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乳癌再発予防薬と抗うつ剤の併用の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で外来は午前中で終わり、
午後はレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タモキシフェンとSSRIの併用リスク.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
乳癌の再発予防剤であるタモキシフェンと、
抗うつ剤との相互作用についての論文です。

乳癌は世界的に、
女性の癌の死亡原因としては最も多く、
海外統計ですが、上記文献の記載では、
女性の癌の4分の1は乳癌で、
女性の癌死亡の15%は乳癌です。

そして、乳癌の診断は大きなストレスとなるので、
これも海外統計ですが、
乳癌の診断された年には、
半数近くの女性がうつ病か神経症を併発すると報告されています。

何が言いたいのかというと、
乳癌で闘病中の女性は、
しばしば抗うつ剤も使用しているのです。

タモキシフェン(商品名ノルバデックスなど)は、
女性ホルモンであるエストロゲンの受容体に結合し、
その働きを抑制する作用を持つ薬剤です。

乳癌がエストロゲンの受容体を持っていると、
この薬を使用することにより、
その増殖が抑えられます。
エストロゲン受容体が陽性の癌である場合、
患者さんの半数にはその再発予防効果が見られ、
乳癌による死亡のリスクを3分の1ほど減らし、
総死亡のリスクも22%減少させると報告されています。
要するに、その有効性は確立されています。

さて、このタモキシフェンは、
肝臓の薬物代謝酵素であるCYPの代謝を受けて活性化します。
特により活性型であるエンドキシフェンへの代謝は、
CYP2D6が担っています。

そして、ある統計では、
タモキシフェンを使用している患者さんの4人に1人は、
SSRIという抗うつ剤を使用しています。

SSRIのうち、パロキセチン(商品名パキシルなど)と、
フルオキセチン(商品名プロザック:日本未発売)は、
いずれもCYP2D6の阻害作用を持っています。

そうなると、タモキシフェンとこうした抗うつ剤を併用することにより、
タモキシフェンの代謝が妨害され、
その有効性が低くなるという可能性が生まれます。

実際に臨床的に問題のあるレベルで、
そうしたことが起こる可能性があるのでしょうか?

そのことを検証する目的で、
今回の研究においては、
アメリカの公的な健康保険のデータを解析する手法で、
タモキシフェンを開始した患者さんでのSSRIの処方を有無を調べ、
タモキシフェンの代謝に影響すると思われるパロキセチンとフルオキセチンの使用者と、
それ以外の代謝に影響しないと想定されるSSRIの使用者との比較を行なっています。

その結果、
2つの大規模データを解析した結果として、
併用したSSRIの種類には関わりなく、
タモキシフェンの効果には差はなく、
生命予後にも差はありませんでした。

この研究では、
実際にどの程度タモキシフェンの代謝が阻害されているのか、
といった具体的な検証はされていないので、
これだけで両者の併用が安全とは言い切れませんが、
こうした薬物相互作用というのは、
どうも理屈からの推測と、
実際の臨床データとは乖離のあるもののようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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