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甲状腺機能と生命予後について(2017年の住民研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
9月28日(木)の午後は休診になりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺機能と生命予後.jpg
2017年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
甲状腺機能と生命予後についての住民研究の論文です。

甲状腺は首ののどぼとけの下の辺りに、
蝶が羽を広げたような形状で、
左右に広がる腺組織で、
そこから身体の代謝や交感神経の働きを調節する、
甲状腺ホルモンが分泌されています。

甲状腺ホルモンの分泌量は、
脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)で調節されていて、
一般的に甲状腺機能の簡単なスクリーニングとしては、
このTSHと遊離T4という甲状腺ホルモンの2種類の測定が行われます。

下垂体に大きな異常がなければ、
TSHが高くて遊離T4が低ければ、
甲状腺機能低下症ということになりますし、
TSHが低くて遊離T4が高ければ、
甲状腺機能亢進症ということになります。

現在病気のない健康な人の95%が含まれる範囲を、
TSHも遊離T4も正常値(基準値)として設定していて、
今回のヨーロッパの研究で採用されている基準値は、
TSHが0.40から4.0mIU/L、
遊離T4が0.86から1.94ng/dLとなっています。
日本の検査機関などが設定している基準値も、
それほど大きな差はありません。

それでは、この範囲にデータが収まっていれば、
甲状腺機能については健康上の問題はないと、
言ってしまって良いのでしょうか?

その点については疑義を呈する報告が複数存在しています。

この基準値は現行健康成人であれば、
年齢に関わらずに適応されています。

しかし、高齢者においては、
少し機能低下に傾いた状態、
つまりTSHは少し高めで遊離T4は少し低めであった方が、
心血管疾患のリスクが低く、
生命予後も良いとするデータが複数存在しています。

これは交感神経が心臓を刺激するため、
高齢となり心機能が生理的にやや低下した状態においては、
その刺激が少ない方がむしろ健康上のメリットが大きい、
というように考えると理に適っているようにも思えます。

それでは基準値内であっても、
数値がやや高めの人と低めの人の間で、
その後の健康や生命予後に違いはあるのでしょうか?

今回の研究は、
オランダの大規模な疫学データを活用して、
基準値内のTSHと遊離T4の数値の高低が、
その後の生命予後に与える影響を、
心血管疾患の有無によって比較し、
またこれまであまりデータ化されていなかった、
余命の延長や短縮への影響について検証しています。

対象となっているのは、
大規模疫学研究の対象者のうち、
TSHと遊離T4濃度が基準値内の7785名で、
平均で8.1年の経過観察を行なっています。
その間に789名が心血管疾患を発症し、
1357名が死亡しています。

ここでTSHと遊離T4のデータを、
低いものから高いものへ3等分にして比較すると、
心血管疾患の発症とTSHの数値との間には有意な関連はなく、
遊離T4との関連についてみると、
遊離T4が高めの群は、
低めの群の1.32倍(95%CI;1.10から1.58)
心血管疾患の発症リスクが有意に高くなっていました。

心血管疾患の発症がない場合の死亡リスクは、
TSHについては低めの群よりも、
高めの群で24%(95%CI; 0.64から0.91)有意に低下していて、
遊離T4については低めの群よりも、
高めの群で1.45倍(95%CI; 1.21から1.73)有意に増加していました。

心血管疾患の発症がある場合の死亡リスクは、
TSHについては高い方がリスクの低い傾向はあるものの有意ではなく、
遊離T4については低めの群よりも、
高めの群で1.64倍(95%CI; 1.32から2.02)有意に増加していました。

つまり、
甲状腺機能が基準値内であってもやや高めであると、
その後の死亡リスクは高くなる可能性があり、
それが心血管疾患を発症しているような人では、
より高くなる可能性がある、
ということになります。

ここで以上のデータを元に、
50歳の時点の男女の甲状腺機能の数値が、
その余命に与える影響を計算してみると、
心血管疾患を発症した場合、
TSHが基準値内で高めであることは、
低めであることと比較して、
その後の余命を男性で2.0年(95%CI;1.0から2.8)、
女性で1.4年(95%CI;0.2から2.4)、
それぞれ有意に延長していました。
これが心血管疾患を発症していない場合では、
同様にその後の余命を男性で1.5年(95%CI;0.2から2.6)、
有意に延長していましたが、
女性では有意な延長は認められませんでした。

遊離T4について同様に見てみると、
心血管疾患を発症している場合、
低めでることと比較して遊離T4が高めであることは、
男性で3.2年(95%CI;-5.0から-1.4)、
女性で3.5年(95%CI;-5.6から-1.5)、
それぞれ有意に余命を短縮していました。
これが心血管疾患を発症していない場合で、
男性で3.1年(95%CI;-4.9から-1.4)、
女性で2.5年(95%CI;-4.4から-0.7)、
それぞれ有意に余命の短縮を認めていました。

このように基準値内での変化であっても、
50歳の時点での甲状腺機能が、
やや高めであることがその後の余命に与える影響は、
今回の検討では意外に大きなもので、
それも特に心血管疾患のリスクのあるような人で、
顕著になっていました。

ただ、3群間で必ずしも直線的なリスクの増加はなく、
本来鋭敏である筈のTSHよりも、
遊離T4でより明確な差が出ているなど、
数値の信頼性にやや疑問を覚える点もあり、
中高年になるとやや甲状腺機能は低下していた方が、
その後の心血管疾患のリスクは少ない、
という知見は事実であると思いますが、
今回のデータのみを元に、
基準値の妥当性を議論することはやや時期尚早であるように思います。

また今後の知見の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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