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卵円孔閉鎖術とその脳梗塞予防効果(2017年の臨床データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
卵円孔閉鎖の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
若年性脳梗塞の原因として多いとされる、
卵円孔開存の心臓カテーテル手術の有効性を検証した論文です。

今回の紙面にはこれを含めて3編の、
ほぼ同じ内容の臨床研究が、
別個の研究グループから報告されています。

3つの研究ともこのカテーテル治療の有効性を明確に示したもので、
今後のこの問題についてのトレンドが変わる、
きっかけとなる知見であると思います。

若年性脳梗塞の原因の1つとして、
卵円孔開存症による奇異性脳塞栓症が、
近年注目されています。

脳梗塞には脳血栓と脳塞栓とがあり、
脳塞栓というのは、
別の場所から飛んで来た血の塊などが、
脳の血管に詰まることにより起こります。

脳に詰まる血栓は、
通常は心臓から飛んで来ます。

心房細動という不整脈があると、
心臓の中の左房という場所に、
血の塊が出来易くなり、
それが動脈の血流に乗って、
脳に至るのです。

その一方で足などの静脈に静脈瘤と呼ばれるこぶが出来、
そこに炎症などが起こると、
そうした場所にも血の塊が出来易くなります。

この静脈に出来た血の塊が、
血流によって運ばれると、
心臓の右房から右室を介して、
肺の動脈に詰まることがあります。
これを肺血栓塞栓症と呼んでいます。

動脈と静脈の血液は混ざらないように出来ていますから、
通常は静脈の血栓が、
脳塞栓を起こすことはありません。

ただし…

脳塞栓の原因が、
足などの静脈にある血栓であるとしか、
考えられない事例が稀にあり、
それを奇異性脳塞栓と呼んでいます。

この奇異性脳塞栓症の原因は、
主に卵円孔開存症であると考えられています。

卵円孔というのは、
胎児期に心臓の左房と呼ばれる部分と、
右房と呼ばれる部分の間に開いている小さな穴で、
生まれてからすぐに塞がるのですが、
完全に塞がらずに一種の弁のようになり、
一定の交通が残ってしまう場合があります。

これが卵円孔開存症です。

卵円孔開存症は、
心房中隔欠損症の一種ですが、
交通する血流の量はごく僅かで、
それも咳込んだりいきんだりして、
腹圧が掛かるような時のみに、
血液の漏れが起こるだけなので、
通常は病気とは見做されません。

その頻度も解剖の所見などでは、
人口の25~30%に見付かるとされていますから、
実際には多くの人が知らずに持っているのです。

心房中隔欠損症の診断は、
通常は心臓の超音波検査で可能ですが、
卵円孔開存症の場合、
孔を通る血流が少なければ、
通常の超音波検査では診断は困難で、
胃カメラを太くしたような管を、
口から入れてそこから超音波検査を行なう、
経食道超音波検査を行わないと、
診断は出来ません。

従って、
実際には多くの卵円孔開存症は、
診断はされてはいないのです。

問題になるのは、
若年性脳梗塞を起こした患者さんで、
その原因がはっきりしない場合です。

海外の統計によると、
若年性脳卒中の3割は原因が分からず、
そうした患者さんの半数で、
卵円孔開存症が見付かる、
とされています。

人口の3割近くで、
卵円孔開存症が見付かる可能性のあることから考えると、
この頻度は非常に微妙です。

ただ、当然のごとく、
こうした知見があれば、
卵円孔を塞ぐ治療を行なうことにより、
若年性脳卒中の再発が予防出来るのでは、
という考え方が生まれます。

そうした臨床試験が複数行われ、
まずその結果が発表されたのが、
2012年3月のNew England…誌においてでした。

この試験はCLOSURE1と名付けられ、
アメリカとカナダにおいて、
18歳から60歳までの患者さん909名を対象に、
行なわれました。

一過性の脳虚血発作か脳卒中を来し、
その原因がはっきりしない患者さんで、
経食道超音波検査により、
卵円孔の開存が、
確認されている患者さんを、
2つの群にくじ引きで分け、
一方にはSTARFlexと呼ばれる器具を用いた、
卵円孔の閉鎖術を行ない、
もう一方では抗血小板剤や抗凝固剤による、
抗凝固療法のみを行なって、
その後の2年間の経過を観察しています。

しかし、
当初の期待とは裏腹に、
この研究においては、
卵円孔の閉鎖を行なっても、
その後の脳卒中の再発率には、
統計的に有意な差は付きませんでした。

ただし、
この研究に使われた器具はあまり良い出来のものではなく、
施行により心房細動という不整脈が、
未施行の10倍も多く発症する、
という問題がありました。

現在最も多くこの目的で使用されているのは、
アンプラッツアー閉塞栓と呼ばれる、
特殊な金属を用いたメッシュ状の閉塞栓で、
この用具を用いれば、
より良い結果が得られると期待がされました。

そして2013年の同じNew England…誌に、
今度は2編の論文が同時に掲載されました。

いずれもそのアンプラッツアー閉塞栓を用いて、
同様の検討を行なったものです。

こちらをご覧ください。
卵円孔閉鎖デバイス.jpg
これが新しいタイプの卵円孔を塞ぐ器具で、
2つのパラボラアンテナのような部分が開いて、
両側から穴を塞いで固定するように出来ています。
これ以降複数の器具が発売され使用されていますが、
基本的な構造は大きくは変わっていません。

2013年に発表された論文の1編では、
患者さんはヨーロッパ、カナダ、ブラジル、オーストラリアの、
29の施設の患者さん414例を2群に分けて、
一方では閉塞栓を用いた閉鎖術を行ない、
もう一方では抗血小板剤もしくは抗凝固剤による、
薬物のみの治療を行なって、
平均4年というより長期の経過観察を行なっています。

その結果…

観察期間中の死亡や血栓症や脳卒中の再発は、
閉鎖術群で3.4%、薬剤治療群で5.2%に認められました。

この比率だけを見ると、
閉鎖術群の効果が認められたように思えますが、
実際には統計的な有意差は認められていません。

もう1つの試験はRESPECTと呼ばれる臨床試験で、
同じ雑誌のもう1篇の論文になっています。

こちらはアメリカの69の施設において、
980名の患者さんが対象になっています。
この研究ではその観察期間中に、
閉鎖術群では9名、薬物療法群では16例が、
脳卒中の再発を来し、
相対リスクは51%の低下となりましたが、
統計的に有意な差は矢張り認められませんでした。

要するに、
これまでの3つの臨床試験の結果として、
卵円孔の閉鎖術の効果は、
その後の脳卒中の予防効果としては、
いずれも再発を抑制した、
という傾向は認められるものの、
統計的に有意な差は見られていません。

ただ、
古いタイプの器具と比較して、
アンプラッツアー閉塞栓を用いた手技では、
術後の心房細動の発症率が、
高く見積もっても未施行の2~3倍程度に留まっていて、
その点は明確に優位性が示されています。

いずれの試験においても、
抗凝固療法は複数の方法で行なわれていて、
比較としては問題がありますし、
脱落の事例が非常に多く、
その点が有意差の出ない、
1つの大きな理由になっています。

それから4年が経ち、
今回またNew England…の紙面の巻頭を飾った上記の論文では、
卵円孔開存のある全ての患者さんを治療対象とするのではなく、
卵円孔を通る血流量が多いか、
心房中隔瘤という、
より塞栓症のリスクが高いと想定される所見のある患者さんに限って、
治療を行なうという患者さんの絞り込みを行なっています。

対象となっているのは他に原因の明確ではない脳梗塞を起こした、
年齢は16から60歳までで、
検査により上記の所見のある卵円孔開存症が診断された663名で、
クジ引きで3つの群に分け、
第1群は抗血小板療法に加えてカテーテルによる卵円孔閉鎖術を施行し、
第2群は抗血小板療法のみを、
第3群は抗血小板療法より予防効果が高い抗凝固療法を、
それぞれ継続して脳梗塞の予防効果を比較しています。

平均の観察期間は5.3年です。

その結果、
観察期間中の脳梗塞の発症は、
カテーテル治療群ではなかったのに対して、
抗血小板療法群では14例発症していて、
抗血小板療法の単独と比較して、
カテーテル治療は脳梗塞の発症を、
97%有意に低下させていました。
ちょっと出来すぎの感じもありますが、
これまでにない画期的な結果です。

ただ、カテーテル治療後の心房細動の発症率については、
カテーテル治療群では4.6%に認められたのに対して、
抗血小板剤治療のみの群では0.9%しか認められていませんから、
合併症としての心房細動は、
矢張りカテーテル治療により増加することは間違いがありません。

これ以外に抗凝固療法と抗血小板療法との比較が行われていますが、
こちらは抗凝固療法の方が脳梗塞の発症は少ない傾向はあるものの、
有意な差は認められませんでした。

同じ紙面に載っている他の2編の論文においても、
解析法や対象とする患者さんの絞り込みの方法には、
それぞれ違いはあるのですが、
両者とも卵円孔閉鎖術によって、
抗血小板療法単独との比較べ、
その予防効果は有意に高いものとなっていました。
そのうちの1つは2013年の時点では差が見られなかったデータの、
より長期の解析結果となっています。

このようにカテーテル治療の手技や使用する器具の進歩、
また確実に卵円孔開存が関連していることが疑われる患者さんの絞り込みと、
以前の臨床研究とは別個の要素が加わることにより、
今回発表された3つの臨床研究においては、
いずれも一定の有効性がカテーテル治療により認められています。

今後どのような患者さんに対して、
最もこの治療の有効性が高く、
合併症などのリスクが少ないのか、
その検証を元に的確なガイドラインが、
作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。



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