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非アルコール性脂肪肝炎と尿酸と果糖との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は御前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
フルクトースと尿酸と脂肪性肝疾患.jpg
今年のJournal of Hepatology誌に掲載された、
非アルコール性脂肪肝炎と食事内容との関連についての論文です。

肝機能障害が命に関わるのは、
肝硬変や肝臓癌になった場合で、
その原因としてはB型肝炎やC型肝炎による慢性肝炎や、
アルコール性肝障害が知られています。
ただ、最近それ以外で注目されているのが、
アルコールを飲まないのに脂肪肝や脂肪肝炎を発症し、
中には肝硬変に至り肝臓癌を合併する事例もある、
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。

NAFLDのうち、
肝臓の組織に通常の脂肪肝とは別個の所見を持ち、
進行性で肝硬変などのリスクの高い脂肪肝炎の状態を、
特にNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼んでいます。

通常NAFLDは肝細胞への脂肪の沈着で始まり、
長い月日を掛けて、
肝臓の炎症と線維化とが進行して、
その一部がNASHの状態に至ると考えられています。
以前は小児や思春期までのNAFLDは、
身体に無害な疾患と考えれて来ましたが、
最近では若年からNASHの状態に至ることも稀ではない、
というように考えが変わって来ています。

NASHのリスクとして、
成人では肥満な糖尿病などと共に、
血液の尿酸値の上昇と果糖やブドウ糖などの糖質の過剰摂取が、
関連する因子として指摘されています。
ただ、これが小児や思春期という年齢でも同じであるかどうかは、
あまり明確には分かっていません。

そこで今回の研究においては、
思春期までの過体重もしくは肥満で脂肪肝(NAFLD)のある271名を対象として、
全例に肝生検を行なって活動性スコアからNASHの有無を診断しています。
そして、血液の尿酸値と果糖(フルクトース)の摂取量と、
NASHとの関連性を検証しています。
肝生検の結果、全体の37.6%に当たる102名がNASHと診断されました。
肝機能の指標であるALTの数値などと共に、
血液の尿酸濃度と果糖の摂取量は、
独立してNASHのリスクと相関していました。

血液の尿酸値が5.9mg/dL以上の比率は、
NASH以外のNAFLDでは29.7%であったのに対して、
NASHでは47%で有意にNASHで高くなっていました。
果糖の摂取量も、
NASH以外のNAFLDでは1日平均52.6グラムであったのに対して、
NASHでは70.4グラムでこれも有意に高くなっていました。

フルクトースは中性脂肪に変換されて肝細胞に蓄積し、
尿酸は炎症やインスリン抵抗性を惹起して、
肝細胞の炎症や繊維化に繋がると想定すると、
この2つの指標がNASHのリスクになることは、
一応の理屈に適っているようにも思います。

今後尿酸値をコントロールし、
果糖の摂取量を減らすことで、
NASHの進行を抑制することが出来るかどうかが、
今後の研究の方向性の1つとなるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。

よろしくお願いします。

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  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


岩木一麻「がん消滅の罠 完全寛解の謎」(ネタバレ注意) [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
がん消滅の罠.jpg
医療系の研究者の前歴のある著者による医療ミステリーで、
第15回の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。

「余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険の生前給付金を受け取ると、その直後、病巣がきれいに消え去ってしまうー」
という現象が繰り返し起こるという、
人間消失ならぬ、がん消失という怪事件を推理する、
という話です。

選考委員が「まったく見当のつかない真相」
「史上最高の医療本格ミステリー」
などと真顔で公言しているので、
一体この謎がどのように解かれるのだろうと、
どうせ大したことではないのではないか、
と少しは思いながらも、
凡人の性で何となく気になってしまいます。

これはまあ、2つの謎があるのです。
いずれもがんが消えたり、するのですが、
設定は少し違います。

1つは肺腺癌が全身に転移していて、
それ自体は専門の医療機関で確認されているのです。
余命半年という宣告で保険金が下りるのですが、
標準治療の抗がん剤を使用して、
余命の少しの延長しか期待は出来ない筈なのに、
数か月でがんは全て縮小して消えてしまいます。

これが1つ。

もう1つは何か謎の病院があって、
特別な免疫治療をしているらしいのです。
ある人が人間ドックで初期の肺がんが見つかり、
それが早期なので切除すると、
しばらくして全身の転移が見つかり、
それがその病院の画期的な治療で、
みるみる縮小して消えてしまったり、
治療をやめると悪化したりするというのです。

これがもう1つの謎です。

本を読む前にそれだけの情報で、
どのようなトリックなのか考えてみました。
別に僕でなくても医学をちょっとかじった人なら、
誰でもそう考えると思うのですが、
本物の癌が急に消える訳はないと思うのです。
それがあれば純然たるSFで、
医学ミステリーという枠からは大きくはみ出してしまいます。
そうなると、
消えたのは「〇〇」ではない、
ということになり、
要するにこうしてこうしたのではないかしら、
と何となく答えは1つしかないという気がします。

でも、それだけのことでは、
さすがに素人でもすぐ分かってしまうのではないかしら、
そんなものを「空前のトリック」などと言うのかしら、
と疑問に思って、
悔しい気はしたのですが、
真面目に買って本を読んでみました。

読むと結局はほぼ想像の通りでした。

このように理屈で1方向で考えると、
すぐに1つの可能性しか残らなくなってしまうのは、
所謂「不可能犯罪」のトリックとしては上出来とは言えないと思います。

しかし、一方で多くの人は、
医療というものに一種の呪術性のようなものを期待し、
「私があなたの癌を100%治します」
などと言われれば、
明らかなインチキでも思考停止して信じてしまうようなところがあるので、
そこを上手く突いているという点は、
読者に受けるところがあるようにも思います。

同じような奇跡は実際にはゴロゴロ転がっていて、
有名芸能人の進行癌の報道などに対しては、
絶対に治る筈がないのに、
「奇跡を信じます」と言わないと非難を浴び、
真顔で皆が非論理的で非科学的な奇跡を、
信じて疑わないようなところがあるからです。

従って、そうした先入観や思い込みを、
一種のミスディレクションとして活用していると考えると、
満更低レベルのトリックとも言い切れません。

この作品はトリックはそんな感じのものなのですが、
小説としてはなかなか良く出来ていて、
かなり加筆されて手が入っていると思うのですが、
ミステリー的な小ネタの使い方が上手く、
全体に何かもやもやした不気味な感じというか、
グロテスクな感じがすることも悪くありません。

以下少しネタバレを含む感想です。
必ず本編読了後にお読みください。

必ずよろしくお願いします。

これはフーマンチューもののバリエーションのような作品で、
狂気に満ちた癌研究の第一人者の研究者が、
自分の知識を悪用して、
日本の重要人物に癌を作ってそれをコントロールすることにより、
彼らを強迫して理想の政治を実現しようとする、
というような話です。

本人の癌細胞に自死(アポトーシス)を誘導するような仕掛けをして、
それを大きくしたり小さくしたりする、
というような趣向です。
ただ、末期癌の恐怖を味合わせてから、
それを縮小させるようなことをするのですが、
それは成立しないという気がしました。

癌でもう悪液質のような状態が生じているとすると、
そこで慌てて癌細胞に自死の指令を出しても、
身体全体としてはもう手遅れの可能性が高いように思うからです。

自死させるような遺伝子に組み込んだ仕掛けとは何?、
というのが1つのポイントですが、
そこは昆虫から抽出した毒素みたいなことで、
適当に胡麻化している、という印象です。

それとは別に、
最初に免疫抑制剤をアレルギーの薬と嘘を吐いて飲ませておいて、
他人由来の癌を植え込み、
癌を消したい時にはその免疫抑制剤を中止すると、
拒絶反応で癌が消滅する、
という方法も使われています。
ただ、これも大分無理があって、
他人の癌細胞が生着するような強力な免疫抑制をしておいて、
それが他の医療機関でバレないというのも不自然ですし、
本人はそれを全く知らないのですから、
感染症などで体調を悪くする可能性も高そうです。
また肺癌の細胞をただ注射しただけなのに、
それが原発性の肺癌が全身に転移したのと同じに見えるような広がりで、
うまい具合に生着するというのも随分と不自然に思います。

著者は動物実験の知識はあるので、
癌の動物実験をそのまま人間に適応している訳です。
それはそれでグロテスクな趣きがあるので、
趣向としては成功していると言って良いのですが、
人間の患者さんの実際は、
多分あまりご存じがないのだと思うので、
「とんでもトリック」という感じのものになっています。

ただ、この作品はそのトリック以外の部分に、
そのミステリ―としての妙味があって、
最初は如何にも探偵役に見えた変人研究者が、
事件の根幹に関わっていたり、
勧善懲悪にはならずに、
ラストは次のステップに入るというような捻りも良いのです。

人物もあまり細かく書き込まないことがむしろ成功していて、
ステレオタイプな人物しか出て来ないのに、
何か生々しい感じを出しているのも面白いと思います。

このくらいなら…
という思いもありましたし、
くやしい感じも強くしたので、
眠っていた意欲に、
少し火が点いた感じもしたのです。

ちょっと頑張ります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

マラソン時の痛み止め使用のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消炎鎮痛剤とマラソン.jpg
2013年のBMJ Open誌に掲載された、
マラソン時の痛み止めの使用と、
そのリスクについての論文です。

これはつい最近毎日新聞に記事が出たので、
そこで興味を持って読んでみたものです。
そこでは上記の文献にある図を引用して、
マラソン中の消炎鎮痛剤の使用に警鐘を鳴らしています。

内容自体は誤りはないのですが、
ちょっと誤解を招く点があり、
その辺りを今日はご説明したいと思います。

非ステロイド系消炎鎮痛剤は、
プロスタグランジンという炎症物質を抑えることで、
熱を下げ痛みを取るという作用を持つ薬剤で、
飲み薬や座薬として、
また湿布剤の成分としても、
広く使用をされている薬剤です。

その多くが今はOTCにもスイッチされていて、
大々的に宣伝がされているロキソニンはその代表薬の1つです。

ただ、この非ステロイド系消炎鎮痛剤は、
決して副作用や有害事象の少ない薬ではありません。
胃粘膜の血流を低下させるため、
胃潰瘍などの消化管出血の原因となりますし、
腎臓の血流を低下させる作用から、
腎機能低下の原因ともなります。
また、メカニズムは不明の点もありますが、
急性心筋梗塞の再発を増やしたり、
心不全の悪化を誘発したりと、
特に病気のある患者さんにおいて、
心血管疾患のリスクを増加させるような影響もあります。

従って、なるべく非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用は、
最小限度に留めるのが望ましく、
身体に負荷が掛かり、脱水などにもなりやすい、
マラソンの時などでは、
使用しないことが適切と考えられます。

ところが…

これは日本では何処まで一般的なことかは分かりませんが、
上記論文を読む限り欧米においては、
マラソンの前に痛み止めを飲むことは、
比較的多くのランナーが行っていることで、
上記論文のデータにおいても、
何とほぼ半数のランナーはマラソン前に痛み止めを服用しています。

これは痛み止めを使用することにより、
マラソン中の筋肉痛が緩和し、
こむら返りなども起こり難くなる、
という考えによっているようです。

しかし、このような安易な痛み止めの使用には、
健康上の問題はないのでしょうか?

今回の研究はドイツのボンで行われたボン・マラソンにおいて、
出場者全員である7048名にアンケート調査を施行。
痛み止めの服用の有無と、
その後の症状や病気の有無を調査して、
その関連性を検証しています。

回答が得られた3913名が解析の対象となっていて、
そのうちの49%に当たる1931名は、
マラソンの前に痛み止めの服用を行っていて、
残りの1982名は使用をしていませんでした。
ほぼ半数が使用しているという、非常な高頻度です。
ただ、薬を飲んでいるような人の方が、
アンケートの回収率は高いという可能性もあるので、
これが実際の頻度と言えるかどうかは分かりません。

痛み止めとして使用が多かったのは、
ジクロフェナク(商品名ボルタレンなど)で、
これが913名、
次に多かったのがイブプロフェン(商品名ブルフェンなど)で、
こちらは722名。
次がアスピリンで141名という順になっています。

有害事象としては、
血尿、消化管のけいれん、消化管の出血、レース中の心血管系問題、
そしてレース後の心血管系問題という項目になっています。
(項目の表記は毎日新聞の記事による)

ここでトータルな有害事象の頻度は、
薬を使用していないコントロール群では4%であるのに対して、
消炎鎮痛剤使用群では16%という高率で、
個々の有害事象についても、
コントロールと比較して薬剤使用群では、
4から10倍という高率で認められました。

高用量の使用としては、
ジクロフェナクは1回100㎎以上、
イブプロフェンは1回800㎎以上、
アスピリンは750㎎以上が使用されていて、
イブプロフェンの高用量では全体の52%、
アスピリンの高用量では全体の何と87%に、
何らかの有害事象が認められていました。
アスピリンの高用量は全体で39例しか使用はされていないので、
何とも言えないところがありますが、
何と半数近い19例で血尿が見られています。
マラソン中の心血管系問題も、
半数近い19例で認められています。

ただ、そこで問題になるのは、
心血管系問題(CV events)という概念が何を指すのかです。

普通CV eventsと言えば、
狭心症や心筋梗塞、脳卒中などを想像します。
ただ、それが痛み止めを飲むとその半数に認められるというのは、
幾らなんでも多すぎる数値です。
次々と人が倒れる、死屍累々のマラソン大会ということになり、
そんなものが毎年継続される筈がありません。

実際に上記文献の添付資料を見てみると、
この心血管系問題というのは、
動悸や頻脈、不整脈などを感じたかどうかを尋ねているだけで、
そんな症状ならマラソン中にはしばしばありそうですし、
健康上の問題と言えるかどうかすら、
定かではありません。

毎日新聞の記事を書かれた方も、
馴染みのない「心血管系問題」という訳語を、
使用しているのは、
その実際が何であるかを理解した上で、
苦肉の策としてこんな用語を作ったのではないかと思います。

一方で痛み止めの主な使用目的であるマラソン中の痛みについては、
実際にはコントロールと差はありませんでした。
ただし、マラソン中のこむら返りについては、
未使用で3%に発症したのに対して、
痛み止めの使用により1%未満に抑えられているので、
この点では明確な予防効果が認められています。

そんな訳でこのデータは確かに実際のマラソンにおける、
消炎鎮痛剤の使用リスクを明らかにしたという点で、
意義のあるものなのですが、
単純に参加者のアンケートのみを一次資料としていて、
それも回収率は高くはなく、
心血管系問題というのが何処まで病的であるかも明らかではありません。

従って、これをそのまま鵜呑みにして、
比率として有害事象を論じることは科学的とは言えないように思います。

いずれにしても、
痛みを予防する目的でマラソン前に消炎鎮痛剤を使用することは、
安全面では大きな問題のある行為なので、
こむら返りの予防には一定の効果はあるのですが、
使用は控えることが重要であることに間違いはないのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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(付記)
ジクロフェナクの使用量が誤っていたので、
コメントでご指摘を受け修正しました。
(平成29年3月2日午前10時修正)

15年の胃癌予防効果(ピロリ除菌とサプリメント) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
15年の胃がん予防の効果.jpg
2012年のJ Natl Cancer Inst誌に掲載された、
14.7年という長期に渡り、
胃癌予防のためにピロリ菌除菌とサプリメントの使用の効果を、
偽薬と比較検証した中国の論文です。

ピロリ菌の感染が胃癌のリスクであることは、
実証された事実ですが、
ピロリ菌を除菌することにより、
実際に長期的にどれだけ胃癌を減らし、
癌による死亡を減らすのか、
という点については、
あまり実証的な研究結果がある訳ではありません。

その意味でこの研究は貴重なものです。

3365名の中国の一般住民(35から64歳)を対象として、
まず胃カメラ検査や血液検査でピロリ菌の感染の有無をチェックし、
感染の陽性者(2258名;全体の67%)を、
クジ引き希望者で2つの群に分けると、
一方は2週間のピロリ菌除菌治療
(アモキシシリンとランソプラゾールで2週間)を行ない、
もう一方は偽薬を使用して、
その後14.7年の経過観察を施行します。

これとは別個にビタミンCとE,
そしてニンニクのサプリメントの予防効果も、
偽薬と比較の上施行されています。

その結果…

ピロリ菌の除菌治療群では3.0%に胃癌が発症したのに対して、
偽薬群では4.6%に胃癌が発症していて、
除菌治療により胃癌の発症は39%有意に抑制されていました。
(95%CI;0.38から0.96)
ただ、これは7年の経過観察では有意にはなっておらず、
今回も信頼区間から見ると微妙な結果です。

そして、胃癌による死亡は、
ピロリ菌除菌群の1.5%と偽薬群の2.1%に認められ、
33%死亡リスクを低下させていましたが、
統計的には有意ではありませんでした。
(95%CI;0.36から1.28)
全ての癌による死亡や総死亡にも有意差はなく、
胃癌を食道癌を併せた死亡リスクは、
胃癌単独よりも除菌の影響が少ない傾向を示しました。

要するにピロリ菌の除菌治療を行なうことにより、
その後ほぼ15年の胃癌の発症率は、
4割程度低下しますが、
それはその方の生命予後に影響するほどではなく、
胃癌そのものは減っても、
胃酸の分泌増加により一部の食道癌がむしろ増える可能性や、
本当に生命予後に関わるような悪性度の高い胃癌は、
減らしていないという可能性などが考えられます。

同時に行われたビタミンやニンニクのサプリメントの効果については、
意外にもビタミン剤の使用において、
胃癌と食道癌を併せた死亡リスクが49%有意に低下していました。
(95%Ci:0.30から0.87)
これは発症リスク自体は減っていないので、
その判断は微妙ですが、
死亡リスクが低下しているという結果は、
このビタミン剤のみでした。

ピロリ菌の除菌で胃癌はなくなるような、
夢物語を主張される方もいるのですが、
実際に証明されているのはこのレベルの結果で、
生命予後に確実に良い影響を与えるという根拠も、
今のところはあまりないということは、
確認しておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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国産第一号「安心」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はもう1本演劇の話題です。

それがこちら。
安心.jpg
オクイシュージさんの作・演出による、
国産第一号というユニットの公演「安心」が、
本日まで下北沢の駅前劇場で上演されています。

2010年初演作の再演とのことです。

これは松尾スズキさんのツィートで気が付いて、
即効で予約して直前に行くことを決めました。
これぞアングラ小劇場という感じの、
ダークで破天荒で遊び心に満ちた作品で、
これは観られてとても幸せでした。
思わず販売されていた戯曲も買ってしまいました。

特に演出が優れていて、
1時間50分の上演時間に充実感があります。
ただ、最後に明らかにされる「事件の絵図」に、
やや面白みが乏しいことと、
「全ての地獄はお前の頭の中にある」
というような世界観が、
震災後でテロや現実の暴力に満ちた今には、
ちょっと切実感が乏しい思いはありました。
そう言えば、2010年くらいには、
こうした芝居が多かったような気もします。

以下ネタバレを含む感想です。

ある太っちょの冴えない男が、
何処だか分からない黒い部屋に監禁されています。
そこには謎の男女が5人いて、
司会役の男はそこが「矛盾の家」で、
自分の全てをさらけ出し、自分自身に戻る場所だ、
というような話をします。
それから1人ずつ自分が如何にして悲惨な境遇に落ちたかを、
回想を交えて語り、
過去の光景もフラッシュバックするうちに、
別々に思えた個々の人物の物語が徐々に繋がり始め、
「真相?」が明らかになると、
主人公は最後にある決断を迫られることになります。

入江雅人さんが80年代テイストのダンス教師を怪演して、
川上友里さん演じるストリッパーとダンスに興じるなど、
小劇場的には贅沢なお遊びが満載で、
それがオクイシュージさんの的確な演出の元に、
素敵な出鱈目として楽しめます。

実際の関係が明確ではない複数の男女が、
あるモチーフを中心として果てしない遊びを繰り返す、
と言う点では、
鴻上さんの「朝日のような夕日をつれて」に近い構成です。
そのもっとアングラに傾斜した変奏曲、
と言っても良いかも知れません。

ゲームマスターめいた謎の男がいて、
監禁された状況の中で、
残酷なゲームに興じるという趣向は、
映画の「ソウ」シリーズの影響も感じられます。
乙一みたいな感じもありますよね。

ただ、登場する全員が、
実は1つの物語で結び付けられている、
ということが途中で大体分かってしまうと、
今度は隠された真実とは一体何なのだろう、
というところに観客の興味が移るのですが、
その真実というのが、
主人公が酔っぱらって吐いたゲロですべって、
少女が車の事故に遭った、
というような話だったり、
友達と思って部活の後輩に接したら、
それが相手にとっては迷惑だった、
とかといったような、素直にそうかとは、
とても思えないようなストーリーなので、
何となくもやもやしたものが残ってしまいます。

そして、最終的にはハンマーで全員を殴り殺して、
その場を脱出するのですが、
その段取りの必然性もあまり納得がいきませんし、
オクイシュージさん自身が演じる、
謎のゲームマスターの男の正体も、
結局最後まで分かりません。

「朝日のような夕日をつれて」では、
ある1人の女性の絶望を救うことが出来るか、
というような物語なので、
それを聞いただけで何となく納得がいく気分になりますし、
分からない話で感動することも出来るのですが、
この作品の物語は、
主人公が他人に害を与えないようにビクビクと生きることで、
結果として因果が巡って多くの人を不幸にしてしまい、
自分の本能的な情念を開放することで、
その心の迷路から脱出する、
ということのようですが、
それにしては、
主人公がオドオドしている割には、
後輩に命じて女性をさらったりもしているので、
そこにあまり行動の一貫性がなく、
無作為の悪事のからくりにも説得力がないので、
あまり観客を納得させるような感じには、
ならなかったのが残念でした。

良かったのは演出で、
これは非常にセンスに溢れています。
黒一色のセットの背後に2つの換気扇が廻る正方形の窓が2つあり、
それが非常に巧みに全編で使用されています。
その存在自体が禍々しくて素敵ですし、
不意に肖像画が窓に現れる瞬間もショッキングです。
ラストには「安心」の2文字が現れるという趣向も凝っています。
暗転を巧みに利用した舞台転換も鮮やかですし、
ストロボの効果的な使用や、
ラストの大殺戮ではビートルズをバックに盛大に血を流し、
スペクタクル化した趣向も効いています。

役者も曲者を揃えていて、
大仰なアングラ芝居がさく裂するのも楽しい時間です。
ただ、女性陣はもっと際どい芝居が欲しかったという気もしましたし、
謎の男を演じたオクイシュージさんは、
役者としては少し弱かったと思いました。
たとえば、当日観劇もされていた師匠筋の松尾スズキさんが、
同じ役を演じられたとすれば、
また別の次元の作品が生まれたような気がします。
オクイさんが演じると、
何か矢張りもう少し説明を求めてしまうので、
それが結局ないというのが、
非常に物足りない気がするのです。

いずれにしても小劇場の妙味が、
美しくグロテスクにデコレーションされた素敵な作品で、
こうした作品はまた是非観たいと思いました。

頑張って下さい。
欲を言えばオクイさん本人の役はもっと別のものにして、
秘められた物語は、
もっとシンプルでかつ情緒を揺らすようなものにして下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

今日は休みなので趣味の話題です。

今日はこちら。
ミス/ペレグリンと奇妙なこどもたち.jpg
ティム・バートンの新作ファンタジー映画を、
新宿の映画館で観て来ました。

ティム・バートンはそこそこ好きなのですが、
「シザーハンズ」以外は、
面白いのに何かが物足りないというか、
何処か決定的な部分で少ししくじっているような感じが、
観終わるといつも残ってしまいます。

今回の作品はオープニングの原色のフロリダの風景から、
如何にもティム・バートンという絵作りでいいな、と思いますし、
時空を超えて永遠に同じ1日を繰り返す「奇妙なこどもたち」に出会うまでも、
ややまどろっこしい感じもありますが、
なかなか上手く出来ています。

少し不満に感じるのはその後の展開で、
対決する敵がかなり間抜けで、
隙だらけの感じなので物語が盛り上がりませんし、
肝心のこどもたちの親代わりのミス・ペレグリンが、
実際には殆ど活躍しないのも物足りません。
主人公の少年も、
簡単に親を捨てて奇妙なこどもたちと行動を共にしてしまうので、
あまり情感や切ない気分が、
醸成されることもないのです。

このように物語としての練り上げは不足しているのですが、
その代わりに奇妙なこどもたちや、
まがまがしい怪物や悪党などのビジュアルは、
ディテールまで作り込まれていて素晴らしく、
大量の骸骨騎士なども参戦する活劇や、
沈んでいた幽霊船が浮上するスペクタクルなどまであって、
2時間余りを退屈させることなく見せきる技量は、
いつもながら素晴らしく魅力的です。

そんな訳でバートンファンには楽しめる作品ではあるのですが、
物語が重層的に盛り上がるという感じではないので、
風変りなビジュアルを楽しめない方には、
退屈に感じるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ケラ「陥没」(シアターコクーン・オンレパートリー2017) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
陥没.jpg
ケラさんがシアター・コクーンで上演している、
ナイロン100℃とはまた傾向の違う作品群の新作として、
「陥没」と名付けられた新作が今上演されています。

1963年の東京オリンピックの直前が舞台ということで、
何となく現在と照らし合わせた社会風刺的な作品を想像してしまうのですが、
実際には死んだ父親に見守られて、
不幸な結婚をした小池栄子さん演じるヒロインが、
自分の人生を取り戻すという、
軽い味わいのファンタジックでほのぼのとした作品でした。

ただ、それにしては3時間半という上演時間は、
如何にも長大で、
派手な場面は岩松了さんの戯曲のように、
敢えて描かないというポリシーなので、
余白を楽しみなさいと言われても、
かなりきつい観劇だった、
というのが本音でした。

勿論ケラさんがそんなことは当然承知の上で、
この作品を作ったのだということは分かるのですが、
上演時間を2時間くらいに圧縮すれば、
凄い傑作になったかも知れないのに、
などと思うと矢張りとても残念な気持ちになってしまいます。

前作の「キネマと恋人」が、
長さは同じくらいでも、
本当に素晴らしい傑作であったので、
どうしても点が辛くなってしまうのですが、
今回は個人的にはガッカリでした。

台本はおそらく早く上がらなかったのだと推察するのですが、
舞台は非常に綺麗に出来ているのに、
セットの個々のパーツがあまり有機的には使われていませんし、
中央に舞台のようなスペースがあるのに、
そこは実際には殆ど使用されていません。

キャストも個々のレベルでは非常に良い芝居をしているのですが、
個々の人物の物語があまり上手く絡み合っていかないので、
それほど客席が沸くような瞬間がありません。
特に松岡茉優さんの役などは、
見せ場もなく余白も上手くなくて残念でした。

元々作品の凹凸の激しいケラさんですが、
題名通り今回はやや陥没した作品だったように思います。

それでも全体としては水準以上のクオリティを保っている点は、
さすがケラさんだという思いはありました。

また次に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


SGLT2阻害剤のアジア人種での有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エンパグリフロジンのアジア人での効果.jpg
今年のCirculation Journal誌に掲載された、
海外でその心血管疾患予防効果で注目された、
エンパグリフロジンという2型糖尿病治療薬のデータを、
アジア人種のみで解析した論文です。
掲載誌は日本循環器学会雑誌の英語版です。

SGLT2阻害剤は、
尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制する薬剤で、
このことにより、
ブドウ糖が尿に大量に排泄され、
血糖値が低下します。

これまでにないメカニズムの新薬として、
日本でも何種類も発売されています。

しかし、
この薬は膵臓のα細胞に働いて、
グルカゴンの分泌を刺激する作用があり、
それが糖尿病の成因から言って、
病態の改善に逆行するのではないか、
という危惧があります。

そうした点からも、
問題となるのはこの薬の長期成績です。

長期の使用により、
糖尿病の合併症として一番生命予後に影響する、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患に、
どのような影響を与え、
生命予後を改善するかどうかが、
糖尿病治療薬の善し悪しを決める、
最も大きなポイントなのです。

この点について多くの臨床試験が行われていますが、
肯定的な結果が得られたのは、
EMPA-REG OUTCOMEと題された大規模臨床試験が初めてで、
その結果は2015年のNew England…誌に掲載されました。

使用されているSGLT2阻害剤は、
エンパグリフロジン(Empagliflozin)、
日本では6番目に発売されたSGLT2阻害剤で、
ジャディアンスという商品名で使用されています。

世界42カ国で登録された、
7020名の心血管疾患を持っている2型糖尿病の患者さんを対象として、
通常の糖尿病治療(メトホルミンなど)を行なった上で、
患者さんにも主治医にも分からないように、
3つのグループに分けます。
偽薬と、エンパグリフロジン1日10ミリグラム、
そして1日25ミリグラムの3つのグループです。

この用量は日本でも使用されているものと同じです。

平均3.1年の経過観察において、
心血管疾患による死亡と、
急性心筋梗塞と脳卒中の発症とを合わせた事例は、
エンパグリフロジン使用群では、
4687例中10.5%に当たる490例であったのに対して、
偽薬群では2333例中12.1%に当たる282例で、
エンパグリフロジンの使用により、
心血管疾患の発症は、
トータルで14%有意に低下しました。

心筋梗塞や脳卒中の発症については、
両群で有意差はありませんでしたが、
心血管疾患による死亡に関しては、
有意に相対リスクを38%低下させていました。
また、総死亡のリスクについても、
有意に32%低下させていました。

この結果はかなり画期的なもので、
3年という短期間で、
これだけ生命予後に差が付いたというデータは、
あまり例がありません。

その後SGLT2阻害剤は評価が高まり、
日本でも使用が拡大しています。

ただ、ここで1つ問題となるのは、
この薬の心血管疾患予後改善作用には、
人種差があるのではないか、ということです。

上記のエンパグリフロジンの臨床試験は世界で行われ、
その中には日本などのアジアも含まれています。

そこで今回の研究では、
エンパグリフロジンの上記の臨床試験の中で、
アジア人のみのデータを再解析しています。

アジア人種の総数は1517名で、
その内訳はエンパグリフロジン1日10㎎が505名、
1日25㎎が501名、そして偽薬が511名です。

ここで心疾患による死亡と、
急性心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクは、
エンパグリフロジンの使用により、
32%(95%CI;0.48から0.95)有意に低下していました。
心血管疾患による死亡も56%(95%CI;0.49から0.77)有意に低下していましたが、
総死亡のリスクは低下傾向はあるものの、
有意ではありませんでした。

このように、エンパグリフロジンのアジア人種での有効性は、
ほぼトータルな有効性と遜色はなく、
有害事象にも明確な差は認められませんでした。

従って、現状はSGLT2阻害剤の使用は、
国外と同様に考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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慢性腎臓病・心不全・肝障害におけるメトホルミンの使用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトホルミンの内臓障害への使用.jpg
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
2型糖尿病の世界的な第一選択薬である、
メトホルミンの慢性内臓障害時の安全性についての論文です。

メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
世界的に2型糖尿病の第一選択薬の位置が確立している薬剤です。

ただ、その評価の経緯には紆余曲折がありました。

アメリカにおいては1994年に承認されましたが、
同系統のビグアナイト系の薬剤であったフェンフォルミンが、
乳酸アシドーシスという重篤な副作用のために、
1997年に販売中止に至ったという経緯もあり、
乳酸アシドーシスのリスクが高い対象についての、
処方制限が多く設けられました。

具体的には慢性腎臓病や心不全、
肝障害の患者さんに対しては、
使用に対して警告が出されました。

ただ、その後の臨床データの蓄積により、
メトホルミンの使用と乳酸アシドーシスとの間には、
それほど明確な関連はないことが報告され、
中等度の腎機能低下や心不全における安全性も報告されました。

そのため、2006年にアメリカのFDAは、
急性な不安定のケースを除いて、
心不全でのメトホルミンの使用に対する警告を外し、
慢性腎臓病についても、
推計糸球体濾過量という数値が30ml/min/1.73㎡以上であれば、
その使用に対する警告を外しました。

一方で日本においては、
心不全は禁忌で、
中等度以上の腎機能低下や肝機能障害も禁忌の扱いです。
更には高齢者も慎重投与の扱いとなっています。

この場合の中等度以上の腎機能障害や肝機能障害が、
具体的にどのような状態を指しているのかは、
必ずしも明確ではないのですが、
日本で行われた臨床試験において、
肝機能障害は正常上限値を2.5倍以上超えたケースを除外し、
腎機能障害では血液のクレアチニン濃度が、
男性で1.3mg/dL以上、女性で1.2mg/dL以上を除外した、
と言う記載があり、
これが一応の目安となっています。

このように、国内外でもメトホルミンの使用の基準には、
差があるのが実際なのです。

今回の研究は2型糖尿病で、
中等度以上の慢性腎臓病や心不全、
慢性肝臓病を伴っている患者さんでの、
メトホルミンのこれまでの使用データをまとめて解析する方法で、
この問題の検証を行っています。

その結果、
慢性腎臓病については、
推計の糸球体濾過量が30ml/min/1.73㎡以上であれば、
メトホルミンの使用は安全で、
患者さんの予後にも良い影響が期待できる、
というデータが得られました。
肝障害や心不全においても、
中等度の肝障害や肝硬変を伴うケース、
中等度の心不全において、
メトホルミンは生命予後に悪影響を与えてはいませんでした。

ただ、肝障害や心不全の重症度の指標は、
臨床研究によって異なっているため、
どの数値までが安全、というような、
明確な指標は得られませんでした。

このように、明らかに重症と考えられるような病態を除いては、
内臓障害があるからと言って、
メトホルミンによる有害事象が増加するという根拠はなく、
幅広い患者さんに安全に使用が可能であるというのが、
最近の世界的な知見の流れだと言って良いようです。

日本の添付文書ももう少し明確な表現に、
改められるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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虫歯菌と認知機能との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ミュータンス菌と脳出血.jpg
2016年12月のScientific Reports誌に掲載された、
虫歯菌と脳の微小出血と認知機能低下との関連を検証した、
日本の研究者による論文です。

感染症と脳卒中などの動脈硬化性疾患が、
関連があるという報告は多く存在しています。
動脈硬化には血管内皮の損傷や炎症が、
大きな要因となっていて、
そこに特定の細菌やウイルスなどが関与しているのでは、
というような推論も多くなされています。
ただ、実際に特定の感染と動脈硬化性疾患との関連が、
明確に証明されたような研究結果は殆どありません。

その1つとして口腔内の虫歯や歯槽膿漏などの感染と、
動脈硬化性疾患、特に脳卒中との関連が、
最近注目を集めています。

上記論文の著者らのグループは、
特に特定のタイプの虫歯の原因菌と、
脳の病変との関連性を精力的に研究されています。

虫歯の原因菌であるミュータンス菌という細菌には、
コラーゲン結合蛋白質であるcnmをコードする遺伝子を持つものがあります。

このcnmという蛋白質を持っていると、
コラーゲンという繊維組織に結合することが可能となります。
虫歯のミュータンス菌としては、
エナメル質の下にある象牙質にコラーゲンがあるので、
そこに接着することで虫歯が進行するのです。

一方で、血流に乗って脳に運ばれたミュータンス菌が、
血管内皮にあるコラーゲンに接着すると、
そこで炎症を起こして血管病変を形成しやすくなるのではないか、
という推論が可能となります。

ミュータンス菌を感染させたネズミにおいては、
血液から脳に達したcnm陽性のミュータンス菌が、
脳血管の内皮のコラーゲンに結合して、
そこに病変を作ることにより、
血管が脆くなって出血を来すことが報告されています。

これは実験的な条件下でのことですから、
虫歯の細菌が簡単に血液脳関門を通過して、
脳血管に接着するとは通常は考えにくいと思うのですが、
cnm陽性のミュータンス菌の感染が、
脳の微小出血のリスクになる、
という疫学データは存在しています。
その菌のコラーゲン結合活性が高いほど、
脳深部の微小出血の数も増加する、
というような報告もあるので、
満更関連のない話とも言い切れません。

今回の論文においては、
279名の平均年齢70歳の一般住民を対象として、
まず唾液の検査でcnm陽性のミュータンス菌がいるかどうかを確認し、
脳MRI検査で微小脳出血の有無と、
認知機能を計測してその間の関連を検証しています。

論文中に紹介されている脳の微小出血の事例がこちらです。
脳内微小出血画像.jpg
MRIのちょっと特殊な条件での画像により、
黒く抜けた点のように見えている部分が、
小さな出血病変です。

その結果…

cnm陽性のミュータンス菌は、
91名で検出されていて、
そのうちの59%に当たる54名で、
MRI上の微小脳出血が認められました。
一方でcnm陽性のミュータンス菌が陰性であった188名では、
微小脳出血が認められたのは、
10%に当たる19名に過ぎませんでした。
これは明らかにコラーゲン結合能のあるミュータンス菌があると、
微小脳出血が有意に多い、と言う結果になっています。
このうち実際にコラーゲン結合能を測定して、
それが10%以上あるという条件で絞り込むと、
そうした結合能の高いミュータンス菌は、
71名で検出されていて、
そのうちの61%に当たる41名で、
MRI上の微小脳出血が認められたのに対して、
それ以外の208名中では、
微小脳出血が認められたのは14%に当たる30名に過ぎませんでした。

次に認知機能との関連ですが、
MMSEという現在最も広く使用されている、
認知症の診断のための検査の結果では、
コラーゲン結合能のあるミュータンス菌のあるなしで、
認知機能の差はありませんでした。
唯一ある特定の音から始まる言葉を、
どれだけ多く言えるかの試験において、
若干の差が認められました。

結果は正直微妙なもので、
確かにコラーゲン結合能の高いミュータンス菌があると、
脳の微小出血が多いことは事実だと思います。
ただ、これが本当にミュータンス菌が脳に移行して、
血管壁に吸着したせいなのか、
と言う点については、
ある種の口腔内の不潔な環境や、
虫歯が進行しやすいような体質などが、
影響している可能性を否定は出来ないように思います。

個人的には血液脳関門を通過したミュータンス菌が、
脳血管に付着して出血の原因となり、
それが認知症の原因にもなるという仮説は、
大分無理があるように感じるのですが、
それでもミュータンス菌の特定の性質と、
脳内病変との間に関連があるという結果は興味深く、
また別個のアプローチで他の研究グループが、
検証を行うようなことがあれば、
脳卒中や認知症の原因としての、
画期的な発見に結び付く可能性を、
秘めているようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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