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唐十郎「夜壺」(唐組・第58回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は演劇の話題です。

今日はこちら。
夜壺.jpg
唐組の第58回公演として、
2000年に初演された「夜壺」が再演されました。
その御茶ノ水の明治大学の敷地での上演に足を運びました。
今のところ唐組の本公演は旗揚げ以来皆勤賞です。

この作品は勿論初演も観ているのですが、
正直あまり覚えていません。

大久保鷹さんがその前作の「秘密の花園」の再演で、
賑やかし的にちょこっと姿を見せて、
本作では久しぶりに本格的に出演されました。
確かオープニングに花道からナース姿で登場し、
人形への偏愛を見せたりもしたのですが、
長い出番はかなり息切れ気味で、
「もう長い出番は駄目なのね」
とガッカリしたことだけは覚えています。

これ以降は大久保鷹さんが、
唐組の舞台に立つことはありませんでした。

今回の再演は、これまでの最近の唐組の芝居と同じく、
唐先生の芝居を知り尽くした久保井研さんの、
緻密で堅実な演出が光る作品で、
間違いなく初演より作品の出来は良かったと思います。

セットも初演より凝っていたと思いますし、
場面に緩みがなく、
台詞も明晰に心地よく聞こえました。

完全な肉声でマイクを使っていない声が、
これだけしっかりと聞こえる演劇は、
今ではおそらく他にあまりないと思います。
それだけでも値打ちがあると個人的には思うのです。

下方からクロスする赤と緑(上手が赤)の照明など、
状況劇場からの伝統的な照明が嬉しいですし、
照明と音効を目まぐるしく切り替え、
ワーグナーのライトモチーフを思わせるように、
同じ繰り返しの音効を、
個々のキャストのテーマのように扱うのも、
状況劇場からの伝統の技です。

今回は特に場面の転換に妙味があって、
オープニングの病室のシーンから、
おしっこの染みの付いた白いカーテンを、
看護師がもぎ取るようにして、
それが前面の幕になって転換する鮮やかさや、
丸山正吾さん演じる禮次郎が、
鼻血を出して登場するタイミングの決まり具合など、
それぞれが小気味良くて感心しました。

ラストは動き出した人形が、
舞台の人間を置き去りにして、
静かに舞台外の闇に去ってゆく余韻も美しく、
唐先生の人形ものとしては、
代表的な1本と言って良い佳作に、
仕上がっていたと思います。

ただ、客席はかなり寂しい感じで、
それでいて僕の前に座っていたおばさんが、
グイグイと後ろにお尻を寄せて来るので、
殆ど僕は座る場所がなくなって、
非常に苦しい観劇になりました。
こんなことは長く唐先生の芝居を観ていますが、
初めての苦痛でした。
役者は皆好演なのですが、
スターがいないのが苦しいところです。
テントの場所の選定も含めて、
ちょっと新しい試みがあったらいいな、
と思いますし、
状況劇場時代の唐作品にも、
挑戦して欲しいな、と思います。
客演もあるといいですね。

僕はでも久保井さんが演出する、
端正で緻密な唐作品が大好きなので、
これからも上演される限り足を運びたいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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「怒り」(吉田修一原作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
何もなければ1日のんびり過ごす予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
怒り.jpg
李相日監督が吉田修一さんの原作を映画化した、
「怒り」を観て来ました。

これは原作を先に読んだ時点では、
ちょっと映像化を危惧したのですが、
実際に観た映画は思ったより穏当な仕上がりで、
そう悪くはありませんでした。

ラストがモヤモヤしているので、
特に感動する、というような感じにはならないのですが、
原作には基本的に忠実なので、
原作のファンの方は比較的安心して楽しむことが出来ます。
沖縄の海など、映像の美しさは特筆ものです。

以下少しネタバレのある感想です。
犯人の名前などは書きませんが、
何となく分かってしまう表現もあるかも知れませんので、
基本は鑑賞後にご覧下さい。
どちらかと言えば、
原作を先に読むことをお薦めします。

夫婦2人を惨殺し、
犯行現場の壁に「怒り」という血文字を残した、
山神一也という殺人犯の青年が整形手術をして逃亡。
犯行の一年後に同じように謎めいた、
3人の犯人と同年代の男が、
それぞれの背景を抱えて、
沖縄の離島と東京、そして房総の港町に現れます。

その謎の男たちは、
それぞれのコミュニティの中で、
一定のポジションを得て、
周囲の人間に愛されたり、
信頼を得たりしています。

それが、犯人の写真やCG映像がテレビで公開されることにより、
「あれ、ひょっとしたら…」
という思いが周囲の人に芽生え、
その葛藤が3箇所の別の場所でそれぞれのドラマを生むのです。

これは原作を先に読んだのですが、
人間が誰かを信じるということと疑うということとの葛藤が、
なかなか巧みに描かれていて、
3つの筋立てを並行して描くのは、
かなりの苦労があったと思うのですが、
まずまず綺麗に着地していたと思います。

ただ、いわゆるミステリーではなく、
犯人が誰かは一応最後に近い部分まで伏せられてはいるのですが、
中段くらいでは、ほぼこの人と分かるような記載になっていて、
ミステリー的な仕掛けやミスリード、
伏線のようなものは基本的にありません。

犯人の「怒り」とは何なのか、
何故犯人は罪のない夫婦を惨殺したのか、
という点は1つの眼目だと思うのですが、
何となく不鮮明でボンヤリとしたままで終わります。

作品の1つのディテールとして、
沖縄で米兵により少女が強姦される、
という事件が挿入されていて、
その扱いもとても微妙です。

米兵の事件の流れが、
結局別個のストーリーの中に、
飲み込まれるような感じで終息するので、
これも何となくモヤモヤした気分になってしまうのです。

映画版はほぼ原作を忠実に映像化していて、
人間関係の枝葉はかなり整理され単純化されていますが、
基本的な骨格は原作通りになっています。

映画の優れている点から言うと、
3つの筋立てを混乱なく交差させる手法が、
非常に技巧的で鮮やかです。

オープニングでの謎の3人の登場のさせ方の巧さや、
妻夫木さんが演じるゲイの男性が母親の病室を訪れ、
昔行った温泉の話をするところから、
自然と沖縄の目が痛くなるような真っ青な海に、
場面が移るなどの構成の妙、
少女が強姦された場面のすぐ後に、
無音でかなり時間が経った後の、
少女と少年の海辺の場面を繋いだり、
次の場面の電話の音を、
前の場面の終わりで先に流してから、
場面を転換させるなど、
随所に演出の技が光っています。

ただ、イメージ優先の場面の処理が多いので、
渡辺謙さんが演じる無骨な父親が、
娘の婚約者を信じたいけれど信じきれない思いや、
発達障害の娘に対する複雑な感情などは、
しっかりとは観客に伝わらなかったような気がします。

渡辺謙さんと宮崎あおいさんのパートは、
山田洋次映画のような筋立てになっているので、
矢張りこれは台詞の応酬のような台詞劇の部分があり、
山田洋次的なベタベタのタッチがないと、
成立は難しかったのではないかと思います。
渡辺謙さんはかなり大根に見えたのが残念でした。
あの役は田中邦衛や西田敏行がピッタリで、
謙さんがやるともっと知的な印象が前に出るので、
人情劇として成立していなかった、
という気がするのです。
松山ケンイチの遺伝子検査の結果が分かるところで、
これでもか、とばかりに音効がドカンと掛かるのですが、
「えっ?ここで盛り上げるの?」
という感じで、
多くの観客は置いてきぼり、
という、しくじり感があるのです。

妻夫木さんと綾野剛さんのゲイのパートは、
最後に呆然とワンカットで街を彷徨う妻夫木さんの感じが、
大島渚監督の「青春残酷物語」のラストのようで、
これは結構ツボでした。
作品の一番本質的な部分は、
この妻夫木さんのパートにあると思います。

映画は原作のモヤモヤした部分を、
却って拡大してしまったような部分があると思うのです。

「怒り」という題名からは、
何か対する攻撃的な感情をイメージするのですが、
実際には犯人しかそうした「怒り」は持っておらず、
人間を信じること、が作品のテーマになっています。
そして、犯人の持つ「怒り」の正体も、
明確には示されないのでモヤモヤするのです。
そこに更に沖縄の米兵による少女強姦事件が、
正直やや中途半端に絡められているので、
尚更「一体何が言いたいの?」、
というような気分になってしまうのです。
原作では最後にベタな人情噺で、
ちょっとホットするような感じがあるのですが、
映像化するとそこの部分が、
かなり絵空事で白々しく感じるので、
よりテーマがわかりにくくなってしまったように感じたのです。

そんな訳でトータルには今ひとつの作品なのですが、
随所にハッとするような美しいカットがあり、
宮崎あおいさんの、
ちょっとだらしない感じの役作りとか、
妻夫木さんと綾野さんのゲイのカップルの演技の本気度など、
全力で芝居をしている、
という熱気は間違いなく感じるので、
観て損な映画ではないと思います。

物足りないですけれどね…

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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