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ワーグナー「ワルキューレ」(2016年新国立劇場シーズンオープニング) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ワルキューレ.jpg
新国立劇場の今季のシーズンオープニングである、
ワーグナーの「ニーベルングの指環」の第二部(第1日)、
「ワルキューレ」を聴いて来ました。

今年はワーグナーの上演は非常に充実していて、
世界最高水準と言って良い舞台が続きます。

4月の東京・春・音楽祭が、
ヤノフスキの指揮にNHK交響楽団の演奏、
そして世界的な第一線の歌手が揃う豪華な布陣で、
「ジークフリード」の見事な演奏を聴かせ、
それから今回の新国立劇場の「ワルキューレ」があり、
11月にはウィーン国立歌劇場の同じ「ワルキューレ」、
そしてザルツブルグ・イースター音楽祭の来日公演として、
ティーレマンが「ラインの黄金」を振ります。

これはもう陶然とするような、
物凄いラインナップですし、
今のところその出来栄えも期待を裏切らないものです。

「ラインの黄金」からこの「ワルキューレ」、
そして「ジークフリード」、「神々の黄昏」と続く、
楽劇「ニーベルングの指環」は、
全ての作品が素晴らしいのですが、
中でもまとまりという意味では一番で、
単独での上演も最も多いのが、
この「ワルキューレ」です。

オープニングの弦の響きからワクワクしますし、
1幕は「トリスタンとイゾルデ」を思わせる2重唱があり、
2幕には長大な夫婦の痴話喧嘩など、
他のワーグナー作品にはあまりない雰囲気や、
天界と地上を結ぶダイナミックな生と死の構図があり、
3幕は有名な「ワルキューレの騎行」から始まって、
怒涛の展開で感動的な大フィナーレへと続きます。

僕は二期会の公演で聴いたのが生で接した最初で、
それからベルリン・ドイツ・オペラのチクルス上演で、
ワーグナーの虜になり、
その後キース・ウォーナー演出による、
ポップで奇想に満ちた新国立劇場の2回の上演
(「ワルキューレ」は聴いたのは1回のみ)、
マリインスキー・オペラによるチクルス上演、
ドミンゴの出たメトロポリタン・オペラの上演と来て、
最近ではヤノフスキ指揮で演奏会形式の、
東京・春・音楽祭の公演が、
代役がマイヤーでオケはN響という豪華版で、
音楽的には圧倒的で印象に残っています。

僕はこの作品は大好きで、
死ぬ前に最後に1本のオペラを生で聴くとすれば、
この「ワルキューレ」かな、
と今は思っています。

今回の上演は新国立劇場としては、
3回目の指環の連続上演の一環ですが、
演出はオリジナルではなく、
フィンランド国立歌劇場のゲッツ・フリードリヒ演出を、
借りて来たものです。

これは昨年の「ラインの黄金」の舞台が、
原作に比較的忠実で端正な演出が、
個人的には好印象で、
今回は「ワルキューレ」をどう料理してくれるのかと、
期待に胸を膨らませて劇場に足を運びました。

今回もなかなか考え抜かれた演出で、
借り物とは言え、
ただ持って来ただけ、という感じはしません。

個々のキャラクターの絶望的な孤独の瞬間のようなものに、
スポットを大きく当てていて、
1幕のジークムントが絶望の中で救いを求める一瞬であるとか、
不自由な神の王であるヴォータンが、
「世界など滅んでしまえ」と嘆息する瞬間、
2幕でジークムントが死を確信する瞬間などが、
指揮の飯森さんの手さばきによって強調され、
それが連動して絞り込まれるスポットや空間構成で強調されます。

孤独と裏腹な結合の象徴としての抱擁の場面が、
強調されているのも特徴で、
2幕のジークリンデとジークムントの死を覚悟した抱擁の場面など、
通常は退屈に感じる場面なのですが、
今回は目から鱗の感動がありました。

今回の演出の優れているところは、
台本に書き込まれていることを、
そのままに観客に分かるように視覚化していることで、
1幕ではジークリンデがフンディングに眠り薬を飲ませる動作なども、
ちゃんと描かれています。

ただ、唯一おかしいと感じたのは、
例の「ワルキューレの騎行」で、
何か場末のショーパブみたいな雰囲気で、
連れてきた死体の英雄と、
セックスをするような下品な描写には、
ガッカリする思いがありました。

「ワルキューレの騎行」も個々のワルキューレが、
1人ずつ飛んでくるという段取りが、
ちゃんと台本には書いてあるのですが、
実際にそれが行われることは皆無で、
概ね太ったおばさんが岩山の上をヨロヨロ集団で歩いているか、
そうでないと今回のように、
中途半端なセックス描写が、
繰り広げられるような読み替え演出です。
個人的には今の技術であれば、
空飛ぶ馬に跨ったワルキューレが、
ビュンビュン舞台に飛んでくるような演出も不可能ではない筈で、
そうした演出を期待したいと思います。

個人的にはワーグナーは結構エッチだと思いますし、
東京・春・音楽祭の「パルジファル」演奏会式上演で、
魔女のお姉さんが舞台の正面にズラッと並んで誘惑の声を聴かせた時には、
絶対これがワーグナーの意図通りの効果だ、
と感じました。
ああいう感じが、
「ワルキューレの騎行」にも是非欲しいと思います。

ただ、今回のラストの岩山にブリュンヒルデが封印される場面は、
映像の炎と本物の炎、そしてスモークとレーザー光線の効果が素晴らしく、
僕が観た中では最も美しく、
それでいて原作通りの場面が現出された、
素晴らしいものになっていたと思います。

これは凄いですよ。

この場面だけでも今回の上演は観る値打ちはあると思います。

歌手陣は、
イレーネ・テオリンやエレナ・ツィトコーワという、
新国立のワーグナー上演を支えた女声陣が、
今回も良い働きを見せていて、
ジークムントのステファン・グールドも、
ベテランの初役ながら真摯な姿勢と、
素晴らしい美声を聴かせ、
ヴォータンのグリムスレイも悪くありません。

日本のワーグナー上演としては最高水準です。

オケは東京フィルというのはどうしても元気が出ないのですが、
1幕はミスタッチが多く、
オープニングのチェロもヘロヘロで、
肝心のところで音程のミス、
というガッカリの立ち上がりであったのですが、
尻上がりに調子が出て、
3幕は名演と言って良い水準に達していたと思います。
ただ、個人的には矢張り好みの音ではありません。

いずれにしてもこの指環のシリーズは素晴らしくて、
今回も堪能しましたし、
これからも非常に楽しみです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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