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急性期脳梗塞に対する血管内治療(血栓回収療法)の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
脳梗塞急性期の血栓回収療法.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
脳梗塞の急性期の血管内治療が、
患者さんの予後に与える影響を検証した、
メタ解析の論文です。

脳梗塞は最終的に脳内の結果に血栓が詰まって、
脳の一部に血液が流れなくなるために、
脳の細胞が死んでしまうという病気で、
脳卒中の1つです。

原因としては、
脳の血管の動脈硬化が進行して起こるものもありますし、
心房細動などの原因により、
別の場所から飛んできた血の塊(血栓)が、
血管を詰まらせて起こることもあります。

急性期の脳梗塞の治療の進歩において、
現時点で最大のトピックは、
静脈からrt-PA(アルテプラーゼ)という血栓溶解剤を、
注射して詰まった血栓を溶かしてしまう。
という血栓溶解療法の開始です。

アメリカでは1996年に適応されましたが、
日本で保険適応として施行が可能となったのは、
2005年の10月のことです。
色々と理由はあったのですが、
如何にも遅すぎる決定で、
「失われた10年」という言い方がされることもあります。

この血栓溶解療法は非常に有用性の高い治療で、
それまで回復が困難とされたような患者さんが、
劇的に回復されるというケースが多く報告されました。

ただ、この治療は全身的に出血の合併症を伴うので、
その適応は有効性のあるケースに限定されます。

脳出血を起こすリスクが高いような患者さんや、
血糖や血圧が非常に不安定であるようなケース、
前回の脳梗塞から3ヶ月以内などのケースでは適応となりません。

そして、発症から時間が経った血栓は溶解が難しく、
出血の合併症も多くなることから、
この治療は脳梗塞の症状の発症から、
4.5時間以内(発売当初は3時間以内)に治療を開始することが、
適応の要件となっています。

rt-PAによる血栓溶解療法により、
多くの患者さんの予後が改善したのですが、
その一方で問題点も浮上するようになりました。

その第一はrt-PAによる血栓溶解療法は、
脳梗塞の部位によってその効果が異なり、
内頚動脈や中大脳動脈の起始部では、
血流が再開される確率が低いという事実です。

こうした場所においては、
より直接的に血栓を除去するような方法が、
必要ではないかと考えられるのです。

また、rt-PAによる治療は症状発症後4.5時間以内、
と規定されているのですが、
その時間を過ぎていても、
有効で安全な治療はないのだろうか、
という点がもう1つの問題点です。

そこで注目されたのが、
病巣近くまで血管内にカテーテルを挿入し、
詰まっている血栓を除去するという、
直接的で機械的な方法です。

カテーテルで詰まった血管を広げるというのは、
心筋梗塞などの際には一般的な方法です。
しかし、同様のことを脳の血管でしようとすると、
心臓とは比べ物にならないような、
後遺症のリスクがあります。

心臓ではステントという管を入れて、
詰まっている血管を強制的に拡張させるような治療が主体です。
こうしたことをすると、
当然剥がれた血の塊の欠片のようなものは、
より末梢に血管を運ばれてしまいます。
心臓の場合、
太い血管の血流が保たれていれば、
末梢の細い血管は詰まっても、
心臓の働きとしては大きな問題は生じないのですが、
同じことを脳の血管でやろうとすると、
細い結果が詰まっても、
深刻な後遺症が残る可能性があるのです。

そのため、
カテーテルで詰まった血管を広げるには、
脳においてはより慎重な配慮が必要で、
絶対に末梢に血栓を飛ばさないようにしないといけません。

最近開発され主に使用されているのは、
ステント型血栓回収器(ステントリトリーバー)と呼ばれる器具で、
金属の網目の管を脳血管の閉塞部位に挿入し、
そこに血栓を絡め取って、
引き抜いて回収するという方法です。

2013年になって、
rt-PAによる血栓溶解療法と血管内治療による血栓回収療法との、
直接比較の試験結果が複数報告されましたが、
その時点では明確にrt-PAより血管内治療が優れている、
という結果には至りませんでした。

それが事例をより限定するなどして行われた、
5つの介入試験という厳密な臨床試験の結果が、
2015年に相次いで報告され、
今回は血管内治療の一定の優位性が確認されたのです。

急性脳梗塞の治療は、
確実に新しいステージに入ったのです。

今回の研究はその5種類の臨床試験のデータを、
まとめて解析することにより、
血栓回収療法を症状発症後、
どのくらいの時間内に行なうのが適切と言えるのかを検証したものです。

rt-PA治療の成功率が低い、
内頚動脈と中大脳動脈起始部の病変に限定して、
急性期の脳梗塞の患者さんをくじ引きで2つのグループに分け、
一方は適応のある事例ではrt-PAを含む保存的治療を行い、
もう一方はそれに加えて、
主にステントタイプの器具を用いた血栓回収療法を行います。

結果の評価は登録後3ヶ月において、
ランキン・スケール(mRS)という指標で評価されます。
これは0から6の数字で予後の程度を表現していて、
0は全く後遺症のない治癒で、6が死亡。
0から2であれば日常生活には支障のない状態を示しています。

トータルで1287名の脳梗塞急性期の患者さんのデータを解析したところ、
登録後3ヶ月の時点でのランキン・スケールは、
血管内治療群で平均2.9点に対して、
薬物治療のみの群では3.6点で、
血管内治療が有意に患者さんの予後を改善していました。

症状の出現から病巣の血流が再開されるまでに時間が、
長くなればなるほど血管内治療によるメリットは低下し、
発症後7.3時間を超えると、
通常の治療と比較した場合の有効性はなくなりました。

これまでの研究で血管内治療の6時間以内の有用性は、
ほぼ確立していましたが、
今回の検討によりその方針は概ね妥当なもので、
特に7.3時間を超えての治療は、
患者さんにメリットを及ぼさない可能性が高い、
という結論になったのです。

今後こうした血管内治療はより普及するものと思われますが、
どのような患者さんに対して、
メリットが大きいのかの検証は引き続き必要であると思いますし、
より実用的で確実性のある、
臨床的な指針が確立されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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付記)
誤字あり。コメント欄でご指摘を受け修正しました。
2016年10月15日15時修正
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