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ほりぶん「得て(再演)」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日最後の記事は演劇の話題です。

それがこちら。
得て.jpg
ナカゴーの怪人鎌田順也さんと、
はえぎわの川上友里さんと墨井鯨子さんがタッグを組んで、
鎌田さんの作・演出に、
川上さんと墨井さんにゲストを加え、
毎回ワンピースの女性しか登場しないというユニット、
「ほりぶん」の第3回公演が、
阿佐ヶ谷の駅近くの地下の小劇場で上演中です。

ナカゴー関連の作品は最近人気があり、
今回も満席の盛況でした。

これは第2回公演の再演で、
前回はクリニックの開院直後でバタバタしていて観ていません。
第1回公演は足を運んだのですが、
作品的にはナカゴーで上演しているものとは、
少し違う傾向を狙っていて、
やや練り込み不足で不発に終わっていました。

今回の作品は再演ということもあるのだと思いますが、
オープニングの何気ない遣り取りから、
非常に精度高く練り込まれていて、
4人の役者さんも手練れが揃っており、
アンサンブルの良いので非常に楽しめました。

一種のホラーですが、
怖くて馬鹿馬鹿しくて、間抜けで、
それでいて過剰な熱気が舞台に横溢する70分で、
鎌田ワールドを堪能出来る快作でした。

物語としては掴みと中段の異様な盛り上がりは文句ないのですが、
ラストがいつも停滞気味になるのが鎌田さんの劇作の1つの欠点で、
それは今回も変わりはありませんでしたが、
とてつもない才能ですし、
いつかとてつもない演劇史上に残る大傑作が、
生まれるような予感が漂っています。

いつもは公共の視聴覚室みたいなところでの公演が多く、
雰囲気が全く演劇感がないのが残念でしたが、
今回は如何にもアングラ小劇場というタイプの小屋で、
こういう方が絶対いいよね、
というように思いました。
また、いつもはかなり無雑作な感じのある演出なのですが、
今回はメインとなる映像もしっかり作り込まれていますし、
統一感のある衣装と、
音効や照明もそれなりに「普通」に使用していて、
かなりクオリティの高い舞台になっていました。

鎌田さんの作品は、
初演は時間不足の感じがするものも多いので、
再演が良いな、という思いもしました。

以下ネタバレを含む感想です。

上田遥さん演じる遠山先輩と、
墨井鯨子さん演じる権代、
そして川上友里さん演じる大庭さんは、
仲良しの30代で、
ケンタッキーのスタッフとして働いていたのですが、
3人で旅行に行ったタイで、
ふざけていて墨井さんに押された川上さんは、
転んだ拍子に毒蛇に噛まれて死んでしまいます。

それから1年後に、
別のケンタッキーの店で働く、
青山祥子さん演じる出立さんという女性が、
上田さんと墨井さんの元を訪ねて来ます。

彼女は川上さんが付き合っていた店長を寝取って、
それを川上さんに目撃されるという、
修羅場を演じた人なのですが、
その後川上さんと和解して友達になり、
死ぬ前に川上さんから預かった、
ビデオテープを持って来た、
と言うのです。

墨井さんが自分が押したために、
川上さんが死んだのだと自責の念に駆られています。
出立さんは川上さんが本当は自分を許していないのではないか、
という疑念に駆られています。
そんな中でビデオが再生されるのですが、
ご想像の通り、
それは川上さんの怨念が籠った呪いのビデオで、
4人の女の罵り合いと、
阿鼻叫喚の地獄絵図がそこから始まることになるのです。

ラストは鯨井さんと出立さんは呪い殺されて、
あちらの世界の住人となり、
上田さんだけが取り残されて終わります。

前半にケンタッキーという実名を出して、
ファストフード業界の人間関係を、
面白おかしく綴るのは、
鎌田さんのいつものパターンです。

後半呪いのビデオが登場してからは、
「リング」のパロディになる訳ですが、
川上さんが登場するビデオ映像が、
非常に上手く作り込まれているので、
生身の3人との大暴れが新鮮味があって楽しいですし、
最後には満を持して川上さん本人も舞台に召喚されます。

今回はストーリーそのもののはじけっぷりよりも、
4人の手練れの役者さんの演技合戦と、
ビデオ画像を含めた緻密な演出に妙味があります。
クライマックスのいつもの大暴れも楽しく、
ナカゴーワールドを堪能出来ましたし、
次もまたとても楽しみになりました。

こういうものがあるので、
小劇場巡りはなかなか止められません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「クーリンチェ少年殺人事件」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事はまた映画の話題です。

それがこちら。
クーリンツェ少年殺人事件.jpg
台湾映画の歴史的傑作と言われる、
「クーリンチェ少年殺人事件」が、
25年ぶりにフィルムをデジタル化して修復し、
今再公開されています。

封切りの1991年頃は僕が一番映画を観ていなかった時期で、
この作品の初公開版も観ていません。
封切りは188分であったそうですが、
その後236分というより長尺のバージョンが公開され、
今回公開されているのもその236分版です。

これは1961年の台湾を舞台にして、
第二次大戦後に中国本土から台湾に渡って来た一家が、
閉鎖的で抑圧的な環境と、
不運な偶然などから苦境に陥る物語です。

主人公はその一家の次男の高校生の少年で、
受験の失敗から不良高校生達との抗争に巻き込まれ、
曰くのある少女との淡い恋も無残な結末に至ります。

名作だとは確かに思いますが、
ほぼ4時間の上映時間で休憩なしというのは、
映画館で観る映画としては正直きついと思います。
僕が鑑賞した回は満席で、
上映時間中1人も途中でトイレに行く人はいませんでした。

皆さんさすがだなあとは思いますが、
僕自身ドキドキしてしまって、
まだまだ終わらないだろうなあ、
などと思うと、
あまり作品の世界に集中することは出来ませんでした。

僕は最初の188分版は観ていないのですが、
この内容で3時間8分というのは妥当な長さという気がしますし、
これなら休憩なしでも良いと思います。

今回の236分版はかなり編集はゆるい感じで、
1つ1つの場面のお尻は長過ぎると思います。
幾つかの山場があるのですが、
そこに向けて盛り上がるという編集にはなっていないので、
何となくモヤモヤしてしまいます。
「ニュー・シネマ・パラダイス」の時も、
結局最初の短縮版が一番観易く素直に感動出来て、
後から登場した長尺版は、
これが本当であるのは分かっても、
何かモヤモヤしてしまったのと同じような気分です。

今度是非188分版を観てみたいな、
というように思いました。
娯楽作品としては4時間休憩なしというのは、
成立はしていませんよね。
以前「旅芸人の記録」を観た時も、
トイレが気になって集中は出来ませんでした。

個人的には映画というのは、
特別な場合でなければ最初に公開されたバージョンが、
監督は不満であっても一番良いことが多いようです。

それでは次の記事に続きます。
今度は演劇です。

「ムーンライト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ムーンライト.jpg
昨年の米アカデミー作品賞を受賞した、
「ムーンライト」を封切り初日に観て来ました。

最近のアカデミー作品賞の受賞作は、
あまり好みに合わないことが多いのですが、
この作品は繊細で詩情に溢れた素敵な映画で、
最近の受賞作の中では個人的には一番好きです。

黒人でゲイで麻薬の売人で、
唯一の肉親の母親は麻薬中毒という、
かなり凄まじい設定の主人公の、
少年期と思春期と青年期とを、
それぞれ別の俳優が演じて、
3つのオムニバスのように構成されています。

話はかなり殺伐としてドロドロした部分があるのですが、
一番暴力的な部分は、
3つのエピソードの間の時間にあって、
語られていないという構成がユニークで、
それでいて物足りなさは不思議と感じません。
それは語るべきことがしっかりと語られているからで、
むしろ省略の部分に、
「取返しのつかない何かが終わったしまった」
という情感が滲み出て、
それが観客の心に深い余韻を残すのです。

これまでのアメリカ映画の感動のさせ方とは、
ちょっと違う感じがあり、
ウォン・カーウェイにも似た感じがありますし、
初期の北野武映画に近いような感じもあります。
そうした映画がお好きな方には、
是非観て頂きたいと思います。

主な舞台はマイアミですが、
その乾いた空気感のようなものが、
リアルに肌触りとして感じられます。
それに対比されているのが、
主人公が恋焦がれる象徴としての「海」で、
少年時代の主人公が、
薬の売人の男と一緒に海に入る場面が、
観客まで一緒に水に触れているような、
体感的な描写で素晴らしく、
その後は洗面台の冷水でしか、
主人公は水と触れることがないのですが、
最後に恋人の胸の中で、
少年時代の姿の主人公は、
静かに月光の輝く海に帰って来るのです。

とても素敵なラストでした。

主人公を演じた3人はいずれも素晴らしく、
決して似たビジュアルではないのですが、
巧みな編集は観客を混乱させることがありませんし、
ちょっとした仕草や表情が、
確かに同一人物であることを感じさせるのが上手いと思います。
少年時代の主人公の庇護者であった薬の売人を演じた、
マハーシャラ・アリがアカデミーの助演男優賞を取っていて、
出番は短いのですが、
確かに印象的な演技です。
どうしようもない母親を3つの時代全てで演じたナオミ・ハリスも、
マハーシャラ・アリに劣らぬ名演でした。

映像はシネスコの画面を活かした、
体感的な描写や空気感が素晴らしく、
技巧的なワンカットや、
MV的なカットもあるのですが、
正攻法の描写と遊びの部分が綺麗に融合しています。
如何にも黒人映画という感じの音効も素敵でした。

そんな訳で非常にクオリティの高い、
繊細で情感に溢れた素敵な映画で、
それほど長くもありませんし、
是非にお勧めしたいと思います。
清涼感のあるスッキリとした後味は、
最近の映画ではあまり感じられない性質のものだと思います。

それでは次の記事に続きます。
もう1本映画、それから演劇です。
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