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高リン食による老化のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リンによる老化のメカニズム.jpg
今年のScientific Reports誌に掲載された、
高リン食による老化のメカニズムを、
ネズミの実験で検証した論文です。
慶應義塾大学の宮本健史先生らのグループによる研究です。

最近老化のメカニズムとの関連で注目されているのが、
血液のリン濃度と老化の進行との関連です。

リンはカルシウムに次いで身体に多いミネラルで、
その多くは骨の構成成分としてカルシウムと共に存在しています。
身体には副甲状腺ホルモンと言って、
血液のカルシウムを上昇させてリンを低下させる、
という役割を持つホルモンがあり、
このためカルシウムとリンの比率(カルシウム・リン積として表現される)は、
ほぼ一定に維持されるような仕組みになっています。

これ以外に血液のリン濃度が上昇した時に、
リンを単独で低下させる物質として、
FGF23という物質が高リン食で増加することも、
最近分かって来ています。

さて、カルシウム・リン積が増加すると、
血管の壁や皮下などに石灰化が起こることは分かっていましたが、
老化とリンとに関連があるとの知見が広まったのは、
抗老化遺伝子として同定されたKlotho遺伝子が欠損して、
全身の老化や動脈硬化が急激に進行しているネズミでは、
血液のリン濃度が著明に増加していて、
血液のリン濃度を正常化すると、
老化の促進の多くが抑制される、
という研究結果が発表されてからです。

どうやらリンを適切に身体から排泄するシステムが壊れ、
過剰なリンが身体にたまると、
それが老化を促進する大きな因子となることは、
ほぼ間違いがなさそうなのです。

しかし、リンと老化との間にどのような関連があり、
それがKlotho遺伝子とどのような関連を持っているのか、
といった詳細はまだ不明のままなのです。

今回の論文はそのミッシングリンクにメスを入れたもので、
Enpp1という遺伝子が、
そこを介在しているのではないか、という結果になっています。

動脈硬化などで起こる身体の病的な石灰化は、
老化現象の大きなシグナルの1つですが、
この石灰化はカルシウムと無機リンから形成されたハイドロキシアパタイトが、
コラーゲン繊維に沈着することにより起こります。
一方でその石灰化を抑制しているのがピロリン酸という物質で、
その産生を促進するのがEnpp1という酵素です。

ピロリン酸はリン酸が2つ結合した化合物です。
それが行き過ぎた骨化を抑制するようなスイッチの働きをしているのです。
リンが過剰になると異所性石灰化が起こり易くなり、
それを同じリンの化合物が止める働きをして、
身体のバランスを保っているのです。

このEnpp1遺伝子が欠損すると、
正常な骨の石灰化が起こらなくなります。
人間の遺伝性低リン性骨軟化症という病気がありますが、
この病気ではEnpp1遺伝子が正常に働かないような変異があることが、
確認をされています。

上記論文の著者らは、
Klotho遺伝子による老化の抑制が、
一部はEnpp1を介しているのではないかとの推測の元に、
Enpp1遺伝子が欠損しているネズミに高リン食の負荷を行ない、
その全身に与える影響を、
Enpp1が通常に機能しているネズミと比較検証しています。

その結果…

Enpp1遺伝子が欠損しているネズミに、
高リン食の負荷を行なうと、
Klotho遺伝子が欠損しているネズミと非常に似通った、
加齢が促進されたような変化が起こり、
異所性の石灰化は促進されて、
動脈硬化や骨粗鬆症が進行、
寿命も短縮してしまいます。

ややトリッキーですが、
Enpp1遺伝子の欠損ではなく、
別の遺伝子の欠損による骨軟化症のモデル動物のネズミで、
同様の高リン食負荷を行なっても、
老化の進行に結び付くような変化は見られませんでした。

ここでEnpp1遺伝子の欠損による変化をみてみると、
高リン食の負荷により、
リンを下げる働きを持つFGF23と、
リンを取り込んで正常な骨を作る活性型ビタミンD(1,25OH2D3)が、
共に過剰に産生されて、
これはKlotho遺伝子の活性低下に伴うものの可能性が高い、
という結果になっています。

こちらをご覧下さい。
高リン食への対応正常.jpg
これはEnpp1が正常に働いている場合の、
生体内でのリンの調整メカニズムを示しています。

余分なリンを身体から排泄する仕組みの主体は、
FGF23というホルモンにあります。
血液の無機リン濃度が上昇すると、
骨細胞からFGF23が産生されます。
このFGF23 は腎臓にある受容体に結合しますが、
そこではEnpp1で刺激されるKlothoが受容体とリンクしていて、
これがCyp27という酵素を抑制し、
ビタミンDの活性化を阻害するので活性型ビタミンDは低下、
消化管からのリンの吸収が抑えられて、
リンの上昇にストップが掛かります。
FGF23は尿細管からのリンの再吸収も抑制しますから、
その2つの働きにより、
リンは排泄されて定常状態に戻るのです。

それでは次を御覧ください。
高リン食への対応異常.jpg
これはEnpp1が何等かの原因で働かない場合の、
高リン血症時の身体の働きを見たものです。

リン濃度の上昇により、
骨からはFGF23が産生されますが、
Enpp1の働きがなくなることで、
Klothoの活性が落ち、
Cyp27の抑制もされないために。
活性型ビタミンDが過剰に産生されてしまいます。
このビタミンDがリンの吸収を促進するので、
リンの過剰は悪循環に陥るということになります。

このリンが過剰である状態での活性型ビタミンDの過剰産生が、
異所性の石灰化に結び付き、
老化促進の要因にもなっているのではないか、
という仮説です。

今回の結果は1種類の特殊な実験動物でのものなので、
それが人間でも当て嵌まることであるのかどうかは、
現時点では何とも言えません。
他の矢張りEnpp1が欠損したモデル動物では、
高リン食でも異所性石灰化は見られなかった、
というような報告もあり、
今後より詳細な検証が必要であるように思います。

いずれにしても、
リンが生体内で過剰に存在するかどうかで、
石灰化に関わる身体の仕組みが変化し、
それが老化に結び付いているという知見は興味深く、
老化とリンとの関連は、
これからも大きなトピックであることは、
間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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