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アガリスクエンターテイメント「時をかける稽古場2.0」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
時をかける稽古場.jpg
討論型のシチュエーションコメディに異彩を放つ、
アガリスクエンターテイメントの公演に足を運びました。

今回は2014年に好評であった作品の再演で、
僕は初演は映像でしか見ていません。
人物設定などが少し異なっていましたが、
基本的な内容は初演と同じだったと思います。

小劇場の劇団が、
公演の2週間前になっても台本が全く出来ていない、
という状況で、
公演前日と入れ替わることが出来るという、
一種のタイムマシンが出現して、
如何に次の公演を実現するかというその一点で、
劇団員が大騒ぎを繰り広げるという2時間10分のドラマです。

アガリスクエンターテイメントという劇団が、
今のメンバーで上演する芝居としては、
一番無理のない設定であり内容だったと思います。
海外を舞台にしたシチュエーションコメディなども、
上演はされているのですが、
このキャストでは厳しいなあ、
と正直思うことが多く、
その点今回の作品はほぼ等身大の自分自身を演じているので、
違和感なく観ることが出来ますし、
作品世界にも入り込みやすいのです。

話し合いやエチュードを重ねながら、
丁寧に作品世界を構成したいったことが分かる内容で、
個々の役者さんの台詞は皆自分のものになっていて、
実際に稽古場に居合わせているように、
その遣り取りをリアルに感じることが出来ます。

正直なところ、
後半に少し失速する感じがあり、
トータルな完成度は後半で盛り上がりを見せる、
「紅白旗合戦」辺りと比べると落ちると思うのですが、
スタッフワークを含めたトータルな舞台の質としては、
僕が観た作品の中では、
これまでで最も高いものだったと思います。

一見の価値はある舞台としてお勧めです。

以下ネタバレを含む感想です。

発想の元ネタは、
ドラえもんの続きが描けなくなった人気漫画家のエピソードで、
タイムマシンで未来に行き、
次回の連載の載った雑誌を買って来て、
それを元にして続きを描くのですが、
それを実際に描いたのは誰なのかが分からなくなるという、
タイムパラドックスを扱った話です。
それ以外に藤子不二雄の短編の、
色々な年代の自分が会議をする話も、
参考にされているという気がします。

それを、戯曲が書けなくて本番2週間前になった、
小劇場の話に置き換えて、
台本がギリギリで出来上がった、
本番1日前と人物だけが入れ替わる、という話にして、
ちょっとひねった「ショー・マスト・ゴー・オン」の、
シチュエーションコメディに仕立てています。

前半は軽快に物語は進み、
公演直前に代役が立っているのは何故、
というようなミステリアスな部分を作って、
そこから未来の人間に現在の人間が、
次々と乗っ取られるような、
「ボディ・スナッチャー」テーマに移行する辺りが冴えていて、
これは素晴らしいじゃないか、
と感心しながら舞台を見つめました。
ここまでは最高です。

ただ、それ以降でより未来の人間が現れたりする辺りから、
少し物語が失速する感じになり、
インフルエンザで公演中止という展開には、
オヤオヤという感じで元気がなくなり、
最後もあまりキチンと物語に決着が付く、
というようにはならないので、
何かモヤモヤした終演となりました。

中段までは抜群の破壊力だっただけに、
個人的にはとても残念です。

結果的に「好きな時間を念じるとそこに行ける」
というようなご都合主義の話になっていて、
最初の公演直前と2週間前のみが入れ替わる、
という設定から、
大きく逸脱してしまったのが、
作品の求心力を弱めてしまったような気がします。

「それならもう、何でもありじゃん」
と思ってしまって、
舞台上の理屈っぽい遣り取りに、
あまり興味が持てなくなってしまうのです。

ここは矢張りワーム・ホールが1か所だけ開いている、
ということにして、
その枠組みの中で物語を展開させた方が、
より求心力のある作品に仕上がったのではないでしょうか?

作品の前半と後半とで、
この作品はテーマが変わるのですが、
そこが観客の生理と上手く一致していないという気がするのです。
台本がないから舞台が開かない、
という話が、
劇団員がインフルエンザで休んだので公演が中止になった、
という話になってしまって、
台本はどうとでもなるかのように、
後半には感じられてしまうので、
台本が出来ないというハラハラドキドキが、
消滅してしまうのが良くないと思うのです。

どちらかにテーマを絞った方が、
良かったのではないでしょうか?

この作品の良さは全編に横溢する熱気のようなもので、
ほぼ等身大の自分を演じている役者さんが皆生き生きと躍動し、
冷静に考えれば詰まらないことに、
必死で向かう姿は感動すら覚えます。
役者さんは皆好演で、
僕のひいきは凛々しい熊谷有芳さんですが、
台詞がないと悲しむ姿も楽しく、
大倉孝二さんそっくりの突っ込みボケをする津和野諒さんは、
今回に関しては抜群の脇でした。

セットもこれまでの舞台と比べると、
カッチリプロ仕様で出来ていましたし、
演出も綺麗で洒落ていました。

それだけに内容の求心力の不足には、
少し残念な思いもあったのです。

いずれにしても、
主宰の冨坂友さんが、
シチュエーション・コメディの、
稀有の書き手であることは間違いなく、
今後も期待をしつつ公演を待ちたいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

ドニゼッティ「ルチア」(2017年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ルチア.jpg
ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」が、
今新国立劇場のオペラ・パレスで上演されています。

ルチアはソプラノの超絶技巧の狂乱の場が有名なオペラで、
マリア・カラスやサザーランドなど、
これまでに多くの名ソプラノが名演の数々を残しています。

狂乱の場以外にも、
全編が聴きどころと言って良い充実した作品で、
以前はかなりカットされて短縮版での上演が多かったのですが、
最近はほぼ完全に全編を上演することが多くなりました。

今回もほぼノーカットに近い上演だったと思います。

僕は割と「ルチア」は好きな部類のオペラで、
これまでに1996年のフィレンツェ歌劇場のデヴィ―アのルチアが、
この作品の生での初体験で、
2002年に新国立劇場でルキアネッツのルチアを聴き、
2003年トリエステオペラのボンファデッリ、
2007年ドニゼッティ劇場のランカトーレ
(この2回は滅茶苦茶短縮版でした)、
2011年メトロポリタン歌劇場のダムラウ、
そして2012年の演奏会形式のデセイ様、
と結構この作品は沢山聴いています。

中ではデヴィ―アのルチアは、
その当時のベルカントのお手本のような見事な歌唱でした。
ダムラウのルチアは、正統的な解釈とは違うと思うのですが、
如何にもドイツ的で理知的な狂気の表現が面白く、
技巧もほぼ完璧でした。
2012年のマリインスキー・オペラにデセイ様がゲストで出た舞台も、
僕は何と言ってもデセイ様が一番の女神なので、
1回限りの歌声を聴けて幸せでした。
デセイ様の良い時の、
あの伸びとスピードのある超高音は、
今出せるソプラノはいないと思います。

さて、今回のルチアですが、
トータルにはなかなか頑張っていたと思います。

イタリアの若手の指揮者ですが、
母国のベルカントを、
良く理解していることの分かる演奏でした。
オケもいい感じで鳴っていました。
特に1幕(第一部)は、
凝縮力のある演奏であったと思います。
狂乱の場の掛け合いは、
フルートではなくグラスハーモニカを使用していました。
最近はその方が多いという感じです。

演出はプロジェクションマッピングを使用した、
立体的な舞台がなかなか美しく、
オープニングで岩礁に映像の波濤が轟くのも、
「おっ」と思いますし、
ラストの岬のセットも良い感じです。
狂乱の場では、
何と花婿の生首を突き刺した槍を持って、
ルチアは登場し、
幻想に酔いしれる場面では、
背後から死の泉と荒野がせり出して来ます。
ただ、狂乱の場は歌で盛り上げるのが筋ですから、
演出過多な印象はありました。
ラストではルチアの死体が登場し、
それを抱えてテノールがアリアを歌い、
そのまま岬の突端から海に身を投げようという瞬間で幕が下ります。
今時珍しいグランギニュール劇のような趣向で、
僕はこうした物が嫌いではないので印象は悪くないのですが、
音楽に合っていたかどうかと言うと、
そこは疑問も残ります。
全体に濃厚な死の匂いが全編を覆うような演出でしたが、
音楽はそこまで退廃的ではないように思うからです。
衣装も擬古典という感じで、
年代不明という雰囲気ですが、
ルチアの最初の衣装を男装にしたのは面白いと思います。
黒いヴェールの使い方も面白かったと思います。

歌手陣ではルチア役のソプラノは、
オルガ・ペレチャッコというロシアの若手で、
ビジュアルはルチアにピタリの美形ですが、
まずまずソツのない歌唱で、
及第点だけれど物足りなさは残りました。
超高音はあまり伸びのある声は出せないようです。
初日の映像を見ると、
カヴァレッタの部分がかなりのスローテンポで、
これじゃダメじゃん、と思ったのですが、
僕の聴いた20日の舞台では、
テンポはもう少し速くなっていました。
ただ、高音の決めは苦手らしく、
その前になるとかなりの安全運転でスリリングさのない歌唱になります。
テノールはボチボチ。
エンリーコのルチンスキーはなかなか良かったと思います。
ただ、いいな、と思うと頑張り過ぎて失速したりして、
やや安定感のない印象はありました。
得意な場所は頑張るけれど、
苦手な部分は声が小さくなる、というタイプです。

そんな訳で不満はありますし、
抜群という舞台ではありませんでしたが、
なかなか演出には面白い部分があり、
何より久しぶりに新国立にベルカントの風が吹いた、
という感じのある、
聴き応えのあるオペラだったと思います。

一聴の価値は間違いなくあると思います。

1つこれはあまり言いたくはないのですが、
新国立劇場は最近良い舞台が多い一方で、
観客の質はかなり悪く、
今回も狂乱の場の直前に、
正面1列目のど真ん中くらいにお掛けになっているおじさんが、
盛大に携帯を鳴らされていました。
ある意味その後の狂乱の場より、
聴く方にとっては戦慄的な体験でした。
勘弁して欲しいものだと本当に思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

食生活と生命予後との関連について(アメリカの大規模調査) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
食事内容と病気との関連.jpg
本年のJAMA誌に掲載された、
食生活と病気との関連についての論文です。

食事は健康の維持や病気の予防のために、
非常に重要であると考えられています。

ただ、加工肉が多いと健康に良くないとか、
塩分の多い食事は高血圧になる、
というようなデータは沢山あっても、
その人にとってトータルに見た時に、
健康に食事の個々のバランスが、
どの程度の影響を与えているかについての、
精度の高いデータはあまり存在していません。

今回の研究はアメリカにおいて、
NHANESと呼ばれる大規模な健康栄養調査の結果を解析することで、
食事の内容と心臓疾患、脳卒中、2型糖尿病などによる死亡リスクとの関連を、
検証しています。

トータルな対象者は16620名で、
観察期間中に506100名は心臓病のために、
128294名は脳卒中のために、
67914名は2型糖尿病のために死亡しています。

このうちの45.4%に当たる318656件の死亡は、
食事内容の偏りとの関連が認められました。
その影響が最も大きかったのはナトリウムの摂取量で、
心臓病、脳卒中、2型糖尿病などによる死亡の9.5%が、
1日2000㎎(食塩に換算して5グラム)を超える塩分を摂っていることにより、
生じた死亡と推定され、
また8.5%の死亡は、
ナッツを1日20.2グラム未満しか摂らなかったことから、
7.8%の死亡は、
EPAなどの魚由来のω3脂肪酸が1日250㎎未満であることから、
7.6%の死亡は、
野菜の摂取量が1日400グラム未満であることから、
7.5%の死亡は、
果物の摂取量が1日300グラム未満であることから、
そして7.4%の死亡は、
コーラなどの砂糖含有清涼飲料水の摂取習慣から生じていると、
推定されました。

これは逆に言えば、
塩分を控え、果物や野菜を多く摂り、
砂糖を含むジュースは飲まず、
青身魚の脂とナッツを多く摂れば、
生活習慣病による死亡をかなり減らすことが可能だ、
ということを示しています。

これは1つの推計に過ぎないものですが、
大規模で長期間の調査によって、
食事内容の偏りが、
意外に大きく心血管疾患や代謝疾患の死亡リスクに関連している、
という指摘は興味深く、
今後の食事指導や生活指導においても、
大きなインパクトを持つ調査であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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乳製品の摂取と高血圧の関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
乳製品と高血圧.jpg
本年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
乳製品の摂取と血圧との関係についての論文です。

乳製品にはカルシウムが多く含まれ、
そのため血圧には良い影響があると想定されます。
その一方で乳脂肪は動物性の脂肪ですから、
その摂り過ぎはメタボにも繋がり、
血圧にも悪影響を与える可能性があります。

これまでの疫学データにおいて、
乳製品の摂取量が多いほど、
高血圧が少なく血圧も低い、
という結果がある一方、
そうした関連は認められない、
というような結果も報告されています。

そこで今回の研究では、
乳糖分解酵素に関する遺伝子変異を、
これまでのデータを元に解析して、
その検証を行っています。
遺伝性変異のあるなしは無作為に決められているとして、
その比較を行う、
メンデル無作為化解析という手法です。

乳酸分解酵素が機能しないような変異がある場合、
乳製品を摂れば下痢になってしまうので、
乳製品は殆ど摂らないと想定されます。
この変異のあるなしは無作為に決められると想定されるので、
変異のある群とない群で比較するということは、
クジ引きで乳製品を摂る人と摂らない人とを分けて観察することと、
同じ意味があるという考え方になるのです。

今回の研究では、
これまでの遺伝子変異と病気についての、
22の臨床研究からのトータル171213名のデータを元に、
乳酸分解酵素に関わる遺伝子変異と、
高血圧及び収縮期血圧との関連を検証しています。

その結果、
乳製品の摂取に関連のある遺伝子変異と、
高血圧の発症及び収縮期血圧との間に、
有意な関係は認められませんでした。

つまり、乳製品の摂取と血圧との間には、
良くも悪くもそれほど明確な因果関係はなさそう、
という結果になっています。

乳製品と健康や病気との関連については、
色々な見解がありまだ一定はしていませんが、
高血圧に関しては、
ある程度の乳製品の摂取が、
少なくとも悪く働くということはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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抗凝固療法の質と脳梗塞の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗凝固療法と脳卒中の予後.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
心房細動不整脈に伴う脳梗塞の発症と、
その重症度に与える抗凝固療法の効果についての論文です。

心房細動という不整脈があり、
心臓内の血液の滞りにより血の塊が出来て、
それが脳に飛んで脳梗塞(脳塞栓)を起こす原因となります。
心房細動になることにより、
4から5倍脳梗塞の危険性が増すと考えられています。

その予防のために、
通常血液を固まりにくくするような薬が使用されます。

心房細動患者さんの脳梗塞予防として、
最もその有効性が確認されているのは、
ワルファリンの使用です。

しっかりとコントロールされたワルファリンの使用により、
脳梗塞は6割以上予防されると報告されています。

アスピリンなどの抗血小板剤と呼ばれる薬が、
脳梗塞予防として使用されることもありますが、
その予防効果はせいぜい2割程度で、
ワルファリンとは大きな差があります。

最近ワルファリンと同等の効果を持つとされる、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤と呼ばれる薬が、
2011年以降に日本でも使用が開始されています。
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
以前は新規抗凝固剤と呼ばれていた一連の薬剤です。

直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。

従って、脳梗塞のリスクがある程度高いと推定される場合には、
ワルファリンもしくは非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を、
使用することが国際的に推奨されています。

ただ、実際の臨床においては、
ガイドラインで推奨されている患者さんのうち、
本当にしっかりと治療をされているのはどのくらいなのでしょうか?
ワルファリンはPT-INRという数値が、
2.0から3.0を目標としてコントロールすることが求められていますが、
それも実際にはどのくらいの患者さんで達成されているのでしょうか?

どちらも意外に低い数字であるような気もします。

今回の研究はアメリカの複数施設において、
心房細動があることが判明していて、
急性の虚血性脳梗塞を起こした患者さん、
トータル94474名の治療の実際と、
脳梗塞の予後との関連を検証しています。

実臨床における非常に大規模なデータです。

その結果…

解析されている患者さんの平均年齢は79.9歳で、
57.0%が女性です。
全体の7.6%に当たる7176名は、
PT-INRが2以上のコントロールされたワルファリン治療を受けていました。
また、8.8%に当たる8290名は、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を使用していました。
一方で全体の83.6%に当たる79008名は、
ガイドラインで推奨されるような予防治療を受けてはいませんでした。
13.5%に当たる12751名は、
PT-INR2未満の不充分なワルファリン治療を受け、
39.9%に当たる37674名は、
アスピリンなどの抗血小板剤のみの治療を受け、
30.3%に当たる28583名は、
何の治療も予防のために行っていませんでした。

脳梗塞のリスクの指標であるCHA2DS2-VAScスコアが、
2以上という高リスクの91155名のみでの解析でも、
83.5%の患者さんは有効とされる抗凝固療法を受けていませんでした。

一方でNIHSSという指標で16点以上の中等度から重症の脳梗塞は、
未治療では27.1%で、抗血小板剤のみの治療では24.8%、
不充分なコントロールのワルファリンでは25.8%に見られたのに対して、
コントロールが適切なワルファリン治療では15.8%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療では17.5%で、
脳梗塞を起こした場合の重症化は、
治療が適切ではない患者さんで、
より頻度が高くなっていました。

また、入院中の死亡率も、
未治療では9.3%で、抗血小板剤単独では8.1%、
不充分なコントロールのワルファリンでは8.8%であったのに対して、
コントロールが良好なワルファリンでは6.4%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤では6.3%と、
死亡率も治療が適切である場合に有意に低くなっていました。

関連する因子を補正した結果として、
未治療の場合と比較して、
中等度から重度の脳梗塞になるリスクは、
コントロールされたワルファリン治療で44%(95%CI;0.51から0.60)、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療で35%(95%CI;0.61から0.71)、
抗血小板剤治療で12%(95%CI;0.84から0.92)、
それぞれ有意に抑制されていました。

つまり、
推奨される抗凝固療法を施行することにより、
万一脳梗塞を発症した場合でも、
その予後はより軽いものに留まっていた、
という結果になっています。

そして、心房細動においては抗凝固療法が推奨されていながら、
多くの高齢者において、
実際には不充分な治療しか行われていないか、
未治療のケースが、
脳梗塞を実際に起こした患者さんにおいては、
非常に多かった、ということも明らかになりました。

実臨床においては、
患者さんの年齢や状態、
出血系の合併症のリスクなどを重く見て、
抗凝固療法が控えられるケースが、
少なからずあるのですが、
今回の実際の臨床データを見る限り、
極力推奨される治療を行なった方が、
脳梗塞を発症したケースにおいても、
その予後には良い影響を与えることが多いと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

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マクロTSHと睡眠との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マクロTSH.jpg
今月のScientific Reports誌にウェブ掲載された、
マクロTSHについての論文です。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、
脳下垂体から分泌されて、
甲状腺を刺激し、
甲状腺ホルモンの分泌を調節しているホルモンです。

この数値が高値であると、
通常は甲状腺ホルモンの分泌が不足していることを示しています。

要するに甲状腺機能低下症です。

しかし、稀にこのTSHが高値であっても、
T3やT4という甲状腺ホルモンの数値は、
正常であるという事例が報告されています。

TSH産生下垂体腫瘍などと共に、
その稀な原因の1つと考えられているのが、
IgGという免疫グロブリンと結合したマクロTSHです。

TSHは血液中では、
通常は蛋白質とは結合しない、
遊離ホルモンという状態で存在しているのですが、
そのうちの一部が血液中で免疫グロブリンと結合して、
マクロTSH(大きさの大きなTSH)という状態になることがあります。

免疫グロブリンというのは抗体ですから、
これは要するに抗TSH抗体が、
TSHと結合してしまう、
ということを意味しています。

抗体と結合したTSHは、
甲状腺のTSH受容体とは結合出来ませんから、
結果としてTSHとしての働きを示すことが出来ません。

そのために、
TSHは上昇しているのに、
甲状腺機能は正常ということが起こるのです。

症例報告ではTSHが96.0から274という高値に上昇し、
その多くがマクロTSHであったという事例が報告されています。

それでは、
通常に分泌されるTSHと、
抗体と結合してしまうTSHとの間には、
何等かの違いがあるのでしょうか?

この点についての1つの仮説は、
通常の下垂体前葉とは少し違う周辺の脳神経細胞から、
少しだけ構造の違うTSHが分泌されていて、
それは脳内のみで作用を持っているので、
血液中では抗体に結合して不活化されるのだ、
というものです。

2014年の名古屋大学の研究者らによる報告では、
下垂体の隆起葉という組織から、
その構造の違うTSHが分泌され、
ネズミにおいては春になると、
その部位からホルモンが分泌され、
生物に季節を知らせ、
そのTSHは血液中では抗体と結合してマクロTSHになる、
という結果になっています。

非常に興味深い報告ですが、
人間でもこうした現象があるかどうかは、
現時点では分かりません。

今回の研究は兵庫医科大学において、
脂質異常症や糖尿病など、
心血管疾患のリスクのある患者さん314名を登録し、
睡眠と動脈硬化や心血管疾患との関連を見る疫学研究の一環として、
血液のマクロTSHと睡眠の状態との関連を検証しています。

その結果TSHが正常であっても、
中間値で77.6%のTSHはマクロTSHの状態であることが確認されました。

TSHが高いほど、
マクロTSHの比率が高い傾向はあるのですが、
通常でも3分の2を超えるTSHは、
実際には抗体に結合した状態で存在しているということになり、
これはかなり驚くような結果です。

この研究ではアクチノグラフィーという簡易検査で、
計測された睡眠の状態において、
睡眠の持続などの指標が、
マクロTSHの高い人では低下していた、
という結果が示されていて、
マクロTSHの多い人は、
睡眠の状態も悪いのでは、
という仮説が提唱されています。

ただ、これはやや疑問に感じる結論です。

TSHの高い人は睡眠時無呼吸が多い、
というようなデータはあり、
それが実際にはトータルなTSHより、
マクロTSHの影響なのではないか、
ということが言いたいのだと思いますが、
そもそもTSHと睡眠時無呼吸との関連は、
甲状腺機能低下症において、
肥満や喉頭の浮腫みが生じやすく、
それが無呼吸の要因になっているのではないか、
という考えによっているのです。
今回登録された患者さんはそれほど肥満の人はなく、
甲状腺機能低下が著明な人もいないので、
前提はかなり異なっていると思います。

検査自体も簡易検査(脳波などは取っていない)によるものなので、
分類も中間値で2群に分けて比較したという大雑把なものですし、
これで睡眠とマクロTSHとの関連を、
云々出来るようなものではないと思うのです。

ただ、実際には多くのTSHが血液中では抗体と結合して、
その活性を持っていないという指摘は興味深く、
今後の検証を期待したいと思いますし、
甲状腺の臨床に関わっている立場からは、
トータルのTSHの濃度が、
必ずしも甲状腺機能を正確に反映していない可能性がある、
という指摘は、
重要なものであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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三谷幸喜「不信~彼女が嘘をつく理由」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は演劇の話題です。
それがこちら。
不信.jpg
三谷幸喜さんの新作が、
今池袋の東京芸術劇場シアターイーストで、
ほぼ2か月のロングラン上演中です。

これは段田安則さん、優香さん、戸田恵子さん、栗原英雄さんの、
完全な4人芝居で、
2組の夫婦のサスペンス仕立てのやりとりを、
シンプルな中央舞台で鑑賞する、と言う趣向です。

前半が1時間、後半も1時間あって、
その間に15分の休憩が入ります。

これは推理劇を作ろうとしたのだと思うのです。
トマなどのフランス産の推理台詞劇のパターンです。
三谷さんはドラマでは言わずと知れた古畑任三郎という、
推理ドラマの傑作を作っていますが、
演劇においてはミステリー色のある作品は多くても、
本格的な推理劇はあまりなく、
これまでに成功した舞台もないように思います。

今回の舞台はなかなかソツなくまとめていたと思うのですが、
推理劇としてはかなり凡庸な仕上がりで、
コロンボでさんざん使い古しのトリック(オリジナルはガーヴ)、
などが出て来て脱力する感じになりますし、
内容の意外性的なものが、
ほぼ全て先読みが出来るレベルのものなので、
観ていて少し意識レベルが低下してしまいました。

4人のキャストはいずれ劣らぬ手練れなので、
その意味では安定して観ることが出来ました。
今回は特に優香さんが良かったと思います。
役柄も一番丁寧に振幅大きく描けていましたし、
その期待に応える芝居を見せてくれたと思います。
段田安則さんと戸田恵子さんは、
相変わらず上手いのですが、
役柄に作者の熱意があまり感じられない気がするのが、
少し残念でした。

以下ネタバレを含む感想です。

段田安則さんは高校教師で、
その妻の優香さんもOLをしています。
この2人が隣人の夫婦を訪れるところから物語は始まります。
隣人は公務員と名乗る栗原英雄さんと、
専業主婦の戸田恵子さんの夫婦です。

2人は交流するようになるのですが、
優香さんが隣町の高級スーパーで、
戸田恵子さんが万引きをする現場を見てしまいます。
その秘密を夫の栗原さんに段田さんが話すと、
口止め料として200万円が渡され、
それを段田さんが妻には言わずに、
着服して愛人への手切れ金に使ったところから、
話は入り組んだ格好になり、
ついには殺人事件に発展します。

この段取りを4人の俳優の会話だけで、
軽快かつスピーディに進めてゆきます。
舞台上には6つの直方体の椅子があって、
それが自由自在に移動して、
幾つもの構図を表現する装置が洒落ています。

ただ、あまりにスムースに話が進むので、
淡々として盛り上がりには欠けます。
推理劇としては最初に書いたように、
筋立ては凡庸ですぐに先が読めてしまう感じなので、
次がどうなるのだろうと、
ワクワクする感じがないのです。

得意の言葉や人物のすれ違いによるギャグも、
今回はくすぐり程度に終わっていました。
役者は皆本当に上手いのですが、
役柄の振幅がそれほど大きくはなく、
この人の見せ場はここ、
と言う感じがあまりないので、
優香さん以外は、
それほど印象に残ることなく終わってしまいました。

特に戸田恵子さんは、
最近あまりエネルギー全開、
というような芝居に恵まれていないのが残念です。

「エノケソ一代記」でも感じましたが、
最近の三谷さんは長台詞が面白くなく、
淡々として内容がないので、
舞台が沈んでしまう感じになります。
今回も殺人の後の独白などがあるのですが、
大変詰まらなくてガッカリしました。

そんな訳でちょっとモヤモヤする感じの芝居でしたが、
きちんと帳尻は合わせて、
最低限見せるべきものは見せている、
と言う点はさすがにプロの仕事で、
ちょっとお芝居でも、
という向きにはそこそこお勧めの舞台にはなっていました。

三谷さんには、
また、「絶対これが描きたい」
というようなテーマが訪れることを、
期待しつつ、
これからも劇場には足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「哭声/コクソン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
コクソン.jpg
國村隼さんが謎の日本人として出演したことでも話題の、
韓国のサスペンス・ホラー映画を観て来ました。

これは変に格調の高い映画であるかのような、
実際の内容からすれば大袈裟な感じの批評もあり、
それから逆に罵倒するような感じの批評もあります。

この映画は、
確かに國村さんがインタビューでも話しているように、
新約聖書のキリストの挿話がベースにあり、
キリストとも悪魔とも見える人物と、
キリスト教の聖職者の若者との対話の部分には、
確かにそうしたテーマ性も出てはいるのですが、
通俗的なゾンビ物ホラーのバリエーションですし、
その範囲ではとても面白くて、
韓国映画らしい力押しが素晴らしいので、
謎めいたラストを含めて、
あくまでそのジャンル物として楽しむべき映画だと思います。

ラストの謎については、
「氷の微笑」のパターンと同じで、
一度話をひっくり返しておいて、
最後にぼやかして煙に巻くということではないでしょうか?
それ以上の深読みは意味がない、
というのが個人的な意見です。

ただ、クライマックスの迫力と凄みは、
聖書の挿話を下敷きにして謎めいた対話をすることにより、
醸成されている部分が大きいので、
その意味では娯楽として成功しているのではないかと思います。

ミステリ―色のあるホラーとしては、
なかなかの力作で、
前半のユーモアを交えて描かれる、
寒村の風景描写も良いですし、
猟奇的な事件の連鎖と、
その背後に見え隠れする、
國村さん演じる謎の日本人の不気味さも良いのです。
イケメンの祈祷師が登場する辺りからアクセル全開となり、
怒涛の力押しの場面が連続します。
もう終わりかと思うとなかなかそうはならず、
ラストには聖書のエピソードを下敷きにした、
それまでの光が不意に闇に覆われるような、
幻惑的な場面が待っています。

かなり凄まじい話ですが、
残酷描写は穏当なものになっていて、
おそらくもう少し過激なバージョンもあることが、
推測されます。
日本版は年齢規制を避けたのではないでしょうか?
ただ、それでも子供の使い方など、
とても後味は悪く、
子供が見て良いような作品とは思えないので、
この作品に年齢規制がないのは、
ちょっとおかしいと思いました。
最近の映倫の規制の根拠は、
正直訳が分かりません。

國村隼さんは謎の日本人という役柄で、
日本語のみを話しています。
ふんどし一丁で野山を駆け回り、
滝に打たれ、落ちたり転がったり血まみれになったり、
つるはしを持った連中に追い回され、
生肉を引きちぎり、変身もしと、
唖然とするような怪演で、
それでいてしっかり演技の持ち味も出ていたと思います。
「アウトレイジ」も良かったですし、
最近の國村さんは抜群だと思います。
彼の演技を見るだけでも、
この作品は一見の価値はあると思います。

趣味の良い映画ではありませんが、
決して分かりにくい映画ではなく、
ホラー・ミステリーというジャンル物としては、
なかなか面白い快作だと思います。

こうしたジャンルの好きな方にはお勧めです。

今日はもう1本舞台の記事があります。
それでは次に続きます。

ベッド&メイキングス「あたらしいエクスプロージョン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ベッド&メイキングス.jpg
浅草の九劇のこけら落としとして上演された、
富岡晃一郎さんと福原充則さんの劇団、
ベッド&メイキングスの新作公演を観て来ました。

これは敗戦直後の映画界を舞台にしたコメディですが、
ある程度史実は入れながらも、
自由自在に物語を膨らませていて、
6人のキャストが何役も兼ねるという趣向が楽しく、
如何にも小劇場という快作に仕上がっていました。

これだけの手練れのメンバーを、
小空間で目の前で観ることが出来るというのも、
非常に贅沢な感じがしました。

これは色々なバックボーンの役者さんが集まっているのですが、
それぞれに一番得意な芝居をさせていて、
町田マリーさんは毛皮族時代に近い感じで、
甲高い声を出したり白目を剥いたり髭面の男を演じたりと、
結構な大暴れをしていますし、
山本亨さんはつかこうへいに師事していた頃を彷彿させる、
道間声で立て板に水の台詞術を見せています。
八嶋智人さんもカムカムミニキーナでの舞台と、
同じような野田秀樹的芝居を闊達に演じています。
大鶴佐助さんは唐先生のDNAを感じさせる独特のテンションですが、
少し前と比べると相当達者になりました。
富岡晃一郎さんと共に、マイペースの力押しです。
川島海荷さんもまた別の堂々たるマイペース芝居でした。

このような6人をそのままで束ねるのは、
なかなか一筋縄ではいかないと思うのですが、
それが非常に巧みにかつ心地よく嚙み合っていて、
この辺りは演出の福原さんの腕だと思います。
凡手ではありません。

内容はつか芝居がやりたかったのかな、
というように思うのです。
忠臣蔵を何度もやって崩してゆくのもつかさんの感じですし、
ラストに互いの情熱がぶつかり合って、
そうなるとストーリーの枠組みなど関係なくなる感じも、
つか芝居の感じです。
勿論ストーリー的には全然違うのですが、
山本亨さんが登場しているのも、
これはもうつか芝居をやりたかったからだな、
と個人的には思いました。

福原さんの台詞は、
そのくどさの質が、
僕は個人的には苦手で、
あまりフィットはいつもしないのですが、
今回はつか印の小劇場贅沢キャラ芝居として、
内容はともかく楽しめました。

次回も楽しい芝居を見せて下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

歌舞伎座三月大歌舞伎(2017年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が診療を担当する予定です。

4月1日(土)の午後は休診となりますのでご注意下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
3月大歌舞伎.jpg
三月の歌舞伎座に足を運びました。
眼目は海老蔵の「助六」です。

歌舞伎には非常に多くのレパートリーがありますが、
その中でも「助六」はかなり特殊な性質のものです。

小山内薫は明治時代に、
「自分はこの芝居を見ると、
祖先の社会を眼前に見る様な心持がして、
身内の江戸っ子ブラッドが躍るようである」
と書いています。
谷崎潤一郎も確か、
似たような趣旨のことを何処かに書いていました。

明治時代と言えば、
江戸時代はつい先刻のことですから、
そうした感慨を当時の人が持っていたというのは、
今では少し不思議な思いもしますが、
幕末と江戸の最盛期とはまた別個のもので、
明治時代に既に、
江戸の最盛期の息吹を感じさせる歌舞伎劇は、
この「助六」の他にはなかったことが分かります。

助六という狂言は、
二代目の團十郎が助六を演じた、
正徳3年(1713年)の「花館愛護桜」に始まり、
3年後には「式例和曾我」という別の台本で、
同じ助六を團十郎が再演しています。

元禄時代に京都で助六という商人と、
揚巻という女郎との心中事件があり、
それがそもそもの始まりになっていますが、
「花館愛護桜」では、
男伊達という喧嘩が強く男振りの良い男として、
主人公の助六が描かれ、
揚巻との逢引きを、
意久という敵役が邪魔する、
という現在の助六にも通じる基本的なプロットが、
確立されています。

それが、
次の「式例和曾我」になると、
助六は実は曾我五郎という、
他の狂言の復讐を遂げる兄弟キャラに姿を変え、
その設定も現代に受け継がれています。

このように、
助六というキャラは同じでも、
上演の度毎に、
そのストーリー自体は変更したり、
その時代や設定を変えたりするのが、
歌舞伎の狂言の特徴の1つです。

現在上演されている「助六由縁江戸桜」は、
現行の歌舞伎の演目の中では、
非常に特殊な作品です。

歌舞伎は元禄時代に始まったとされますが、
元禄歌舞伎がそのままの形で、
今上演されているという訳ではなく、
今上演されている歌舞伎の演目の殆どは、
主に幕末期か明治になってから、
整理されたり修正されたりしたものです。

「忠臣蔵」など本格的な歌舞伎の代表のように言われる、
義太夫狂言と呼ばれるものは、
元々原作は文楽で、
原作の台詞自体は江戸期のものですが、
歌舞伎としての台本や現行の演出自体は、
これも主に明治以降に整理されたものです。

その中ではこの助六は、
元の台本は元禄期から間もない頃に整理されていて、
そこに書かれた台詞の多くは、
江戸中期の安永期に書かれたものです。
しかも文楽ではなく、
純然たる歌舞伎台本です。

その意味でこの助六は、
現代上演が継続されている演目の中では、
最も濃厚に、
江戸歌舞伎の匂いを残しているものなのです。

この作品は歌舞伎十八番の1つとして、
團十郎の成田屋の家の藝とされています。

歌舞伎十八番と銘打たれている狂言の中でも、
「勧進帳」などは現行の作品は明治になって成立したものですし、
時間も手頃で上演頻度も高く、
團十郎以外の役者も、
主役の弁慶を演じています。
むしろ成田屋以外の上演の方が多いのです。

しかし、
唯一この「助六」は、
他の役者も助六を演じはしますが、
團十郎が演じる「助六」こそが、
本物とされていて、
團十郎以外による上演はあまりありません。

更には襲名披露や杮落としなどの、
特別なハレの興業でのみ上演され、
通常の上演自体があまりありません。

その理由の1つは、
助六の狂言は現行の台本でも、
休憩なしで上演時間は2時間を優に超え
(今回の上演は2時間で少し短縮版です)、
登場人物も非常に多く、
端役に至るまで幹部級の俳優が務めることが、
定例化しているので、
通常の興業で上演することが、
非常に困難である、
ということにあります。

従って、
「助六」が上演される、
と言うこと自体が、
歌舞伎にとっては特別のイベントなのであり、
その舞台の緊張感が、
劇場自体を特殊な祝祭空間に変える、
というところに、
「助六」の得難い魅力があります。

今回の上演は、
海老蔵も本公演で7回目くらいになりますから、
これまで以上に血肉の通った助六を期待しました。

ただ、実際には僕が観た初日から3日目くらいの舞台は、
あまり胸躍るものではありませんでした。

まずキャストが弱いと感じました。
大舞台での本役と言えるのは、
意休の左團次と白酒売の菊五郎くらい。

立女形は今本当に乏しいので仕方がないのですが、
雀右衛門(僕は芝雀の方がしっくり来ます)の揚巻は弱いですし、
華やかさがありません。
くわんべら門兵衛に歌六も如何にも弱くて、
どうして幸四郎が出てくれなかったのだろう、
という感じです。
通人に亀三郎というのも、
盛り上がりませんでしたし、
遊びもあまりなくガッカリしました。

何より助六の海老蔵に迫力がなく、
台詞も弾みませんし、
形も決まりません。
多分色々とお疲れだと思うので、
仕方がないとは思うのですが、
今回は正直とてもガッカリの低レベルの助六でした。

その一方で同時に上演された「引窓」は、
久しぶりに重厚な義太夫狂言を観たな、
と言う思いで、
僕はあまり高麗屋は好きではないのですが、
今回の幸四郎は悪くないと感じました。

そうは言っても矢張り「助六」は特別なので、
また上演があれば、
1回は観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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