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傷は昼の方が早く治る [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
傷は昼間に治る.jpg
今年のScience Translational Medicine誌に掲載された、
傷の治り方が日内リズムに左右されるという、
興味深い知見です。

人間の身体にはほぼ24時間のリズムで周期的に時を刻む、
体内時計があることが知られています。

個々の細胞には時計遺伝子と言われる複数の遺伝子があって、
それが日内リズムに同期して時を刻んでいます。

その一方で細胞が集合した組織により構成された人体にも、
体内時計の司令塔があり、
脳の視交叉上核という部分にあることが分かっています。
この脳の時計は太陽などの光刺激に反応して、
身体が光を感知した時間で時計を合わせ、
朝と認識して1日を開始するのです。

要するに身体全体としても時計があり、
それを構成する個々の細胞も、
それぞれの体内時計を持っている、
ということになります。

この沢山の時計がどのように同期するのかと言うと、
脳からの信号が自律神経やステロイドなどのホルモンを介して、
個々の細胞に伝わっているのだと説明されています。

ただ、実際にそれでは体内リズムのうちどの程度の部分が、
脳からの指令によって動き、
どの程度の部分が細胞の自律性によって動いているのか、
というような部分の詳細はまだ明らかにはなっていません。

細胞そのものが24時間のリズムを有していることが、
明確になっている細胞の1つが皮膚などにある線維芽細胞です。
この細胞は線維と筋肉の中間くらいの働きを持っているのですが、
皮膚に傷ややけどが起こると、
その刺激により活性化して増殖し、
筋肉を収縮させるタンパク質として知られている、
細胞内のアクチンが立体構造を取り、
傷を収縮させて治すのです。

今回の研究では培養した線維芽細胞を使用した研究や、
ネズミを使って傷の治りを比較した研究、
人間のやけどの治り方を、
やけどを負った時間帯で比較した研究などを組み合わせて、
体内時計や日内リズムが、
線維芽細胞による創傷治癒に与える影響を、
多角的に検証しています。

その結果、
ネズミの線維芽細胞は固有の体内リズムにより機能していて、
創傷を受けた時の細胞の増殖やアクチンの活性化などの変化は、
日内リズムにより影響を受けていました。
ネズミ自体を使用した実験では、
脳の体内時計の影響も同時に受けることにより、
そのリズムはより明確化し、
朝から昼の時間帯に傷を受けると、
傷の治りは明らかに早くなりました。
そして、最後に救急病院でやけどの患者さんの治るまでの時間を、
やけどになった時間で比較すると、
昼に負ったやけどと比較して、
夜に負ったやけどは60パーセント(1.6倍)治るまでに時間が掛かった、
という結果が得られました。

勿論傷もやけども1日で治る訳ではないのですが、
生体反応の活発な昼のうちに治癒機転が開始されないと、
結果として効率が悪くなり、
トータルに治りが遅れてしまう、
ということのようです。

工場の仕事や病院の診療もそうですが、
昼のシステムが通常に稼働している時間帯に、
最初の仕事の指示が入って作業が開始された方が、
飛び込みの仕事や夜間の救急より、
効率は良く効果も得られやすいことと、
似ている側面があるのかも知れません。

これは最後の人間のデータのみが、
医療ニュースなどで取り上げられているのですが、
論文的にはメインのデータはあくまで基礎実験の部分で、
臨床データは補足的なものです。
これはネイチャーやサイエンスの医療系の論文に特徴的なもので、
臨床との結びつきの証明が要求されるので、
そうした補足が付いているのですが、
臨床の論文ではなくあくまでおまけのデータなので、
それ自体は大したことはないのです。

ただ、生体リズムと創傷治癒に少なからぬ関連がある、
という知見は非常に興味深く、
今後こうした知見が傷の治療などに応用されるのも、
そう遠い未来のことではないかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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