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去痰剤カルボシステインのCOPDに対する効果(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カルボシステインのCOPDに対する効果.jpg
2017年のInternational Journal of COPD誌に掲載された、
カルボシステインという古く安価な去痰剤が、
慢性の肺の病気の急性増悪の予防や病気の予後改善に、
有効であることを示唆するメタ解析の論文です。

風邪で痰が絡んだり、
咳が出たりすると、
必ず処方される薬があります。

総称して去痰剤と呼ばれるもので、
カルボシステイン(商品名ムコダインなど)や、
アンブロキソール(商品名ムコソルバンなど)などが、
その代表です。

安い薬ですし、
市販の風邪薬や咳止めにも入っています。

飲んだ方の印象も、
「別に咳が止まる訳でもないし、
まああってもなくても大差のない薬だね」
といったところではないでしょうか?

ところが、
この去痰剤が意外に優れモノであることが、
最近の研究によって明らかになっています。

痰とは何でしょうか?

特にご病気のない人でも、
1日100ml程度の分泌物が、
気道では産生されています。

成分的には9割が水分で、
それ以外にムチンという糖蛋白質が、
その主成分です。

痰というのはこのムチンという成分が、
過剰に産生された状態です。

このムチンは粘り気のある物質なので、
これが多ければ分泌物はドロドロで固まり易くなり、
それが痰と呼ばれる状態なのです。

気道の感染症やアレルギー反応が起こると、
主に炎症性のサイトカインの影響により、
ムチンの産生は増加します。

これが喘息や風邪や肺炎で、
痰が増えることの主な理由です。

気道に炎症が起こると、
それが細菌感染であれば、
好中球という種類の白血球が多く気道に集まり、
そこに含まれる酵素の性質により、
痰には色が付きます。
概ね好中球がそれほど多くないと、
痰は黄色くなり、
ある程度以上多くなると緑色になります。

痰の生成は基本的には身体の異物除去反応で、
有害なものではありませんが、
気道が障害されて、
スムースに痰を外に出すことがし難くなると、
気道に痰が詰まり易くなり、
最悪はそのために窒息が起こることがあります。

特に寝たきりのお年寄りが肺炎に罹ったりすると、
そのために痰が詰まって、
亡くなる要因ともなるのです。

また、適切な量のムチンの産生は、
身体にとって大きな問題にはならないのですが、
気道の炎症が慢性化すると、
好中球という白血球が分泌する酵素の働きによって、
ムチンを産生する細胞が増加することが、
動物実験などで確認されています。
つまり、お年寄りや喘息の患者さんで、
常に気管支炎などの炎症が、
慢性的に起こっていると、
ムチンの産生が病的に増えて、
それだけ痰が出し難くなる、
という悪循環が生じてしまうのです。

ここに、痰を減らす薬の必要性があります。

去痰剤と呼ばれる薬があります。

その名の通り痰を減らす作用のある薬ですが、
そこにも幾つかのメカニズムの違いがあり、
また特徴があります。

痰の主成分はムチンですが、
これは糖と蛋白質との複合体です。

この糖と蛋白の間のS-S結合と呼ばれる部分を切り離すのが、
システイン系と呼ばれる薬剤で、
主に使用されているのは、
アセチルシステイン(商品名ムコフィリンなど)と、
メチルシステイン(商品名ペクタイトなど)と、
エチルシステイン(商品名チスタニンなど)です。

次にムチンの糖の部分を分解するのが、
塩酸ブロムヘキシン(商品名ビソルボンなど)です。

更にはムチンの蛋白質を分解するのが、
蛋白分解酵素剤ですが、
その代表格のセラペプターゼ(商品名ダーゼンなど)は、
プラセボと有効性に差がなかったとして、
現在は発売がされていません。

一方でアンプロキソール(商品名ムコソルバンなど)は、
ムチン自体は分解せず、
痰が気道に付着し難くして、
その排泄を促す、
というちょっと変わった作用の薬です。

そして、最近その効果が再評価されている、
カルボシステイン(商品名ムコダインなど)は、
ムチン産生そのものの抑制効果があります。
つまり、ムチンを分解するのではなく、
その産生量を減らすのです。

従って、ムコダインとムコソルバンとビソルボンは、
それぞれ別個のメカニズムを持つ、
別個の薬です。

粘り気の強い痰が少量の場合には、
ムチンを分解するような薬剤と、
その付着を妨害するような薬剤が適しています。
すなわち、ビソルボンとムコソルバンの併用が良く、
ムコダインはあまり良い選択ではありません。

一方で痰の量がやや多く、
粘り気はさほどでない場合には、
ムコダインが良い適応です。
それで痰が詰まり易い場合には、
ムコソルバンを併用します。

近年アセチルシステインは、
主に海外で肺線維症の進行予防効果が報告され、
アンブロキソールは2004年に、
カルボシステインは2007年から2008年に、
それぞれ慢性閉塞性肺疾患の、
増悪を抑制する効果が報告されて話題になりました。

今日の主題であるカルボシステインについては、
慢性閉塞性肺疾患の患者さんに、
1年間の長期間使用したところ、
その患者さんの症状の増悪回数や、
風邪を引く回数が減少した、
という結果が報告されました。
これはPEACE研究と名付けられ、
その一部はLancet誌に掲載されて、
その年の優秀論文の1つに選ばれました。
それがこちらです。
カルボシステインの効果Lancet.jpg

この内容とちょっと裏話的な話をします。

ムコダインは1981年に杏林製薬が発売した薬です。

元々ムチンの産生を抑え、
痰の粘性と量とを抑える作用の薬ですが、
2006年に風邪ウイルスの代表格であるライノウイルスの、
気道上皮への付着を妨害し、
その感染を予防する効果がある、
という内容の日本の論文が発表されました。
ウイルス感染は慢性の呼吸器疾患の、
増悪因子として重要なものです。

喘息の患者さんや肺気腫の患者さんは、
風邪を引くとそれをきっかけに呼吸の状態も悪化します。
これはウイルス感染によるサイトカインの産生が、
痰の産生を増やすことが、
その大きな増悪要因の1つです。

この点から考えて、
ウイルス感染を阻止するムコダインには、
慢性の呼吸器疾患の増悪を抑え、
その予後を改善する効果があるのではないか、
という推測が生まれたのです。

この推測を検証するために、
杏林製薬がお金を出して、
日本と中国とで合同で行なわれたのが、
PEACE研究です。

日本の研究は151例の慢性閉塞性肺疾患の患者さんを、
75例と76例との2群に分け、
一方にはムコダインを使用し、
もう一方は使用しません。
それで1年間観察し、
その間の急性の症状悪化の差を見るのです。
症例の年齢は平均が60代で、
比較的ご高齢の方の多い分布です。

その結果、増悪回数、感冒の罹患回数が、
ムコダインの使用群で、
有意に少なかったというデータが得られました。

一方で中国の研究は、
基本的に同様のものですが、
症例数は全体で791例と、
日本の5倍以上です。
そして、増悪の減少及びQOLの改善の2点において、
ムコダイン使用群が有意に効果が認められた、
というものです。

これは杏林製薬がお金を出した共同研究の筈ですが、
実際には中国の研究と日本の研究とは、
同じ内容にも拘らず、
別々に発表され、
その評価は圧倒的に中国側の研究の方が上です。
勿論例数に違いがあり、
日本の151例というのは、
大規模臨床試験としては、
明らかにショボイので、
仕方のないことかも知れませんが、
何と言うのか、
お金だけは全部出して、
功績は全て持っていかれているので、
今の日本と中国との関係を、
これだけでも如実に示しているような気がします。

余談でした。

さて、今回の論文はこのPEACE研究を含めて、
それ以降2016年の9月までに発表された、
介入試験と呼ばれる精度の高い臨床試験のデータを、
まとめて解析し、その効果を検証しています。

その結果、トータルで1357名のCOPDの患者さんのデータを、
まとめて解析した結果として、
偽薬との比較でカルボシステインを使用することにより、
COPDの急性増悪は57%(95%CI;-0.57から-0.29)有意に低下していて、
生活の質も有意に改善していました。
呼吸機能や有害事象、入院のリスクには有意な差はありませんでした。

このように、
PEACE研究以降それほど大規模なデータはないので、
メタ解析と言ってもそれほど意味のあるものとはなっていないのですが、
2017年の現在においても、
カルボシステインをCOPDの患者さんに継続的に使用することには、
一定の有効性があることは否定されておらず、
安価で古い薬ですが優れた薬であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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