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リバーロキサバンの生命予後への影響について(2017年台湾のデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リバーロキサバンの死亡リスク.jpg
今年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
ワルファリンに代わる抗凝固剤の2種類を、
生命予後などの点から比較した台湾の疫学研究の論文です。

最近評判があまり良くないリバーロキサバンに、
またあまり良くない結果が認められています。

ワルファリンに変わりうる抗凝固剤が、
最近次々と発売され、
その評価もほぼ定まった感じがあります。

ただ、それではこうした新しいタイプの抗凝固剤のうち、
どの薬がより効果があり、より安全性が高いのか、
というような点については、
まだ定まった見解はありません。

直接トロンビン阻害剤であるダビガトラン(プラザキサ)が先陣を切り、
その後リバーロキサバン(イグザレルト)、
アピキサバン(エリキュース)、
エドキサバン(リクシアナ)と、
凝固因子のⅩa因子阻害剤と呼ばれる薬が、
次々と発売され実際に臨床で使用されています。

この新しいタイプの抗凝固剤の、
患者さんの側からのメリットは、
ワルファリンのように定期的に血液の検査を行ない、
その効果を確認する必要がなく、
また納豆などの食事制限がないという点にあります。

その効果は各薬剤の承認時の臨床試験では、
良くコントロールされたワルファリンと同等の、
血栓症や塞栓症の予防効果を持ち、
有害事象である重篤な出血の発症については、
ワルファリンより概ね軽微である、
と報告されています。

ただ、それではこうした新しいタイプの抗凝固剤のうち、
どの薬がより効果があり、より安全性が高いのか、
というような点については、
まだ定まった見解はありません。

最初に発売されたダビガトランにおいて、
重篤な出血の事例が問題となり、
そのためアメリカでは2から3倍ダビガトランより、
リバーロキサバンの処方が多いようです。

その一方で2016年2月のBritish Medical Journal誌の解説記事では、
ROCKET-AFと題された、
リバーロキサバン(イグザレルト)の臨床試験において、
ワルファリンのコントロールが、
正確に行われていなかったのではないか、
という問題点が指摘されています。

個々の薬剤の臨床試験のデータのメタ解析の論文では、
薬剤間に少なくとも明瞭な効果や安全性の差はない、
という結果になっています。

しかし、それが実地臨床においても成り立つかどうかは、
実際の臨床に近いデータが必要です。

ブログでも以前ご紹介した、
2016年のJAMA Internal Medicine誌の論文では。
アメリカの健康保険のデータを活用して、
65歳異常の非弁膜症性心房細動患者で、
ダビガドランもしくはリバーロキサバンを新規で開始した、
トータル118891名(ダビガトランの処方52240例、リバーロキサバンの処方66651例)
のデータを解析して、
両者の血栓症予防効果と有害事象の差を検証していました。

その結果…

平均で4ヶ月の観察期間において、
血栓塞栓症の発症リスクには両群で有意な差はなく、
脳内出血のリスクはリバーロキサバンの使用において、
ダビガトランの使用と比較して、
1.65倍(1.20から2.26)有意に増加し、
重篤な脳内出血以外の出血系合併症も、
1.48倍(1.32から1.67)有意に増加していました。
消化管出血に限っても、
矢張りリバーキサバン使用群において、
1.40倍(1.23から1.59)有意に増加していました。

死亡リスクには両群で有意な差はありませんでしたが、
年齢が75歳以上に限定した場合と、
血栓塞栓症のリスクが高いと想定される、
CHADS2スコアが2を超える患者さんに限定すると、
リバーロキサバン使用群での死亡リスクの増加が認められました。

このように、この研究においては、
明確にリバーロキサバンの出血系合併症のリスクは、
ダビガトランを上回っていました。

この原因について上記文献では、
リバーロキサバンが1日1回の薬剤であり、
その有効性を24時間維持するために、
結果的には抗凝固作用が、
必要以上に強くなっている時間帯があるのではないか、
という仮説を提示しています。

今回ご紹介するデータは台湾のもので、
アメリカの2016年の論文と同じように、
健康保険のデータを活用する形で、
非弁膜症性心房細動に対して、
新規のダビガトランの使用事例と、
新規のリバーロキサバンの使用事例の、
効果と予後を比較検証しています。

2012年から2014年に掛けて、
ダビガトランの新規処方事例は10625例、
リバーロキサバンの新規処方事例は4609例です。
これを直接全体で比較した場合と、
4600例のダビガトラン処方事例に、
マッチングさせた同じ4600例のリバーロキサバン事例を、
比較した場合の両方を比較しています。

その結果、
総死亡のリスクについては、
マッチングさせた同数での比較では、
1.44倍(95%CI;1.17から1.78)、
直接全体での比較では、
1.47倍(95%CI;1.23から1.75)、
ダビガトランよりリバーロキサバンの方が有意に高くなっていました。

また輸血を要する消化管出血のリスクについても、
マッチングさせた同数比較で1.41倍(95%CI;1.02から1.95)と、
有意にリバーロキサバン群で増加していましたが、
直接全体での比較では1.20倍(95%CI;0.92から1.56)と、
高い傾向は見られるものの有意ではありませんでした。

抗凝固剤の主な効果である、
虚血性梗塞や心筋梗塞、閉塞性動脈疾患のリスク、
また脳出血のリスクについては、
両群で差はありませんでした。

要するに今回のデータにおいても、
ダビガトランと比較してリバーロキサバンの使用は、
有害事象のリスクを増し、
生命予後にも悪影響を与えるという可能性が示唆されました。

2016年のデータはアメリカのもので、
リバーロキサバンの用量も全て1日20mgであったのですが、
今回は通常量が15mgと日本と同一で、
21%が20mgを使用し、4%は10mgを使用、
ダビガトランも86%は1日220㎎という低用量が用いられています。
つまり、人種も用量も日本に近い条件です。

今回のデータでリバーロキサバンのリスクは、
かなり明確になったと言っても良く、
今後のこの薬の適応については、
より慎重に判断した方が良さそうです。

ただ、今血栓塞栓症予防目的でリバーロキサバンを使用されている方は、
自己判断で中止をされないようにして下さい。
ここに提示されたデータは、
ダビガトランと比較するとややそうした傾向がある、
というレベルのものであり、
まだ結論が出ているということではありません。
最新の医療データをなるべく広範にご紹介をしたい、
と言う趣旨で記事にしたもので、
特定の薬剤や治療に対する不安を煽ることが目的ではありません。

他の薬への変更は1つの選択肢ですが、
変更時には血栓塞栓症のリスクが高まる可能性もあります。
どうか、主治医の先生にご相談の上、
慎重な判断をよろしくお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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小腸選択性ステロイドのIgA腎症への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
IgA腎症に対する小腸選択性ステロイドの効果.jpg
今年のLancet誌にウェブ掲載された、
IgA腎症という非常に頻度の高い腎臓病に対する、
新しい治療薬の臨床試験の結果をまとめた論文です。
第2b相臨床試験のデータです。

IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。

この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。

数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療や免疫抑制剤の使用が検討されます。

しかし、こうした免疫抑制療法の上乗せ効果は、
あまり精度の高いデータの裏付けがある、
というものではありません。

治療成績は必ずしも満足の行くレベルのものではありませんし、
レニン・アンジオテンシン系の抑制が、
充分であったかどうかの検証があまりなされていないので、
真の意味での免疫抑制療法の上乗せ効果が、
どのくらいのものであるのかが不明なのです。

日本ではそれ以外に、
扁桃腺の切除とステロイドのパルス療法を組み合わせた治療が、
非常に高い奏効率を持つものとして施行されていますが、
世界的にはあまり言及をされていません。

さて、免疫を抑制することが、
IgA腎症の腎機能を保つ上で重要であることはほぼ間違いがありませんが、
全身的にステロイドを使用した臨床試験は、
あまり予後に明確な結果を示していません。

その理由は1つには糖尿病や易感染性などの、
ステロイドの有害事象にあると考えられます。

最近、IgA腎症と小腸のパイエル板という構造との関連が、
指摘されるようになりました。
パイエル板というのは、
小腸の空腸から回腸に存在するリンパ組織で、
腸管免疫の主体として機能しています。
ここで産生されるB細胞というリンパ球は、
IgAを主に産生していることが分かっています。

IgA腎症においては、
糖鎖異常IgA(ガラクトース欠損IgA1; GdIgA1)という、
異常なIgAが産生されて、
それが血中のIgGと結合し、
免疫複合体となって腎臓に沈着し病気を進行させると考えられています。

とすれば、
小腸のパイエル板における、
免疫の働きのみを低下させるような薬があれば、
IgA腎症の進行を予防することが可能になると想定されます。

そこで開発されたのが、
標的指向性のステロイド製剤、
カプセルとして内服すると、
パイエル板が多く存在する空腸遠位部に、
高濃度で達するように設計された、
吸入ステロイドの成分と同じ、
ブデソニドというステロイド製剤です。

全身作用は少ないため、
全身的なステロイド剤の使用よりも、
少量で効率よく効果を表し、
全身的な副作用は少ないことが期待されたのです。

今回の第2b相の臨床試験では、
ヨーロッパの複数の専門施設において、
18歳以上の年齢で腎生検によりIgA腎症と診断され、
レニン・アンジオテンシン系の抑制療法を継続していても、
グラム・クレアチニン換算で0.5グラム以上のタンパク尿が持続している患者さん、
トータル150名の患者さんを登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで3つの群に分け、
第1群は小腸選択性ブデソニドを1日8ミリグラム、
第2群は1日16ミリグラム、
そして第3群は偽薬を使用して、
レニン・アンジオテンシン系抑制療法への上乗せとしての、
小腸選択性ステロイドの効果を検証しています。

腎機能はeGFRという指標が45mL/min/1.73㎡以上が条件で、
治療は9か月継続され、
その後3か月の観察期間を置いています。

その結果…

9か月の時点でステロイド治療を行なった2群を合わせたトータルでは、
登録時より尿蛋白を24.4%有意に低下させたのに対して、
偽薬群では2.7%増加していました。
ステロイド治療群の内訳では、
8ミリグラム群で21.5%、16ミリグラム群で27.3%の低下となっていました。

腎機能については、
9か月の時点でステロイド治療群では維持されていましたが、
偽薬群では10%の低下を示していました。

重篤な有害事象としては、
実薬16ミリグラム群で静脈血栓症と、
予期せぬ腎機能低下が1例ずつ認められました。

つまり小腸選択性のブデソニドの使用により、
9か月という治療期間においては、
尿蛋白を低下させ腎機能を維持する効果が認められました。
従って、より長期の使用において、
腎機能の低下を抑制する可能性が想定されます。

IgA腎症の治療は有効性の明確なものがあまりなく、
まだその長期効果など未解明の部分は残りますが、
非常に有望な治療となり得ることは間違いがなく、
今後の知見の積み重ねを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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スタチンのノセボ効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンのノセダ効果.jpg
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
スタチンという薬による有害事象の、
臨床試験の方法による頻度の違いについての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
非常に広く使用されているコレステロール降下剤です。

その効果は特に心筋梗塞の再発予防において、
多くの精度の高い臨床試験により実証されています。

このように有効性の確立された薬であるスタチンですが、
多くの有害事象があることも知られていて、
患者さんの処方の継続率は、
必ずしも高くないことが報告されています。

中でも頻度的に最も高いのが、
筋肉痛や筋脱力などの筋肉に関する有害事象です。
確かにスタチンの使用により、
稀に横紋筋融解症という、
筋肉細胞が広範に障害されるような副作用の、
発生することがあるのは事実です。
しかし、実際には重症の横紋筋融解症が、
スタチンの使用により発生することは極めて稀で、
使用後に筋肉痛や筋脱力があっても、
筋融解の時に上昇する酵素であるCPKは、
上昇していないか、
上昇はしていても軽度に留まることが、
多いことが報告されています。

こうした場合には、
スタチンは必要性が高ければ継続をしても、
問題はないとされていますが、
実際には患者さんも症状があるのに薬を続けることは心配ですし、
処方した医師も患者さんの安全を第一に考えますから、
一旦は中止とされることが多いと思います。

しかし、こうした患者さんの感じる服用後の不快な症状は、
何処までが薬の薬理的な作用によっているのでしょうか?

こうした疑問が生じるのは、
一旦スタチンを有害事象で中止した患者さんでも、
その後に再開すると、
同じ有害事象が発生する頻度は、
それほど高いものではないからです。

このように、
「この薬を飲むと筋肉痛が起こる」
という事前の知識があると、
一種の心理的な作用によって、
筋肉痛が起こることがある、
ということが知られています。

これを偽薬によっても、
それを薬と信じることによって、
薬と同じような作用が生じるプラセボ効果の逆と考えて、
ノセボ効果(ノーシーボ効果)と呼んでいます。

今回の研究はASCOT試験という大規模な臨床試験のデータを解析することで、
このスタチンによるノセボ効果が、
どの程度あるのかを検証したものです。

ASCOT試験は高血圧の患者さんにおいて、
降圧剤の種類と、
そこにスタチンの上乗せの意義を、
総コレステロール値が250mg/dL以下の患者さんで検証したものですが、
スタチンの有効性は早期に確認されたため、
その後はスタチンの使用を患者さんに明らかにした上で、
処方の継続が降圧剤選択の試験のために続行されました。

つまり、
試験の前半の期間は、
スタチンか偽薬かを患者さんが知らない状態で処方が継続され、
後半の期間はそれがスタチンであることを、
知らされた状態で処方が継続されたのです。

その結果、
偽薬かどうか分からない期間においては、
偽薬群とスタチン群とで、
筋肉関連の有害事象は違いがなかったのにも関わらず、
処方内容が開示された以降の期間においては、
スタチン群において1.41倍(95%CI;1.10から1.79)、
筋肉関連の有害事象は多く認められました。
つまり、この差がノセボ効果の可能性が高い、
という想定が可能なのです。

薬を使用する以上、
プラセボ効果とノセボ効果は必ず生じることは間違いがありません。

ノセボ効果を少なくするためには、
薬の内容を患者さんが知らないことが必要で、
更には処方する医師や調剤する薬剤師も、
その内容を知らない方がより確実である訳ですが、
それは実際の臨床としては不可能で、
むしろ必要以上に何度も副作用や有害事象については、
説明がなされることが適切と考えられているので、
現行のシステムでは、
報告される作用も副作用も、
その頻度は実際のものではなく、
プラセボ効果とノセボ効果で修飾されている、
という言い方が可能です。

要するに科学としての医学というのは、
人間が独立した高い理性を持った存在であることを、
暗黙の前提としているので、
全てを患者さんに開示した上で、
治療を行なうことが正しいとされているのです。

しかし、実際には皆さんもご存じのように、
人間というのはそんな偉そうなものではなく、
心理的な影響で毒も薬と信じれば薬になり、
薬も毒と信じれば毒になるような呪術的な存在なので、
医療というものの仕組みとは、
根本的に合わない部分があるのです。

科学としての医療は確かに長足の進歩を遂げていますが、
その奥底にはプリミティブな呪術性のようなものがあり、
多くの医療者はまだそれを利用して、
患者さんを治療している側面が少なからずあるので、
今後の医療の方向性を、
どのように考えるのかは、
そうたやすいことではないように思います。

端的に言えば、
データを入れてロボットに診察と診断をさせ、
適切な薬を処方させて、
患者さんは皆その診断も知ることはなしに、
それを高度の科学による正しい治療であると信じて、
中身は知らずに皆で飲めば、
治る病気は治りますし治らない病気は治らないので、
それが一番科学的な医療であり、
極めて公平に治療効果は表れるのです。

しかし、本当に皆さんはそうした医療を望まれますか?

そこが一番の問題点であるように思います。

それは要するに、
あなたはどんな存在でありたいのか、という問いと、
基本的には同じ性質のものだからです。

すいません。
後半は思索的な感じになりました。
今少しそうした気分なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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「メッセージ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日3本目も映画の記事になります。

それがこちら。
メッセージ.jpg
SF作家テッド・チャンの短編を原作とした、
SF映画「メッセージ」を観て来ました。

これはゼメキスの「コンタクト」に近いタイプの、
じんわりと感動するSF映画で、
僕は「コンタクト」は大好きなので、
この作品もとても楽しめました。

中国が「実は気のいい乱暴者」として、
かつてのアメリカのように描かれていて、
そうしたところに時代を感じさせます。
現実にもほぼそうなのでしょうが、
ハリウッド映画の世界では、
もう既に世界は中国が支配しているようです。

余談でした。

原作は娘を山の事故で失って離婚した失意の女性科学者が、
宇宙からの来訪者との「コンタクト」を通じて、
時間についての新しい観念を得て、
過去の悲劇を新しい目で眺めるようになる、
という話です。

そこで分かる時間の新しい観念というのは、
カート・ヴォネガットが「スローターハウス5」で提示したものと、
基本的には同じで、
時間とは前も後もない連なる山脈のようなものだ、
というものです。
「スローターハウス5」にはとても感動したのですが、
この短編はその焼き直しなので、
その点にはあまり感心しませんでした。

後は全くコミュニケーション体系の異なる異星人を相手に、
どのようにして対話を成立させるのか、
相手の言語体系をどのようにして認識するか、
という辺りが原作のSFとしての読みどころになっています。

原作を読むと正直これを映画にして、
何の面白みがあるのだろうか、
というように感じてしまうのですが、
映画は原作のアウトラインとテーマには一応沿いながら、
昔からある時間テーマの泣かせのパターンに、
原作を落とし込む形で映画化しています。

そのため、
原作を読んでいる人の方が、
映画の仕掛けに引っ掛かるという、
ちょっと面白い結果になっています。

正直地味な映画なのですが、
割と綺麗にクライマックスが仕組まれていて、
ご都合趣味の極致と言えば言えるのですが、
軍の指導者を主人公が説得する辺りはワクワクしますし、
ラストの詩情にも、
とても清々しく感動することが出来ます。
この後味の良さは、
なかなか出来ることではありません。

原作では異星人は異なる文明のリサーチのために来た、
ということのようですが、
映画ではその辺りはぼかされていて、
何のために来たのかは分からないけれど、
結果としては時間についての真実を、
主人公に伝えて去って行った、
ということのようです。

これだけの話を手間暇掛けて堂々とやる、
という辺りが余程の自信がないと出来ないことで、
寝不足の時にはお薦め出来ないのですが、
じっくり雰囲気に浸り、
クライマックスで「あっ、そういうことなのか」
と目を覚まし、
ラストで静かに余韻に浸るには良い映画だと思います。

静かにお薦めします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「カフェ・ソサエティ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は映画の話題です。

それがこちら。
カフェ・ソサエティ.jpg
80歳を過ぎても精力的に新作を発表し続けている、
ウディ・アレンの脚本・監督による新作に足を運びました。
短期間でしたが、足場の良い新宿で、
公開してくれたのが良かったです。

ウディ・アレンはニューヨークを代表する映画作家の1人で、
コメディアンからスタートして、
オリジナルのコメディ映画で頭角を現し、
「アニー・ホール」でウィットに富むセンスのある人間ドラマを確立すると、
その後は映画の楽しさを満喫させる、
多くのアレン映画を生み出しました。

僕は昔テレビで何度もやっていた、
初期のコメディの「バナナ」が大好きで、
文字通り腹を抱えて笑いました。

その後「アニー・ホール」から、
78年の「インテリア」、79年の「マンハッタン」、
80年の「スターダストメモリー」。
82年の「サマーナイト」辺りは封切りで観て、
「スターダストメモリー」と「サマーナイト」という、
彼がスランプの変な藝術映画にはうんざりしましたが、
その後持ち直して独自のアレン映画を確立。
特に85年の「カイロの紫のバラ」、
86年の「ハンナとその姉妹」には、
非常な感銘を受けました。

今回の作品は95年の「ブロードウェイと銃弾」に通じるような、
1930年代のハリウッドとニューヨークを舞台にした、
映画と舞台への愛に満ちた物語で、
気弱なくせに意外に野心家のユダヤ人の青年を主人公に、
気難しく妻の尻に敷かれた学者や、
暴力的だが気の良いギャング、
妻に離婚を切り出せない辣腕のプロデューサーなど、
いつもの懐かしいアレン印の登場人物達が活躍し、
美しい美術とキャメラも相俟って、
映画の至福を観る者に感じさせます。

昨年の「教授の奇妙な妄想殺人」はやや変化球でしたが、
今回の祝祭劇はアレンの世界そのものです。

ドラマとしては、
それぞれ別の相手を伴侶に選んだかつての恋人が、
苦い再会をして相手に思いを馳せるという、
定番のラブロマンスで、
1時間半程度の上映時間の中に、
人生の様々な情感を盛り込んで、
過不足なく1つのドラマに仕上げる辺りに、
アレンの職人芸は健在という思いがしました。

充実度から言えば、
矢張り80年代半ばくらいがアレンのピークで、
当時の作品と比較すると、
その人間ドラマとしての奥行には、
不満の残る部分はあるのですが、
酸いも甘いも心得た人生と恋愛の達人ウディ・アレンの、
力の抜けた人生スケッチとして、
しばし贅沢な気分に酔うことが出来ました。

アレンの映画はいつもすぐに終わってしまうのですが、
こうしてコンスタントに公開されるのは、
とても嬉しいことだと思います。

お薦めです。

それでは次も映画の話題です。

劇団チョコレートケーキ「60’s エレジー」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日は何本かの記事をアップする予定です。

まずはこちら。
60年代エレジー.jpg
新宿のサンモールスタジオで、
5月21日まで劇団チョコレートケーキの新作公演が行われました。

これは日本の1960年代の、
学生運動や東京オリンピック、
高度成長の歴史と、
その年代を希望に燃えた若者として過ごした、
1人の青年の末路を描くことで、
より下の世代が60年代の日本の総括に挑んでいます。

作品は現在の東京で孤独死を遂げた老人が、
残した手記を読み解くという経過で行われます。
そこで描かれるのは、
端的に言えば高度成長の全否定の物語です。

舞台は蚊帳の工場で、
地方から就職のために上京した少年は、
工場の2代目社長の好意で、
住み込みで働くと共に夜間の大学にも通えるように、
学費の援助も受けています。

しかし、高度成長と共に日本人の生活は大きく変わり、
蚊帳の需要は急激に減少してゆきます。
社長は時代に変化に合わせて仕事を変えることは出来ず、
まず社長の実の弟の首を切り、
次にはベテランの職人の首を切って、
工場と少年だけは守ろうとします。

しかし、少年は大学で学生運動にのめり込み、
親代わりの社長夫婦の心を思いやろうとはしません。
工場は閉鎖され、その後にアパートが建つと、
退職して天涯孤独の老人となったかつての少年は、
そこが取り壊される直前に自ら命を絶つのです。

劇団チョコレートケーキ面目躍如の感のある力作で、
個人的には新作としては2014年の「サラエヴォの黒い手」以来で、
最も気に入りました。

話はやや単純化され過ぎていて、
経営に苦しくなってリストラをするという段取りが、
何度も繰り返されるのがやや単調に感じますが、
団塊の世代へのエレジー(挽歌)として、
その筆法は力強く、
高度成長それ自体を切って捨てるような過激さは、
ちょっとより上の世代には不可能な作劇だと感じました。

役者は劇団員の3人がそれぞれの芝居を、
熟成感を持って演じていて味わいがありました。
ただ、3人とも役作りは素晴らしいのですが、
長い年月のドラマとしては、
演技の振り幅がやや小さく、
観続けていると単調に感じるきらいはありました。
ただ、これは劇の構造自体にも通じる問題であったように思います。

舞台装置も小空間に緻密に作り込まれていて見応えがありました。
ただ、これも小物を含めて、
数年が経っても何1つ変化がないので、
その点はやや不満に感じました。

総じて、一種の年代記として観るには、
その変化が見えにくく、
繰り返しが多い、という欠点はあったように思います。

今回の成功は矢張り会場が小さかったことで、
劇団チョコレートケーキは、
シアター・イースト(ウェスト?)やシアタートラムなど、
もう少し大きな空間での公演もありましたが、
密度の点で矢張り少し問題があったように感じました。
駅前劇場やサンモールスタジオくらいのキャパになると、
その凝集度が高まって、
凄みのあるような迫力を生むのです。
ただ、今後この集団がより大きくなるには、
もう少し大きな劇場での舞台を、
どのように高密度に保つかが、
大きな課題ではないかと感じました。

頑張って下さい。

それでは映画の話題に続きます。

岩松了「少女ミウ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
少女ミウ.jpg
現代を代表する劇作家と言っても良い、
岩松了さんの新作が、
若手中心のキャストで、
下北沢のザ・スズナリという小空間で上演されています。

若手中心とは言っても、
メインは黒島結菜さんと堀井新太さんという、
人気のある2人で、
岩松さんならではの、
とても贅沢な布陣になっています。

岩松了さんは、
別役実とチェーホフをお手本に、
見かけ上さりげない日常会話の積み重ねの中に、
隠されたドラマが進行するという、
独特のスタイルを確立し、
精力的な演劇活動を行っています。

岩松さんはその上かなり意地悪な人で、
いつも観客の心理を翻弄するような仕掛けをしていて、
ラストでは観客の予測を裏切り煙に巻くのです。

以前は娯楽性を否定するようなところがあり、
徹底してドラマチックな要素も排除していたのですが、
最近の作品はかなり通常のお芝居に近いようなものもあり、
1つの形式にこだわらない、
多様性のある作品が生まれています。

今回の新作は、
かなり凝りに凝った設定で、
福島の原発事故(劇中では具体的な名称は出ない)
に翻弄された家族の物語を下敷きに、
事故の6年後の現在に、
それをドキュメンタリーとして取り上げようとするテレビ局と、
震災で翻弄された2人の少女との葛藤の中から、
抑圧されていた過去の物語と、
事実が報道により変容してゆく様を描いたものです。

以前の岩松さんの作劇であれば、
6年前の出来事は全く舞台には登場しなかったと思うのですが、
今回の芝居では、
一段上がった奥にテレビのモニターの枠にも見える舞台を配置して、
そこで過去の出来事が再現されるという仕掛けを作り、
以前より分かりやすく戯曲の構造を提示しています。
ただ、そうは言っても意地悪な岩松さんは、
過去の家族のドラマが、
単純に理解出来るような作劇にはしていません。

過去は常に意図的に作り変えられ、
ある人物の体験が別の人物の体験として再生されたりもするので、
結局はラストには観客は幻惑され翻弄されて終わることになるのです。

岩松マジックは健在だと感じました。

以下ネタバレを含む感想です。

通常は観劇後に読んで頂きたいのですが、
岩松了さんの作品については、
ある程度の予備知識があった方が良いように思います。
予備知識があっても、
結局はよく分からなくなってしまうからです。

主人公の黒島さん演じる少女ミウの父親は、
東京電力(劇中では名称はぼかされています)
の原発事故の賠償の担当責任者になっていて、
その罰であるかのように、
ミウの両親と姉夫婦の5人は、
本来は住んではいけない筈の避難区域に住んでいます。
そこに住むに至った経緯はしかし、
母親が自分が暮らしたいから、と言ったようでもあり、
父親がそれを望んだようでもあります。
ある日父親は忽然と失踪をしてしまい、
それから数か月してミウと同い年の、
アオキユウコという少女が、
父親の隠し子として登場します。
そして、アオキユウコと食事をした直後、
ミウの母親と姉夫婦は姉のお腹にいる8か月の胎児もろとも、
拳銃で自死してしまいます。

作品はまず奥の舞台を使って、
一家心中同日の、
食後の時刻から始まり、
一家の殺し合いをそのまま上演すると、
そこで銀色の幕が瞳孔のように奥の舞台を塞ぎ、
前の舞台で6年後のテレビ局の控室に場面が移ります。

そこでは力強く復興に進む被災地の特集が、
数か月の報道生番組として収録されていて、
そこにミウと異母妹のアオキユウコがゲストとして招かれています。

番組のアンカーマンである堀井新太演じる広沢は、
どうやら過去にミウやアオキユウコのことを知っているようです。
プロデューサーのたとえ嘘が混じっても良いので復興を演出したい、
という考えに反発し、
アンカーマンを降りてしまうのですが、
そこには何か裏もありそうです。

アオキユウコはミウと父親との思い出を、
自分のことのように語り、
自分も避難区域で暮らしていたような嘘を、
平然とテレビで話します。
一方でミウは茶化すような発言を繰り返して、
自分の言葉で過去を語ろうとはしません。

そのうちに、
広沢とミウとアオキユウコは、
三角関係であるように喧伝されます。
広沢は避難区域のミウの一家を、
隣で監視していたようなのですが、
それがなぜであるのかは良く分かりません。

そして、現実であるのか別個の情景であるのかフィクションであるのか、
判然としないような状況で、
広沢の子供を姉と同じように孕んだミウが、
広沢を毒殺する情景が描かれます。
それは、ミウの父親がひそかに殺されたことを、
暗示しているようにも思われます。

つまり、過去に家族の悲劇があって、
それが謎の一家心中に繋がっているのですが、
家族が死んだ本当の理由は、
実際には明らかになることがありません。
不幸の根にある震災の記憶自体が、
意図優先の報道によって歪められ変容してゆくのですから、
その奥にある家族の悲劇などは、
分からなくて当然なのかも知れません。

過去の岩松作品の傾向から考えれば、
ミウの父親は殺されていて、
それを知っていた広沢は、
ミウの家の前に石を置いていたようにも思われます。
生まれない子供も1つのキーワードになっていて、
そこには震災が大きな影を落としています。

登場人物の1人が町田康の「告白」の分厚い文庫本を、
意味ありげに手にもっていたり、
奇形の昆虫が瓶に入れられる様子が反復されたり、
テレビ局のスタッフに相似の女性との三角関係が匂わされるのも、
隠されたものを重層的にほのめかしているように思います。
「告白」は人間が人間を殺す心理を、
テーマにした傑作であるからです。

台詞は岩松作品の中でも非常に詩的で、
「全てはドラマになる。見えないからこそ全てがある」
という発言には、
岩松さんの演劇論が見え隠れしています。
「見える世界と見えない世界が半分ずつあって、少しずつ見えない世界が多くなる」
というのも不気味で素敵ですし、
人間と生まれた以上家族であることだけは捨てられない、
という指摘も残酷です。

作品構造はかなり様式的で、
一家心中の場面などは別役そっくりの台詞もあります。
舞台の使い方はちょっと窮屈にも感じます。

ただ、何処を切っても岩松了という感じの力作で、
この幻惑される感じが、
最近はとても心地良く思えるのです。
主役2人もとてもとても魅力的で、
小空間での観劇はとても贅沢に感じました。

ご興味のある方は是非。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

隔日超低カロリーダイエットの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
隔日絶食ダイエットの効果.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
1日おきに絶食に近い低カロリーと、
高カロリーを繰り返すというダイエットの効果を、
通常の連日のカロリー制限と、
比較検証した論文です。

体重減量目的のダイエットには、
それこそ星の数ほどの方法がありますが、
最近海外で注目されている方法の1つが、
1日おきに絶食に近い低カロリーと、
カロリー制限を緩めた食事を繰り返すという方法です。

これはならすと、
通常の維持量より少し少ないカロリーになるのですが、
1日おきにはそれより多い量を食べられるので、
継続がしやすいという利点が指摘されています。

しかし、本当に他のダイエット法と比較して、
この隔日超低カロリーダイエットが、
肥満症の患者さんに対して行った場合に、
有効で安全なものであるかについては、
科学的な検証があまり行われていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
年齢が18から64歳で、
体格の指標であるBMIが25.0から39.9という、
過体重から肥満の人を対象として、
くじ引きで3つの群に分けると、
第1群は1日おきに超低カロリーと高カロリーを繰り返し、
第2群は低カロリーを連日続け、
第3群はカロリー制限をしないコントロールとして、
1年間の経過観察を行っています。

二重標識水法という、
放射能で標識した水を飲んでもらい、
尿中の放射線を測定する方法で、
個々人のエネルギー消費量を算出し、
体重を維持するのに必要なカロリーを算定します。

それを元にして、
隔日超低カロリー群では、
維持カロリーの25%という超低カロリーと、
125%というやや高カロリーの食事を繰り返します。
通常の低カロリー群では、
維持カロリーの75%というカロリー制限が継続されます。
6か月そのダイエットを継続した上で、
後半の6か月は体重の維持を目的として、
食事処方が変更されるのです。

対象者はトータルで100名で、
30数名ずつの3群に振り分けられます。
平均年齢は44歳で86%が女性です。

その結果、
コントロールと比較すると、
通常の低カロリー群と隔日超低カロリー群は、
ほぼ同等の減量効果を示しました。
減量期間終了の6か月の時点で、
コントロールと比較して、
通常の低カロリー群は5.3%(95%CI;-7.6から-3.0)、
隔日超低カロリー群は6.0%(95%CI;-8.5から-3.6)、
の体重減少を示し、
その後維持期間にはリバウンドが見られましたが、
両群には差はありませんでした。

ダイエット期間中のドロップアウト率は、
コントロール群が26%、
通常の低カロリー群が29%であったのに対して、
隔日超低カロリー群は38%で最も高くなっていました。
これは絶食に近い低カロリーが、
1日おきであっても継続は困難な場合が多かった、
ということを示していると思います。
代謝マーカーや栄養状態などの数値においても、
両群では差はありませんでした。

このように、
連日の軽度カロリー制限と、
1日おきの超低カロリーダイエットは、
いずれも同等の体重減少効果を示し、
きちんと管理された状態においては、
半年程度の継続で、
大きな健康上の問題は生じないようです。

従って、どちらが特に優越ということはなく、
継続しやすい方法を、
選んで施行することで、
当面は大きな問題はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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ホットフラッシュへの最新治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ホットフラッシュへの最新治療.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
更年期のホットフラッシュに対する、
新しい治療薬の第2相臨床試験の結果を報告した論文です。

ホットフラッシュと呼ばれる顔などのほてり感や、
寝汗などの大量の発汗は、
女性の更年期症状としてポピュラーな症状で、
閉経した女性の70%以上に見られる、
という統計もあります。

これは必要以上に体温を脳が高く認識して、
それが体温を下げようとする自律神経の反応をもたらし、
末梢の血管が広がってほてりになり、
かつ発汗量が増えるのではないかと考えられています。
ネズミでは同様の反応の時に尻尾を小刻みに動かしていることから、
落ち着きがなく体をゆするような動作も、
同様のメカニズムで起こっている可能性があります。

それでは、何故更年期の脳は、
体を実際より暑く感じるのでしょうか?

脳の視床下部に体温調節中枢があり、
そこは女性ホルモンの分泌の調節をする部位でもあります。
閉経になるとGnRHという視床下部のホルモンの調節を行う、
キスペプチン・ニューロキニンB・ダイノルフィンという、
神経ペプチドを産生する神経が肥大して、
過剰に神経ペプチドを産生します。

このキスぺプチンやニューロキニンBは、
GnRHのパルス状と言われる分泌を作る作用があると共に、
体温の調節や性的な欲求のコントロールにも、
大きな働きを持っていると想定されています。

これまでの基礎的な研究により、
ホットフラッシュの症状のない閉経前の女性に、
ニューロキニンBを注射すると、
ホットフラッシュの症状が誘発されることや、
ニューロキニンBの遺伝子に変異があると、
ホットフラッシュが起こり難いことなどが分かっていて、
ホットフラッシュの発生には、
ニューロキニンBの存在が不可欠であると推定されています。

そこで今回の臨床試験では、
ニューロキニンBの受容体の拮抗薬を、
ホットフラッシュのある閉経女性に使用して、
症状が抑制されるかどうかを検証しています。

対象となっているのは、
40から62歳で閉経から1年以上経過していて、
24時間に7回以上、
持続的に不快と感じるホットフラッシュが生じている女性で、
くじ引きで本人にも施行者にも分からないように、
2つの群に分けると、
一方はニューロキニンBの受容体拮抗薬の飲み薬を、
1回40mgで1日2回、4週間継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
ホットフラッシュの頻度などを、
スコア化して比較しています。

68名の女性が登録されましたが、
実際に最後まで臨床試験が完了したのは、
そのうちの28名にとどまりました。
ニューロキニンB受容体拮抗薬は、
1週間のホットフラッシュのトータルなスコアを、
偽薬と比較してポイントで45%有意に低下させていました。

副作用や有害事象としては、
治療薬を投与された患者さんの3名で、
正常上限の4.5から5.9倍のトランスアミナーゼの上昇が認められ
(肝障害が起こったという意味です)、
薬剤の中止により90日以内に正常化しています。

この薬剤の使用により、
実際に発汗などの皮膚の反応にも変化が見られましたが、
キスぺプチンが関与するとされる性欲などの面では、
偽薬との間に特に違いは認められませんでした。

更年期のホットフラッシュの治療には、
通常は女性ホルモン剤が補充療法として使用されます。

ただ、女性ホルモンの使用には、
若干ながら乳癌や子宮癌のリスク増加や、
静脈血栓症、脳卒中などのリスク増加などの有害事象があります。

特に乳癌でホルモンを抑制するような治療をしている患者さんでは、
ホットフラッシュに対してホルモン剤は使用できないので、
現状は有効な対処法がない、
という問題点がありました。
代用として使用されるSSRIは、
抗うつ剤でそれ自体の副作用や有害事象もあります。

今回の薬剤は使用されるようになれば、
かなり高額の薬品となると考えられ、
コスト的には問題があるのですが、
ホルモン補充療法が困難な患者さんにとっては、
福音となる可能性を秘めていると思います。

今回の臨床試験は例数も少ないので、
まだまだ多数例での検証が必要であると思いますが、
メカニズム的には非常に興味深く、
様々な別個の病気の治療にも、
有用な可能性もあるので、
今後の知見の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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高齢者へのスタチンの一次予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンの高齢者一次予防効果.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
65歳以上の年齢層におけるスタチンの一次予防効果を検証した論文です。

スタチンはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
最も広く使用されているコレステロール降下剤です。

スタチンを使用することにより、
心筋梗塞のなどの心血管疾患になった患者さんの、
再発予防効果は、
多くの精度の高い臨床データによって実証されています。

スタチンはまだ心血管疾患を発症してはいないけれど、
その危険性が患者さんに対して、
発症予防(一次予防)としての使用も行われています。

ただ、スタチンの一次予防を、
どのような条件の患者さんに対して施行することが、
最も適切であるのかについては、
まだ色々の議論があって一定の結論に至っていません。

以前ご紹介した2016年のアメリカ予防医学作業部会のガイドラインでは、
年齢が40から75歳で、
これまでに心筋梗塞などの既往がなく、
喫煙、糖尿病、脂質異常症、高血圧症のいずれかを持っていて、
10年間の心血管疾患のリスクが10%以上の人は、
低強度から中強度のスタチンの使用を推奨する、
という内容になっています。
年齢が76歳以上では、
明確なスタチンの一次予防効果は確認されていません。

今回の研究は、
この問題を単独の大規模臨床試験のデータの、
二次解析により検証したものです。

使用されているのは、
ALLHAT-LLTという大規模臨床試験です。

年齢は55歳以上で、軽症から中等症の高血圧を持ち、
心血管疾患の既往がなく、
糖尿病など高血圧以外の1つ以上のリスクを持つ対象を、
スタチンであるプラバスタチン(1日40ミリグラムという高用量)と、
主治医に任せる形の通常治療とに分け、
その経過を観察しています。

このデータのうち、
今回は年齢を65歳以上に絞って解析を行っています。
トータルは対象者は2867名です。

その結果、
65歳以上全体での試験開始後6年の時点での総死亡のリスクは、
スタチン未使用と比較して、
スタチン使用群では1.18倍(95%CI;0.97から1.42)、
年齢65から74歳では1.08倍(95%CI;0.85から1.37)、
年齢75歳以上では1.34倍(95%Ci;0.98から1.84)となっていました。

これはスタチンを一次予防として使用しても、
65歳以上の年齢層では有意な総死亡のリスクの低下は認められず、
75歳以上に限定すると有意ではないものの、
スタチンを使用した方が、
総死亡のリスクが高い傾向がある、
ということを示しています。

そして、心血管疾患の発症リスクについても、
65歳以上の年齢層においては、
スタチンの使用と未使用との間で、
有意な差は認められませんでした。

つまり、今回のデータからは、
65歳以上の年齢層ではスタチンを使用しても、
心血管疾患の一次予防効果は明確には認められず、
特に75歳以上においては、
生命予後を悪化させる可能性も否定は出来ない、
ということになります。

ただ、これは単独の臨床試験の結果を二次解析したもので、
スタチンもプラバスタチン(商品名メバロチンなど)という、
古いスタチンが使用されています。
心血管疾患のリスクも、
10年リスクを算出するような方法ではなく、
糖尿病などのリスクが1つ以上ある、
というようなやや大雑把な方法を取っています。

従って、これをもって65歳以上におけるスタチンの一次予防は不可、
というようには言い切れないと思うのですが、
少なくとも75歳以上の年齢層において、
スタチンによる心血管疾患の一次予防を行う場合には、
個別のリスクを勘案した、
より慎重な姿勢が必要であることは、
間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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