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妊娠中と授乳時の甲状腺疾患の管理(2017年版アメリカのガイドライン) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ATAの妊娠甲状腺ガイドライン.jpg
これは昨年のThyroid誌に掲載された、
アメリカ甲状腺学会による2017年版の、
妊娠中及び授乳期の女性における、
甲状腺疾患の治療ガイドラインです。

非常に興味深い内容が多く含まれていますので、
興味のある方が全文をお読み頂きたいのですが、
かなり長大なものなので、
今日はかいつまんでご説明したいと思います。

妊娠と甲状腺機能や甲状腺疾患との関係は多岐に渡ります。

①妊娠中の甲状腺機能
妊娠中には甲状腺機能に特徴的な変化が起こります。
妊娠初期の7から16週位の時期には、
一時的な甲状腺機能亢進状態が起こります。
これは胎盤からのhCGというホルモンに、
甲状腺を刺激する作用があるためと説明されていて、
一部は妊娠悪阻と関連があるという報告もあります。
この一時的な機能亢進が問題となることは少なく、
仮に動悸などが強く現れれば、
β遮断剤などの一時的な使用が検討されますが、
抗甲状腺剤などは使用をしません。
通常14から18週の間には、
甲状腺機能は正常に復します。

甲状腺機能の計測には、
通常TSHと遊離T4という検査が施行されます。

ただ、上記ガイドラインによれば、
遊離T4の測定系は、
妊娠中には種々の因子に影響され、
必ずしも正確とは言えないと指摘されています。

むしろ総T4濃度の方が、
TSHとの相関は高い、というデータも存在しています。

総T4の濃度は結合蛋白であるTBGに影響され、
妊娠中にかさ上げされる格好になるのですが、
そのことを勘案して補正を行なえば、
より精度の高い指標となる可能性があります。

僕は以前師事していた先生の影響で、
遊離T4より総T4をより信頼して、
TBGと共に測定を行なっているのですが、
決してそれが間違いではなかったと、
やや溜飲が下がるような記述になっています。

②妊娠中のヨードの必要量
ヨード(ヨウ素)は甲状腺ホルモンの原料の1つとなる微量元素で、
その不足も過剰も、
共に甲状腺機能異常の原因となります。

上記ガイドラインの記載では、
妊娠中には1日250μg以上のヨードの摂取が必要で、
ヨード摂取量がそれほど多くはないアメリカでは、
妊娠を計画する女性は、
その3カ月前から1日150μgのヨードのサプリメントを、
摂ることが推奨されています。

ヨードの過剰については、
1日500から1100μg以上の摂取は、
胎児の甲状腺機能低下に繋がる可能性があるので、
控えるべきだと記載されています。

ただ、日本の場合2000から3000μgのヨードを、
食事から摂取している人も稀ではなく、
これが本当に胎児の甲状腺機能に影響を与えないのか、
という点については明確ではありません。

尿中のヨードの測定も、
最近はよく行なわれているのですが、
その日による変動が大きく、
1回測定して正常値であっても、
必ずしもヨードの過剰や不足のないことを、
証明するものではないと考えられています。

③妊娠中のTSHをどうコントロールするべきか?
妊娠中のTSHの正常値は、
妊娠初期では2.5以下で、
妊娠中期以降は3.0以下と考えられています。

TSHがこれを超えて上昇している時には、
潜在性の甲状腺機能低下症の存在を疑います。

橋本病の自己抗体が陽性(特にペルオキシダーゼ抗体)の場合には、
潜在性の甲状腺機能低下症であっても、
流早産が多いというデータが存在しています。

このため、抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の場合には、
妊娠初期のTSHを2.5以下、
妊娠中期以降のTSHも3.0以下を目標として、
T4製剤による甲状腺ホルモン補充療法を行ないます。

橋本病の抗体が陰性の場合にも、
同じことが当て嵌まるかどうかは明確ではありません。

通常は従って、
橋本病の自己抗体が陰性であれば、
妊娠中のTSHは10以下で問題はないのですが、
流産の既往のある場合や、
不妊治療による妊娠などのケースでは、
甲状腺機能が正常であっても、
1日25から50μg程度のT4製剤の使用により、
流産や不育症の予防が、
期待出来るのではないか、
という報告もあります。

妊娠中の補充は安全性の問題から、
使用するのはT4製剤のみで、
T3製剤や甲状腺末などの使用は、
禁忌の扱いです。

④治療中の甲状腺機能低下症の妊娠中と出産後の管理
妊娠前に治療中の甲状腺機能低下症では、
補充されたT4の量は、
通常20から30%程度増量するとバランスが取れます。
出産後6週間で甲状腺機能を測定し、
1日の補充量が50μg以下のケースでは、
中止も考慮します。

⑤バセドウ病合併妊娠の管理
バセドウ病で治療中の患者さんが妊娠した場合、
妊娠中は甲状腺機能は安定することが多いので、
抗甲状腺剤がMMI(商品名メルカゾールなど)で1日5から10mgくらい、
PTU(商品名チウラジールなど)で1日100から200mgくらいまでであれば、
中止を検討することも1つの選択肢です。

ただ、その場合は1から2週間ごとに検査を行なうなど、
厳重な管理が必要です。

MMIで1日5から10mg以上、
PTUで1日100から200mg以上を使用している場合には、
原則その使用を継続します。

現行の知見では妊娠16週まではPTUの方が、
催奇形性が少ないと考えられているので、
PTUの使用が望ましいとされていますが、
MMIで安定している患者さんの処方を、
妊娠初期に敢えてPTUに変更する必要があるかどうかについては、
まだ議論があります。

MMIをPTUに変更する場合には、
MMI5mg分1を、
PTU200mg分2に交換するのが、
1つの目安と考えられています。

妊娠中のバセドウ病の甲状腺機能は、
T4を通常より少し高めに維持することを基本とします。

僕はバセドウ病の薬物治療において、
MMIとT4の併用療法を好んで使用していますが、
MMIは胎盤を移行する一方で、
T4は移行しないので、
胎児の甲状腺機能低下の原因となり、
妊娠中併用療法は禁忌です。
そのため、妊娠が判明した場合には、
PTU単独に切り替えます。
ただ、原則は治療を終了してから妊娠が望ましいので、
ご希望を聞いた上で治療の選択を行なっています。

妊娠中の女性でバセドウ病の自己抗体が陽性であると、
お子さんに甲状腺機能低下症のリスクが生じます。
従って、放射性ヨードや手術の治療後であっても、
自己抗体が妊娠中に陽性であれば、
新生児の甲状腺機能を測定する必要があります。

⑥授乳中の管理
授乳中のバセドウ病の治療は、
MMIで1日20mg以下、
PTUで1日450mg以下であれば、
使用には特に問題はないと考えられています。
若干は乳汁中に移行しますが、
その影響は軽微と記載されています。
乳児の発育が正常であれば、
特に乳児の甲状腺機能の検査を、
する必要はないと考えられています。
ただ、これが日本の臨床においても、
そのまま当て嵌まるかは、
何とも言えないところがあります。

授乳中の女性のヨードの摂取量は、
1日250μgは必要で、
ちょっと幅がありますが、
1日500から1100μg以上は過剰である可能性があります。

過剰なヨードの乳児への移行は、
甲状腺機能低下症の原因となる可能性があります。

これはあるサイトの記事で見たのですが、
授乳中のバセドウ病の治療に対して、
最近日本の一部の先生が好んでいる、
大量のヨードを使用する治療の可否について、
乳児の甲状腺機能を定期的にチェックすれば、
心配なく使用出来る、
という見解が書かれていました。

ただ、これは大きな問題で、
そもそも1日500μgを超えるヨードの、
授乳中の安全性は確認されていないので、
原則として授乳期に使用するべきではないと思います。
また、簡単に乳児の甲状腺機能を計測すると言いますが、
それも実験的には濾紙法などで測定した論文はあるものの、
一般の臨床で行えるようなものではなく、
その精度にも問題があるので、
安易にそうしたことを書くべきではないと思います。

医療を専門とされる方でも、
臨床をあまりされていない場合には、
研究としてのデータと、
一般臨床とを混同されていることがしばしばあります。
乳幼児の甲状腺機能を頻繁に測定するようなことは、
臨床研究としては確かにされることがありますが、
一般臨床においては、
よほどの必要性がなければ、
するべきではないと思います。

その方の記事にはコメント欄などはなく、
こちらの意見を連絡する方法が全くないので、
あまりこうしたことはしたくはないのですが、
ブログ記事で記載をさせて頂きました。

確かに授乳中や妊娠中にも、
大量のヨードをバセドウ病の管理に使用して、
安全であった、との報告をされている先生も、
いらっしゃるのですが、
それは非常に特殊な治療であって、
その安全性はご自分の少数例の臨床事例のみしか根拠はなく、
少なくとも海外で推奨されている治療ではなく、
むしろ禁忌という扱いになっていることは、
ここに明記しておきたいと思います。

妊娠中の大量のヨード使用が容認されているのは、
妊娠中にバセドウ病の管理のために手術が必要となった際の、
一時的な使用においてのみなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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