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EBウイルス遺伝子検出による上咽頭癌のスクリーニングの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
EBウイルスDNAと上咽頭がん.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ウイルス感染に関連のある癌の早期診断を、
そのウイルスの遺伝子を血液中で検出する方法で行なおう、
という興味深い臨床試験についての論文です。

EBウイルス(Epstein-Barr virus )は、
ヘルペスウイルス群に属するウイルスで、
1964年にバーキットリンパ腫という白血病の一種の細胞から、
分離されたウイルスです。
Epstein さんとBarrさんというのが、
発見した研究者の名前ですね。

リンパ球というのは身体を防衛する役割を担った、
白血球の1種ですが、
ポイントはこのウイルスは、
人間のリンパ球に感染して、
そこで生き続けるウイルスだ、
ということです。

通常のウイルスは人間に感染しても、
リンパ球などの人体防衛軍の働きによって、
短期間で身体から排除されるのですが、
EBウイルスのようなリンパ球に感染するタイプのウイルスは、
HIVもそうですが、
人間の免疫が完全に退治することが、
非常に難しいのです。

大人になるまでに、
95パーセントの人はEBウイルスの感染を受けます。

この時の症状は、
乳幼児では軽い風邪症状で、
咽喉がちょっと腫れる程度か、
全く症状の出ないケースもあります。

それがもう少し大きくなって、
小中学生以降で感染すると、
今度は高熱が出て扁桃腺が大きく腫れ、
全身的にもかなり重症感のある症状になります。
肝機能が悪くなって肝臓が腫れたり、
血小板が減ったり、
首のリンパ腺が大きく腫れるのも特徴です。

これを「伝染性単核球症」と呼んでいます。

咽喉にはB細胞というリンパ球があって、
それが身体の防衛に当たっています。
そのB細胞のうち、
CD21というマーカーがあるタイプのリンパ球に、
EBウイルスは感染を起こします。
するとこのリンパ球は勝手に増殖し、
咽喉に炎症を起こすのです。

そのリンパ球を封じ込めるために、
細胞障害性T細胞とNK細胞という白血球が増加します。
ウイルスを退治するというより、
ウイルスに侵入され、
そのコントロールを失った、
自分達の仲間を殺すのです。
EBウイルスに感染した細胞は不死化するので、
退治しなければ永久に死なないのです。
この辺り、ゾンビ映画のようですが、
それはまあ、ゾンビ自体が感染症の隠喩なのであり、
そうした恐怖は人間にとって根源的なものなのだと思います。

この細胞障害性T細胞とNK細胞が、
白血球の形態の分類から言うと、
主に「単核球」ということになるので、
「伝染性単核球症」という病名の由来はここにあるのです。

乳幼児はまだ免疫系の発達が未熟なので、
こうした病気は軽症で済むのです。
このウイルスは人間の免疫の力を逆用するので、
それだけ質が悪く、
また免疫が強い状態にあればあるだけ、
その初感染の時の症状は強いのです。

伝染性単核球症は通常自然に治りますが、
その完全な治癒までには1~3ヶ月が掛かり、
不明熱の原因となることや慢性化することもあります。

そして、最近注目されているのが、
特定の癌とEBウイルス感染との関連です。

このウイルスはリンパ組織のある上咽頭(咽喉の奥の上の部分)
に高率に感染を起こし、
その部位のリンパ組織の細胞に、
潜在的な感染が持続することにより、
上咽頭癌の発症の要因となっていることが、
最近の研究によりほぼ確実と考えられています。

上咽頭癌の癌細胞には、
高率にEBウイルス由来の遺伝子が検出され、
それが細胞から遊離した遺伝子断片として、
血液中でも検出が可能であることが明らかとなりました。
また血液のEBウイルスに対する抗体価が高いと、
それだけ上咽頭癌のリスクは上昇し、
放射線治療などによる寛解後には、
その抗体価も低下することもまた、
明らかになっています。

上咽頭癌は進行しないと症状を出すことはなく、
早期発見は難しい性質の癌の1つです。

それでは、
血液中のEBウイルス遺伝子を検出することにより、
その早期発見に結び付けることは出来ないのでしょうか?

血液中の細胞外DNAを増幅して検出することは、
それほど難しいことではありませんが、
問題は通常のEBウイルスの感染においても、
急性期には血液でウイルス由来のDNAが検出されても、
おかしくはないということです。

通常こうした場合に行われる方法は、
ある量以上に遺伝子が検出された場合に、
それを異常と判定する、という考え方です。

しかし、実際にはごく早期の上咽頭癌であれば、
血液中に漏れ出る遺伝子の量も少ないと想定されますから、
通常のEBウイルス急性感染との鑑別は、
より困難となるように思われます。

それではどうすれば良いのでしょうか?

上記文献の著者らの方法は、
4週間の間隔を空けて2回の測定を行い、
2回とも血液中のEBウイルス由来DNAが検出されれば、
その量に関わりなく異常と判断して、
上咽頭の内視鏡検査やMRI検査を施行する、
という考え方です。
通常急性感染においては、
血液中にウイルス由来のDNAが検出される期間は、
それほど長いものではないからです。

こうしたスクリーニングはまた、
上咽頭癌の発症リスクが高い集団に対して行わないと、
その効果は充分には得られません。

そこで今回の研究では、
上咽頭癌の発生頻度の高い香港において、
よりリスクの高い40歳から62歳の男性に絞って、
血液のEBウイルス遺伝子の検査を行い、
その経過を観察しています。
観察期間の中央値は22か月です。

対象者は20174例で、
初回の検査において5.5%に当たる1112名で、
EBウイルス由来のDNAが検出されています。
この陽性者に4週間後に再度検査を行ったところ、
全体の1.5%、初回陽性者の27.8%に当たる309名では、
再検査でもウイルス由来のDNAが検出されました。
この309名のうち、同意の得られた300名で上咽頭の内視鏡検査が、
275名では内視鏡検査に加えてMRI検査が施行されました。

その結果、
34名に上咽頭癌(鼻咽頭癌)が診断されました。
診断された上咽頭癌は、
ステージは1と2という早期である比率が、
これまでの報告では20%程度であったのに対して、
71%という高率になっており、
診断から3年後の段階で増悪せず生存していた比率も、
97%という高率でした。
つまり、比較的短期間の観察に過ぎないものですが、
このスクリーニングにより発見された上咽頭癌は、
これまで通常診断された場合より、
早期のものが多くその予後も良い可能性が高い、
ということが言えます。

検査を拒否した9 名のうち、
1名は登録から32か月後に、
進行癌の段階で診断がされています。

また、初回の検査でEBウイルス由来の遺伝子が、
検出されなかった対象者の中で、
1年以内に上咽頭癌を発症したのは1名のみでした。

こうした結果から、
今回の対象者に施行した場合のこの検査の有効性は、
感度(上咽頭癌の患者さんの中で検査が陽性になる確率)が97.1%で、
特異度(上咽頭癌のない人が検査が陰性になる確率)が98.6%と算出されました。
陽性的中率(この検査が陽性の時に上咽頭癌である確率)は11%です。

こうしたスクリーニングとしては、
かなり画期的な結果であると言って良いと思います。

ただ、アメリカのジョンホプキンス病院での調査では、
上咽頭癌の患者さんのうち、
血液でEBウイルス由来の遺伝子が検出されたのは、
全体の1%程度と報告されていますから、
今回の結果はかなりその対象群によって違いのあるものと思われます。
日本は香港と比較すると上咽頭癌の頻度は低い地域ですから、
こうしたスクリーニングの有用性はあまり高いものではない、
という可能性もあります。

従って、癌の予後改善のためのスクリーニング検査というのは、
そう簡単なものではないことは間違いがないのですが、
対象群と病気と検査を上手く選択すれば、
現状の技術水準の中でも、
可能であることが証明さえた意義は大きく、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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