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森林浴の血圧降下作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
森林浴の効果.jpg
今年のBMC Complementary and Alternative Medicine誌に掲載された、
森林浴の血圧への影響を検討した論文です。
これまでのデータをまとめて解析した、
所謂メタ解析の論文で、
日本の群馬大学の研究者による報告です。

森林浴はForest bathingと訳されていますが、
論文の殆どが日本のものである点から考えて、
海外であまりこうした概念が一般的、
ということはないようです。

森や自然の中で豊かな自然の緑に触れ、
散歩やハイキングをしたり運動をしたりすることは、
心身のリラックス効果のあることは、
自然に触れた人なら誰でも実感することだと思います。

実際にどのような変化が、
その時身体には起こっているのでしょうか?

これまでの報告によると、
緑の多い環境に身を置くことにより、
1から2時間という短時間においても、
脈拍や血圧が低下し、
自律神経のバランスは副交感神経優位となって、
交感神経の活動は抑制されます。

ただ、それではどのくらい血圧が下がるのか、
というような点については、
また一致した見解がある、
という訳ではありません。

今回の研究はこれまでの臨床研究のうち、
森林浴の血圧への影響を検証した、
20の研究データをまとめて解析したものです。

その内訳は17論文は日本の研究者による国内の研究で、
残りの2論文は韓国の、そして1論文は中国の研究となっています。
日本の研究も同じ研究グループによるものが多いので、
それほどこの問題が、
世界的に研究されている、
ということはどうもないようです。

日本の研究は森林浴の期間が2時間以内というものが全てで、
その同じ時間を室内などで過ごした場合との比較を行っています。
より長期の報告は3日と7日という報告があり、
いずれも海外のものです。
トータルな被験者の人数は732名ですが、
多くの研究はかなり少人数のものです。

森林浴により収縮期血圧(上の血圧)は、
トータルでは3.15mmHg(95%CI; 2.18から4.12)低下しています。
この下げ幅は血圧が130mmHg以上のグループではより大きく、
6.33mmHg(95%CI; 3.32から9.35)となっていました。
森林浴の効果は森の中のような自然の豊かな場所でより大きく、
若い人より中高年で大きい傾向がありましたが、
これは元の血圧値の影響を見ている可能性もありそうです。
拡張期血圧も森林浴で、
1.75mmHg(95%CI; 1.13から2.38)有意に低下していました。

このように森林浴に一定の血圧降下作用のあることは、
ほぼ間違いのない事実と思われますが、
データは殆どが日本のものでかなり偏りがあるので、
森林浴をどのように活用することが、
日頃の健康維持や健康増進に繋がるのか、
具体的な事項に結論を出せるような、
精度の高いデータはまだ存在していない、
というのが実際のようです。

森林浴自体にはほぼリスクはなく、
健康に良い習慣であることも間違いはありませんが、
自然は怖いものでもありますので、
虫刺されなどを含めて自然のリスクには注意しつつ、
適度に自然と親しむ習慣を持つことが、
現状では最善の健康法であるような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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急性下気道感染症に対するステロイドの有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
プレドニンの下気道感染への効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
下気道感染症に対するステロイド剤の効果についての論文です。

急性下気道感染症というのは、
咽喉の更に奥、
気管支などの気道に急性の炎症が起こり、
咳や痰や息切れなどの症状起こることで、
一般には咳の続く風邪や、
長引く風邪というような言い方をしているのが、
それに近いニュアンスです。

ただ、ここで急性下気道感染症(Acute lower respiratory tract infection)
と定義しているのは、
急性の咳症状に、
痰、胸痛、息切れ、喘鳴のうち少なくとも1つが伴っている場合、
となっています。

こうした症状に対して、
その人が特に喘息などの基礎疾患がなければ、
抗生物質の使用がその予後を改善する、
という根拠はありません。
しかし、そうではあっても、
一般臨床においては、
国内外を問わずに抗生物質が使用されています。
最近では抗生物質の濫用ということが、
盛んに報道もされていますが、
上記文献の記載においても、
イギリスやアメリカでもそうした傾向は同じであるようです。

急性下気道感染症に対して抗生物質が安易に使用されるのは、
その使用により患者さんの不快な症状が、
より早く改善されるのではないか、
という期待があるからです。
そうした期待があるのは、
抗生物質以外に症状を早期に改善するような治療が、
確立されていないからだと思います。

ここで喘息の急性増悪のケースを考えてみると、
症状はほぼ急性下気道感染症に一致していて、
それが引き金になって急激な喘息症状の悪化が起こります。
この時、ステロイド剤の使用は、
気道の炎症を強力に抑えることにより、
症状の持続期間の短縮などにおいて、
一定の有効性が認められています。

ただ、これは気管支喘息に限った知見で、
喘息を合併していない急性下気道感染に対しての、
ステロイド剤の使用は世界的に推奨はされていませんし、
その効果は確認されていません。

しかし、実際には一般臨床において、
国内外を問わずそうした治療がしばしば行われています。

つまり、急性の下気道感染症に対して、
飲み薬の糖質コルチコイドであるプレドニゾロンなどを、
喘息でなくても併用するような治療です。

それでは、実際にそうした治療の効果はどの程度あるのでしょうか?

この問題を検証するために今回の研究では、
イギリスの複数のプライマリケアのクリニックにおいて、
専門施設で研修を受けた医師や専門看護師により、
18歳以上で急性の下気道感染症と診断され喘息の既往のない、
トータル401名の患者を、
診断の時点でクジ引きで2つの群に分け、
一方はステロイドのプレドニゾロンを1日40㎎、
5日間使用し、
もう一方は偽薬を同じ様に使用して、
症状の持続期間や重症度などを比較しています。

その結果…

両群において、
その症状の持続も重症度や予後についても、
有意な差は認められませんでした。

つまり、
プレドニゾロンを短期間使用することは、
急性下気道感染症を悪化させることはないものの、
症状を明らかに改善したり、
重症化を予防するような作用も、
確認はされませんでした。

今回の結果のみで、
全ての急性下気道感染症の患者さんに対して、
ステロイドの使用が無意味である、
とは言い切れませんが、
現状気管支喘息などの基礎疾患のない大人であれば、
その使用によるメリットは現時点では確認はされていないと、
そう理解をしておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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血液検査による心不全の管理の有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
BNPの効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
NTproBNPという心不全の指標となる血液検査を、
利用した心不全の管理と、
利用しない場合の管理とを比較した臨床研究の論文です。

内科で扱うような慢性の病気においては、
その病気の進行度や重症度を、
チェックするために道しるべになるような検査が必要です。

急性治療というのは、
まず病気の診断をして、
その症状を安定化させるような治療を行ないます。
その上で症状が安定すれば、
持続的な治療で経過を見るということになる訳です。

慢性の病気の状態を見るには、
その病気の状態を反映した指標が必要です。

医者はそれを見ながら、
薬の調整を行ったり、
場合によっては入院治療の必要性を、
判断したりすることになるからです。

たとえば糖尿病であれば、
HbA1cという血液検査が、
最も重要な指標として活用されています。
この検査の数値が高ければ、
その前1から2か月くらいの血糖のコントロールが悪いと判断して、
薬を増量したり、生活改善を指導したりする、
という治療方針の変更に繋がります。

ただ、万能な検査というものはなく、
検査にはそれぞれ限界もありますから、
検査のみに頼る治療も、
却って患者さんに害になる、
という場合もあり得ます。

それでは、心不全という病気の場合はどうでしょうか?

心不全というのは、
心臓の機能が低下した状態のことですが、
その機能の低下は心臓の超音波検査で計測が可能です。

そして、その進行度や重症化の指標としては、
ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の、
血液濃度が参考になると考えられています。

このBNPは心臓に負担が掛かるとその産生が増加して、
身体から塩分と水分を排泄しようとする、
一種のホルモンですが、
その血液濃度の増加は、
それだけ心臓に負担が大きく掛かっていることを示し、
心不全の重症度とほぼ一致すると報告されています。

最近ではBNPの前駆物質であるproBNPから、
BNPが切り出された後の残りの部分であるNTproBNPが、
より測定値が安定しているために、
BNPより広く使用されているようになっています。

このNTproBNPが最も臨床上で役に立つのは、
息切れやむくみなどの患者さんが、
心不全ではないかどうかを見分ける、
除外診断ですが、
数値が高いほど重症度が高いため、
治療効果の指標としても有用ではないか、
という意見があります。

ある心不全の患者さんがいて、
NTproBNPの測定値が1000pg/mLだったとします。
これが治療によって500pg/mLになったとすれば、
その治療は有効だった、ということになりますし、
それが治療をしても1500pg/mLになったとすれば、
治療を変更したり追加したりする必要がある、
ということになる訳です。

ここで問題は定期的にNTproBNPを測定し、
その数値を治療効果の指標として、
治療を行なった場合と、
そうでない場合とに違いがあるのかどうか、
ということです。

この数値が正確に病状を反映しているものだとすれば、
定期的に測定してそれを参考にした方が、
より治療効果は得られて患者さんの予後も良くなる、
という可能性がありそうです。
一方でその数値が正確なものではなかったり、
そもそも治療薬の効果がそれほど高いものでなければ、
測定を繰り返すことで、
却って病態を見誤り、
無用な治療の変更や追加などをして、
患者さんの状態を悪くする、
というような事態も想定されます。

一般の方は検査はすればするほど治療に役立つ、
というように考えがちですが、
実はその逆ということもあり得るのです。

2014年のEur Heart J誌に掲載された論文では、
これまでの11の臨床研究の、
2431名の患者さんのデータをまとめて解析したメタ解析の結果として、
BNPを指標として治療を行なった方が、
総死亡のリスクが38%有意に低下した、
という結果が報告されています。

これはBNPを指標とした治療に肯定的な結果ですが、
個々には比較的少人数の臨床データを、
まとめて解析したものなので、
これでBNPが有効という結論を出すのは早すぎます。

今回の研究では、
アメリカとカナダの複数の専門施設において、
NTproBNP濃度が2000pg/mLと高度の上昇しており、
心エコーによる左室の収縮機能の指標である、
駆出率(EF)が40%以下と、
実際に明確な慢性心不全(左室収縮機能不全)のある患者さん、
トータル894名をくじ引きで2つに分け、
一方はNTproBNPの測定を定期的(安定期は3か月に一度)に行なって、
それによる治療の修正を行い、
もう一方はNTproBNPの測定は原則として行わずに、
中央値で15か月の経過観察を行い、
その患者さんの予後の違いを比較検証しています。

当初の目標登録者数は1100名でしたが、
実際にはその数には至らず、
NTproBNP定期測定群が446名、
検査未施行群は448名が解析対象となっています。
検査値を見て治療を変更するというスタイルなので、
患者さんにも主治医にも、
どちらの群に入っているのかは分かっています。
つまり、偽の検査をするような試験ではないのです。

その結果…

観察期間中に、
心不全による入院や、
心血管疾患による死亡をされたのは、
NTproBNP定期測定群で37%に当たる164名、
検査未施行群で37%に当たる164名で、
両群に有意な差はありませんでした。

NTproBNP定期測定群では、
検査値の目標が1000pg/mL未満になることを、
目標としていましたが、
実際にその目標に達したのは、
定期測定群で46%で検査未施行群では40%となり、
これも有意な差はありませんでした。

つまり、
NTproBNPを指標として心不全の治療を行なっても、
この検査をしないで治療を行なっても、
1年くらいの経過の中では、
患者さんの予後には差はなく、
心機能にも差は見られなかった、
ということになります。

ただ、この試験では、
患者さんもどちらの群に選ばれたかを知っているので、
検査をしない群では不安に感じて、
別の医療機関で検査をした、
と言うようなケースは可能性を否定はされていません。
また、登録開始の時点で、
ACE阻害剤など心不全の基礎的な治療薬は、
もう処方が継続されているので、
NTproBNPが高値であっても、
それで上乗せや増量という治療の変更の余地は、
あまり大きなものではなかった、
と言う点も両群の差を付きにくくしているように思われます。

そんな訳で今回の結果のみをもって、
慢性の心不全で定期的にNTproBNPを測定することは無駄、
というようには言い切れないのですが、
検査をしたから患者さんの予後の改善に結び付くという根拠は、
メタ解析以外の独立した精度の高いデータでは示されていない、
と言う事実はもう一度確認をしておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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メトホルミンの腸内細菌と免疫への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトホルミンと免疫と腸内細菌.jpg
今年のDiabetologia誌に掲載された、
メトホルミンという2型糖尿病治療薬の、
多彩な作用についてのレビューです。
この号はメトホルミン特集号となっています。

メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
インスリン抵抗性を改善するのが主な作用の、
2型糖尿病治療薬で、
その長期の安全性と有効性が高く評価され、
世界的に2型糖尿病の第一選択の薬剤となっています。

その作用は主に肝臓における糖新生の酵素の抑制と、
エネルギー代謝を調節する酵素である、
AMP活性化プロテインキナーゼの活性化にあるとされています。

ただ、最近になりこのインスリン抵抗性改善以外にも、
メトホルミンには副次的な作用が色々とあることが報告されています。

今回のレビューで解説されているのは、
そのうちの腸内細菌叢に対する効果と、
免疫への効果についてです。

メトホルミンは飲み薬ですが、
血液の濃度の100倍の濃度で、
腸管の粘膜に移行していることが分かっています。

この高濃度のメトホルミンが腸粘膜の代謝を調節して、
それが腸内細菌叢の変化に結び付いていることが、
複数の研究で報告されています。

それは必ずしも単独の変化で説明の可能なものではなく、
研究によっても変化はまちまちなのですが、
メトホルミンが腸内細菌叢に影響を与え、
その組成を変化させるということ自体は、
事実と考えて良いようです。

メトホルミンにはまた免疫の調整作用のあることも、
多くの報告があります。
これは一部はAMP活性化プロテインキナーゼで説明が可能で、
この酵素の活性化により、
一部のリンパ球などの免疫細胞の活性化が起こり、
また癌細胞の代謝が抑制されるために、
抗癌作用に結び付くことや、
抗炎症作用が自己免疫疾患などの改善に結び付いた、
とする報告もあります。

メトホルミンがスタチンと同じように、
代謝に影響を与えると共に抗炎症作用などを併せ持つ、
メタボリックシンドローム全体の治療薬であり、
予防薬であることはほぼ間違いがなく、
今後その適応は、
単純に2型糖尿病のみではなく、
大きく変化してゆく流れになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

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サムゴーギャットモンテイブ『NAGISA 巨乳ハンター/ あたらしい「Lady」』 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はもう1本演劇の話題です。

それがこちら。
NAGISA 巨乳ハンター.jpg
山並洋貴さんの1人劇団、
サムゴーギャットモンテイブの新作公演を観て来ました。

この劇団のことは良く知らなかったのですが、
この折込みチラシの、
日本のラジオ所属の田中渚さんの艶姿を見て、
「田中渚さん(Aカップ)が街を支配する巨乳(Fカップ以上)と戦う演劇」
という煽り文句を読んだ瞬間に、
こうしたものが実は大好きなので、
思わず予約をして、
結構無理をして観に行ってしまいました。

作品は2本立てで、
最初に『あたらしい「Lady]』という30分くらいの英語劇があり、
これは旧作の再演のようです。
それから休憩なく「NAGISA 巨乳ハンター」に続き、
こちらは1時間くらいの作品になっています。

英語劇の最初の方は、
「こりゃ、大失敗かな」
と思ったのですが、
なかなか骨のある作品で悪くなく、
後半の「巨乳ハンター」は、
アマチュアの内輪のパロディ芝居、
というような雰囲気は濃厚にありながら、
随所にプロの気合のようなもの、
低予算のサービス精神のようなものに満ち、
大和屋竺を思わせるようなシュールなクライマックスまであって、
馬鹿馬鹿しくも素敵な作品でした。

予約は2000円で高校生以下は1000円ですから、
あまり子供に見せるようなものではないのですが、
その値段でこれだけ楽しませてくれるなら、
コクーンや本多劇場で、
眠気をこらえて辛い思いをするより、
遥かに建設的で素敵な時間を過ごせたと思いました。

実際僕はこれに近いような感じのお芝居を、
大学生の時にはやっていたので、
とても懐かしい感じもありました。
馬鹿馬鹿しさの質は、
「ナカゴー」や「シベリア少女鉄道」にも似ているのですが、
この2劇団も評価が上がってお上品になっていて、
かなり守りに入っている詰まらなさはあり、
今回のような芝居を観てしまうと、
「そうだよね。たかが演劇はこんな風じゃなくちゃ」
と膝を打つような思いもあったのです。

良い子にはお勧め出来ませんが、
僕は大好きです。

以下ネタバレを含む感想です。

上演された場所は東中野から15分くらいの、
大久保通り沿いのイベントスペースで、
京都の町屋みたいな奥に長い構造になっていて、
通常は通り沿いの入り口から入り、
奥の方を舞台として使うのだと思うのですが、
今回は受付は外にあって、
そこからスタッフに導かれ、
横の非常口のような扉から場内に案内されます。

通常舞台として使用する奥の部分を客席にして、
2枚の幕で仕切った奥行のある空間を、
舞台として使用しているのですが、
こんな規格外をした目的は、
舞台のクライマックスで明らかになります。

客席より遥かに奥行のある空間で立ち回りが演じられ、
それが繰り返されるのですが、
足首に紐を掛けられた男性が、
縦移動で奥に引きずり込まれるという、
通常はあまり舞台上にないような動きが面白く、
最後には外の路上まで使って、
暗殺劇を上演しています。

このテント芝居を彷彿とさせるような、
自由度のある舞台構造が面白く、
この創意工夫だけで充分元は取った気分になりました。

内容は最初の30分の英語劇は、
英語が公用語となっているような、
グローバルな日本企業がイメージされていて、
そこにベトナム人と日本人のハーフで、
日本語も英語も殆ど話せない、
という新入社員が社長のコネ入社で入って来て…
という話です。

かなりたどたどしい英語と芝居が、
どうかなあ、というクオリティではあるのですが、
善意の塊のような日本人の好意が全て裏目に出て、
結局主人公の孤独も周囲への誤解による恨みも、
全く解決することはない、
という冷徹なラストには、
「なるほど、そこまでやるか」
と少し感心しました。
それも、無残なラストではなく、
何か軽くポエジーな感じになっているのです。

1本目が終わると、
出演もされていた主宰の山並がさんが出て来て、
少し休憩を取りますみたいなことを言うと、
それまで音効オペをしていたスタッフらしき人が、
いきなり「ごちゃごちゃ言うとらんでとっとと始めんかい!」
みたいなことを言い出して、
実はその人がヤクザの組長役のキャストだった、
という小ネタが挟まります。

人数が少ないので、
キャストと裏方を兼ねているという裏事情を逆手に取った、
楽しい小芝居でした。

そこから一気に観客を引き込む2本目の「巨乳ハンター」は、
同題の宇宙から来た巨乳エイリアンと貧乳のヒロインが戦う、
という漫画とは別物の、
基本的には「仁義なき戦い」のパロディの世界で、
ヤクザも巨乳で、
巨乳でないとのし上がれない世界、
という点で無理やり巨乳ネタを押し込んでいます。

ただ、そこでヤクザに恋人の捜査官を殺された女性が、
復讐のために貧乳の殺し屋になる、
という梶芽衣子のさそりシリーズみたいな世界が繋がり、
クライマックスの女殺し屋による襲撃では、
同じ殺し場の時間が巻き戻されて繰り返される、
という最近ではタイムリープとしてお馴染みですが、
鈴木清順や太和屋竺の殺し屋物を彷彿とさせるような、
シュールな場面が奥行のある舞台を使い、
外の路上まで使って演じられます。

これには本当にしびれました。
お金はなくてもアイデアと気合で勝負という、
小劇場の見本のような素敵さでした。

キャストは主人公の貧乳の女殺し屋に、
日本のラジオの田中渚さんが、
如何にも小劇場の女丈夫という風格と魅力で、
とてもとても素敵ですし、
それに対してJカップのAVアイドルの塚田詩織さんが、
ちゃんと登場して華を添えます。
お金もないでしょうに、
この一点豪華主義には頭が下がります。
脇のキャストも坊主頭の組長を演じた吉成豊さんなどが、
ケチの付けようのないコミカルヤクザを、
迫力を持って演じていて感心しました。

まあ、僕だから感心した、
というところもあって、
初めてお芝居を見る、というような方には、
全くお勧めは出来ない舞台なのですが、
アイデアに溢れた非常に楽しい作品で、
心ゆくまで楽しむことが出来ました。

山並さん是非これからも頑張って下さい。

キャスト一丸となった接客も良く、
とても素敵でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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前川知大「プレイヤー」(2017年長塚圭史演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はお芝居の記事が2本あります。

最初はこちら。
プレイヤー.jpg
イキウメの前川知大さんが、
2006年にイキウメで上演した「PLAYER」を、
長塚圭史さんとの共同作業で、
劇中劇スタイルの芝居として再創造し、
藤原竜也さんや仲村トオルさんを含む豪華キャストで、
「プレイヤー」という新たな作品として制作、
今渋谷のシアター・コクーンで上演されています。

最初に申し上げますと、
かなり悪口の感想になっていますので、
この作品を楽しみにされている方や、
鑑賞されて素晴らしいと思われた方は、
腹立たしく思われると思いますので、
どうかこれから先はお読みにならないようにお願いします。

死んだ人間が、
生前のその人を知っている生者の協力で、
その「言葉」の情報として再生される、
という前川さんらしいホラーSFのような原作を、
急死した脚本家の戯曲としてそのまま使用し、
その戯曲を俳優が稽古場で練習しているというていで、
物語は展開されます。
つまり、2006年版の物語を入れ子にして、
劇中劇として上演するという趣向です。

宣伝などの資料を読む限り、
この劇中劇にするという趣向は、
長塚圭史さんから前川さんに提案され、
それに沿って前川さんが戯曲を書き直した、
という経緯のようです。

ただ、これは敢くまで僕の個人的な考えですが、
およそ劇中劇のような構造を取った戯曲で、
あまり面白くなったためしはないように思います。
特に元々は普通の戯曲であったものを、
後から劇中劇の入れ子構造に直した作品でそれが顕著です。

それは何故かと言えば、
劇中劇という構造は、
作品世界と客席との距離感をより遠くしてしまうからです。

特に額縁(プロセニアム)形式の舞台を、
客席から鑑賞するような場合には、
観客の立場からは、
遠くの四角い舞台で行われている世界に、
集中して無理をして同期してゆくような作業が必要になります。
これは実際には結構しんどいことなのです。
それが劇中劇の構造となると、
舞台上の世界に慣れた上に、
更にそこで演じられる世界にも慣れないといけない、
という二重の苦労が生じることになります。

こうした作品を書いたり上演したりする立場からは、
観客と俳優との関係を、
劇中劇のスタイルを取ることにより、
相対化するような面白みを感じているのではないかと思うのですが、
それは概ね芸術家の独りよがりであって、
観客に通常より大きな緊張や集中力を強いている、
という視点が欠けているのではないかと思います。

こうした劇中劇の構造は、
小説や映像のメディアであれば、
有効に機能することが多いのです。
映像や小説であれば、
劇中劇の中の世界と、
それを演じている世界とを、
全く同じように表現し、
それを瞬時に切り替えることが出来るからです。

しかし、それを演劇で表現する時には、
舞台の上にまた舞台を置くような、
面倒極まりないことをしなくてはならず、
そうした構造が舞台全体をゴタゴタさせて、
観客の集中力を奪い、
無意味な疲労に導く結果になるのです。

今回の上演はその最たるもので、
舞台はある地方都市の公共劇場のリハーサル室に設定され、
そこに沢山のパイプ椅子が置かれていて、
そこで死亡した無名の劇作家による「PLAYER」という戯曲の、
練習が行われている、という設定になっています。
作品の8割くらいは、
実際には「PLAYER」という戯曲の世界が展開されています。
しかし、リハーサル室で上演、
という設定があるので、
何かセットも衣装も全てが中途半端です。
更にはリハーサルの段取りのようなものが間に入るので、
全体がメリハリなくダラダラとして、
「早く話を進めてくれよ!」というイライラが、
観客には募ることになるのです。

この作品で劇中劇にした意味は何でしょうか?

結局は最後に「オチ」が付くだけです。
そして、そのオチは誰でも観ていれば、
想像の付くような凡庸なものです。
こんな凡庸なオチだけのために、
わざわざ劇中劇のゴタゴタを用意したのかと思うと、
その馬鹿馬鹿しさには脱力するしかありません。

はっきり言えば今回の劇中劇の構造は、
無意味だったと思います。

前川さん自身も、
こうしたひねった趣向で、
自分の過去の作品を改変し、
それが結局は改悪になっていることが多いと思います。
長塚圭史さんも、
分かりにくく回りくどい演出をして、
それが却って作品の力を削いでいる、
というような作品が最近は多いように思います。
三好十郎の「浮標」なども、
そのまま上演した方が良いに決まっているのに、
わざわざリハーサルの劇中劇的な趣向を使って失敗していました。

そうした同じ欠点を持つ2人のコラボレーションというのが、
どうも悪い方向に増強されてしまった、というのが、
今回の作品であったように個人的には思います。

作品世界はなかなか魅力的だと思うのです。
カルト宗教などを想起はさせますが、
それだけではない前川さんの独自の解釈や世界観が魅力です。
しかし、それをゴチャゴチャと劇中劇にしたのは大失敗ですし、
キャストも無駄に豪華で、
集客という以上に、
あまり出演に意味がなかったと思われるような、
殆ど見せ場のないキャストも多かったのは残念でした。

そんな訳で、
僕は前川知大さんの「太陽」も「聖地X」も、
長塚圭史さんの「はたらくおとこ」も大好きで、
お二人ともとてもとても尊敬しているので、
個人的にはとても残念な上演でした。

ただ、ネットの感想などを見ると、
大絶賛のものも多いので、
これはもう感覚の違いなのだと思います。

この作品を御覧になって、
面白いと思われた方は、
どうか色々な意見があるということで、
ご容赦を頂きたいと思います。

僕ははっきり駄目でした。

それでは2本目の記事に続きます。
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ままごと「わたしの星」(2017年上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
わたしの星.jpg
柴幸男さん率いるままごとが、
2014年に初演した「わたしの星」が、
キャストも新たにリニューアルして、
今三鷹で上演されています。

ままごとと言えば「わが星」という作品が、
演劇史上に燦然と輝く大傑作で、
僕も非常に感銘を受けました。
星を擬人化してその一生を辿る、
という着想がまず素晴らしく、
少女に見立てた星と、
それを望遠鏡で見つけた少年が時空を超えて奇跡的に出逢う、
という超絶なラブストーリーでした。

2014年に初演された「わたしの星」は、
題名の通り「わが星」の姉妹編的な性質のもので、
今度は実際の高校生をオーディションで集め、
未来の高校生を演じさせるという物語でした。

作品の性質上、
キャストをそのままに時間を置いて再演することは出来ないので、
今回はまた新たに高校生をオーディションで選び、
そのキャストにあて書きで、
新たな「わたしの星」を創作しています。

これも…素晴らしかったです。

「わが星」と比較すると、
そのスケール観や完成度、
オリジナリティにおいてはやや落ちるのですが、
非常に愛すべき、
抱きしめたくなるような85分ほどの小品で、
誰でも一度は感じたことのある、
思春期の頃の胸が苦しくなるような切なさに、
もう一度出逢うことの出来る作品に仕上がっていました。

これはもう、絶対のお薦めです。

以下ネタバレを少し含む感想です。

これは端的に言えば、
もう一度同じ時間を巻き戻して、
アンハッピーエンドをハッピーエンドに変える、
というお話で、
最近は映画もドラマも小説も、
そんなものばかりなので、
「またそれかい!」と思いたくなるところはあるのですが、
この作品は未来の地球で、
何かの原因があって、
殆どの人間は火星に移住してしまい、
老人と行き場のない人だけが、
地球に残っているという設定を加え、
それでいて登場するのはレトロなカセットデッキで、
全校でも10人しかいない「残された高校生」が、
最後の文化祭で最後の出し物を、
誰も観客のいない体育館で上演し、
その音だけがカセットテープに記録される、
という、これでもかのノスタルジックな仕掛けを追加して、
時間軸を何度も巻き戻しながら、
ある特別な1日の出来事を綴っています。

柴さんの作品の素晴らしさは、
多分柴さん自身が、
この世界観を本気で信じているからで、
勿論絵空事ではあるのですが、
設定自体が日本の現状のようでもあり、
過疎の島や村の現状のようでもあり、
それでいてもっと大きく世界そのもののようでもあります。
つまり、設定を超えたある種の心情のようなもの、
今この時代に生きている全ての人の心の底にある、
何かが失われていくという切なさと悔恨のようなものが、
柴さんの心から、
舞台を観る観客の心へと、
確実で手渡されている、
という部分にあります。

何も言わずに永遠に別れてしまった2人の少女が、
カセットテープの音源を巻き戻し、
代役の女の子の体を使うことで、
もう一度最後の瞬間を繰り返して、
実際には言えなかったことを伝え、
舞台の中央で抱き合う瞬間などは、
お芝居という虚構を遥かに超えた、
本物の心情そのものが、
立ち現れるような思いすらありました。

キャストは高校生とは言え、
セミプロみたいな経験者が多いようで、
高校演劇的な安定感があります。
ただ、それだけでは詰まらないことが柴さんには分かっているので、
主人公の内気な少女には、
本当に演技などまるで出来なさそうな、
内気そうな素人を選んでいて、
その彼女がクライマックスではしっかり泣いて見せます。
ちょっとあざといのですが、
さすがだと思いました。

演出も囲み舞台で、
舞台下に10人のキャスト全員が座り、
登場しないキャストが楽器を演奏したりする、
という、まあこれも野田秀樹演出や、
串田和美演出などで手垢の付いた、
「またそんなのかい!」というようなものなのですが、
高校生がたどたどしく演奏する楽器で、
シンプルで抒情的な旋律が奏られると、
その微妙な揺らぎがグッとくる感じがありますし、
舞台上へのキャストのまなざしのようなものも、
初々しくて心に残るのです。
これがプロだったら全く面白くはない訳で、
この辺りの柴さんのセンスというか、
感覚は抜群だと思います。

そんな柴さんの演出があるので、
絵空事の設定の物語に、
すぐに観客は引き込まれて、
舞台上に確かに過疎の地球の海辺の風景や、
少年少女が語らう光景の空気感のようなものが、
極めてリアルに感じられるのです。

これはもう、ざらにあることではありません。

作品の性質上、
この作品はこれで終わりだと思います。

公演は明日までで、
当日券も毎日かなり並んでいるようですが、
苦労しても観る値打ちはあります。

とてもとても素晴らしいです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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メトホルミンの妊娠中の使用とその安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトホルミンと妊娠.jpg
今年のDiabetologia誌に掲載された、
妊娠中のメトホルミンの使用とその影響についてのレビューです。

メトホルミンというのは、
インスリン抵抗性を改善し、
肝臓でのブドウ糖の産生を抑えるなどの作用により、
2型糖尿病の血糖コントロールを改善する薬で、
世界的に2型糖尿病の第一選択の治療薬とされている薬です。

最近では内臓脂肪の改善や脂肪肝の改善作用、
一部の癌のリスク軽減や、
抗炎症作用などの別個の働きも多く報告されていて、
健康寿命の延長のために、
メトホルミンを予防的に使用するような試みも施行されています。

このように、
良いこと尽くめの印象のあるメトホルミンですが、
妊娠中の使用については、
現状は世界的にもあまり推奨はされていません。

アメリカの治療ガイドラインにおいては、
妊娠中の糖尿病治療薬の第一選択はインスリンの注射で、
メトホルミンの使用は禁忌ではないものの、
その安全性は確認されていない、
という扱いになっています。

現状多くの糖尿病治療薬が、
妊娠中には使用は出来ず、
インスリンが第一選択で、
メトホルミンとSU剤のグリベンクラミドが、
状況によって使用可能、
という扱いになっています。

ただ、インスリンは低血糖のリスクが高く、
妊娠中の低血糖は胎児にも悪影響を与えますし、
母体の体重はインスリンにより増加するので、
妊娠の経過にも必ずしも良い影響を与えるとは言えません。

メトホルミンはインスリン抵抗性を改善し、
低血糖のリスクは少ないままに血糖を低下させますし、
体重を減少させます。
こうした効果は母体にとっては、
いずれも良い影響を与えそうです。

その一方で胎児に対する効果はどうでしょうか?

メトホルミンは胎盤を通過することが確認されていて、
動物実験のデータでは、
母体とほぼ同じ血液濃度で、
胎児の血液中に移行することも確認されています。

メトホルミンはAMP活性化プロテインキナーゼを活性化させます。
このAMP活性化プロテインキナーゼは、
ブドウ糖や蛋白質や脂肪の産生を抑制します。
この効果は糖尿病になっている母体へは、
良い影響を与えるのですが、
胎児にとっては成長が阻害される可能性があり、
それが胎児の成長障害や先天奇形の発症に、
結び付くという可能性も否定は出来ません。

このリスクが想定されるので、
現時点でメトホルミンの妊娠中の使用は推奨はされていないのです。

ただし…

人間のデータにおいて、
これまでにメトホルミンの使用が、
明らかに個別の奇形や胎児の発育の異常に、
関連したという報告はありません。

ただ、多数例のデータは殆どないので、
特に出産後の長期の安全性については、
良いとも悪いとも言えないのが現状なのです。

現状妊娠中の糖尿病治療薬として、
第一選択となっているのはインスリンですが、
母体に対してはメトホルミンの方が、
優れていることは間違いがなく、
今後胎児の安全性について、
より精緻な検証が必要な段階に、
来ていることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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GLP-1アナログ エキセナチドのパーキンソン病への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
GLP-1アナログのパーキンソン病への有効性.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
2型糖尿病の治療薬を使用して、
パーキンソン病という神経難病の、
運動機能を改善しようという、
ちょっとビックリな内容の論文です。

パーキンソン病というのは、
脳の特定の部位のドーパミン分泌細胞が減少することにより、
手の震えや歩行障害などの特徴的な症状が見られる神経難病で、
様々な治療薬や治療法が開発されていますが、
完治に至るような確実な治療は未だ実現していません。

通常不足したドーパミンを補充するような治療が、
まず試みられますが、
初期には著効しても、
進行するとその効果は不安定となり、
特有の薬による有害事象も増えることが知られています。

そのため、
ドーパミン製剤に併用して、
その治療効果を高め、
病気の進行を遅らせるような治療薬の開発が、
期待をされています。

その1つの候補として最近注目をされているのが、
今日ご紹介するエキセナチドという注射薬です。

エキセナチドはアメリカ毒トカゲの唾液腺から発見された物質ですが、
インクレチンと言って、
血糖の上昇に合わせて膵臓を刺激し、
インスリンの分泌を促すGLP-1と呼ばれる物質に、
似通った働きをすることが分かり、
低血糖などの副作用の少ない、
2型糖尿病の治療薬として使用されています。

以前は毎日皮下注射が必要でしたが、
最近週1回2㎎の注射で持続的に有効な薬剤が発売され、
糖尿病の治療に幅広く使用されています。

インスリン自体も脳の活動に、
少なからずの影響を及ぼしているという研究結果がありますが、
エキセナチドは血液脳関門を通過して脳内で働き、
脳の神経細胞にあるGLP-1の受容体を介して、
脳の神経細胞を保護したり、
その再生を促進したりする作用のあることが、
動物実験のレベルでは確認されています。

上記文献の著者らの研究グループは、
2013年にエキセナチドの1年間の使用により、
パーキンソン病の運動機能及び認知機能に一定の改善が見られた、
という趣旨の報告をしています。

今回の研究ではより多数例のパーキンソン病の患者さんに対して、
同様の検証をより厳密な試験デザインで行っています。

年齢が25から75歳でパーキンソン病で治療中の、
Hoehm-Yahrの重症度分類で2.5度以下
(軽度の両側性パーキンソニズムまで)の患者さん、
トータル62名を本人にも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つに分け、
一方はエキセナチド2㎎一週間に一度皮下注し、
もう一方は偽薬を同じように注射して、
48週間の治療を継続し、
治療終了後更に12週間、
全体で60週間の経過観察を行っています。

治療効果の検証は、
パーキンソン病統一スケール(UPDRS)の第3部、
運動能力の調査の14項目で評価されています。
これはパーキンソン病の症状を、
指のタッピングや歩行、姿勢などの14項目を、
それぞれ0から4点で評価したものです。
点数が高いほど重症であることを示しています。

その結果…

60週の時点でドーパミン製剤の効果が切れている時間帯(off-medication)
でのUPDRS第3部の評価点は、
エキセナチド群で1.0点(95%CI;-2.6から0.7)改善する傾向を示し、
偽薬群では2.1点(95%CI;-0.6から4.8)と進行する傾向を示しました。
偽薬群と比較してエキセナチド群は、
平均で3.5点(95%CI;-6.7から-0.3)有意に改善が認められました。

エキセナチドによる有害事象は吐気などの消化器症状が主なもので、
重篤な有害事象で薬剤の使用との関連が高いものは認められませんでした。

これまでのパーキンソン病の薬物治療は、
ドーパミンの補充がその主体で、
薬を止めれば症状はすぐに元に戻りますし、
治療を継続することにより、
徐々に薬の効果が減弱したり、
症状が不安定になったりするという問題がありました。
またパーキンソン病自体の進行を止めるようなものではありません。
遺伝子治療や外科的治療なども試みられてはいますが、
個々に問題はあり、
多くの患者さんに適応可能なものではありません。

その中でこのエキセナチドは、
GLP‐1受容体を介する神経細胞の保護作用と再生促進作用を、
そのメカニズムに持ち、
元々が糖尿病や肥満症の治療薬なので、
強い副作用や有害事象がなく、
48週くらいの使用においては、
使用により病状が不安定になる、
ということもなさそうで、
治療終了後も12週間はその効果が維持されているなど、
これまでにない利点を多く持っている可能性があります。

ただ、今回の結果はパーキンソン病統一スケールの、
一部の運動機能の判定に絞って、
それもドーパミン製剤の効果が認められない時間帯に限って、
若干の有効性が認められる、
というレベルのものです。
他の症状についてのデータもありますが、
実際には有意差が付いているのはその部分だけです。

従って、それほど著明な効果と言えるほどではなく、
まだ今回の結果は臨床での効果判定としては、
不充分なもののように思います。

ただ、これまでにないメカニズムの治療薬として、
安全性も比較的確立しているという点には魅力があり、
パーキンソン病の改善に繋がる薬物療法の選択肢の1つとして、
今後の更なる検証の結果に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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心筋梗塞の診断にCPKは不要? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
CPK-MBは臨床には不要?.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
心筋梗塞の診断のための血液検査についての、
アメリカの専門機関による提言です。

医療コストが増加し続ける中、
アメリカにおいても不要な検査や薬を査定し、
削減しよう、という動きが多方面で起こっているようです。

2016年にHigh Value Practice Academic Allianceという、
多くの専門機関が協力して、
不要な検査などの削減を提言しようという試みが始まりました。

その最初の提言が上記のもので、
急性心筋梗塞などの急性冠症候群の診断のためには、
CPK-MBという従来使用されている検査を、
原則として行なうべきではない、
というかなり過激な内容です。

CPKというのは筋肉細胞由来の酵素で、
その数値の上昇は筋肉細胞の破壊や炎症を意味しています。
CPKのMB分画は心筋細胞に多く分布しているので、
CPK-MBの上昇は心筋梗塞など、
心臓の筋肉の障害の可能性を強く疑わせる検査所見になります。
そして、心筋梗塞の場合、
血管が詰まり障害された範囲が大きいほど、
CPK-MBの数値も高くなるので、
病気の重症度の判定にも有用な検査として、
現在でも広く使用されています。

しかし、CPK-MBは心筋細胞のみから出る訳ではないので、
その数値は心臓の病気以外でも上昇することがあります。

一方で比較的最近測定が可能となった、
トロポニンTという検査は、
心臓の筋原線維を構成する蛋白質で、
心筋細胞が壊死すると血液中で上昇します。
従って、その数値が上昇していれば、
ほぼ間違いなく心臓の細胞が障害されている、
ということが言えるのです。

現在の日本の臨床の現場では、
CPK-MBもトロポニンTも健康保険で測定が可能で、
どちらもそう高額な検査ではないので、
心筋梗塞などの際には、
両者が測定されることが多いと思います。

ただ、上記の提言においては、
心筋梗塞を始めとする急性冠症候群が疑われる場合には、
トロポニンTを測定すれば必要にして充分で、
トロポニンの測定が何等かの原因により困難な場合を除いては、
その測定は推奨されない、
という記載になっています。

そうは言ってもCPK-MBの測定には歴史があり、
経験のある臨床医はその数値によっても、
患者さんの重症度を大体判断出来る、
という利点もありますから、
即座にその測定を中止することが、
必ずしも適切な判断であるとは納得出来ませんが、
今後はこうした不必要と思われるような検査や治療を、
専門機関が提言し削減するような試みが、
日本でも行われるようになるのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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