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北村想「遊侠沓掛時次郎」(シスカンパニー 日本文学シアターvol.3) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

昼間はちょっと外出して、
それ以外は家でのんびり過ごす予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
遊侠沓掛の時次郎.jpg
シスカンパニーの企画で、
日本の文学をモチーフにして、
北村想が新作戯曲を書き下ろし、
寺十吾(じつなしさとる)さんが演出するシリーズの、
3作目「遊侠沓掛時次郎(ゆうきょう くつかけのときじろう)」が、
今初台の新国立劇場小劇場で上演されています。

このシリーズは前の2本も観ています。
最初の「グッドバイ」は傑作で、
その年のベストスリーに個人的には選出しています。
2作目の「草枕」は、
ちょっと落ちるのですが、
それでも非常に楽しい舞台でした。
今回の3作目は長谷川伸を題材にして、
「演劇」を初めて正面から扱っています。

観終わった感想としては、
今回もとても楽しく、
肩の力が抜けるような、
ふわっとした舞台でした。
手練の役者の些細なやり取りを、
それだけを見ていればそれで良い、
という感じの作品で、
ドラマはあるのですが、
現実なのか夢なのか物語なのか、
判然としないような感じで、
人生の最後に、
自分を主人公にした素敵で切ない夢を、
見続けているような気分です。

これはもう本当に北村想さんにして初めて到達した、
演劇における1つの境地のようなもので、
他にはあまり類例のないような世界です。

ひたすらに軽くほっこりとしていて、
それでいてロマンと滋味に溢れた世界です。
現実世界もこうであったらどんなにいいだろう、
と思えるような一種の桃源郷なのです。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公は萩原みのりさんが演じる家出少女で、
彼女がある田舎町の神社の境内で、
旅芸人の「長谷川團十郎一座」による舞台、
「沓掛時次郎」を観て感銘を受け、
一座の手伝いとして加わることを直訴する、
というところから物語は始まります。

神社での公演が終わり、
少女は左翼活動家であった怪しい客員座員と共に、
東京の実家に戻ることになりますが、
実は彼にかどわかされて、
水商売の女性になってしまいます。

その数年後に冬の日本海の田舎町の宿屋で、
今は博徒打ちに身を持ち崩した、
かつての一座の花形役者と娼婦となった少女は出逢い、
黒幕のかつての客員座員と対決すると、
傷を負いながら少女と抱き合って物語は終わります。

一応現代を舞台にしているのですが、
蒸気機関車の音が聞こえたりもするので、
端から時間軸は無視されています。

一応大衆演劇の一座でのドラマがあり、
その数年後に再会してのドラマがあるのですが、
再会後のドラマはそのまま、
大衆演劇で上演していた股旅ものをなぞっているので、
何処からが現実で何処からがドラマかは定かでありません。

長谷川伸の代表作である、
「沓掛時次郎」と「暗闇の丑松」が、
まず劇中劇として上演され、
最後はその世界が擬似現実として演じられる、
という趣向なのかも知れません。

本当に手練の役者さんが、
長谷川伸の世界を遊び心満点に再現するのですから、
それだけでも素晴らしくて素敵なのですが、
もう1つこの作品は大衆演劇の一座を描きながら、
実は小劇場の劇団を描いている、
という側面があります。

看板役者は京大出のインテリで、
学生運動で仲間を死なせた過去があったり、
左翼の用語を振りかざすエセインテリの役者がいたり、
30を過ぎて劇団を続けるべきか悩む女優さんがいたりと、
どう考えてもこれは大衆演劇の一座ではなく、
新劇から連なる小劇場を描いているのです。
70年代くらいの演劇の空気が、
そこには濃厚に漂っています。
この作品の裏テーマは、
多分そうしたところにあるのだと思います。

役者陣は非常に贅沢な布陣です。
座長に金内喜久夫さん、その妻に戸田恵子さん、
若手女優に西尾まりさん、中堅座員に鈴木浩介さん、
花形役者に段田安則さんと隙がありません。

ここにエセインテリとして浅野和之さんが加わる予定だったのですが、
体調不良で降板となり、
前半は演出の寺十吾さんが演じ、
僕の観た中盤以降では、
同じ遊眠社出身のベテラン、
松澤一之さんが同役を演じています。

松澤さんはこの役を過不足なく演じていて、
まずまずでしたが、
彼のかつての遊眠社時代の大暴れを知っている世代としては、
ちょっと物足りなくは感じました。

寺十吾さんの演出も、
北村想さんの世界を知り尽くした、
いつもながらのセンスのあるもので、
今回もノスタルジックな雰囲気が抜群で、
場面転換などのタイミングもばっちりでした。

上演時間はいつもながらの1時間半です。

のんびりとした気分で、
スルメを噛むようにゆっくりと観たい芝居です。

僕はこの世界が大好きで、
今後も是非上演を続けて欲しいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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