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PCSK9阻害剤の効果と糖尿病リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コレステロール低下と遺伝子.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
コレステロール降下剤の種別による、
その有効性と有害事象のリスクとを、
比較検証した論文です。

コレステロール降下療法の治療薬として、
長く最も有効性が実証された薬剤は、
スタチンと呼ばれるコレステロール合成酵素の阻害剤です。

スタチンはコレステロールを降下させることにより、
心血管疾患のリスクを低下させることが、
多くの精度の高い臨床データで確認されています。
その一方でスタチンは多くの副作用や有害事象のある薬でもあります。

その中でも心血管疾患のリスクとの関連で問題となるのは、
スタチンを使用することにより、
若干ながら新規の糖尿病のリスクが増加することです。
このスタチンによる糖尿病の増加は、
遺伝子レベルの検証により、
スタチンの作用メカニズムである、
コレステロール合成酵素のHMGCRの阻害自体が、
要因であると考えられています。

今年PCSK9阻害剤という新しいメカニズムのコレステロール降下剤が、
注射薬として日本でも発売されました。
商品名はレパーサです。

スタチンが肝臓でのコレステロール合成を阻害する薬であったのに対して、
このPCSK9阻害剤は、
細胞へコレステロールを取り込むのに必要な、
LDL受容体を増やす、
というメカニズムの薬です。

PCSK9というのは、
LDL受容体を分解する酵素なので、
それを阻害することによって、
LDL受容体は増加し、
それによりコレステロールがより多く細胞に利用されて、
血液中のコレステロールが低下する、
という仕組みです。

この薬は注射薬として、
2週間から4週間に一度皮下注射として行われ、
従来のスタチンより強力に、
LDLコレステロールを低下させることが確認されています。

それでは、PCSK9阻害剤とスタチンとを比較した時、
その心血管疾患の予防効果と、
糖尿病の発症リスクには、
どのような違いがあるのでしょうか?

PCSK9阻害剤の臨床データはまだ限られていて、
長期成績や長期の安全性はまだ確立されていません。

そこで今回の研究では、
PCSK9阻害剤のターゲットである、
PCSK9遺伝子の変異を解析することにより、
その検証を行っています。

この遺伝子が変異していてPCSK9の活性が低い人は、
PCSK9阻害剤を長期使用しているのと同じ状態になる筈なので、
そうした人と変異のない人を比較するのです。
同様にスタチンのターゲットであるHMGCRの遺伝子の変異についても解析し、
その比較を行っています。

対象は14の臨床研究のトータルで112772名の解析で、
その中には14120名の心血管疾患の患者さんと、
10635名の糖尿病の患者さんが含まれています。

その結果…

LDLコレステロールを10mg/dL低下させるごとに、
PCSK9の阻害は19%(95%CI:0.79から0.89)、
HMGCRの阻害も19%(95%CI:0.72から0.90)、
心血管疾患のリスクをそれぞれ有意に低下させてえいました。

これはつまり、
スタチンでもPCSK9阻害剤でも、
同じようにコレステロールを低下させることによって、
心血管疾患のリスクを減らしている、
同じように有効だ、ということを示しています。

次に糖尿病の発症リスクについて見ると、
同じくLDLコレステロールを10mg/dL低下させるごとに、
PCSK9の阻害は1.11倍(95%CI:1.04から1.19)、
HMGCRの阻害は1.13倍(95%CI:1.06から1.20)、
それぞれ有意に増加していました。

つまり、スタチンもPCSK9阻害剤も、
同じようにコレステロールの低下に伴って、
若干ながら糖尿病の発症リスクを増加させます。
この影響は食前血糖が100mg/dL以上であると、
より高くなることも確認されました。

今回の研究は遺伝子解析によるもので、
実際の薬の効果や副作用を直接見ているものではありませんが、
スタチンもPCSK9阻害剤も、
いずれもコレステロールの低下に伴って、
心血管疾患のリスクを低下させ、
同時に糖尿病のリスクを増加させます。
ただ、糖尿病のリスクより心血管疾患の予防効果が、
明らかに上回っているので、
その使用は正当化されるのです。
HMGCRとPCSK9の阻害作用は独立しているので、
両者は付加的に働くと考えられます。

どうやらコレステロール降下療法は、
薬剤の種類には関わらず、
ある程度の血糖上昇の副作用は避けられない性質のもので、
心血管疾患のリスクに応じて、
その使用の可否を決定することが、
現時点ではベストの選択と考えて良いようです。

ただ、遺伝子解析によるこうした検証は、
比較的最近のJAMA誌のものなど、
これ以外にも複数発表されていて、
その結果はそれぞれ異なっているので、
この問題の詳細については、
今後の臨床データなども付加しつつ、
慎重に検討する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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