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骨折を減らす降圧剤は?(高齢者高血圧診療ガイドライン2017を考える) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
降圧剤の骨折リスク.jpg
2011年のJournal of Bone and Mineral Research誌の論文です。
これはアメリカの医療保険のデータを活用して、
どの単独の降圧剤の処方が、
新規の骨折のリスクを減少させていたのかを検証しているものです。

何故この少し古い論文を取り上げたかと言うと、
先日「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」がウェブで先行版として公開され、
そこで高齢者の降圧剤の選択において、
骨折リスクが高いような高齢者では、
サイアザイド系利尿薬を第一選択に考えることが1つの選択肢として示され、
そこで引用されていたのが、
この論文ともう1編の論文であったからです。

このガイドラインの感想を含めて、
今日はこの骨折リスクを軽減する降圧剤について、
これまでの知見をまとめたいと思います。

現在世界のガイドラインのどのガイドラインにおいても、
降圧剤の第一選択薬が、
サイアザイド系利尿剤、カルシウム拮抗薬、
ACE阻害剤、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、
であることはほぼ一致しています。

このうちサイアザイド系利尿剤は、
この4種の薬剤のうちでは最も古くから使用されていた薬で、
元が利尿剤ですから脱水になったり、
血液の尿酸値が上昇する、
カルシウムが上昇するなど副作用が多く、
そのためカルシウム拮抗薬などの血管拡張剤が使用されるようになると、
一時期はあまり使用されなくなりました。

その流れが大きく変わったのは、
2002年のことです。

ALLHAT 試験と呼ばれる、
4万人以上を対象とした大規模な臨床試験が、
アメリカを中心に行なわれ、
その結果として、
サイアザイド系の利尿剤は、
他のより高価で新しい降圧剤と同等の、
心筋梗塞予防効果が得られたのです。
部分的な解析では、
他剤より更に優れた効果が得られたケースもありました。

この知見によりサイアザイド系利尿薬は、
降圧剤の第一選択薬の1つに復権することになったのです。

それでは、高齢者の降圧治療において、
サイアザイド系利尿薬をどのように位置付ければ良いのでしょうか?

高齢者は脱水になりやすく、
また脱水による起立性の低血圧も起こりやすいので、
利尿剤はあまり高齢者には適していないように、
通常は思えます。
これまでの知見では血液のカルシウム濃度が、
上昇することもあることが知られていて、
その一部は副甲状腺ホルモンの増加によると、
そう推測した論文もありますから、
骨粗鬆症を悪化させて、
却って骨折のリスクを増やすようにも考えられます。

ところが…

意外なことに上記文献では、
正反対に近い結果が得られています。

アメリカの健康保険のデータを活用して、
65歳以上で新規に1種類の降圧剤治療を開始した、
トータル376061名を対象として、
中央値で70日間の観察期間中に、
新規の骨折リスクを薬剤毎に比較しています。
平均年齢は80歳くらいです。

その結果、
関連する因子などを補正した上で、
カルシウム拮抗薬との比較において、
ARBは骨折リスクを24%(95%CI;0.68から0.86)、
サイアザイド系利尿薬は15%(95%CI;0.76から0.97)、
それぞれ有意に低下させていました。

一方でループ利尿剤、β遮断剤、ACE阻害剤については、
カルシウム拮抗薬と骨折リスクに関して差はありませんでした。

この知見ではARBとサイアザイド利尿剤が同等という結果なので、
即サイアザイド系利尿剤が骨折リスクの高い高齢者に有効、
ということにはならないと思います。

ガイドラインではもう一遍の論文が引用されています。
それがこちらです。
降圧剤と骨折リスクの介入試験.jpg
これは2010年のAge and Aging誌の論文です。
高齢者を対象にした降圧治療の臨床試験として有名な、
HYVETという大規模臨床試験のサブ解析で、
元々は脳卒中の予防効果を検証したものですが、
新規の骨折リスクとの関連に絞って、
再解析を行っているものです。

対象者は年齢が80歳以上で、
収縮期血圧が未治療で160mmHg以上の患者さんで、
トータルの例数は3845名です。
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分けると、
一方はまずサイアザイド系の利尿剤であるインダパミドを、
1日1.5ミリの持続剤で使用し、
血圧は150/80mmHg未満を目標として降圧を図り、
不充分であればACE阻害剤のペリンドプリルを、
1日量2から4ミリで上乗せします。
そして、もう一方は偽薬を同様に使用して、
平均で2.1年間の経過観察を行うのです。

使用されているインダパミドは、
ナトリックスなどの商品名で日本でも使用されていますが、
SR錠という持続型の製剤は日本での販売はないようです。
ペリンドプリルはコバシルなどの商品名で、
使用がされています。

その結果降圧剤使用群は偽薬使用群と比較して、
観察期間中の新規の骨折のリスクを、
48%(95%CI;0.33から1.00)有意ではないものの、
抑制する傾向を示していました。

この結果もそれほどクリアなものではありませんし、
サイアザイド系利尿剤単独のものでもありません。

この2編の論文を根拠として、
どうしてサイアザイドが骨折リスクの高い高齢者の降圧治療に、
適しているという結論が得られるのか、
あまり納得がいきません。

実は2016年11月のBritish Medical Journal誌に、
そもそもサイアザイド系利尿剤再評価のきっかけとなった、
ALLHAT試験のサブ解析の結果が論文になっていて、
それは同年11月28日のブログ記事にしています。

この論文ではクロスタリドンというサイアザイドの利用により、
股関節と骨盤の新規骨折のリスクが、
21%有意に低下した、
という結果が報告されています。

本来はこの論文をガイドラインに引用すれば良かったのではないか、
というように思われますが、
クロスタリドンも長時間作用型のサイアザイドで、
製薬会社の都合によりジェネリックも含めて、
日本での発売は終了してしまっているので、
引用することがしづらかったのではないか、
というように推察されます。

このように現状サイアザイド系利尿剤とARB、ACE阻害剤については、
高齢者への使用時に、
それが適正な範囲の使用であれば、
骨折のリスクを上昇はさせず、
むしろ低下させるという可能性も示唆はされます。

ただ、サイアザイド系利尿剤で重要なことは、
その有効性や安全性が確実なのは、
半減期が長いクロスタリドンやインダパミドのSR錠のみで、
それ以外の半減期の短い薬剤については、
同等の安全性や効果があるとは限らないと言う点にあり、
そうした薬剤の全てが、
現在日本では使用出来ないということこそが、
最大の問題ではないかと個人的には思います。

今日は高齢者高血圧診療ガイドラインにある記載と、
その根拠について考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


鵺的「奇想の前提」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
夜はちょっと出かけますが、
それまでは家で色々と作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
鵺的.jpg
これも初物ですが、
鵺的という劇団の江戸川乱歩をモチーフにした、
「奇想の前提」という新作に足を運びました。

これは出演する青山祥子さんの「ほりぶん」での大暴れが良かったのと、
演出の寺十吾(じつなしさとる)さんが、
今では珍しいアングラ演出のプロとして、
個人的には絶大な信頼を寄せているので、
その流れで観ることにしました。

オープニングはアングラ色全開で、
東京グランギニョールみたいな外連味のある展開だったので、
とても期待しました。
台詞も説得力のある朗読のような1人語りの部分が面白く、
最近では一番と言っていいくらい、
集中して台詞を聴きました。
ただ、中段からはあまり派手な展開がないので、
何かモヤモヤした感じになり、
意外な真実と称するものは大したことのないもので、
肝心な部分は暗転で誤魔化すようなところが多く、
ラストシーンについては、
なるほどと思いましたが、
衝撃的というほどの効果はなかったように思います。
最終的にはせっかくここまでやったのになあ、
とちょっと物足りない気分で劇場を後にしました。

江戸川乱歩は大好きで、
作品は殆どを中学生までに読んでいますが、
この作品は「パノラマ島奇談」に「猟奇の果」や「大暗室」、
「少年探偵団」などの複数の小説に登場する事件や人物を、
「実際に起こったこと」として想定された2017年の日本を舞台に、
呪われた血筋を持つ3人の若者が、
過去の犯罪者の影響から脱しようとして苦悩しながら、
そこに否応なく魅せられてゆく、
という物語に構成されています。

これは要するに現代の若者が、
酒鬼薔薇事件の犯人などを崇拝して、
現実の世界の自分達に対する無理解を憎み、
その「悪」を継承しようと、
自分を過去の「天才的犯罪者
(酒鬼薔薇事件の犯人が天才である、という意味では勿論ありません)」
と同一視するような心理を、
描いた作品なのだと思います。

現実の事件の犯人を崇拝するような物語は、
色々な意味で差しさわりがあるので、
乱歩の世界を持って来たのではないかと思うのです。

勿論作品からは乱歩愛も、
それはひしひしと感じられますから、
乱歩を出汁に使っただけの戯曲ではありません。
乱歩という「奇想」の継承という意味合いも、
強く持った作品であるからです。

ただ、強調したいのはノスタルジーの仮面の下に、
現実世界を虚構にしたいという今の若い世代の多くが持っている思いが、
反映された物語になっている、
と言う事実です。
次の世代に私たちが継承するべきものが何か、
ということも、
問いかけているように思いました。

以下ネタバレを含む感想です。
本日観劇予定の方は観劇後にお読みください。

乱歩の「パノラマ島奇談」に登場する、
無人島に犯罪と悪の華を咲かせた犯罪者は、
最後に自らを打ち上げ花火と一緒に打ち上げ、
空中で全身をバラバラに飛散させて壮絶な死を遂げたのですが、
その血を浴びた彼の血筋に連なる旧家の人々は、
その呪いを身体に帯びて生きています。
主人公はその孫の世代の3人の若者で、
福永マリカさん演じる乙女は、
悪の魅惑に取り憑かれ、
青山祥子さん演じる乙女は、
霊的能力を引き継いでいるが故に、
島に近づくことを怖れ、
間に挟まれた江藤修平さん演じる青年は、
藝術を仕事にしようとしながら、
悪への魅惑に揺れ動いています。

15年前に子供であった3人は、
密かに島に渡って遊び、
ただ1人島を管理していた謎の管理人と気脈を通じたのですが、
ある日管理人の男性は謎の失踪を遂げ、
楽園の日々は終わりを告げます。

そして、15年後になって、
廃墟と化したパノラマ島を、
廃墟の遺産として、
観光施設にしょうという計画が持ち上がります。

その計画には所有者の遺族全員の同意が必要なので、
奇しくもバラバラになっていた血族が集まることとなり、
そこで事件が起こるのです。

15年前の真実がパノラマ島で明らかになり、
その瞬間に島を大地震が襲います。
全ては瓦礫の下敷きになり、
今度は15年前の犯罪の犯人が、
人間花火となって天に散り、
その飛び散った血を3人の若者が浴びます。

そのうちの2人の乙女は、
名探偵と怪人として闇に紛れて闘争し、
藝術家を目指していた青年が、
自分の目指す理想郷を思い目を閉じた瞬間、
エログロの極致のような妄想が、
一瞬の夢として舞台に広がり、
暗転して物語は終わります。

なかなか壮大なストーリーで、
この通りに視覚化され演じられたのであれば、
大傑作と言って間違いはないと思います。

ただ、実際に上演された舞台は、
良いところも沢山ありましたが、
不満や失望や物足りなさも多いものでした。

オープニングはこけおどしの極致のような大音響とともに、
幾つかの謎めいたおどろおどろしい場面が、
一瞬舞台に現れ、また闇の中に消えます。
謎の怪人めいた人物の後ろ姿や赤い血みどろの渦巻きなどが、
現れては消える様は、
天井桟敷の盲人書簡辺りの暗黒演劇を彷彿とさせます。
ただ、完全暗転ではなく、
ぼんやりゴソゴソ準備しているのが見える感じで、
暗転時間も長いので、
ちょっと物足りなくは感じます。
この辺はかつての天井桟敷の手際は抜群だったので、
「違うんだよ、それじゃダメなんだよ」
と教えてあげたい誘惑に駆られます。

それから青山祥子さんの1人語りになりますが、
これがまた素敵な感じで、
ロマンチックな音効と証明の効果も相俟って、
耽美的な雰囲気にはうっとりとします。

こんな素晴らしい和装の美女を演じられるような女優さんが、
何処に隠れていたの、と驚くような、
木下祐子さんの艶姿も良く、
霊媒で何十年も外に出たことのない老女を、
夕沈さんが演じるというのも、
極めて嬉しいキャスティングです。

語り口はとても巧みで、
前半は非常に引き込まれました。

ただ、始まって1時間くらいしても、
同じようなまったりしたテンポで、
人物紹介から話はあまり進まず、
猟奇的事件が巷では起きているらしい、
というくらいの内容で、
その犯人もほぼ分かってしまうので、
あまり盛り上がる感じにはなりません。

集まった家族がパノラマ島に上陸するのが、
一応山場になるのですが、
パノラマ島も他の場所も全く同じセットで、
照明の方向が変わる程度なので、
かなりガッカリ感があります。
抽象的なセットであれば、
こうしたものかな、とも思うところですが、
割合に廃墟を思わせるようなセットを、
ガッチリと造っているので、
それで何も舞台に動きがない、
というのが失望するのです。

「謎の機械」と称するものは登場するのですが、
ただのオブジェで何の動きもないので、
あまり意味のあるセットではありませんでした。

島で起こることも、
結局は過去の暴露に過ぎないもので、
言われなくても分かる、というくらいの謎ですし、
カタストロフが人間を梃子にして起こるのではなく、
大地震という天災というのも、
如何なものかと思いました。

寺十吾さんの演出も、
前半はアングラ色全開で冴えていたと思いますが、
後半はかなり苦しい感じで、
地震によるパノラマ島の最後も、
ただの暗転で処理したのにはガッカリしました。

犯人が人間花火として散るのを、
気球から眺めるという場面は、
どうにか情景として成立したかな、
というくらいにはなっていましたが、
矢張りパノラマ島の景色というものが、
何等かの形で登場して欲しかったと思いますし、
現実に血の雨がバンバン降るくらいのことは、
やって欲しかったと思いました。

ラストには奇想が現実化した情景が、
逆行の中に浮かび上がるのですが、
もっとグロテスクでエロチックな奇怪さが欲しかったと思いますし、
そこで暗転して、
奇想のパノラマを構成していた面々が、
そのままの立ち位置で頭を下げるのは、
まずかったように思いました。

総じて、本当に意欲作であったと思いますし、
こうした作品を小劇場で待ち望む人も、
多いのではないかと思うのですが、
それだけに期待も大きく、
それをクリアするような作品を成立させるのは、
なかなか一筋縄ではいかない、
ということを実感させた公演となりました。

ただ、これで終わっては欲しくありません。
今後この集団がどのような方向性を取るにせよ、
今回の心意気は忘れて欲しくないと思いますし、
より深化した決定版を、
是非今後上演して欲しいと思います。

大変期待をしています。

また必ず観に行きます。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

三谷幸喜「子供の事情」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
子供の事情.jpg
シス・カンパニー公演として、
三谷幸喜さんの新作が今上演中です。

これは反則すれすれの企画で、
ずるいなあ、という気もするのですが、
それでもこのキャストでこの作品を作ることが出来るのは、
間違いなく三谷幸喜さんしかいないと思いますし、
その意味ではしてやったりという感じもあります。

舞台は昭和46年の小学校で、
10人の豪華なキャストの全員が、
同じ10歳の小学校4年生の同級生を演じ、
天海祐希さんと大泉洋さんが、
クラスの人気者を競って争いますし、
伊藤蘭さんがアイドル然としたコスプレで、
子役スターを演じて歌うのですから、
これはもう面白くない訳がないのです。

作品内容的にも練り上げられていて、
その伏線の回収の仕方などは、
さすがと言うしかありません。
ここ数年の新作の中では、
間違いなく一番のヒット作だと思いますし、
「国民の映画」以来の傑作と言って良いと思います。
何となくですが、
以前から腹案としてあった企画なのではないか、
とそんな風にも思いました。

三谷さんとはほぼ同年代で、
東京の小学校を卒業しているので、
ここで描かれた世界の意味合いのようなものは、
僕にもよく分かるような気がします。
冬のストーブとトタンの煙突も懐かしく思い出します。

しかしノスタルジックなだけには終わっていなくて、
高度成長期を生きた子供たちのその後を、
俯瞰して見るようなほろ苦い視点も感じられますし、
クラスの人気者になったり居場所を見付けたりすることが、
同時に生きるということでもあった、
誰にでもある少年時代の葛藤を、
得意の伏線を散りばめた技巧を駆使して、
鮮やかに立ち上がらせている点には、
さすがと感心させられました。

とってもあざとくずるい、
しかし三谷幸喜の面目躍如たる傑作だと思います。
このキャストが揃うことはほぼないと思いますから、
少し無理をしても観る価値はあると思います。

お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

糖尿病治療薬エンパグリフロジンの尿中アルブミン排泄に対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エンパグリフロジンの腎臓に対する効果.jpg
今年のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
SGLT2阻害剤という2型糖尿病の新薬の、
尿中アルブミン排泄という、
糖尿病性腎症の指標に対する効果を検証した論文です。

2型糖尿病において、
糖尿病性腎症やその他の原因による腎機能の低下は、
海外データですが、
患者さんの35%に発症するという頻度の高い合併症で、
その有無は患者さんの生命予後にも大きく影響をします。

糖尿病には小血管の合併症と大血管の合併症があると言われます。

小血管の合併症というのは、
通常3大合併症と呼ばれる網膜症と神経症と腎症で、
大血管合併症は、
動脈硬化の進行による、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患です。

このうちで小血管の合併症については、
血糖コントロールを強化して、
HbA1cが7%を切るくらいにすると、
その発症が予防されることが確認されています。
その一方でより厳格なコントロールを行なっても、
大血管の合併症は十分には抑制されません。

糖尿病に合併する腎機能低下は、
腎症による部分もありますが、
動脈硬化が影響している部分もあります。

従って、
尿中アルブミンなどのマーカーを利用した試験では、
血糖コントロールにより一定の予防効果が確認されるのですが、
腎機能自体の低下を、
血糖コントロールのみで充分に予防出来るかというと、
その知見は限られていて、
明確な結論が得られていません。

エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)は、
SGLT2阻害剤と呼ばれるタイプの経口糖尿病治療薬です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させます。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されるのです。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているという訳です。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
このエンパグリフロジンの3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下していました。

2016年の同じNew England…誌に掲載された論文では、
2015年のNew England…誌の研究の二次解析として、
エンパグリフロジンの腎機能に与える影響を検証しています。

その結果…

平均の観察期間3.1年間において、
微小アルブミン量の出現、
血液のクレアチニン濃度が2倍になる、
透析導入、腎臓病による死亡を合わせたリスクは、
偽薬群では18.8%に発症したのに対して、
エンパグリフロジン群では12.7%の発症に留まっていて、
エンパクリフロジンにより上記の腎臓リスクは、
トータルで39%(0.53から0.70)有意に低下していました。

経過中に血液のクレアチニン濃度が倍になる頻度は、
エンパグリフリジン群の1.5%、
偽薬群の2.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクは44%有意に低下していました。

経過中に透析導入になる頻度は、
エンパグリフロジン群の0.3%、
偽薬群の0.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクも55%有意に低下していました。

微小アルブミン尿の出現については、
両群で有意な差は認められませんでした。

SGLT2阻害剤は強制的に尿にブドウ糖を排泄するので、
尿路の感染や脱水を来たしやすく、
その意味では腎機能を悪化させる要因となるように、
普通は考えておかしくはありません。

ただ、このエンパグリフロジンの臨床試験のデータでは、
これまでの糖尿病治療薬より腎臓の保護作用がある、
という結果になっています。

ここで不明瞭であったのは、
糖尿病性腎症の初期の兆候と考えられる、
アルブミンの尿中排泄量を、
エンパグリフロジンが抑制しているかどうか、
と言う点でした。

そこで今回の更なる二次解析では、
グラム・クレアチニン換算による尿中アルブミン量を、
登録時のアルブミン量毎に解析して、
その効果を検証しています。

糖尿病腎症の進行に伴い、
尿へのアルブミンという小さな蛋白質の漏出が増えるのですが、
畜尿をしないで随時尿で計測する場合、
一緒にクレアチニンを測定して、
1グラムのクレアチニンと、
同時に排泄されているアルブミン量を測定します。
これがほぼ1日の排泄量に相当しているのです。

このmg/ gクレアチニン単位で計算されたアルブミン量が、
30mg未満の場合をアルブミン量非検出とし、
30㎎から300㎎を微小アルブミン尿、
そして300㎎を超える場合をマクロ・アルブミン尿と規定しています。

この臨床試験の登録者のうち、
対象薬剤による治療前にアルブミン尿のデータがあるのは、
6953名の患者さんで、
そのうちの59%はアルブミン尿非検出で、
29%は微小アルブミン尿があり、
11%の患者さんはマクロ・アルブミン尿を最初から有していました。

12週間の短期の使用期間後において、
エンパグリフロジン使用群は偽薬群と比較して、
アルブミン非検出群のアルブミン尿の進行を7%、
微小アルブミン尿群の進行を25%、
マクロ・アルブミン尿群の進行を32%、
それぞれ有意に抑制していました。

3群の全てにおいて、
164週の時点の長期の治療期間においても、
偽薬群と比較したエンパグリフロジン群の有効性は維持されていました。

このように3か月程度の短期間においても、
3年間程度のより長い期間においても、
エンパグリフロジン糖尿病性腎症の初期の変化である。
尿中のアルブミン排泄の抑制と減少に、
明確な効果を示していて、
2016年の腎不全のリスク低下の結果とも併せると、
エンパグリフロジンは、
糖尿病性腎症の進行を、
トータルに抑制していると言って良い結果です。

ただ、これはいずれも単独の大規模臨床試験の結果を、
サブ解析したデータでしかないので、
別個の臨床試験においても同様の結果が再現されるのかを含めて、
今後の検証が矢張り必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


1型糖尿病のインスリン分泌とサイトカインとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
1型糖尿病の残存インスリン分泌.jpg
2017年のDiabetes Care誌に掲載された、
1型糖尿病のインスリン分泌についての論文です。

糖尿病には1型と2型とがあり、
1型は自己免疫の炎症により、
小児期よりインスリン分泌が進行性に低下し、
初期からインスリン自己注射が必要となります。

これまでの一般的な考え方では、
自己免疫の炎症による膵臓のインスリン分泌細胞の破壊は進行性で、
インスリン分泌が回復することはない、
というように考えられていました。
ただ、2010年以降くらいの報告では、
10年以上という長期間を経過した1型糖尿病においても、
内因性のインスリン分泌の指標となる、
血液のCペプチドは測定が可能で、
これはインスリン分泌細胞が残存していることを示しています。

しかし、
実際にどのような患者さんにおいて、
1型糖尿病にも関わらずインスリン分泌が保たれ、
どのような患者さんにおいてほぼ完全に枯渇してしまうのか、
その違いについては殆ど分かっていません。

最近自己免疫の炎症を抑制するサイトカインとして、
インターロイキン‐35の関与が報告され話題になっています。

そこで今回の研究では、
18歳以上で10年以上前に1型糖尿病と診断されている、
113名の患者さんをスウェーデンの単独専門施設で登録し、
内因性インスリン分泌の指標である血液のCペプチドの数値と、
インターロイキン‐35を含む各種サイトカインの血液濃度を測定しています。
全例ではありませんが、
細胞性免疫能の解析も行っています。

1型糖尿病の患者さんでは、
インスリンの自己注射を行なっているため、
血液のインスリンを測定しても、
身体から出ているインスリンの量は分からないので、
インスリンが身体で合成される際に、
同時に出来るCペプチドの方を測定しているのです。

その結果…

全体の6割の患者さんでは、
血液のCペプチドは感度以下でしたが、
41%に当たる46名の患者さんでは、
空腹時の血液のCペプチドが測定可能で、
それも28.6±15.0(pmol/L)と一定の分泌が確保されていました。
そしてこのCペプチド検出群と非検出群とで比較すると、
インターロイキン‐35の濃度は、
検出群が20.3±2.5(pg/mL)であるのに対して、
非検出群では9.7±1.8で、
明確に検出群でインターロイキン‐35は高値を示し、
少数例の解析でも、
実際に検出群でインターロイキン‐35産生細胞の増加が確認されました。

つまり、
自己免疫を抑制するようなサイトカインの産生が、
自己免疫性膵炎の進行阻止に働いていることを示唆する所見です。

今回のデータからはまだ、
本当にインターロイキン‐35が、
インスリン分泌細胞保護の主因であるとは特定出来ませんが、
1型糖尿病の診断から10年以上が経過しても、
4割の患者さんでは内因性インスリン分泌が残っていて、
ほぼなくなっている6割とはっきりと二分され、
それと特定のサイトカインが強い関連を持っている、
という知見は非常に興味深く、
今後の治療的な介入などの知見にも、
是非期待をしたいと思います。

1型糖尿病の治療が、
近い将来ダイナミックに変わることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


抗うつ剤の炎症性皮膚疾患改善作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗うつ剤の皮膚病に対する効果.jpg
2017年のActa Dermato-venereologica誌に掲載された、
抗うつ剤治療と皮膚疾患との関連についてのレビューです。
昨日の記事とも関連する話題です。

蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、乾癬などの慢性の皮膚疾患は、
ウイルス疾患など全身の炎症により悪化し、
またストレスによっても悪化するという特徴があります。
つまり、ストレスと炎症とこうした皮膚疾患は関連しています。

抗うつ剤はうつ病の治療薬である共に、
炎症を抑えるような作用のあることが、
これまでの動物実験を含む知見から確認されています。

それでは、
抗うつ剤の治療により蕁麻疹や乾癬、
アトピー性皮膚炎などの炎症性の皮膚疾患は改善するのでしょうか?

今回のレビューでは、
これまでの28の臨床試験や症例報告のデータをまとめて、
その有効性を検証しています。

その結果、
三環系抗うつ剤で日本未発売のドキセピンにより、
慢性蕁麻疹、特に寒冷蕁麻疹に対する有効性が、
複数の臨床試験によりほぼ確認されています。
SSRIなどより新しいタイプの抗うつ剤の臨床試験も、
幾つか行われていますが、
三環系抗うつ剤に勝るような効果は確認されていません。

SSRIは皮膚掻痒症に対する有効性が確認されていて、
乾癬の治療に対する有効性も報告されています。
これも日本未発売の抗うつ剤であるブプロピオン(DNRI)は、
乾癬やアトピー性皮膚炎への改善効果が報告されています。

このように、
炎症性の皮膚疾患に対して、
おそらく炎症を抑える作用により、
抗うつ剤の有効性がほぼ確認をされています。

ただ、抗うつ剤は多くの副作用のある薬でもあり、
単純に皮膚疾患の治療目的での使用については、
慎重に考えるべきであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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消炎鎮痛剤の抗うつ作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消炎鎮痛剤の抗うつ作用.jpg
2014年のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
抗炎症作用を持つ薬剤でうつ状態が改善するという、
興味深い現象についての論文です。

うつ状態と炎症は決して無関係なものではありません。

感染症の時にはうつ状態が生じたり、
悪化したりすることは良く知られていますし、
インターフェロンのように、
炎症性サイトカインを増加させる、
つまり疑似的に炎症を起こすような薬剤が、
うつ状態を起こすことも知られています。

こうした知見からは、
炎症に伴うサイトカインなどの上昇が、
うつ状態と関連しているという可能性が示唆されます。

仮にそれが事実であるとすると、
炎症を抑えてサイトカインを低下させるような治療により、
うつ状態自体も改善する、
という可能性が示唆されます。

しかし、実際には消炎鎮痛剤や、
インフリキシマブのような炎症シグナルの抑制剤の、
抑うつ状態への効果を見た臨床試験は、
症例数が少ないなど不充分なものが多く、
その結果も一定の有効性があった、というものから、
無効であったというものまで様々です。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床試験のデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
炎症を抑制する治療の、
うつ状態に対する効果を検証しています。

その結果…

14の臨床研究がリストアップされていて、
そのうちの10の研究は非ステロイド系消炎鎮痛剤が対象となり、
4つの研究ではインフリマキシブのような、
炎症性疾患の治療薬が対象となっています。
トータルな症例数は6262名です。

抗炎症治療により、
うつ状態の指標には一定の改善効果が確認され、
その効果は選択的COX2阻害剤である、
セレコキシブでより高い傾向がありました。

今回解析された臨床データはかなり条件には違いがあるものなので、
これをもって消炎鎮痛剤がうつ病に有効とは、
言い切れないのですが、
うつ状態と炎症との関連があり、
炎症を抑えることによりうつ状態も改善する可能性がある、
という知見は非常に興味深く、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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漢方薬の甘草とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甘草とそのリスク.jpg
今年のJournal of Human Hypertension誌に掲載された、
漢方薬などに含まれる、
甘草(licorice)という生薬の使用による、
低カリウム血症と高血圧(偽アルドステロン症)についての論文です。

甘草は植物の根の抽出物で、
日本の甘草と西洋のリコリス(licorice)は、
少し性質は違う植物由来のものですが、
その主成分は同じです。

甘草という生薬の薬効の主成分はグリチルリチンで、
抗アレルギー作用や肝細胞の安定化作用を持つことから、
主にその注射薬が慢性肝炎やアレルギー疾患の治療薬として、
保険適応されています。

また、甘草には疼痛を改善する作用や、
独特の甘さがあって、
そのため甘味料や痛み止め、
胃潰瘍や便秘の治療薬としても伝統的に使用されています。
甘草ドロップのような飴が海外ではポピュラーですし、
仁丹の独特の甘みは甘草によるものです。

日本では漢方薬の成分としての使用がポピュラーで、
この場合は通常複数の生薬が組み合わせて使用されています。
健康保険で使用されるエキス剤としての漢方薬では、
甘草湯が甘草単剤の薬剤で、
1日量8グラムと最も多いのですが、
使用されることはかなり稀です。(ほぼない)
使用頻度の多いものは、芍薬甘草湯で、
1日量で6グラムが含まれています。

甘草はこのように昔から、
甘味料や治療薬として広く使用されている成分です。

基本的には安全性の高い成分と考えられていますが、
唯一問題となっているのが、
その有害事象としての偽アルドステロン症です。

偽アルドステロン症というのは、
低カリウム血症と高血圧症という、
原発性アルドステロン症に非常に似通った症状が、
アルドステロン以外の原因で起こる状態のことです。
その現象が甘草を含む食品や薬品で起こることが、
1968年に初めて論文として報告されました。

軽症の事例が多い一方で、
重篤な事例の報告もあります。
こちらをご覧ください。
甘草による心停止の事例.jpg
2009年のCanadian Journal of Cardiology誌に掲載された、
症例報告ですが、
71歳の高血圧や心疾患の既往があり、
ACE阻害剤と利尿剤を使用していた女性が、
下剤として甘草を連用したところ、
1.6mEq/Lという高度の低カリウム血症を来し、
頻回の心室細動という重症な不整脈を起こして、
心停止を繰り返したという事例です。

それでは、
何故甘草により低カリウム血症や高血圧が起こるのでしょうか?

僕が大学の医局にいた頃の理解では、
甘草にアルドステロン様の作用があると思っていました。
そのような説明が当時は一般的であったように思います。

しかし、実はそのメカニズムはもう少し複雑です。

こちらをご覧下さい。
甘草の低カリウム血症のメカニズム.png
これが1987年のLancet誌に掲載された論文で、
この問題のトピックとなったものです。

甘草による偽アルドステロン症は、
副腎不全でコルチゾールが低下しているような患者さんでは、
起こらないことが分かっています。
実は甘草に含まれるグリチルリチンは、
それ自体がアルドステロン様作用を持っているのではありません。
糖質コルチコイドであるコルチゾールは、
アルドステロンの受容体にも結合する性質を持っているのですが、
実際にあまりそうした作用に関係をしていないのは、
腎臓の尿細管においては、
コルチゾールを分解してコルチゾンにする酵素が発現していて、
コルチゾールのアルドステロン様作用をブロックしているのです。
ところがグリチルリチンはその酵素の活性を阻害する作用があるので、
尿細管のアルドステロンの受容体に、
コルチゾールが過剰に結合して、
それでアルドステロン様作用が増強するのです。

つまり、アルドステロン様作用の主体は、
身体にあるコルチゾールで、
その分解を抑えることが、
甘草由来の偽アルドステロン症のメカニズムであったのです。

ですから裏技的には、
副腎不全の患者さんでコートリルの補充のみで、
電解質バランスや血圧が改善しない時には、
甘草を少し使用すると、
調整が付くという可能性がある訳です。

一般の方にとってもどうでも良いことかも知れませんが、
ホルモンオタクにとっては、
とても画期的な大発見です。

さて、それでは一体どのくらいの甘草を摂取すると、
偽アルドステロン症になるのでしょうか?

西洋のリコリスには0.2%、
つまり1グラムに2ミリグラムのグリチルリチンが含まれています。
日本の漢方薬については、
甘草の2.5グラムに100ミリグラムのグリチルリチンが含まれています。

重症の偽アルドステロン症は、
1日500ミリグラムを超えるグリチルリチンの服用継続で、
生じる事例が多いと考えられていますが、
最近では1日100ミリグラムやそれ以下の量でも、
そうした報告が散見されています。

上記のメタ解析の文献においても、
症状を来した甘草の使用量にはかなりのばらつきがあり、
血圧値以外では甘草の使用量と症状やデータとの間に、
明確な相関は見られていません。

強力ネオミノファーゲンなど、
他にグリチルリチンを含む薬やサプリメントなどを、
一緒に使用している場合や、
利尿剤や降圧剤などカリウムの低下作用を持つ薬を、
併用している場合などは、
より注意が必要であることは間違いがありませんが、
事例を見ているとそれだけでは説明が付かないようにも思います。

漢方薬で報告の頻度が多いのは小柴胡湯で、
甘草の含有量は1日量で2グラム、
グリチルリチンで80ミリグラムですから、
甘草を含む漢方薬としては少ない方です。

ただ、一時C型肝炎に対して、
インターフェロンとの併用が行われて、
間質性肺炎の副作用で併用が中止された経緯があり、
有害事象に留意して、
血液検査などが行われることが多い、
というバイアスもあるように思います。

従って、現状は甘草を少しでも含む漢方薬の、
継続的な使用(通常2週間以上)においては、
筋脱力や不整脈などの症状の聞き取りは継続的に行ない、
必要に応じて血液検査を行うことが、
やや過剰ではあっても、
必要な対応ではあるように思います。
甘草を多く含む処方である芍薬甘草湯や桔梗湯は、
頓用を原則として1日量を使用することは避け、
短期間の使用にとどめることが原則です。

矢張り心疾患があったり、
利尿剤を使用していたり、
甘草の使用量が1日3グラムを超えるようなケースでは、
より注意が必要ではないかと思われますが、
その根拠はそれほど明確なものではないことも、
また知っておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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マームとジプシー「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっとー」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
マームとジプシー.jpg
最近時々観るようになったマームとジプシーの、
10周年記念公演の1本、
「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっとー」
の彩の国の公演に足を運びました。
彩の国は遠いので休日を潰さないと行けないのがきついです。

この作品は僕は初見ですが、
これまでの3本の作品を再構成して2014年に上演され、
今回は10周年を記念とした再演ということのようです。

藤田貴大さんの劇作はこうした作品が非常に多く、
普通はこうした過去作品の再構成や総集編という趣向は、
オリジナルより落ちるものになることが多いと思うのですが、
不思議とそうはなっていないのは、
藤田さんの劇作は寺山修司と同じように、
同じテーマを複数の作品で分析的に繰り返すので、
その構成を変更することは、
あまり作品の質を変えることはないのかも知れません。

今回の作品はチェホフの「三人姉妹」のバリエーションで、
本当に演劇の人はチェホフが好きだなあ、
という気がします。
2人の女性と1人の男性の兄弟がいて、
長女が東京に出るところから、
少しずつ家族は家を離れ、
次女も家を離れて長男と父親だけが家に残されたところで、
父親の急病による入院から死で家に家族が集まり、
翌年の一周忌での集まりの夜が、
物語の中心となります。

その場で家が新しい道路の用地として取り壊される対象となり、
家がなくなり道になった10年後に、
もう一度3人の兄弟が集って物語は終わります。

特にドラマチックな展開があるということではなく、
ある種の普遍的な風景として、
当たり前に見えた家族の食卓と、
それが家族の死や人間の成長と旅立ち、
などによって変容し、
最後には取り壊しによって家自体がなくなるまでが、
ある種淡々と描かれます。

戯曲の文体は家族のその場での日常会話と、
その個人が現在から過去のその時点を思い返して、
思い出や悔恨や切なさを語る独白とが、
そのまま綴れ織りのように絡み合う構成が面白く、
それが同じ場面を前後などの角度を変えて繰り返したり、
役者さんが回転すると時間が飛ぶような、
独特の演出と相俟って、
非常に自然に時間と空間を行き来して、
現在が一瞬にして思い出に変容するという、
人間の心の不思議を鮮やかに視覚化しています。

今回は特に家族の象徴ともいうべき家がなくなるという、
多くの人が思い当たる部分があるであろう、
内なる故郷の喪失というテーマなので、
枠組みだけの大きな家のセットを舞台に組んで、
即座にそれを解体するという視覚的な効果とも相俟って、
なかなか抒情的で忘れがたい部分のある1作になっていたと思います。

かつて水死した少年に海で救われた少女が、
大人になってその町に戻って来て、
海を訪れて主人公達に出逢う、
という脇筋などもなかなか面白く、
複数の作品を組み合わせる構成の妙を感じました。

ただ、幾つか不満もあります。

3世代に渡る物語なのですが、
親子を同じくらいの年齢の役者さんが演じていて、
衣装も中途半端に白いもので統一されているので、
かなり人物関係の分かりにくい部分がありました。
近所のおばさん役の役者さんの芝居も、
何か中途半端に感じました。
基本的に等身大の芝居が身上のように思うので、
こうした年齢差のある役柄は、
実際の年齢に近い役者さんを起用するか、
衣装などで分かりやすくする方が、
ニュアンスが伝わりやすかったように感じました。

精力的な活動を続けている藤田さんですが、
その独特の様式は完成に近づいているにしても、
まだまだ新しい様式や芝居にもチャレンジして欲しいと思いますし、
これからの活躍に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

シンクロ少女「シンクロ・ゴッサム・シティ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
シンクロ少女.jpg
シンクロ少女の本公演に足を運びました。
この劇団は初見です。
初物を観たいという気がして、
あまり予備知識なく直前に予約をして衝動的に観に行きました。

予想していたような感じとは違っていたのですが、
なかなか面白い芝居で、
観て損はありませんでした。
戯曲は新しいという感じはしないのですが、
凝ったトリッキーな構成が面白く、
役者さんの芝居も作品世界にフィットしています。
演出も悪くありません。
特に最初にインチキ・コスプレダンスのような場面があって、
おやおや、と思うのですが、
最後にもほぼ同じダンスがあって、
その時にはオープニングとは全く別の風景が見えるのです。
なるほどとちょっと感心しました。

「シンクロ・ゴッサム・シティ」という題名の通り、
バットマンの舞台である架空の大都市ゴッサム・シティで、
善と悪とがどのような成り立ちで生じるに至ったのかを、
小劇場的なレトリックを駆使して描いた作品です。

元のゴッサム・シティはダークなニューヨークですが、
このお芝居のゴッサム・シティは、
要するにダークな東京です。

ちらしが上のような感じですし、
何となくバットマンのコスプレ芝居みたいなものを期待してしまうのですが、
ペンギンっぽい人物や、
キャットウーマンっぽい人物、
悪の三姉妹みたいな感じのキャラなどが、
登場することはするのですが、
それっぽい、というだけのことで、
別にバットマンのパロディやコスプレではありません。
東京に暮らす等身大のそれでいてちょっと歪んだ人達が、
それっぽく登場する、というだけです。

肌合いとしては昔の倉持裕作品に似ています。
元ネタは別役実のパロディ風の作品だと思うのですが、
誰でも知っているような、
ある種の固定観念に包まれた物語の世界を舞台にして、
演劇ならではトリッキーな仕掛けを施して、
物語の底にある不条理のようなものを、
浮かび上がらせるという作劇です。

兄が弟に捧げる強烈で純粋な秘められた愛が、
誠実で無垢で愚鈍に見えた人間を、
破滅的で醜悪な悪党に変えてしまうのですが、
実際には人間の外面的な善も悪も、
同じ愛から生じているという物語で、
チラシにある「動機は愛」という一言がテーマでもあって、
それがラストに発せられる台詞でもある、
と言う辺りが極めて技巧的で巧みです。
2人1役という演劇的な仕掛けが、
上手く機能しているのも面白いと思いました。

作・演出の名嘉友美さんは、
非常に構成力に長けた方だと思います。

ただ、それが作品の弱点でもあって、
たとえば松尾スズキ作品などは、
まともに物語が収束することなど殆どなく、
概ね空中分解してしまうのですが、
キャラクターの破天荒さや畸形の魅力は、
今回の作品の比ではなく、
今回の作品はせっかく畸形的なキャラに命を吹き込みながら、
お話のまとまりを重視して、
全体をこじんまりとしたものにしてしまったようにも思います。

もっと役者の瞬発力でもたせるような場面や、
意味不明だけれども魅力的な場面などが少しあると、
作品自体の魅力ももっと大きく花開くのではないか、
というようにも感じました。

もう何回かは観てみようと思いました。
これからも期待しています。
頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
メッセージを送る