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日本人の飲酒量と生命予後について(多目的コホート研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
休肝日と死亡リスク.jpg
今年のJournal of Epidemiology誌に掲載された、
日本人の飲酒量と生命予後についての論文です。
この雑誌は日本疫学会の英文誌で、
この論文も日本人の研究者によるものです。

内容は他にも山のように出ている、
多目的コホート研究(JPHC)と呼ばれている、
日本では有数の大規模疫学データを解析した論文の1つです。

内容はちょっとこの問題についての世界の流れから言うと、
かなり違和感のあるもので、
アルコール量はそれほどでなくても健康への悪影響がある、
という世界的な潮流とは別個に、
アルコールは少し飲む人の方が長生きで、
特に男性は一般的に言って飲みすぎくらいのレベルでも、
むしろ健康的、という結果になっています。

お酒の量と病気との関係については、
色々な意見があります。

大量のお酒を飲んでいれば、
肝臓も悪くなりますし、
心臓病や脳卒中、高血圧などにも、
悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、
全く飲まない人よりも、
一部の病気のリスクは低くなり、
寿命にも良い影響がある、
というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、
日本のデータを元にして、
がんと心血管疾患、総死亡において、
純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、
全く飲まない人よりリスクが低い、
という結果を紹介しています。

その一方で、
昨年のメタ解析の論文によると、
確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、
機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、
1日1.3グラムを超えるアルコールでは、
矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、
というようなデータが紹介されています。

比較的最近ご紹介した、
今年のBritish Medical Journal誌に掲載されたイギリスの研究では、
プライマリケアの診療データをまとめて解析することにより、
個々の心血管疾患の発症リスクと、
アルコールの摂取量との関連を検証していました。

登録の時点では心血管疾患にかかっていない、
30歳以上の1937360名の診療データが解析の対象となっています。

その結果…

登録された190万人余のうち、
観察期間中に114859名が心血管疾患の診断を受けていました。
お酒をイギリスで規定された適正飲酒量の範囲で飲む人と比較して、
全くお酒を飲まない人は、
不安定狭心症のリスクが1.33倍(95%CI; 1.21から1.45)、
心筋梗塞のリスクが1.32倍(95%CI; 1.24から1.41)、
予期せぬ心臓死のリスクが1.56倍(95%CI; 1.38から1.76)、
心不全のリスクが1.24倍(95%CI; 1.11から1.38)、
虚血性脳梗塞のリスクが1.12倍(95%CI;1.01から1.24)、
末梢の動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)のリスクが1.22倍(95%CI;1.13から1.32)、
腹部大動脈瘤のリスクが1.32倍(95%CI; 1.17から1.49)、
それぞれ有意に増加していました。

この場合の適正飲酒というのは、
男性で1日アルコール量30グラム以内(1週間で210グラム以内)、
女性で1日アルコール量20グラム以内(1週間で140グラム以内)、
という基準が採用されています。
2016年に男女とも適正飲酒量は1日20グラム以内(1週間で140グラム以内)、
と改訂が行われたのですが、
このデータはそれ以前のものなので、
古い基準が適応されています。

一方で適正量の飲酒を基準とした場合に、
それを超える飲酒量では、
予期せぬ心臓死のリスクが1.21倍(95%CI; 1.08から1.35)、
心不全のリスクが1.22倍(95%CI; 1.08から1.37)、
心停止のリスクが1.50倍(95%CI; 1.26から1.77)、
一過性脳虚血発作のリスクが1.11倍(95%CI; 1.02から1.37)、
虚血性脳梗塞のリスクが1.33倍(95%CI; 1.09から1.63)、
脳内出血のリスクが1.37倍(95%CI; 1.16から1.62)、
末梢動脈疾患のリスクが1.35倍(95%CI; 1.23から1.48)、
それぞれ有意に増加していました。
しかし、心筋梗塞と安定狭心症の発症リスクについては、
有意ではないものの、
飲酒量が多い群の方がリスクが低い傾向が認められました。

総死亡のリスクについては、
矢張り適正範囲の飲酒量を基準とした時に、
全くお酒を飲まない人は1.24倍(95%CI; 1.20から1.28)、
適正量を超える飲酒をしている人は1.34倍(95%CI; 1.31から1.38)と、
いずれも有意に上昇していました。
つまり、お酒を少し飲む人が一番長生きで、
沢山飲む人も全く飲まない人も、
どちらも死亡リスクは高くなるという結果です。

このように概ね多くの病気において、
全くお酒を飲まない人より、
1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、
その発症リスクは低く、
それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、
という結果になっていました。

こうしたデータからは、
男女とも1週間に140グラム程度の飲酒を1つの目安として考え、
なるべくそれを超えないように調整するのが、
健康のためには望ましい、
という結論がほぼ透けて見えて来ます。

ところが…

今回の日本の研究では、
102849名の登録時で40から69歳の男女を、
平均で18.2年間観察した結果として、
飲酒習慣のない人を基準とした場合、
総死亡のリスクは男性では1週間にアルコールで299グラムまでは、
明確に飲酒習慣のある方が少なく、
週に600グラム以上という多量の飲酒者において初めて、
死亡リスクが非飲酒者を上回る、
という仰天するような結果になっています。

女性においては、
週に149グラムの飲酒までは、
総死亡のリスクは非飲酒者より有意に低く、
明確にリスクが増加するのは、
週に300グラムを超えたレベルからです。

個々の病因別の死亡リスクについて見ると、
心血管疾患による死亡のリスクは、
女性では週に150グラムから有意に増加していますから、
欧米のデータとほぼ同等ですが、
男性は明確に病気による死亡のリスクが増えるのは、
矢張り1週間に600グラムという、
極めて大酒のみと言える群のみです。

何故このように日本の男性はお酒の害に対して耐性が強く、
もしくはアルコールが身体に良い方向に作用して、
イギリス人では明確に死亡リスクが上昇する飲酒量であっても、
むしろ死亡リスクが低下する、
という事態を生んでいるのでしょうか?

大雑把に計算すると、
日本人の男性は毎日2リットルのビールを飲んでも、
全く飲まない人より健康的、
ということになり、
これは統計が誤りでなかったとしても、
何かが根本的に間違っているように直感的には思います。

上記文献の著者らの推論は、
週当たりのアルコール量は多くても、
休肝日を多く作るなどの飲み方の違いが、
このアルコール量と死亡リスクとの乖離の、
原因となっているのではないか、
というものです。

確かに男性においては、
心血管疾患と癌による死亡に限っては、
同じ週間飲酒量であっても、
休肝日が多い方がリスクは低下しているのですが、
それ以外の項目についてはそれほどの違いはなく、
項目によっては休肝日のある方がリスクが高かったりもしているので、
休肝日のあるなしを理由にするのも、
それだけでは説明にはならず、
かなり無理があるように思います。

そんな訳で今回の結果はかなり理解に苦しむものなのですが、
日本の男性のみがアルコールに特異的に強いというのも、
可能性としてはかなり低いものではないかと思いますし、
飲酒量の質問事項や解答の正確さを含めて、
このデータは再検証が必要なのではないかと、
個人的にはそう思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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