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歌舞伎座三月大歌舞伎(2017年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が診療を担当する予定です。

4月1日(土)の午後は休診となりますのでご注意下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
3月大歌舞伎.jpg
三月の歌舞伎座に足を運びました。
眼目は海老蔵の「助六」です。

歌舞伎には非常に多くのレパートリーがありますが、
その中でも「助六」はかなり特殊な性質のものです。

小山内薫は明治時代に、
「自分はこの芝居を見ると、
祖先の社会を眼前に見る様な心持がして、
身内の江戸っ子ブラッドが躍るようである」
と書いています。
谷崎潤一郎も確か、
似たような趣旨のことを何処かに書いていました。

明治時代と言えば、
江戸時代はつい先刻のことですから、
そうした感慨を当時の人が持っていたというのは、
今では少し不思議な思いもしますが、
幕末と江戸の最盛期とはまた別個のもので、
明治時代に既に、
江戸の最盛期の息吹を感じさせる歌舞伎劇は、
この「助六」の他にはなかったことが分かります。

助六という狂言は、
二代目の團十郎が助六を演じた、
正徳3年(1713年)の「花館愛護桜」に始まり、
3年後には「式例和曾我」という別の台本で、
同じ助六を團十郎が再演しています。

元禄時代に京都で助六という商人と、
揚巻という女郎との心中事件があり、
それがそもそもの始まりになっていますが、
「花館愛護桜」では、
男伊達という喧嘩が強く男振りの良い男として、
主人公の助六が描かれ、
揚巻との逢引きを、
意久という敵役が邪魔する、
という現在の助六にも通じる基本的なプロットが、
確立されています。

それが、
次の「式例和曾我」になると、
助六は実は曾我五郎という、
他の狂言の復讐を遂げる兄弟キャラに姿を変え、
その設定も現代に受け継がれています。

このように、
助六というキャラは同じでも、
上演の度毎に、
そのストーリー自体は変更したり、
その時代や設定を変えたりするのが、
歌舞伎の狂言の特徴の1つです。

現在上演されている「助六由縁江戸桜」は、
現行の歌舞伎の演目の中では、
非常に特殊な作品です。

歌舞伎は元禄時代に始まったとされますが、
元禄歌舞伎がそのままの形で、
今上演されているという訳ではなく、
今上演されている歌舞伎の演目の殆どは、
主に幕末期か明治になってから、
整理されたり修正されたりしたものです。

「忠臣蔵」など本格的な歌舞伎の代表のように言われる、
義太夫狂言と呼ばれるものは、
元々原作は文楽で、
原作の台詞自体は江戸期のものですが、
歌舞伎としての台本や現行の演出自体は、
これも主に明治以降に整理されたものです。

その中ではこの助六は、
元の台本は元禄期から間もない頃に整理されていて、
そこに書かれた台詞の多くは、
江戸中期の安永期に書かれたものです。
しかも文楽ではなく、
純然たる歌舞伎台本です。

その意味でこの助六は、
現代上演が継続されている演目の中では、
最も濃厚に、
江戸歌舞伎の匂いを残しているものなのです。

この作品は歌舞伎十八番の1つとして、
團十郎の成田屋の家の藝とされています。

歌舞伎十八番と銘打たれている狂言の中でも、
「勧進帳」などは現行の作品は明治になって成立したものですし、
時間も手頃で上演頻度も高く、
團十郎以外の役者も、
主役の弁慶を演じています。
むしろ成田屋以外の上演の方が多いのです。

しかし、
唯一この「助六」は、
他の役者も助六を演じはしますが、
團十郎が演じる「助六」こそが、
本物とされていて、
團十郎以外による上演はあまりありません。

更には襲名披露や杮落としなどの、
特別なハレの興業でのみ上演され、
通常の上演自体があまりありません。

その理由の1つは、
助六の狂言は現行の台本でも、
休憩なしで上演時間は2時間を優に超え
(今回の上演は2時間で少し短縮版です)、
登場人物も非常に多く、
端役に至るまで幹部級の俳優が務めることが、
定例化しているので、
通常の興業で上演することが、
非常に困難である、
ということにあります。

従って、
「助六」が上演される、
と言うこと自体が、
歌舞伎にとっては特別のイベントなのであり、
その舞台の緊張感が、
劇場自体を特殊な祝祭空間に変える、
というところに、
「助六」の得難い魅力があります。

今回の上演は、
海老蔵も本公演で7回目くらいになりますから、
これまで以上に血肉の通った助六を期待しました。

ただ、実際には僕が観た初日から3日目くらいの舞台は、
あまり胸躍るものではありませんでした。

まずキャストが弱いと感じました。
大舞台での本役と言えるのは、
意休の左團次と白酒売の菊五郎くらい。

立女形は今本当に乏しいので仕方がないのですが、
雀右衛門(僕は芝雀の方がしっくり来ます)の揚巻は弱いですし、
華やかさがありません。
くわんべら門兵衛に歌六も如何にも弱くて、
どうして幸四郎が出てくれなかったのだろう、
という感じです。
通人に亀三郎というのも、
盛り上がりませんでしたし、
遊びもあまりなくガッカリしました。

何より助六の海老蔵に迫力がなく、
台詞も弾みませんし、
形も決まりません。
多分色々とお疲れだと思うので、
仕方がないとは思うのですが、
今回は正直とてもガッカリの低レベルの助六でした。

その一方で同時に上演された「引窓」は、
久しぶりに重厚な義太夫狂言を観たな、
と言う思いで、
僕はあまり高麗屋は好きではないのですが、
今回の幸四郎は悪くないと感じました。

そうは言っても矢張り「助六」は特別なので、
また上演があれば、
1回は観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

キスペプチンとその不思議 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
キスペプチンと性衝動.jpg
今年のThe Journal of Clinical Investigation誌に掲載された、
キスペプチンという脳ホルモンと、
大脳辺縁系の働きについての論文です。

最近脳視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌に、
大きく関連するもう1つの物質として、
キスペプチン(KISSI)が新しい話題となっています。

キスペプチンは54個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、
視床下部や大脳辺縁系などの神経細胞から、
産生される神経ペプチドです。

発見は1996年で、
ペンシルバニア大学のグループがその遺伝子を発見し、
当初は癌抑制能を持つ遺伝子と考えられました。
キス・チョコレートで有名な工場がそばにあったことなどから、
Kiss1遺伝子と命名されたのです。
2001年には別個に日本の研究者が、
癌抑制作用を持つペプチドを発見し、
メタスタチンと命名しましたが、
それがKiss1遺伝子がコードするペプチドであることが、
その後判明します。

それからキスペプチンの遺伝子がないと、
思春期が来ないことなどが報告され、
キスペプチンは生殖と関連のある脳ホルモンであることが、
徐々に明らかになって来たのです。

女性ホルモンの分泌には幾つかの謎がありました。

普通ホルモンはネガティブ・フィードバックと言って、
刺激ホルモンにより刺激されたホルモンが増加すれば、
それにより刺激ホルモンは逆に抑制される仕組みで調節されています。
しかし、女性ホルモンに関しては、
そのネガティブ・フィードバック以外に、
高度にホルモンが増加すると、
それが更に刺激ホルモンを刺激するという、
ポジティブ・フィードバックの仕組みも兼ね備えています。
何故このような仕組みが成立しているのかは謎でした。
また、女性ホルモンの最も高次での調節をしている、
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は、
パルスのように間欠的に放出されているのですが、
その調節の仕組みも謎でした。

実はこの2つの謎の答えに、
キスペプチンが大きく関わっていることが明らかになったのです。

こちらをご覧下さい。
キスペプチンの作用の図.jpg
2003年の海外文献を翻訳した解析記事からの引用ですが、
キスペプチンの分泌様式を図示したものです。

キスペプチンは、
前腹側室周囲核から内側視床前野の部分と、
視床下部弓状核の部分の2か所の神経細胞から分泌され、
それぞれ異なる役割を果たしながら、
交互に関連を持っています。

女性ホルモンであるエストロゲンによって、
視床下部弓状核からのキスペプチン分泌は抑制されます。
これはネガティブ・フィードバックです。
一方で前腹側室周囲核から内側視床前野においては、
エストロゲンにより更にキスペプチン分泌が促進するという、
ポジティブ・フィードバックが成立しています。

キスペプチン分泌細胞は、
神経伝達物質であるダイノルフィン(オピオイドの一種)と、
ニューロキニンBという2種類のペプチドも、
分泌していることが分かっていて、
キスペプチン細胞がニューロキニンBの作用により活性化し、
少し遅れて出るダイノルフィンにより抑制される、
というサイクルを繰り返します。
それより分泌されるキスペプチンも脈動的になり、
それがGnRH分泌細胞を刺激することで、
GnRHのパルス状の分泌が行われているのです。

つまり、GnRH分泌細胞がその特有のパルス様分泌の主体ではなく、
それは実はキスペプチン細胞の性質であったのです。

今回ご紹介する論文は、
このキスペプチンが性欲や性衝動にも関連している、
大脳辺縁系にも発現していて、
それが性衝動のコントロールをしているのではないか、
という仮説の元に、
29名のボランティアの異性に性欲を感じる男性に、
キスペプチンを75分間持続的に注射し、
性欲を促すような写真や、
男女の幸せな結びつきを示す画像、
更には非常にネガティブな感情を刺激する画像などを見せて、
その時の大脳辺縁系の神経活動を、
偽薬の注射と比較して、
機能性MRIで解析しています。

その結果、
他の画像では得られなかった大脳辺縁系の神経活動の亢進が、
キスペプチンを注射した際の、
性的な画像や男女の結び付きの画像で惹起され、
偽薬ではそうした反応は見られませんでした。
またネガティブなイメージ画像を見せた際には、
キスペプチンの注射で前頭葉が興奮し、
ネガティブな感情が打ち消されていることが示唆されました。

要するにキスペプチン産生細胞は、
一種の脳内麻薬を産生し、
性欲による興奮や性衝動に関わっています。
ただ、その性欲は性交渉と切り離した、
男女の結び付き自体も求める方向に働いていて、
性的なパートナーを求め、
その相手を一緒に生活することで、
感情的な安定と充足を得るという一連の流れが、
脳の中にすでに用意されていることを、
示唆してもいるのです。

まあ、こうした少人数の脳の機能に関わる研究は、
結果がその後否定されることも多いので、
今の時点では話半分で受け取った方が良いように思いますが、
生殖と性欲と人生の充足、
また今日は触れませんでしたが、
肥満などの代謝とも結びついた機能を持つキスペプチンは、
今後生殖や内分泌のトレンドとして、
多くの知見を生み出すことは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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降圧剤(レニン・アンジオテンシン抑制薬)によるクレアチニン上昇について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ARBとクレアチニン.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
血圧の薬による腎機能低下のリスクについての論文です。

ACE阻害剤とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、
カルシウム拮抗薬と共に、
最も広く使用されている血圧降下剤です。

カルシウム拮抗薬と比較すると、
腎臓保護作用などの臓器保護作用があることが、
ACE阻害剤やARBの利点であると考えられています。
こうした薬の主な作用は、
アンジオテンシンⅡという物質の働きを抑制することで、
アンジオテンシンⅡは腎臓から出る輸出細動脈を収縮させて、
腎臓の糸球体の圧力を上げ、
それが高血圧による腎機能低下の、
主な原因だと考えられているからです。

ACE阻害剤やARBを使用することにより、
輸出細動脈が拡張するので糸球体の内圧が低下し、
高血圧による腎機能の低下を予防することが期待出来るのです。

ところが…

ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
腎機能が比較的急激に低下することがあることが知られています。

これは薬剤の臨床試験の時には、
ごく僅かな頻度でしかなかった有害事象でしたが、
実際の臨床で薬を使うようになると、
その報告は急増して大きな問題となったのです。

何故、腎保護作用のある薬で、
腎臓が悪くなるようなことが起こるのでしょうか?

一応次のように考えられています。

高齢者などで見た目より実際には腎機能が低下していて、
腎臓の糸球体の血流量が低下しているようなケースでは、
輸出細動脈が広がることにより、
更に腎血流が低下して、
血流低下による腎障害を来しやすくなるのです。
こうした薬の腎保護作用は、
高血圧で糸球体の圧力が高いことが前提になっているのですが、
実臨床では意外にそうでないケースがある、
ということかも知れません。

更には利尿剤を併用していて脱水があったり、
それ自体腎血流低下作用のある消炎鎮痛剤
(ロキソニンなどの痛み止めなど)を使用していると、
相乗効果でそのリスクが高まると想定されます。

そこで現行のイギリスのガイドラインにおいては、
ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
腎機能の指標であるクレアチニンの数値が、
30%以上増加した場合には、
薬の中止を検討するべき、
という方針が示されています。

こうした方針があると、
クレアチニンが30%上がらなければ、
少し上がっても問題はないようにも読めますが、
その根拠はそれほど明確なものではありません。

そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データを活用して、
ACE阻害剤もしくはARBの使用後、
2か月以内に測定されたクレアチニン値の変化と、
その後の腎障害の進行などとの関連を検証しています。

対象となっているのは、
ACE阻害剤もしくはARBを開始した患者、
トータル122363名で、
このうち1.7%に当たる2078名では、
血液のクレアチニン値が開始後に30%以上増加していました。
30%以上クレアチニンが上昇するのは、
女性、高齢者、心血管疾患罹患者、
非ステロイド系消炎鎮痛剤やループ利尿剤、
カリウム保持性の利尿剤(スピロノラクトンなど)の使用者に、
多く認められました。

そして、クレアチニン値が30%以上増加した患者は、
そうでない患者と比較して、
末期腎不全になるリスクが3.43倍(95%CI;2.40から4.91)、
心筋梗塞になるリスクが1.46倍(95%CI;1.16から1.84)、
心不全になるリスクが1.37倍(95%CI;1.14から1.65)、
総死亡のリスクが1.84倍(95%CI;1.65から2.05)、
それぞれ有意に増加していました。

ただ、クレアチニンの増加率を、
もう少し細かく検証すると、
末期腎不全になるリスクは、
クレアチニンの増加が10%未満と比較した場合に、
10から19%の増加でも1.73倍(95%CI;1.41から2.13)、
20から29%の増加でも2.58倍(95%CI;1.87から3.56)、
と増加していて、
総死亡のリスクも同様に、
10から19%の増加でも1.15倍(95%CI;1.09から1.22)、
20から29%の増加でも1.35倍(95%CI;1.23から1.49)、
と有意に増加が認められました。

つまり、
クレアチニン濃度が使用前の30%増加で線引きをすることには、
一定の意味はあるのですが、
実際にはそれより軽度の増加でも、
腎不全や総死亡のリスクには差が付いていて、
軽度の増加であれば問題ない、
というようにも言い切れません。

いずれにしても、
ACE阻害剤やARBを使用する際には、
使用開始後2か月以内に、
一度は必ずクレアチニンを測定し、
10%を超える上昇傾向が認められた場合には、
薬剤の中止を含めた検証が、
必要だと考えられます。
特に高齢の女性であったり、
消炎鎮痛剤を継続的に使用していたり、
利尿剤と併用している患者さんでは、
よりリスクが高いと考えて、
慎重に使用する必要があります。

一時期には、
ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
一時的に上昇するクレアチニンは問題ではない、
というような見解が、
専門の先生から示されていたことが、
あったようにも記憶しているのですが、
今回の検証などを見る限り、
そうした考え方は危険であるように思われます。

ACE阻害剤やARB(特にACE阻害剤)が、
血圧のコントロールや心疾患の管理において、
非常に有用性の高い薬剤であることは間違いがありませんが、
以前想定していたよりその腎機能に与える影響は大きく、
腎機能が低下した場合の予後に与える影響も大きいので、
その点には慎重な判断が必要なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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糖尿病による認知症リスクの増加とその他のリスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病と認知症リスク.jpg
今年のAlzheimer's Research & Therapy誌に掲載された、
認知症と生活習慣病との関連についての論文です。

認知症の原因は、
まだ完全に解明をされている訳ではありませんが、
動脈硬化が明確な原因となる脳血管性認知症以外の認知症においても、
糖尿病や高血圧、脂質異常症が認知症の発症のリスクになる、
と言う点については多くの疫学データにより確認されています。

ただ、
2型糖尿病のベースには多くの場合インスリン抵抗性があり、
インスリン抵抗性と脂質異常症、高血圧症は相互に関連があります。
単純に考えても糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧と脂質異常症の合併がありますから、
この3つの病態は完全に独立したものとは言えません。

ややこしいことに、
高コレステロール値症の治療薬であるスタチンは、
新規糖尿病のリスクを軽度ながら増加させます。

これまでに個別の病態と認知症リスクとの関連については、
多くの疫学データがありますが、
糖尿病の患者さんが脂質異常症を合併している場合と、
そうでない場合とでどのくらい認知症のリスクが変わるのか、
というような相互の関連については、
あまり大規模な検討がありませんでした。

そこで今回の研究は台湾において、
健康保険の医療データを解析することにより、
2000年から2002年に新規に糖尿病と診断された10316名と、
41246名の非糖尿病の集団を比較して、
糖尿病と高血圧、脂質異常症の、
認知症の発症に関わるリスクを検証しています。
経過観察は2009年まで行われていて、
年齢は20歳から99歳が登録時に対象となっています。

その結果…

糖尿病群においては333件の認知症が診断されていて、
非糖尿病群と比較して年齢や他の心血管疾患などの因子を補正して上で、
認知症のリスクは1.47倍(95%CI; 1.30から1.67)、
有意に増加していました。

そして、糖尿病の患者さんが、
その後に高血圧や脂質異常症を合併しても、
認知症のリスクは有意には増加しませんでした。

脂質異常症を糖尿病に合併すると、
その後の認知症リスクは有意ではないものの、
むしろ低くなり、
スタチンを継続使用している患者さんでは、
認知症リスクは有意に低下していました。
一方でスタチンを未使用の患者さんのみで解析すると、
脂質異常症を合併した方が、
認知症リスクは有意に低下していました。

一方で糖尿病のない群では、
高血圧があることにより認知症のリスクは、
ない場合と比較して1.22倍(95%CI:1.05から1.40)となり、
脂質異常症があることにより、
1.22倍(95%CI;1.05から1.40)とそれぞれ有意に増加していました。
両者を合併した場合の認知症リスクは、
1.33倍(95%CI;1.09から1.63)とこれも有意に増加していました。

つまり、
糖尿病が生活習慣病としては、
最も大きな認知症のリスクになり、
そこに高血圧や脂質異常症が合併しても、
認知症のリスクという面では、
それほど大きな影響を与えるものではない、
という結果になっています。
サブ解析なので何処まで意味を持つものかは分かりませんが、
糖尿病の患者さんでコレステロールの高いことは、
むしろ認知症のリスクを低下させていて、
その一方でスタチンを使用することにより、
認知症は予防されていました。

ただし、
今回のデータは健康保険の記録を解析しただけのものなので、
患者さんへの治療もまちまちで、
その影響もスタチン以外にも想定され、
観察期間も認知症の発症を見るという意味では、
10年未満というのは短いと思います。

また、何より認知症はひとまとめにされていて、
その多くはアルツハイマー型であると推測される、
というような記述はあるものの、
脳血管性認知症とそうでない認知症においては、
発症リスクには大きな差がある筈で、
その点の検証がないという点も大きな問題だと思います。

その意味で、
ネットで紹介をされる方がいたので読んでみたのですが、
あまりそのまま鵜呑みに出来るようなデータではない、
という印象を持ちました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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美容院脳卒中症候群について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
美容院脳卒中症候群.jpg
これは1993年のJAMA誌のレターですが、
美容院での洗髪後に、
脳卒中を来した主に高齢の女性の症例を、
5例まとめて紹介したものです。

美容院で髪を洗う時に、
首の後ろにシンクを置いて、
首を大きく後ろのそらせるような姿勢をとりますね。

この時に首が過伸展して、
首の骨の中を走行している、
椎骨動脈という頸動脈が屈曲します。

その場所に何もなければそれまでのことなのですが、
動脈硬化が進行していて、
血管が固くなっていたり、
血管に傷がついていたりすると、
その場所の血流が一時的に遮断されたり、
その周辺にあった血栓が、
脳へと飛んで詰まるという可能性が否定出来ません。

椎骨動脈はまた、
脳動脈解離が起こりやすい部位としても知られています。
生まれつき血管に弱い場所があったり、
首に強い衝撃を受けたりすると、
その部分の血管が裂けて、
血管が詰まったり、
その部位の血栓が脳に飛んで梗塞を起こす、
ということも報告されています。

端的に言えば、
首を強く後ろにそらせるだけで、
一時的に脳への血流の一部が遮断され、
意識消失やめまいが起こる可能性は、
誰にでもあるのです。
この症状は年齢に関わらず起こりうるのですが、
首の血管の動脈硬化が進行していれば、
より屈曲による影響が大きくなります。
ただ、症状が基本的には一過性です。

それを図示したものがこちらになります。
2006年のCerebrovasc. Dis誌の1例報告から取ったものです。
美容院脳卒中症候群の図.jpg
これは割と分かりやすい図ですよね。
矢印の部分が圧迫されるのです。

一方で椎骨動脈に生まれつき弱い部分があったり、
動脈硬化で脆くなった血管に傷が付いたりすると、
椎骨動脈解離が進展刺激に伴って起こる可能性があり、
その場合は一時的ではなく持続的な血管の閉塞が生じたり、
その部位の血栓が飛んで、
脳卒中を起こすリスクが高くなります。

こうした現象の最初の報告は1992年のNeurology誌に発表されていて、
美容院脳卒中症候群(Beauty Parlor Stroke Syndrome)という名称も、
そこで初めて登場しています。
これは2例の報告で、
いずれも高齢の女性が美容院の洗髪後に、
脳梗塞の症状を来した、というものです。

上記のJAMA誌のレターはそれに続くもので、
今度は5例の報告がまとめられています。
そのうちの4例は75歳以上の女性ですが、
もう1例は54歳という若い女性です。

高齢者の1例は元々椎骨動脈の血流に問題があり、
過伸展により一時的な閉塞を来したもので、
12時間くらいの経過で後遺症なく元に戻っています。
しかし、それ以外の事例は実際に脳梗塞を発症していて、
症状も完全には改善しないまま後遺症として残っています。

54歳の事例も脳梗塞の症例で、
おそらくは体質的な椎骨動脈の解離が、
元にあったものと推測されます。

この問題では昨年の暮にイギリスで、
45歳の男性が洗髪の2日後に脳梗塞で倒れ、
それが洗髪時の頸部過伸展によるものだとして、
多額の賠償金が支払われた、
という事例が報道されています。

2013年にはアメリカで、
48歳の女性が洗髪時に左手足の違和感を覚え、
その1週間後に脳梗塞を起こして、
これも美容院の過失が問われています。

ただ、この2つの裁判になった事例は、
いずれも中年で高齢者ではなく、
洗髪後2日と7日と大分時間が経ってからの発症なので、
本当に洗髪時の頸部過伸展が、
脳梗塞の直接的な原因であったのかについては、
やや疑問を感じます。

典型的な美容院脳卒中症候群というのは、
首を過伸展した瞬間に、
吐き気やめまいなどの症状を強く生じ、
それからあまり時を置くことなく、
手足のしびれなどの症状が続くものだからです。

高齢者が首の過伸展によって、
一過性の脳虚血の状態になりやすいこと自体は事実です。

ただ、洗髪後の明確な脳梗塞の発症が、
どれだけ関連するものかは、
まだ科学的に実証された事実ではないと思います。

その頻度は不明ですし、
科学的な知見も、
実際には症例報告のようなものしかありません。

最近でまとまった報告としては、
2016年のInternational Journal of Strokeという医学誌に、
「Beauty parlor stroke syndrome revisited: An 11-year single-center consecutive series」
という文献が掲載されています。

これはダウンロードが有料で40ドルという高額なので、
内容もそれほど大したことはなさそうですし、
アブストラクトしか読んでいません。

これは単一施設で11年間の、
美容室訪問後に脳梗塞を来した事例を集計したものです。
母数が分かりませんが、
11年での例数は10例と報告されています。
まあ、それほど多いとは思えません。
興味深いことは頸部の過伸展による解離は2例しか確認されておらず、
心臓からの血栓が飛んだ事例も含まれています。
2例はドライヤーで髪を乾かした際の、
血圧の変動が要因ではないかと推測しています。

つまり、美容院受診後の脳梗塞の全てを、
洗髪時の頸部過伸展に結び付けるのは、
やや単純すぎるのではないかと思われます。

一般的に言って、
お風呂や水泳の後に心血管疾患の多いのと同じ理屈で、
全身、特に頸部から頭部の血流状態が、
変化しやすい美容院の施術という状態が、
こうしたことのきっかけになりやすいのであって、
美容院受診後に脳梗塞を起こしたからと言って、
それを全て美容院のせいにして賠償金というのも、
何処か歪んだ判断にようにも思えてなりません。

この問題については、
もう少し科学的な検証が、
しっかりと行われるべきではないかと思います。

ただ、くれぐれも洗髪時に首をそらせる際には、
急激ではなく様子を見ながら慎重に行うべきですし、
特に高齢の女性や心臓などの持病のある方では、
基本的に強い進展は望ましくはないと、
そう考えた方が良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


4種降圧剤少量カクテル療法の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
4 種降圧剤の治療効果.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
少量の降圧剤を複数組み合わせて使用する、
新しい治療法の効果についての論文です。

興味深い試みですが、
例数は21例と非常に少ないので、
パイロット研究とでも言うべきものです。
手法自体は厳密な方法が取られています。

高血圧の治療のガイドラインは、
カルシウム拮抗薬やACE阻害剤、利尿剤などの単剤で治療を開始し、
通常用量まで増やしても血圧がコントロールされない場合に、
別個の作用を持つ薬を組み合わせて使うことが推奨されています。

しかし、実際には単剤で高血圧症の患者さんが、
良好なコントロールに至ることは、
それほど高い確率ではありません。

また単剤でその用量を増やすと、
2倍にしても効果は2倍にはならない一方、
副作用や有害事象の頻度は高まることがしばしばあります。

これまでの降圧剤の臨床試験をまとめて解析したデータによると、
降圧剤を通常用量で使用した場合の80%の効果が、
その半分の量でも得られています。
そして、複数のメカニズムを持つ降圧剤を併用すると、
その相乗効果が得られやすいことも分かっています。

それでは、
複数の降圧剤を最初から少量ずつで併用すれば、
個々の薬剤の量は少なくても相乗効果で降圧作用は高まり、
かつ薬剤の有害事象や副作用は少なくて済むのではないでしょうか?

これは勿論逆の考え方もあるのです。

少量では効果のあるものもないままで終わる可能性があり、
複数の薬を少量ずつ使うことで、
予期せぬ副作用や有害事象が増えるという可能性もあるからです。

今回の研究はオーストラリアにおいて、
未治療で外来血圧が収縮期140mmHg以上、
拡張期血圧が90mmHg以上もしくはその両方である、
高血圧の患者さんトータル21名を、
本人にも治療者にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方は偽薬を使用し、
もう一方は4種類の降圧剤を、
通常量の4分の1量でブレンドしたカプセルを処方します。
クロスオーバー法と言って、
まず4週間の治療を行ない、
それから2週間のウォッシュアウト期間をおいて、
今度は両群を入れ替えてもう4週間の治療を行ないます。

カクテルされた4種類の降圧剤は、
ARBのイルベサルタン37.5mg、
カルシウム拮抗薬のアムロジピン1.25mg、
利尿剤のハイドロクロロチアジド6.25mg、
そしてβ遮断剤のアテノロール12.5㎎です。

これはオーストラリアの常用量の4分の1量ですが、
日本の常用量ではほぼ半量くらいです。

その結果、4種類の降圧剤の少量カクテル療法により、
4週間の治療で収縮期血圧が平均で22mmHg、
拡張期血圧は13mmHg有意に低下していました。

極めて少数例の検証なので、
これだけで4種併用療法が単剤の治療より優れているとは、
とても言い切ることは出来ませんが、
概ね単剤の治療効果より高く、
副作用や有害事象も少ない結果であることは確かで、
これまでとは発想の違う高血圧治療の選択肢として、
注目には値する知見であるようには思います。

日本では昨年11月より、
テルミサルタン80mg、アムロジピン5㎎、ヒドロクロロチアジド12.5㎎という、
日本の常用量での3剤の合剤が、
ミカトリオ配合錠という名称で販売開始されています。
この組み合わせで2から3剤の処方を受けている方であれば、
一定の利便性はあるのですが、
その一方で常用量の合剤というのは、
調節が難しく血圧低下のリスクも大きいのですから、
最近の降圧治療の考え方からすれば、
如何なものかな、とは思うところです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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地下空港「サファリング・ザ・ナイト」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

久しぶりに駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
サファリングザナイト.jpg
移動型演劇「サファリング・ザ・ナイト」を、
すみだパークスタジオで観て来ました。
上演は本日までです。
観たのは2日目でしたが、
内容の性質上早くネタバレしたり批評するのは良くないかな、
と思って本日の紹介となりました。

地下空港は劇団ではなく舞台芸術集団を名乗っていて、
伊藤靖朗さんという方が主宰です。

結構難しいことをお話になっているのですが、
2年前に1回公演を見に行って、
海の神様と人間が宝物を取り合って戦うという、
ティーンエイジャーが主人公のアニメか戦隊もののような話でした。

見ていて少し恥ずかしい感じがあり、
ちょっと僕には向いていないな、
というように感じました。
大分低い年齢層を対象としているのだな、
というようにも感じました。

今回の作品はぴあとの共同で、
アトラクション型というのか、
観客に一定の役割が与えられて、
それに沿って活動する、という形式になっています。

こういうものは嫌いではないので、
どんなものかしらと思って出かけてみました。

舞台は2045年に設定されていて、
そこはオベロンとタイタニアという2つのAIに支配されている世界です。
「火の鳥未来編」みたいな感じのあれですね。
そこで敵対する2つのAIを統合させるというような話が持ち上がり、
その会合に出席するメンバーが観客の1人1人である、
という趣向です。

チケットはオベロンとタイタニアに分かれていて、
それぞれのメンバーの1人として、
観客はまずミーティングのような場に招かれ、
そこで数人ずつのグループに分けられて、
そこにグループリーダーという役者さんが、
1人ずつついて観客を先導し案内します。

すみだパークスタジオは倉庫の連なりですが、
そのあちこちで同時多発的にドラマは展開されます。
最後は倉庫の屋上で終演となります。

スマホのアプリをダウンロードしておくと、
それが随所で活用されたりと、
色々と工夫のある公演でした。

ただ、僕の参加したのは2日目でしたが、
物凄く寒い日で、
外にいる時間が長いので、
寒くて寒くて物語に没入するようなことは出来ませんでした。

ディズニーランドやUSJのアトラクションではないので、
それほど舞台をお金をかけて作り込むことは出来ず、
壁にAIの映像を映したりはするのですが、
それがそう活躍するという感じにはなりませんし、
屋内もちょっと未来風の装飾があるくらいで、
基本的には元の倉庫のままです。

こういう性質のものは、
以前は野外劇や密室劇として、
寺山修司の天井桟敷が得意としていました。
最近ではゴキブリコンビナートの迷路密室劇が、
その作り込みの見事さで印象に残っています。

演劇の場合予算は限られているので、
大きな空間を別世界として構成することは、
基本的に無理があるのです。

それで、寺山修司は密室の完全な暗闇を、
それ自体としてセットとして利用し、
時空を超えるという幻想を表現しましたし、
野外劇ではその町の「事実」そのものを、
虚構化するという手法を取りました。
ゴキブリコンビナートも、
小空間を多層的な迷路として作り込み、
地下都市の幻想を表現しました。

その一方今回の地下空港は、
2045年の未来世界で、
周囲の風景は過去の東京をバーチャルに見せているのだ、
という趣向になっているのですが、
こういう大仕掛けな趣向は、
ディズニーランドのアトラクションなどの得意技で、
演劇ごときではどう考えても無理があると思うのです。

今回は果敢な挑戦だったとは思いますが、
矢張り無理だなあ、という感じを強く持ちました。

スマホのアプリが使用されているのですが、
ダウンロードしていない人は、
グループリーダーの役者さんのものを代わりに使用するので、
結局あってもなくても同じことになるのが、
最初から明らかなのが面白くありません。
もう少し別の工夫が必要だと思いました。

色々と文句は言いましたが、
意欲的な試みでしたし、
グループリーダーのお姉さんがなかなか魅力的で、
一緒に行動するという趣向は悪くありませんでした。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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村上春樹「騎士団長殺し」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
騎士団長殺し.jpg
村上春樹さんの新作長編小説を読みました。

村上春樹さんの小説は、
「海辺のカフカ」以前のものについては、
長編、短編、エッセイ、ノンフィクションを含めて、
一応全て出版されたものは読んでいて、
その後も「1Q84」などの長編は読んでいます。

僕の好みは一番は「羊をめぐる冒険」で、
次が「ノルウェイの森」、
そして「羊をめぐる冒険」の続編に当たる、
「ダンス、ダンス、ダンス」です。

今回の作品は「顔のない男」のプロローグが、
とても意味ありげで良く出来ていて、
その後の何かが起こるような予感だけがあって、
結局何も起こらないまま時間が過ぎてゆくような前半が、
ちょっと「ダンス、ダンス、ダンス」を思わせて、
悪くない感じです。

今回は語り口としては、
単一視点で作者を思わせるような主人公が出て来て、
妻がどうして浮気しただの何だのと、
喪失感を絡めたいつもの愚痴が連発するので、
「ああ、懐かしいなあ」という感じに囚われます。

それが中段で話が動き出すと、
話の底がとてつもなく浅くて何の工夫もないので、
「まさかこの調子で終わりになってしまうのかしら」
と読みながら不安に駆られるのですが、
結局そのまま大ガッカリで作品は終わってしまいます。

プロローグの「顔のない男」は、
確かに後半で登場するのですが、
ほんのちょっぴりの登板であまり活躍はなく、
「バイオハザードにローラが登場!」
と同じくらいのインパクトです。
プロローグにそうちゃんと繋がる訳でもなく、
単純につかみのためのオープニングだったようです。

読了後の感想としては、
結果的には「1Q84」よりかなり質が低く、
変てこりんな「色彩を持たない、多崎つくると、彼の巡礼の年」より、
読みやすいのですが内容には乏しいように感じました。

単純に出来が悪いということよりも、
村上さんの脳内劣化というか、
ひょっとしたら今の村上さんの頭の中は、
この程度のことが渦巻いているだけの荒野なのかしら、
と思うととてもつらい気持ちになりました。

村上さんと言えば、
凝ったレトリックが身上と思うのですが、
今回の作品では、
「カントが時間通りの散歩をしていて、
カントを見て村の人が時計を合わせた」
というような、
教科書に載っているような話をわざわざ出して来たりして、
何処か、おかしくなってしまわれたのだろうか、
と不安に感じるようなところもありました。

またオペラの話が結構出て来るのですが、
「ドン・ジョバンニ」にしても「薔薇の騎士」にしても、
これなら僕の方がもう少しは詳しいよ、
というくらいの知識が披露されたりしていて、
かつて村上さんの博識とディテールに、
とても感心しのめり込んでいた者としては、
その辺りもとても切なく感じました。

食事の話題も村上作品の定番ですが、
かつてはカリフラワーのソースのパスタとか、
サンドイッチとオムレツが美味しいバーなどに、
僕も食べたいなあ、お洒落だなあ、と思っていたのですが、
今回の作品でも主人公は、
パスタとサンドイッチばかりを食べているので、
それはあまりに芸がないし、
何より栄養バランスもひどいじゃないか、
と凡庸さにもガッカリしてしまいました。

以下内容にも少し踏み込みます。
未読の方はご注意下さい。

主人公は36歳の肖像画家で、
妻から一方的に別れを申し渡され、
「ノルウェーの森」のように、
東北から北海道を1人で彷徨った後で、
友人の父親で日本画の大家が暮らしていた古い小田原の家に、
1人で暮らすようになります。

その大家の画家は、
かつては洋画家であったのですが、
留学先のドイツで丁度オーストリアを併合したナチスの「悪」と対峙し、
挫折して日本に戻り日本画家に転身して成功したという経歴があり、
今は認知症で老人ホームに入っています。

家の谷を隔てた向かい側には、
免色渉という謎の大金持ちの男がいて、
彼から突然自分の肖像画を描いて欲しいという依頼を受けます。
同じ時期に家の屋根裏から、
老大家が秘密にしていた「騎士団長殺し」という絵が見つかり、
そこには日本古代の装飾で、
オペラの「ドン・ジョバンニ」の最初の場面、
ドン・ジョバンニが愛人の父親である騎士団長を殺す、
という場面が描かれています。
それから、家の外の祠から謎の鉦の音が聞こえてくる、
という怪異があり、
祠の後ろの石の塚を掘ると、
その底に石室のような空間が現れます。
これは春雨物語の「二世の縁」を元にした趣向です。

ここまではまあまあ悪い感じでもなく読み進めました。
「二世の縁」は鈴木清順監督が怪奇劇場アンバランスで撮った、
「ミイラの恋」という作品がカルトとして心に残っていて、
これは凄みのある現代怪談でした。
中に入れ子のように「二世の縁」が挟まっているのです。
村上さんが見ているのかどうかは分かりません。
「ドン・ジョバンニ」は馴染みのあるオペラで、
それほど好きな作品ではありませんが、
結構回数は聴いています。

物語の構造的には「ねじまき鳥クロニクル」に近く、
何も起こらず何かの予感だけが続く感じは、
「ダンス、ダンス、ダンス」に近いのです。

ただ、どうなるのかと思うと、
石室を開放した後で、
身長60センチくらいの騎士団長の姿をした人物が、
主人公にしか見えない幻覚として登場し、
自分はイデアである、と名乗るので、
オヤオヤという感じになります。

日本軍とナチスが過去の邪悪なものとして登場しますが、
それと対決する、という感じの話にはなりません。
その後もまったりと平坦に話は続き、
免色の娘かもしれないという少女が登場して、
その少女が姿を消す、
というのが全編のクライマックスになります。

実際にはただ免色の屋敷に忍び込んで、
数日出られなくなっただけの顛末なのですが、
主人公は騎士団長に命じられるまま、
老人ホームに老大家を見舞って、
その眼前で騎士団長を包丁で刺し殺し、
それによって異次元の扉が開くと、
メタファーの世界と言う何だか分からない世界を彷徨います。
最終的にはその旅は石室に出ておしまいで、
少女はそのまま帰って来てそれでおしまいです。

ラストになって身重の妻が戻って来て、
主人公は復縁し、
娘に何かを伝えようとするところで物語は終わります。

ラストは2011年の震災の時ということになっていて、
プロローグの意味もはっきりしませんから、
「1Q84」のように第3部があるような嫌な予感もします。

村上さんは「アンダーグラウンド」でオーム事件を描き、
それをフィクション化した試みが「1Q84」だったと思うのですが、
今回も多分2011年の震災を村上さんなりにフィクション化したい、
と言う思いがあって、
その前段としてこの作品を書いたのかな、
というようにも感じるのです。

トータルには色々な怪異が登場しますが、
「となりのトトロ」と同じように、
最終的には少女が行方不明になって、
怪異が総動員して少女を探し、
見つかるとそれで終わり、という具合になっています。

石室は「ねじまき鳥クロニクル」の井戸と同じで、
別空間への出入り口になっていて、
今回は「1Q84」と同じ病室が、
もう1つの出入り口と繋がっているという趣向です。
ただ、村上さんのこれまでの作品とも共通する特徴として、
異空間に入ってもあまり大したことは起こらず、
今回はそのイメージもかなり平凡な上に、
数日間行方不明だった少女が出て来るだけのことなので、
読んでいても脱力してしまうのです。

まあ、これまでの村上作品のエッセンスが、
色々な意味で詰まった作品であることは確かで、
その意味でとても懐かしい作品ではあるのですが、
かなり劣化して総登場するという具合になると、
かつてのファンの1人としては、
何か空しく切ない思いにとらわれてしまうのです。

毎回村上作品を読まれているファンのみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

SSRIによる先天性心疾患のリスクと遺伝子型との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SSRIと胎児奇形.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
妊娠中とその前後のSSRIの使用により、
上昇する心血管疾患のリスクが、
母体と胎児の代謝系の遺伝子変異により、
どの程度変化するのかを検証した論文です。

SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)は、
現在最も広く使用されている抗うつ剤です。

その安全性を検証する上で常に問題となることの1つは、
その妊娠中の使用における安全性です。

これまでに一部のSSRIについて、
妊娠初期における心奇形の増加と、
妊娠後期の使用により、
新生児遅延性肺高血圧症と、
新生児禁断症候群という病態が、
出産直後に生じる可能性がある、
ということが指摘されていました。

以前ご紹介したことがある、
2015年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの10カ所の医療センターのデータを活用して、
17652名の先天性の疾患を持って生まれたお子さんを、
9857名の障碍のないお子さんと比較して、
先天性の障碍と妊娠初期(3か月以内)のSSRIの使用との、
関連性を検証しています。

SSRIについては、
シタロプラム(日本未発売)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)、
フルオキセチン(日本未発売)、パロキセチン(商品名パキシル)、
そしてセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)が対象となっています。

そのベイジアン解析の結果として、
個別のSSRIと個別の胎児奇形との間で関連が認められたのは、
パロキセチンと5種類の先天性疾患との関連、
及びフルオキセチンと2種類の先天性疾患との関連のみでした。

具体的には、
パロキセチンについては、
無脳症のリスクが2.5倍、心房中核欠損のリスクが1.8倍、
右室流出路狭窄のリスクが2.4倍、
腸壁破裂リスクが2.5倍、臍帯ヘルニアのリスクが3.5倍、
それぞれ有意に増加している、
という結果でした。

フルオキセチンについては、
右室流出路狭窄のリスクが2.0倍、
頭蓋骨癒合のリスクが1.9倍と、
それぞれ有意に増加していました。

それ以外の抗うつ剤と個々の胎児奇形との間には、
明確な相関は認められませんでした。

ただ、これは必ずしも他の抗うつ剤が安全ということではなく、
使用頻度などによる影響が大きいと、
考えておいた方が良いと思います。

さて、次に問題となるのは、
お母さんやお子さんの体質的な要素が、
このSSRIによる心疾患の発症に関連しているのではないか、
ということです。

先天性心疾患と関連のある代謝異常としては、
葉酸関連の異常がよく知られています。

葉酸はビタミンBの一種で、
その名の通り、
野菜などの葉っぱに多く含まれている栄養素です。

この葉酸は補酵素と呼ばれ、
遺伝子の構成成分である、
核酸をつくる酵素の働きを助ける役目があります。

つまり、単純化して言えば、
葉酸が不足すると、
細胞分裂がスムースに行なわれなくなるのです。

特に女性の妊娠中は、
胎児の細胞分裂のために、
多くの葉酸が必要となるので、
妊娠中には通常より多くの葉酸が必要となります。

妊娠の初期に葉酸が不足すると、
神経管の閉鎖という現象が妨げられ、
先天奇形の増加することが知られています。
このために、アメリカでは1998年、
FDAの指示により、
全ての強化穀物に、
葉酸の添加が義務付けられました。

日本ではこうした措置が取られてはいないので、
葉酸の欠乏が生じ易いのではないか、
というのが1つの問題点として、
指摘されるところです。

葉酸は必須アミノ酸であるメチオニンと、
ビタミンB12の代謝にそれぞれ関連があります。

メチオニンは代謝の過程で、
不安定な中間産物である、
ホモシステインを発生させます。
このホモシステインは身体を酸化させ、
血管の細胞や神経の細胞に対する毒性を持つなど、
試験管の実験のレベルでは、
かなりの悪玉であり、
人間の病気や老化の大きな原因である、
動脈硬化や認知症の原因である神経細胞死にも、
深い関わりを持つとされています。

通常の身体の状態では、
ホモシステインはビタミンB12と葉酸との働きによって、
無害な物質に変化します。

ところが、葉酸やビタミンB12が足りないと、
ホモシステインの蓄積が起こるのです。

今回の研究においては、
葉酸の代謝に関連のある遺伝子多型と、
ホモシステインの代謝に関連のある遺伝子多型、
そしてトランススルフレーション経路といって、
ホモシステインをシステインに変換する過程に関連のある遺伝子多型を、
1180名の先天性の心疾患を持つ新生児と、
1644名の心疾患のない新生児、
そしてその母親で検査して、
SSRIの使用とお子さんの心疾患の発症とが、
遺伝子のタイプによりどのような影響を受けるのかを検証しています。

その結果、
葉酸やホモシステイン、
トランススルフレーション経路に関わる遺伝子多型により、
SSRI使用時の先天性心疾患の発症リスクが、
2から7倍程度増加することが確認されました。
このリスクの増加は母親ばかりでなく、
新生児の遺伝子多型によっても認められました。

つまり、SSRI使用時に生じる胎児の先天性心疾患のリスク増加は、
SSRIが葉酸などの代謝経路の異常を、
後押しするような形で生じている可能性が高い、
という結果です。

こうした知見を活用することにより、
SSRIのリスクが高い患者さんを振り分けたり、
そのリスクに応じて薬の適応を選択したり、
一定の予防策を講じられる可能性が生まれたことは、
意義のあることではないかと思います。

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肺炎と心不全との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心不全と肺炎との関連.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
肺炎と心不全との関連についての論文です。

肺炎というのは、
細菌やウイルスによる肺胞の炎症で、
感染症の1つですが、
日本人の死亡原因の第3位を占めていて、
特に高齢者では重症化のリスクが高いと考えられています。

肺炎は基本的には急性の病気で、
治れば特に後遺症を残すようなことは少ないと考えられます。

しかしその一方で、
1回肺炎になった人は、
その後他の病気に罹ったりする可能性が、
長期に渡って高い、
という疫学データが複数存在しています。

中でも関連が深いと思われるのが心不全です。

高齢者では肺炎をきっかけとして、
心不全が悪化するようなケースが多く報告されています。
心臓と肺とは一体として結び付いている臓器ですから、
これは当然とも言えるのですが、
その影響が数年間というような長期に渡り持続した、
というような報告もあり、
肺炎と心不全との関係は、
単純にそれだけのものでもなさそうです。

今回の研究はカナダにおいて、
複数の医療機関で心不全の既往のない肺炎の患者4988例を登録し、
年齢や性別などをマッチさせたコントロール23060例と比較して、
中央値で9.9年という長期の経過観察を行っています。

すると、
心不全の発症率は肺炎群では全体の11.9%に当たる592例に対して、
肺炎を起こしていないコントロール群では、
全体の7.4%に当たる1712例で、
肺炎を起こすとその後の心不全の発症率は、
起こしていない場合の1.61倍と有意に高くなっていました。
(95%CI;1.44から1.81)

この肺炎後の心不全の増加は、
肺炎罹患後90日でも1年以内でも高く、
10年近い観察期間を通して持続的に高くなっていました。

年齢が65歳以下においても、
肺炎後の心不全のリスクは1.98倍と有意に増加していて
(95%CI;1.55から2.53)、
65歳以上と比較すると、
勿論発症率自体は低いのですが、
その相対的なリスクの増加は、
むしろ65歳以下の方が高くなっていました。

つまり、年齢に関わらず
肺炎に罹患した後は長期に渡り、
心不全のリスクが高くなる可能性があります。

そのメカニズムは不明ですが、
肺炎後は心不全のリスクとなるような生活習慣を避け、
定期的な健康チェックを行うことが、
現状では健康を守るために、
重要なことだと言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

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