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デフィシル菌感染症再発に対する制酸剤の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デフィシル菌と酸抑制剤.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
デフィシル菌による偽膜性腸炎の再発に対する、
制酸剤の影響についての論文です。

クロストリジウム・デフィシル菌というのは、
嫌気性有芽胞菌という分類に属する細菌で、
破傷風の原因である破傷風菌や、
食中毒の原因となるボツリヌス菌などと、
同じ仲間に属する病原体です。

この細菌は人間の腸の常在菌で、
日本人の大人の1割は持っている、
という報告もありますが、
通常は人間には悪さをしません。

それが問題になるのは、
主に抗生物質の使用時で、
抗生物質の使用により、
大腸の正常な菌叢が乱され、
腸内細菌が死滅すると、
このデフィシル菌が異常に増殖し、
偽膜性腸炎という名称の、
下痢を伴う腸炎を起こします。

ポイントは抗生物質を使用していて、
下痢の症状が出現したら、
すぐに薬を中止することで、
軽症であればそれで腸内菌叢が正常に復すれば、
デフィシル菌の増殖も抑えられて元に戻ります。

ただ、
実際には全身状態が悪く、
抗生物質の使用が必須の患者さんで、
こうしたことが起こると、
免疫力の低下なども相俟って、
経過は遷延して重症化することも稀ではなく、
デフィシル菌の除菌のために、
再度抗生物質を使用することも已む無し、
という事態になります。

こうした場合に使用される薬剤の筆頭は、
バンコマイシンと呼ばれる抗菌剤ですが、
一旦は改善しても、
再発が多いことが知られています。

このデフィシル菌腸炎の再発のリスクの1つとして、
プロトンポンプ阻害剤やH2阻害剤などの、
胃酸を抑える薬の影響が以前から指摘されています。

以前ご紹介したメタ解析の結果では、
2012年の時点の報告で、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
デフィシル菌による腸炎のリスクが、
1.7倍程度増加するという結果になっていました。

ただ、
それほど精度の高い研究がない上に、
初発と再発の腸炎も区別されていないなど、
まだその結果は確定的なものとは言えませんでした。

今回の研究も、
これまでのデータをまとめて解析したものですが、
一度デフィシル菌による腸炎を来した患者さんの、
再発のリスクに対象を絞っている点と、
年齢や基礎疾患などの影響する因子を、
補正して解析しているという点が特徴です。

16の観察研究をまとめて解析した結果として、
トータル7703名の、
デフィシル菌による腸炎に罹患した患者さんのうち、
19.8%に当たる1525名が腸炎を再発していました。

制酸剤を未使用の患者さん3665名のうち、
17.3%に当たる633名が再発したのに対して、
制酸剤を使用している患者さん4038名のうち、
22.1%に当たる892名が再発していました。
解析の結果制酸剤の使用により、
腸炎再発のリスクは1.52倍(95%CI; 1.20から1.94)
有意に増加していました。
これを年齢や基礎疾患などの因子を補正して解析すると、
制酸剤による腸炎再発のリスクは、
1.38倍(95%CI; 1.08から1.76)と、
関連は弱くなったものの矢張り有意に増加していました。

解析された殆どの研究は、
プロトンポンプ阻害剤のみが対象となっていて、
一部の研究はH2ブロッカーとプロトンポンプ阻害剤が、
区別なく対象となっていましたが、
明確に腸炎の再発リスクが増加していたのは、
プロトンポンプ阻害剤のみでした。

このように今回の再検証においても、
デフィシル菌による腸炎再発のリスクは、
制酸剤、特にプロトンポンプ阻害剤の使用により、
有意に増加していました。
ただ、今回も対象となっているのは観察研究のみで、
その精度はそれほど高いものではなく、
関連する因子を補正すると、
その関連性は微妙なものになっていました。

そんな訳でこの問題を現時点で、
そこまで深刻に考える必要はないのですが、
特に偽膜性腸炎の罹患後には、
胃酸抑制剤の使用は必要最小限にすることが、
不要なリスクを増加させないために重要であることは、
間違いのないことだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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