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造影MRI後の脳組織へのガドリニウムの沈着について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
小児脳へのガドリニウムの沈着.jpg
先月のJAMA Pediatrics誌に掲載されたレターですが、
小児の患者さんにおける、
造影MRI検査のリスクについて検証した内容です。

MRI検査は磁気を利用して体内の構造を可視化する検査で、
CTと共にその有用性から、
臨床に幅広く使用されています。

CT検査は放射線を使用するので、
そのリスクが問題となりますし、
造影剤として使用するヨードには、
重度のアレルギーのリスクがあることが知られています。

それと比較すると、
MRI検査には被ばくのリスクはありませんし、
造影剤として主に使用されるガドリニウムでは、
ヨードのようなアレルギーを生じることは稀です。

ガドリニウムはレアアースの1つで、
磁性体としての性質からMRIの造影剤として使用されています。
このガドリニウムそのものには強い毒性があるので、
ガドリニウムをキレート化して使用し、
そのまま腎臓から排泄されるように改良したのです。

ほぼ100%そのまま腎臓から排泄されるので、
毒性の問題はクリアされたと考えられていましたが、
腎機能の低下があって排泄が大幅に遅延すると、
血液中に蓄積したガドリニウムが遊離し、
一種の重金属中毒を来す可能性が指摘され、
腎機能低下のあるケースでのリスクが指摘されています。
また、ガドリニウム造影剤の使用後に、
皮膚が強皮症という病気のように、
線維化して硬化する、
腎性全身性線維症という、
特殊な病気が複数報告されて問題となったこともあります。

ここまでは主に腎機能が低下した場合の、
ガドリニウム造影剤のリスクについての話です。

最近になって、
腎機能が正常であっても、
ガドリニウム造影剤を使用することにより、
脳組織にガドリニウム(それ自体もしくは造影剤の成分)が、
沈着するのではないか、
という知見が相次いで報告されるようになりました。

2013年にその先駆的な研究結果を報告されたのが、
日本の神田知紀先生です。

こちらをご覧ください。
脳へのガドリニウムの沈着.jpg
こちらの画像は、
神田先生らが書かれた、
2016年の「画像診断」(Vol.36 No5 2016 441-447)
からの引用です。
(正式な引用の許可は取っていませんので、
ご指摘があれば削除します)

繰り返し行われた、
ガドリニウム造影剤によるMRI検査により、
小脳歯状核と大脳の淡蒼球という部分に、
T1強調画像での高信号化という異常所見が生じています。

元の論文は2013年のRadiology誌に掲載され、
世界的に注目されました。

その後国外でも追試が行われ、
そうした現象が存在することは間違いのないことだと確認されました。

次に行われたのは、
病気で亡くなった患者さんの解剖で、
ガドリニウム造影剤を使用した場合の脳組織の変化を、
直接観察することで、
これも複数の論文が発表され、
例数は数例から10数例程度と少ないのですが、
ガドリニウム造影剤を使用した患者さんにおいて、
MRI検査で指摘された部位に、
ガドリニウムの沈着があり、
使用していない患者さんではそうした所見のないことが、
実際に確認されたのです。

ここまでは全て大人での検討でした。

今回のレターは、
少数例ですが主に脳腫瘍で亡くなった小児の、
脳の解剖所見から同様の検討を行ったものです。

3例の4回以上検査でガドリニウム造影剤使用の小児(8歳、6歳、13歳)
の脳を解剖した結果、
全ての事例で大人と同様の部位に、
ガドリニウムの異常な沈着を認めました。

一方でコントロールとしてガドリニウムの検査をしていない3人の小児では、
同様の所見は認められませんでした。

前述神田先生の見解では、
ガドリニウム造影剤で、
キレートとの結合が弱く、
イオンとしてガドリニウムが遊離しやすいと、
そうした現象が起こりやすく、
構造的に安定な造影剤では、
殆どそうした現象は生じていない、
と言われています。

現状はこの正常腎機能の患者さんにおける、
ガドリニウムの脳への沈着が、
健康上の問題を生じたという報告はありません。

従って、日本においては、
その使用に特に制限などは行われていないことが実状です。
画像診断の専門医療機関においても、
使用されている造影剤が明記されているようなところでは、
主にガドリニウムが遊離しにくいとされる造影剤が、
使用されているようですが、
明記されていないような医療機関もあり、
また使い勝手もあるのでしょうが、
ガドリニウムの沈着が生じやすいタイプの造影剤も、
まだ使用はされているようです。
(これは違反ではありませんし、
現時点でもトータルに健康への悪影響が、
そうした造影剤で多いという確証はありません)

それではまとめです。

ガドリニウム造影剤を使用したMRI検査では、
特に積算で4回以上検査を行った場合に、
脳の特定部位へのガドリニウムの沈着が起こります。
これは成人でも小児でも起こり、
腎機能が正常でも生じる現象です。
ただ、その病的な意味はまだ明らかではなく、
何らかの病気の原因となった、
と言う報告は現時点ではありません。

一部の研究によると、
線状型と呼ばれる構造の造影剤(マグネビスト、オムニスキャンなど)では、
こうした現象は起こりやすく、
環状型と呼ばれる構造の造影剤(マグネスコープ、プロハンスなど)では、
こうした現象は起こりにくい、
とされていますが、
まだ確定的なものではありません。

従って、
腎機能が正常な患者さんでの必要な検査は、
その通りに行って問題はないのですが、
4回を超えるような検査においては、
脳などへのガドリニウムの蓄積の可能性を念頭に、
よりリスクが少ないと想定される造影剤を使用するなど、
慎重な対応を取ることが望ましいと考えられます。

日本においての一番の問題は、
患者さんが複数の医療機関で、
同じような検査を行うことが可能なので、
ガドリニウム造影剤の種類や使用量を、
一元的に管理することが不可能であることで、
全ての医療情報が一元化されなくても、
こうした検査の情報については、
個人ごとに一元的に管理出来るような体制が、
是非必要であるように考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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