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猫の腎障害悪化のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
AIMと猫の腎障害.jpg
今年のScientific Reports誌に掲載された、
猫に腎不全の多いことのメカニズムを解析した、
興味深い日本の研究者による論文です。

ペットの医療というのは、
今は人間の医療と殆ど差がないくらいの進歩を遂げていて、
およそ人間に行われる治療で、
猫や犬に試みられないものはなく、
手術も放射線治療も抗癌剤も使われますし、
採血やレントゲンは言うに及ばず、
CTやMRI、血管造影など何でもござれです。

人間の医療機器がそのままペットに使用され、
人間に使用される薬がそのままペットに使用されます。
人間のような健康保険などの縛りもないので、
医療費を抑制しようとか、
過剰診療を避けようなどの視点も、
あまりないように外野からは思われます。

クリニックでも、
ご自分のことではなく、
飼っている猫の血液検査の結果などを見せられて、
意見を求められることもあります。

そんな中でちょっと不思議に思ったのは、
腎臓を患う猫の多さです。

実はこれは以前より知られていたことで、
人間を含む他の動物と比較して、
猫には慢性腎障害が多く、
その死因も腎不全が多いのです。

それでは、何故猫には腎不全が多いのでしょうか?

その原因はこれまで不明でした。

今回の論文は東大の宮崎徹先生のグループによるもので、
自ら発見したAIM(Apotosis Inhibitor of Macrophage)という物質が、
その問題に関与しているのではないか、
という仮説を検証しているものです。

AIMとは何でしょうか?

その名称でも分かるように、
最初は白血球の一種で病原体を飲み込んで処理してしまう、
マクロファージという免疫細胞から分泌され、
アポトーシスと呼ばれる細胞死を、
抑制する蛋白質として同定されました。

ただ、研究が進むうちに、
それ以外にも多くの作用を持つことが明らかになりました。

そのうちで大きな役割の1つと考えられているのが、
薬剤や重症感染、出血などの際に、
急激に腎臓の働きが低下する、
急性腎不全の時に、
腎臓を保護してその回復を助けるという作用です。

AIMは通常は血液中でIgM(5量体)という大きな免疫グロブリンと、
結合した状態で存在しています。

IgMは非常に大きな蛋白質ですから、
それに結合したままでは、
腎臓から排泄されることはありません。

しかし、身体が急性腎不全になり、
尿の通り道である尿細管が、
炎症により死滅した細胞で、
目詰まりを起こすような状態になると、
IgMから遊離したAIM蛋白が、
尿細管に移行して目詰まりを起こしている細胞に接着、
それが一種の目印の役割を果たして、
速やかに死滅した細胞は尿へと排泄される、
という仕組みが存在しているのです。

こうした仕組みはネズミと人間で共に見られることが分かっています。

さて、今回猫のAIMとその働きを検証したところ、
猫のAIMは実にネズミの1000倍も強くIgMと結合していて、
遊離のAIMは殆ど存在しない、
ということが明らかになりました。

これは部分的なAIMの構造の違いによるものです。

仮にこれが事実であるとすると、
猫は人間はネズミのように、
AIMで急性腎不全の回復を助けるような仕組みが存在しないので、
それだけ容易に腎機能が悪化しやすい、
ということになります。

これを証明する目的で、
AIMの遺伝子を猫のものに置き換えたネズミを作成したところ、
そのネズミは急性腎不全による死亡率が増加し、
そのネズミに遊離しやすいAIMを注射すると、
急性腎不全からの回復が促進されました。

これがおそらく、
猫に腎不全が多い1つの理由であると考えられます。

現状このAIMの研究は、
その多くが同じ研究グループのものなので、
そうしたメカニズムが存在することは事実としても、
その生体における重要性や意味付けについては、
まだ確定的なものとは言えないと思いますが、
今後より多くの研究が、
多くの研究グループにより成され、
それが腎不全の治癒に繋がれば、
患者さんにとってそれ以上の福音はないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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