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倉持裕「磁場」(直人と倉持の会VoL.2) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
磁場.jpg
竹中直人さんのプロデュースによる公演が、
今下北沢の本多劇場で上演されています。

竹中直人の会として、
岩松了さんと組んだ作品が、
これまでに多く上演されましたが、
昨年からは岩松さんの教え子とも言うべき、
倉持裕さんの新作を倉持さんの演出で上演しています。

倉持さんは今年の9月に上演した、
「家族の基礎~大道寺家の人々~」という作品を観ましたが、
マジックリアリズムのなかなか面白い作品で感心しました。

今回はオープニングの感じは、
岩松了作品を彷彿とさせるのですが、
竹中直人さんが演じる、
デモーニッシュな俗物の男と、
渡部豪太さん演じる、
初めて映画の台本を任された若い劇作家との対立が、
ストレートな作劇でせりふ劇としての醍醐味に溢れ、
その藝術と死と美少年とパトロンという、
三島由紀夫を思わせるテーマが、
これまた三島由紀夫的ラストに見事に着地します。

無駄な人物は1人も登場せず、
それぞれの役割がラストに結び付いています。
1人ずつの見せ場もきちんと描かれていて、
役者さんにも配慮されていますし、
それでいて、
主人公の劇作家の苦悩する心情を、
他の人物との対話の中で、
巧みに浮き上がらせるという技巧も高度なものです。

完成度の高さに感心しましたし、
竹中直人さんの芝居も、
持ち味が良く出た、
熱演と言って良いものでした。

他のキャストも曲者を揃えていて、
長谷川朝晴さんの日和見のプロデューサーも、
それらしい軽快さで良いですし、
竹中さんの秘書を演じる菅原永二さんは、
今怪しげな役を演じさせたらピカ一ですが、
今回も成熟した「嫌らしい」芝居を、
彼ならではの技巧で演じていました。
彼が秘書を演じたからこそ、
竹中さんの悪魔的な感じも、
より引き立ったと思います。

惜しむらくは、
台詞が三島戯曲のような詩的なものではなく、
やや散文的に統一感のないもので、
ケラさんや岩松さんのような、
すれ違いや語尾や間合いによる笑いを入れるのですが、
それがまた不発に終わっていた、
ということでした。

個別の台詞のクオリティも高いものであれば、
三島戯曲に匹敵するような傑作になったと思うので、
それだけは残念ですが、
新作で三島由紀夫のような戯曲を、
そうそう書ける劇作家はいないと思いますし、
今回の作品には本当に感心しました。

倉持さん、なかなかやりますね。

以下ネタバレを含む感想です。

竹中直人さん演じる、胡散臭い金持ちが、
自分が好きな実在の藝術家を主人公とした映画のスポンサーとなり、
長谷川朝晴さん演じるプロデューサーが、
田口トモロヲさん演じる監督に演出を依頼し、
オリジナルの台本を、
渡部豪太さん演じる、
まだ無名の小劇場の劇作家に頼みます。

竹中さんは金にあかせて、
高級ホテルの最上階のスイートルームを貸し切り、
そこに渡部さんを缶詰にして台本を執筆させます。

ただ、最初は渡部さんに自由に書いて良い、
とは言いながらも、
藝術家と母親との葛藤は是非入れて欲しいと、
台本の内容に圧力を掛けたり、
愛人の無名の女優をキャストにごり押ししたりするので、
劇作家は本当に書きたいものと、
竹中さんの喜ぶものを書きたいという思いに板挟みになり、
書けなくて苦しみます。

竹中さんは俗物ですが、
映画のテーマである藝術家への思いは、
若い劇作家と違いはありません。
その細い糸のような部分で、
2人は結び付いているのですが、
最終的には劇作家は自分の書きたいものを書き、
その台本は、
テーマであった筈の藝術家が、
一切登場しないというものであったので、
竹中さんは怒り狂い、
2人は決裂してしまいます。

途中から劇作家の手伝いをしていた、
調子の良いことだけが取り柄の先輩の劇団員が、
劇作家の役割を引き継ぐことになるのですが、
劇作家がホテルを去る日に、
そこに送られて来た藝術家による彫像を、
劇作家は素晴らしいと感じたのに、
先輩の劇団員はその良さを否定したので、
劇作家はその先輩を、
発作的にベランダから突き落として殺してしまいます。
すると、竹中さんが現れ、
「もう心配することはない」
と劇作家を抱きしめるのです。

主人公の劇作家が、
友人劇団員を突き落としてしまう場面では、
その意外さに客席から、
「あっ!」という声が聞こえました。

こういうのは本当の意味での演劇の醍醐味ですが、
このように書ける劇作家はそういるものではありません。

竹中さん演じる成金と、
渡部さんが演じる若い劇作家は、
同じ藝術家の藝術を理解する、
という一点で藝術家とパトロンとして結び付いていたのですが、
その藝術家不在の物語を書いてしまったために、
決定的に対立して一旦は解雇されます。
渡部さんとしては、
その時点では自分の藝術家としての魂を、
俗物の竹中さんに売り渡さなかったと思い、
ある意味清々しているのですが、
自分の後釜に座った友人に、
真の藝術作品であり、
自分と竹中さんを結んでいた彫像の藝術性を否定された瞬間、
そのことだけは許すことが出来ずに殺してしまうのです。
すると、その行為が最後になって、
再び俗物の富豪と若い劇作家を結び付けます。

竹中さんは、
劇作家に自分の愛する藝術を否定されたと考えて、
彼を解雇したのですが、
衝動的な殺人という行為によって、
劇作家自身も、
藝術のためなら死も厭わない、
自分と同じ本性を持っている、
ということが確認されたからです。

藝術と破滅と死とが微妙なバランスを保った、
極めて三島由紀夫的な世界で、
三島戯曲以外で、
僕はこうしたテーマが十全に描かれた新作を、
初めて観たと思います。

前述のように台詞の品格にはやや難があるのですが、
せりふ劇の醍醐味に溢れた素晴らしい作品で、
特にその衝撃的なラストは、
そうザラに出会えるものではありませんでした。

これはなかなか凄い作品ですよ。

迷われている方があれば、
是非にとお勧めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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