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
プライマリケアのデータベースを活用して、
実臨床において洞リズムに戻り、
治癒とみなされた心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中のリスクを検証しています。

これは電子コードに、
「治癒した心房細動」という項目があるので、
それを元にしたデータとなっています。
つまり、個々の患者さんの詳細が、
しっかり調べられている、
という訳ではありません。

対象は18歳以上で、
それまでに脳卒中や一過性脳虚血発作の既往がなく、
心房細動が治癒して洞リズムに戻った11159名と、
治療中の心房細動の患者さん15059名、
そして心房細動のないコントロール22266名です。

その結果、
治癒した心房細動の患者さんは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
脳卒中や一過性脳虚血発作の発症リスクは、
0.76倍(95%CI: 0.67から0.85)と低下していましたが、
心房細動のないコントロールと比較すると、
1.63倍(95%CI: 1.46から1.83)と有意に高値を示していました。

治癒した心房細動の患者さんの総死亡のリスクは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
0.60倍(95%CI: 0.56から0.65)と低下していましたが、
これも心房細動のないコントロールと比較すると、
1.13倍(95%CI: 1.06から1.21)と、
これも有意に高値を示していました。

治癒した心房細動の患者さんの中には、
その後再発した患者さんも含まれているので、
それを除外して同様の検証を行うと、
心房細動のないコントロールと比較して、
治癒して再発のない心房細動の患者さんでも、
脳卒中や一過性脳虚血発作のリスクは、
1.45倍(95%CI: 1.26から1.67)と有意に高くなっていました。

このように勿論未治療の心房細動の患者さんと比べれば、
遥かに少ない比率ではあるのですが、
治癒して再発がないとみなされている患者さんでも、
心房細動の既往のない方と比較すると、
明らかに脳卒中などのリスクは高くなっていて、
抗凝固剤を一律に終了するという考え方には、
問題があるように思われます。

それでは全ての患者さんで治癒していても、
心房細動が一時的にあれば抗凝固剤を継続するのか、
ということになると、
それもかなり問題があるように思います。
抗凝固剤は有害事象も無視できない薬であるからです。

いずれにしてもこの問題は、
より厳密な検証が必要であると思いますし、
患者さんや末端の医療者が混乱しないように、
しっかりとしたガイドラインの作成が、
強く望まれるところだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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握力と病気や生命予後との関連について(2018年UKバイオバンクの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
握力と健康状態.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
握力と病気のリスクや生命予後との関連についての論文です。

体力(physical fitness )という言葉があります。
これは医学的には心肺機能と筋力を一緒にした言葉です。

心肺機能というのは、
心臓の収縮する力や、
肺活量などを示していて、
筋力は文字通り筋肉の収縮力を示しています。

慢性の病気では、
体力はその進行に伴い低下して行きます。

これは癌でも心臓病でも糖尿病でも同じです。

老化というのも、
ある意味慢性の病気ですから、
この場合にも体力は低下して行きます。

体力の低下により、
日常生活が維持出来なくなった状態が「寝たきり」で、
その終末が、
体力が低下して生命活動を維持出来なくなった状態、
すなわち「死」です。

このように考えると、
定期的に体力を測定してその推移を記録することにより、
その人がいつ病気になり、
いつ寝たきりになり、
そしていつ死に至るのかを、
ある程度推測することが可能となる理屈になります。

そのリスクが予め分かっていれば、
その原因を治療したり、
起こる可能性の高い病気を予防したり、
病気の進行を遅らせたり、
という効率的な予防医学的な介入にも、
道が拓けるのではないでしょうか?

さて、体力には2つの要素があります。

心肺機能と筋力です。

このうち心肺機能については、
心臓については血液検査のBNPなどの数値や、
心臓超音波検査などの測定値で、
呼吸については、
肺活量などの呼吸機能検査で、
ある程度定量的に評価することが可能です。
そして、それぞれについて、
一定の予後の推測も可能なことが示されています。

一方で筋力については、
重要な指標であることは認識されていても、
医療の現場で定期的に測定することはあまりなく、
一般の健診項目などにも含まれていないので、
それを病気や生命予後のリスクとして定量化する試みは、
遅れていた、という経緯があります。

筋力で最も簡便に測定可能なのは、
握力です。

この握力が生命予後と関連するという報告は、
これまでにも幾つかあります。
その代表的なものの1つが2015年のLancet誌に掲載された、
PURE研究と命名された世界規模の臨床研究で、
同時期にブログ記事にもしています。

これによると、
総死亡のリスクは、
握力の5キロの低下毎に1.16倍(1.13から1.20)有意に増加し、
心血管疾患による死亡が1.17倍(1.11から1.24)、
それ以外の原因による死亡も1.17倍(1.12から1.21)と、
それぞれ有意に増加していました。
病気毎の発症リスクでは、
心筋梗塞の発症リスクが1.07倍(1.02から1.11)、
脳卒中の発症リスクも1.09倍(1.05から1.15)、
とこちらもそれぞれ有意に増加が認められました。

しかし、糖尿病や肺炎の発症リスク、
肺炎もしくは慢性閉塞性肺疾患による入院、
転倒による外傷や骨折のリスクについては、
握力との間に有意な関連は認められませんでした。

また高所得国においては、
癌の発症リスクは握力が5キロ低下する毎に、
0.916倍(0.880から0.953)に低下するという、
他のデータとは逆の相関を有意に示しました。

今回の研究は同様の検証を、
イギリスの有名なUKバイオバンクという、
50万人を超える大規模な疫学データで行ったものです。
対象は登録の時点で40から69歳の一般住民502293名で、
中間値で7.1年という経過観察を行っています。

その結果、総死亡のリスクは、
握力が5キロ低下する毎に女性で1.20倍(95%CI: 1.17から1.23)、
男性で1.16倍(95%CI: 1.15から1.17)
それぞれ有意に増加していました。
同様に心血管疾患による死亡のリスクは、
女性で1.19倍(95%CI: 1.13から1.25)、
男性で1.22倍(95%CI: 1.18から1.26)、
呼吸器疾患による死亡のリスクは、
女性で1.31倍(95%CI: 1.22から1.40)、
男性で1.24倍(95%CI: 1.20から1.28)
慢性閉塞性肺疾患による死亡のリスクは、
女性で1.24倍(95%CI: 1.05から1.47)、
男性で1.19倍(95%CI: 1.09から1.30)、
癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.13から1.21)、
男性で1.10倍(95%CI: 1.07から1.13)、
大腸癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.04から1.32)、
男性で1.18倍(95%CI: 1.09から1.27)、
肺癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.07から1.27)、
男性で1.08倍(95%CI: 1.03から1.13)、
乳癌による死亡のリスクは、
女性のみで1.24倍(95%CI: 1.10から1.39)、
それぞれ有意に増加が認められました。
ただ、前立腺癌についてはそうした有意な関連は、
認められませんでした。

女性の大腸癌と前立腺癌、肺癌(男女とも)を除くと、
明確な握力低下の存在(男性で26キロ未満、女性で16キロ未満)は、
そのリスクをより高めていました。
また、全体に年齢が若いほど、
握力低下と死亡リスクとの関連は強くなっていました。

死亡リスクの増加に関連する指標としての一般的なリスクスコア
(年齢、性別、喫煙歴、BMIなどから計算)に、
この握力の数値を加えることにより、
そのリスクの信頼性が高まることも確認されました。

このように今回の大規模な検証においては、
握力の低下は幅広く多くの病気による死亡リスクと、
明確な関連を持っていました。

呼吸器疾患や癌による死亡においても、
有意な関連が示されていることが、
以前のPURE研究との違いです。

握力というのは関節の痛みや変形、
頸椎などの整形外科的な疾患によっても、
かなり左右される指標なので、
対象者の分布によって、
別の結果が出ることもあると思われますが、
そうした病気を除外して考えれば、
筋力の簡便な指標として有用であることはおそらく間違いがなく、
今後より握力の数値を、
健診などでも重視してゆく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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