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食事のバランスと健康との関連について(2017年大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖質と脂質のバランスと健康.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
世界的な大規模な疫学データを元に、
食事の栄養素のバランスと、
生命予後を含む健康との関連を検証した論文です。

人間が摂取するカロリーは、
大きく分けて炭水化物、脂肪、蛋白質の、
いずれかから得られています。

世界の地理的にも、また時代によっても、
その摂取量のバランスは様々です。
ある地域や時代においては、
極端に高蛋白で、脂質や炭水化物が少ない食習慣もありますし、
極端に炭水化物が多く、
脂質や炭水化物の少ないという食習慣もあります。

この20年余を考えてみても、
一時は脂肪をともかく減らすことが、
健康への早道のようなことが言われていましたが、
その後炭水化物の制限ということが、
今度は強く主張されるようになり、
悪者は脂肪から炭水化物に、
変わってしまったような感もあります。

WHOのガイドラインにおいては、
脂肪を摂取カロリーの30%未満とする、
低脂質の食事が心血管疾患の予防のためには推奨されていて、
特に飽和脂肪酸を摂取カロリーの10%未満にすることが求められています。
ただ、この根拠となるデータは世界の地域毎の、
食生活習慣と病気のリスクとの関連を見たものしかなく、
かつ調査地域もヨーロッパと北アメリカに大きく偏っています。

また、飽和脂肪酸の摂取による心血管疾患リスクの算出は、
飽和脂肪酸により血液のLDLコレステロールが増加する、
という点のみに着目したもので、
飽和脂肪酸が増加するとLDLコレステロールが直線的に増加する、
という仮定を元にしています。
しかし、この推測はHDLコレステロールや血圧など、
他の心血管疾患のリスク因子を無視したもので、
それほど精度の高い推測とは言えません。

また、最近のメタ解析の論文では、
ヨーロッパと北アメリカで施行された、
臨床研究や疫学データをまとめて解析した結果として、
総死亡のリスクや心血管疾患のリスクと、
飽和脂肪酸の摂取量との間には、
統計的に意味のある相関は見られなかった、
という結論になっています。

つまり、ヨーロッパや北アメリカに地域を限定しても、
飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患や死亡リスクとの間には、
明確は関連があるとは言えず、
それ以外の地域におけるデータは殆どないのが実状です。

そこで今回の研究においては、
世界18の国や地域の、
35歳から70歳のトータル135335名の食事調査を行い、
中間値で7.4年の経過観察期間において、
心血管疾患の発症リスクと、
総死亡のリスクと、
特定の栄養素の摂取量との関連を検証しています。

対象となっている地域は、
カナダ、スウェーデン、アラブ首長国連邦、
アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、
イラン、マレーシア、パレスチナ自治区、ポーランド、
南アフリカ、トルコ、バングラデシュ、
インド、パキスタン、ジンバブエです。

経過観察の期間中に、
5796名が死亡し、4784名が心血管疾患を発症しています。
炭水化物のカロリーに占める割合が最も多い群(平均で77.2%)は、
最も少ない群(総カロリーの平均で46.4%)と比較して、
総死亡のリスクが1.28倍(95%CI;1.12から1.46)有意に増加していました。
炭水化物の摂取量が多いほど、
死亡リスクも高いという傾向も認められることから、
この関連には一定の信頼性があると言えそうです。
一方で心血管疾患のリスクや心血管疾患による死亡のリスクについては、
炭水化物の摂取カロリーとの間に関連はありませんでした。
関連が明確にあったのは、
心血管疾患とは関連のない死亡についてのみです。
要するにメインは癌や感染症による死亡と想定されます。

一方で脂質については、
脂質のカロリーをトータルで見た場合、
脂質の総カロリーに占める割合が最も高い群(平均で35.3%)は、
最も低い群(平均で総カロリーの10.6%)と比較して、
総死亡のリスクは23%(95%CI; 0.67から0.87)有意に低下していました。
このリスクの低下も脂質の量とほぼ相関していて、
心血管疾患のリスクや心血管疾患による死亡のリスクとは、
関連を示していませんでした。
つまり、脂質に関しても、
関連があったのは心血管疾患以外での死亡についてののみです。

ここで脂質の中身を見てみると、
飽和脂肪酸単独でも単価不飽和脂肪酸単独でも、
多価不飽和脂肪酸単独でも、
ほぼ同様に摂取量が多いほど、
心血管疾患以外の死亡リスクは低下していました。
ただ、その中においては、
多価不飽和脂肪酸が最もそのリスクを低下させていました。

最後に蛋白質について見ると、
総カロリーに占める蛋白の比率が、
平均で16.9%(95%CI; 16.4から17.4)の群が、
最も総死亡のリスクは低下していました。
この場合も心血管疾患以外の死亡リスクのみが、
蛋白質の比率と関連していました。

ここで仮に総カロリーの5%を置き換える効果を算出すると、
炭水化物のカロリーを、
そのまま同カロリーの多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、
総死亡のリスクは11%(95%CI; 0.82から0.97)有意に低下する、
というように計算されました。
一方でこのカロリー分を、
飽和脂肪酸や単価不飽和脂肪酸、蛋白質にそれぞれ置き換えても、
死亡リスクの低下は認められませんでした。

今回のデータは大変興味深いもので、
これまでの常識とは異なる部分を多く含んでいます。

まず、脂質、糖質、蛋白質のバランスにより、
生命予後において影響が出るのは、
主に心血管疾患以外の病気による死亡リスクであって、
これまで最重点に考えられていた、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患は、
トータルにはあまり食事の影響を受けてはいない、
という知見です。
ただ、これは勿論通常の食事の範囲であって、
極端な食事パターンを取れば、
弊害が生まれる可能性は充分にあります。

更には炭水化物は総カロリーの50%を超えると、
総死亡のリスクを引き上げていて、
50%は超えないレベルに維持することが望ましく、
そのカロリー分は蛋白質ではなく脂質、
特に多価不飽和脂肪酸
(ナッツやオリーブオイル、青味の魚など)
に振り替えることがそのリスクの軽減に繋がる、
という知見です。
ただ、このリスクも心血管疾患とは無関係です。

この論文の日本での解説記事には、
「炭水化物が多いと寿命が縮む」
というようなニュアンスが多いのですが、
炭水化物は一番少ない群でも、
95%信頼区間で40%は切っていませんから、
敢くまでカロリー比で50%を超える、
糖質主体の食事が良くない、
という趣旨であることを理解する必要があります。

このデータでは食事調査は1回のみですから、
その結果の評価には限界があるのですが、
基本的な方向性はおそらく正しいものだと個人的には思うので、
今後の検証と、
それがガイドラインなどに、
的確に反映されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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