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妊娠中のリチウム使用の心奇形リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リチウムの使用と心奇形リスク.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
リチウムという気分安定薬の、
妊娠中の有害事象のリスクについての論文です。

リチウム製剤は、
古くから双極性障碍(昔は躁鬱病)の治療薬として、
その作用のメカニズムが明確ではないながらも、
経験的にその有効性が確認され、
広く使用されている薬剤です。

躁病にも鬱病にも効果がある、
という特徴があり、
最近では自殺のリスクを低下させる、
というデータが報告されて注目を集めました。
これは過去に記事にしています。

ただ、リチウムは副作用や有害事象の多い薬でもあります。
その治療域が狭く、
定期的に血液濃度を測定しながら、
その使用を行なわないといけない、
という煩わしさがあります。
リチウムはまた甲状腺機能や副甲状腺機能、
腎機能にも影響を与えると指摘されています。

また、リチウム製剤の有害事象として、
それ以外に知られているのが、
妊娠中の女性が服用した場合の、
お子さんの先天性の心奇形のリスク増加です。

これは1970年代の前半から、
リチウム製剤の妊娠初期の使用により、
特にエプスタイン奇形と呼ばれる心臓の先天性の異常が、
増加するという報告が相次ぎ、
1979年までに225例のリチウム製剤を妊娠中に使用した事例が蓄積されました。
その中で8%に当たる18例に先天性心疾患が認められ、
そこには3%に当たる6例のエプスタイン奇形が含まれていました。

このため緊急時以外のリチウム製剤の使用は、
妊娠中は禁忌という扱いにアメリカではなっていて、
日本の添付文書では、
特に補足なく妊娠中は禁忌となっています。

しかし、実際には双極性障害の患者さんにおいて、
たとえ妊娠中であってもリチウム製剤を使用した方が、
病状は安定して妊娠の転帰にも、
トータルに考えてメリットの方が大きい、
という見解も根強くあり、
実際にアメリカでは少なからずのそうした患者さんに、
妊娠中も使用が継続をされているようです。

そもそも元になった心奇形のデータは、
症例報告を集積したようなものなので、
実際の頻度とは異なっている可能性もあるのです。

そこで今回の研究では、
アメリカの健康保険の医療データより、
1325563名という膨大な妊娠女性の予後を分析し、
その妊娠初期におけるリチウム製剤の使用と、
心奇形との関連、および、
リチウム製剤の代替薬であるラモトリジン(商品名ラミクタール)
との比較も行っています。

その結果…

先天性の心奇形は、
リチウム製剤使用群の2.41%(663例中の16例)に発症したのに対して、
リチウム未使用群では1.15%(1322955例中の15251例)に発症していて、
ラモトリジン使用群では1.39%(1945例中の27例)に発症していました。
リチウム製剤未使用と比較した場合の、
使用による心奇形のリスクは、
1.65倍(95%CI;1.02から2.68)と有意に増加していました。

リチウムの使用により、
心奇形のリスクが増加すること自体は間違いがありませんが、
以前の8%という報告ほど多い訳ではありません。

リチウム製剤の使用量毎に見ると、
1日600mg以下ではリスクは1.11倍(95%CI;0.46から2.64)、
1日601㎎から900㎎ではリスクは1.60倍(95%CI; 0.67から3.80)、
901㎎以上では3.22倍(95%CI;1.47から7.02)となっていて、
リチウム製剤の量が増加するほど、
お子さんの心奇形のリスクも高まることが確認され、
明確に有意なリスク増加を示しているのは、
901㎎以上の高用量の場合でした。

エプスタイン奇形のリスクのみに限ると、
リチウム製剤使用群の0.60%に発症していたのに対して、
未使用群では0.18%に発症していて、
関連する因子を補正した結果として、
リチウム製剤によるエプスタイン奇形の発症リスクは、
未使用と比較して2.66倍(95%CI;1.00から7.06)、
有意に増加していました。

つまり、
リチウム製剤の妊娠初期の使用により、
確かに胎児の心奇形は増加しますが、
それはこれまで言われていたほどの頻度ではなく、
そのリスクはリチウムの使用量に大きく依存をしています。

従って、
妊娠初期のリチウム製剤の使用を、
可能であれば避けることは適切な判断ですが、
双極性障害の病状が不安定でリチウム製剤が有効なケースでは、
そのリスクと利点とを天秤に掛けた、
より慎重な判断が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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