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高齢者に対する帯状疱疹予防ワクチンの有効性(2016年サブユニットワクチンの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヘルペスワクチンの高齢者への効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicien誌に掲載された、
新しい帯状疱疹予防ワクチン(HZ/suワクチン)の有効性についての論文です。

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こします。

通常水ぼうそうのウイルスに感染したことがあるかどうかは、
血液の抗体の上昇で判断し、
抗体が上昇していれば、
再び水ぼうそうに感染することはないのですが、
身体に潜んでいるウイルスが、
帯状疱疹という形で再燃することは、
抗体が陽性であっても起こり得るのです。

水ぼうそう自体の予防は、
抗体があれば充分ですが、
帯状疱疹の予防には、
このウイルスの抗原に反応する、
CD4陽性のTリンパ球という、
免疫細胞の産生が必要と考えられています。

水ぼうそうに罹ってしばらくの間は、
こうした細胞も多く存在しているので、
帯状疱疹は予防されているのですが、
時間が経つと次第にその数は減り、
年齢と共にその産生能自体も低下するので、
帯状疱疹が発症し易くなる、
という理屈です。

さて、帯状疱疹を予防するには、
抗原刺激を与えて、
それに反応するリンパ球が増えれば良いということになります。

その方法として、
通常考えられるのはワクチンの接種です。

水痘ワクチンは生ワクチンで、
このウイルスを弱毒化したそのものです。

通常小さなお子さんに2回接種して、
水ぼうそう自体を予防することを目的としています。

それでは、
このワクチンを大人に打てば、
免疫は再び賦活され、
帯状疱疹が予防されるのではないでしょうか?

この目的で国産のワクチンより、
基準値としては10倍以上多い抗原量を持つワクチンが、
帯状疱疹予防用に開発され、
アメリカにおいて大規模な臨床試験が行われました。
商品名はZOSTAVAXです。
その結果は2005年のNew England…誌に発表されています。

それによると、
50から59歳の年齢層においては、
帯状疱疹用の強化水痘ワクチンの1回接種によって、
帯状疱疹の発症が70%抑制され、
60から69歳では64%、
70歳以上では38%の抑制が認められた、
という結果になっています。
打った場所の腫れや痛み以外には、
目立った副反応は見られていません。
ワクチンの有効性は接種後10年は維持されますが、
発症の抑制が有意に確認されているのは、
8年までというデータがあります。

このように、
強化水痘ワクチンを接種することによって、
ある程度の細胞性免疫の賦活が起こり、
帯状疱疹の発症が、
一定レベル予防されることは間違いがありません。

ただ、数字を見て頂くと分かるように、
満足の行く効果とは言えません。

日本においても1990年代の早い時期に、
国産の水痘ワクチンを高齢者に接種した場合、
50から69歳で約90%、
70歳以上で約85%で、
接種による細胞性免疫の上昇が認められた、
という研究結果が報告されています。

しかし、これは敢くまで細胞性免疫に動きがあった、
というだけのもので、
それが帯状疱疹の予防に充分なレベルであるのかを、
実際に確認しているものではありません。

日本においては、
従来から使用されている水痘生ワクチンが、
そのまま50歳以上の帯状疱疹予防への適応となり、
2016年の4月より承認され、
添付文書の改訂が行われました。

日本の文献には国産の水痘ワクチンの力価は、
欧米の帯状疱疹予防用の物より、
基準値としては低いけれど、
実際にはその力価はかなり幅のあるものなので、
平均するとほぼ同等の効果が期待出来る、
という記載が多く見られ、
今回改訂された添付文書においても、
海外の帯状疱疹予防ワクチンと同等のもの、
という考えから、
臨床的な有効性のデータは、
海外データがそのまま引用されています。
しかし、直接比較をして効果を検証しているものではないので、
その真偽は定かではありません。

要するに、
国産のワクチンを帯状疱疹予防に使用しても、
有効であるかどうかの、
精度の高いデータは存在していないのです。
(この点については、ほぼ確実と思うのですが、
全ての知見に目を通している訳ではないので、
もしデータが発表されているようでしたら、
優しくご指摘を頂ければ幸いです)

さて、前述の海外データでも分かるように、
水痘の生ワクチンを高齢者に使用した場合、
その効果は高齢になるほど減弱し、
70歳以降での接種の意義はあまり大きいとは言えません。
また、生ワクチンという性質上、
高度に免疫の低下した患者さんや、
骨髄幹細胞移植後の患者さんなどは禁忌となっています。

そこでより効果が高く、
高齢者や免疫の低下した患者さんにも、
使用の可能なワクチンの開発が、
海外においては進められました。

2015年のNew England…誌に、
その第3相臨床試験が発表されています。

使用されたワクチンは、
グラクソ社のもので、
HZ/suワクチンと命名されています。

これは水痘・帯状疱疹ウイルスの一部の糖蛋白抗原に、
細胞性免疫の強い増強作用のある、
AS01Bという免疫増強剤(アジュバント)を添加したものです。

このワクチンを2ヶ月間隔で、
2回筋肉注射をして、
その後平均で3.2年の経過観察を行ない、
その間の帯状疱疹の発症を、
偽ワクチン接種群と比較しています。

トータルの事例数は年齢50歳以上の15411例で、
それを7698例のワクチン接種群と、
7713例の偽ワクチン群にくじ引きで振り分けます。

結果は全体と、
50から59歳、60から69歳、70歳以上という、
年齢毎に解析もされています。
これは勿論、
強化水痘生ワクチンの臨床試験の結果と比較するためです。

その結果…

トータルでは観察期間中に、
偽ワクチン群では210例(年間1000人当たり9.1例の発症率)
の帯状疱疹が発症したのに対して、
ワクチン接種群では6例(年間1000人当たり0.3例)に留まっていて、
ワクチンの有効率は97.2%(93.7から99.0)と算定されました。

これを年齢層毎に見ると、
50から59歳の有効率が96.6%、
60から69歳の有効率が97.4%、
70歳以上の有効率が97.9%で、
年齢に関わらずに高い有効率が維持されていることが分かります。

両群の有害事象の頻度は、
ワクチン接種群が高くなりましたが、
その多くは接種部位の腫れや痛みで、
自己免疫疾患の発症や死亡リスクなどについては、
両群で明らかな差は認められませんでした。

帯状疱疹の予防という観点では、
ここまで有効なワクチンはこれまでになく、
今回の結果はかなり画期的なものと言って良いと思います。

ただ、この試験結果では、
70歳以上の年齢層の対象者は、
ワクチン接種者で1809名、
コントロールを含めても3632名です。

これでは70歳以上の高齢者への、
効果と安全性を確認するには不充分ということで、
同一試験の延長として、
今回の研究では、
同じ第3相の臨床試験として、
ワクチン接種群が6950名、
コントロール群が同じ6950名、
平均年齢が75.6歳で、
全て70歳以上の高齢者においてのデータが発表されています。
平均の観察期間は3.7年です。

その結果…

観察期間中に、
ワクチン接種群での帯状疱疹の発症率は、
年間1000人当たり0.9件(実数で23件)であったのに対して、
コントロール群では9.2件(実数で223件)で、
ワクチンの有効率は84.2%(84.2から93.7)と算出されました。

年齢別に見ると、
70代が90.0%で、
80歳以上が89.1%です。

これを2015年に発表された、
50歳以上の年齢層の試験と合わせて解析すると、
70歳以上の16596例のデータとして、
ワクチンの有効率は91.3%(86.8から94.5)で、
帯状疱疹後神経痛の予防効果は88.8%(68.7から97.1)でした。

重篤な有害事象は、
コントロール群との間で有意な差はありませんでした。

この結果を見る限り、
70歳以上の年齢層においては、
従来の水痘生ワクチンやその抗原量を調整したワクチンでは、
帯状疱疹予防効果は不充分で、
免疫増強剤を使用したサブユニットワクチンに軍配が挙がる、
ということになります。

ただ、これはZOSTAVAXとの直接比較ではありません。
両者の臨床データを確認してみると、
ZOSTAVAXのコントロール群の方が帯状疱疹後神経痛の頻度は多く、
より感染が悪化しやすいような対象が、
選ばれている、という可能性があります。

従って、全く同じ対象群で比較すれば、
サブユニットワクチンとそれほどの差はないのではないか、
という推測も可能なのです。

いずれにしても、
しっかりとした検証の元に、
帯状疱疹専用の予防ワクチンが開発されている海外と比較すると、
日本では添付文書の改訂のみで、
従来のワクチンが流用されていて、
その根拠もそれほど高いものとは思えません。

国産ワクチンを守るという視点も勿論大事ですが、
最も有効性と安全性が確立されている製品を、
国民に届けるという視点も、
より以上に大切ではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「ディスグレイスト-恥辱」(2016年栗山民也上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ディスグレイスト.jpg
2013年にピュリッツアー賞を受賞した、
パキスタン系の作家アヤド・アフタルの戯曲を、
小日向文世さんら魅力的なキャストで翻訳上演した舞台が、
今三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで上演されています。
演出は栗山民也さんです。

1時間40分ほどの短い芝居ですが、
如何にもアメリカという感じの台詞劇で、
日本で上演することは、
本当に可能だったのだろうかと、
素朴に疑問に感じるような舞台です。

以下ネタバレを含む感想です

これはメインとなる4人のキャストが、
人種が全て異なるという設定になっています。
主人公の小日向さんが演じる弁護士は、
パキスタン系の移民で、
そのことにコンプレックスを感じています。
妻の秋山菜津子さんは白人で、
小島聖さん演じる同僚の女性弁護士はアフリカ系アメリカ人、
そして安田顕さんが演じるその夫はユダヤ人です。

911のテロ以降、
アメリカではイスラム教の信者に対する風当たりが強くなり、
何か起これば、
自分のアメリカでの地位は、
剥奪されてしまうのではないか、
という恐怖が主人公の心には巣食っています。

それが、自分の甥が、
イスラム過激派と関係のある、
宗教指導者の弁護を頼みに来て、
間接的にそれに関わったことから、
主人公の恐怖は現実のものとなり、
彼は職を追われ、
妻は彼の元を去ります。

本当に何の救いもない暗いだけの話で、
クライマックスは4人のキャストが、
それぞれの立場で議論を戦わせる場面ですが、
人種同士のつばぜり合いという感じの台詞の応酬になるので、
それを全員日本人のキャストで演じるというのは、
無理がありすぎるという感じです。

欧米の現代戯曲を、
日本人のキャストで翻訳上演するのは、
何にせよ無理はあるのですが、
人種の坩堝のアメリカでの、
これは人種問題そのものを主軸に据えた芝居なので、
それをドーランをちょっと変えたくらいで、
その通りに感じて下さい、
というのは相当無理があると思います。

主人公は今乗っている小日向さんなので、
それについてはちょっと期待したのですが、
今回は役柄を掴み兼ねている感じで、
中途半端に激高する感じの芝居が、
感情の持続なく散発的に爆発するという、
一貫性のない説得力のない演技で、
本当にガッカリさせられました。

演出は栗山さんですから、
正攻法で地味で堅実なのですが、
この芝居をまともに演出して、
日本の観客に娯楽として成立すると、
本当に考えていたのだとすると、
その見識は大いに疑問です。

総じて、
この戯曲を読んで、
これが本当にそのままの形で日本で上演可能だと、
上演の選択をした企画サイドの判断が一番の疑問で、
実際に上演された舞台も、
娯楽としてはとても成立はしていなかったと思います。

とても残念でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

北村想「遊侠沓掛時次郎」(シスカンパニー 日本文学シアターvol.3) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

昼間はちょっと外出して、
それ以外は家でのんびり過ごす予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
遊侠沓掛の時次郎.jpg
シスカンパニーの企画で、
日本の文学をモチーフにして、
北村想が新作戯曲を書き下ろし、
寺十吾(じつなしさとる)さんが演出するシリーズの、
3作目「遊侠沓掛時次郎(ゆうきょう くつかけのときじろう)」が、
今初台の新国立劇場小劇場で上演されています。

このシリーズは前の2本も観ています。
最初の「グッドバイ」は傑作で、
その年のベストスリーに個人的には選出しています。
2作目の「草枕」は、
ちょっと落ちるのですが、
それでも非常に楽しい舞台でした。
今回の3作目は長谷川伸を題材にして、
「演劇」を初めて正面から扱っています。

観終わった感想としては、
今回もとても楽しく、
肩の力が抜けるような、
ふわっとした舞台でした。
手練の役者の些細なやり取りを、
それだけを見ていればそれで良い、
という感じの作品で、
ドラマはあるのですが、
現実なのか夢なのか物語なのか、
判然としないような感じで、
人生の最後に、
自分を主人公にした素敵で切ない夢を、
見続けているような気分です。

これはもう本当に北村想さんにして初めて到達した、
演劇における1つの境地のようなもので、
他にはあまり類例のないような世界です。

ひたすらに軽くほっこりとしていて、
それでいてロマンと滋味に溢れた世界です。
現実世界もこうであったらどんなにいいだろう、
と思えるような一種の桃源郷なのです。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公は萩原みのりさんが演じる家出少女で、
彼女がある田舎町の神社の境内で、
旅芸人の「長谷川團十郎一座」による舞台、
「沓掛時次郎」を観て感銘を受け、
一座の手伝いとして加わることを直訴する、
というところから物語は始まります。

神社での公演が終わり、
少女は左翼活動家であった怪しい客員座員と共に、
東京の実家に戻ることになりますが、
実は彼にかどわかされて、
水商売の女性になってしまいます。

その数年後に冬の日本海の田舎町の宿屋で、
今は博徒打ちに身を持ち崩した、
かつての一座の花形役者と娼婦となった少女は出逢い、
黒幕のかつての客員座員と対決すると、
傷を負いながら少女と抱き合って物語は終わります。

一応現代を舞台にしているのですが、
蒸気機関車の音が聞こえたりもするので、
端から時間軸は無視されています。

一応大衆演劇の一座でのドラマがあり、
その数年後に再会してのドラマがあるのですが、
再会後のドラマはそのまま、
大衆演劇で上演していた股旅ものをなぞっているので、
何処からが現実で何処からがドラマかは定かでありません。

長谷川伸の代表作である、
「沓掛時次郎」と「暗闇の丑松」が、
まず劇中劇として上演され、
最後はその世界が擬似現実として演じられる、
という趣向なのかも知れません。

本当に手練の役者さんが、
長谷川伸の世界を遊び心満点に再現するのですから、
それだけでも素晴らしくて素敵なのですが、
もう1つこの作品は大衆演劇の一座を描きながら、
実は小劇場の劇団を描いている、
という側面があります。

看板役者は京大出のインテリで、
学生運動で仲間を死なせた過去があったり、
左翼の用語を振りかざすエセインテリの役者がいたり、
30を過ぎて劇団を続けるべきか悩む女優さんがいたりと、
どう考えてもこれは大衆演劇の一座ではなく、
新劇から連なる小劇場を描いているのです。
70年代くらいの演劇の空気が、
そこには濃厚に漂っています。
この作品の裏テーマは、
多分そうしたところにあるのだと思います。

役者陣は非常に贅沢な布陣です。
座長に金内喜久夫さん、その妻に戸田恵子さん、
若手女優に西尾まりさん、中堅座員に鈴木浩介さん、
花形役者に段田安則さんと隙がありません。

ここにエセインテリとして浅野和之さんが加わる予定だったのですが、
体調不良で降板となり、
前半は演出の寺十吾さんが演じ、
僕の観た中盤以降では、
同じ遊眠社出身のベテラン、
松澤一之さんが同役を演じています。

松澤さんはこの役を過不足なく演じていて、
まずまずでしたが、
彼のかつての遊眠社時代の大暴れを知っている世代としては、
ちょっと物足りなくは感じました。

寺十吾さんの演出も、
北村想さんの世界を知り尽くした、
いつもながらのセンスのあるもので、
今回もノスタルジックな雰囲気が抜群で、
場面転換などのタイミングもばっちりでした。

上演時間はいつもながらの1時間半です。

のんびりとした気分で、
スルメを噛むようにゆっくりと観たい芝居です。

僕はこの世界が大好きで、
今後も是非上演を続けて欲しいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

SPAC「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」(2016年奈良平城宮跡上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
マハーバーラタ.jpg
僕のホームグラウンドでもある奈良市で、
「東アジア文化都市2016奈良市」というイベントがあり、
その一環として平田オリザさんのディレクションのもと、
平城宮跡の広大な芝地で、
SPACと維新派の野外公演が企画されました。

その第一弾として、
9月9日から12日の4日間、
SPACの「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」が上演されました。

日曜の午後の新幹線で奈良に行き、
翌朝早朝の新幹線で東京に戻りそのまま外来、
という強行弾丸スケジュールで観劇しました。

宮城聡さんが芸術監督になって以降のSPACを、
僕は今回初めて観ました。

ちょっと物足りない部分というか、
僕好みでない部分もあったのですが、
トータルには非常に素晴らしくて、
ナラ王に再会したと「味覚」で理解した瞬間の、
美加里さんの取り憑かれたような詩的な動きを観るだけで、
とても幸せな気分になりました。

もう少しこれまでにも観ておけば良かったと思いました。

演出の宮城聡さんは、
教駒から東大入学、そして中退と、
野田秀樹さんと同じ進路を辿って演劇界に入った方で、
風貌や雰囲気も何となく似ています。
最初「ミヤギサトシショー」という、
1人芝居のようなダンスのようなパフォーマンスを、
画廊みたいなスペースで上演していました。

その時に一度観に行ったのですが、
申し訳ないのですが、
何処が面白いのか全く分かりませんでした。
ビジュアルも冴えない(失礼!)お兄さんが、
特別上手くもない(失礼!)ダンスを踊り、
ちょっとセリフも喋ったりするもので、
個人的には何も観るものがない、
という感じがしました。

その後、1995年に「本牧マクベス」という公演が、
横浜で上演されました。
これは「マクベス」をセリフなどはそのままにダイジェストして、
色々な演劇手法を交えて上演するもので、
宮城さん自身も、
確か殺し屋の役だったと思いますが出演していました。
何か安っぽい段ボールのようなセットで、
役者さんのレベルもバラバラで統一感がなく、
総じて稚拙な学芸会レベルの芝居でガッカリしました。

それで、
もう絶対宮城聡さん絡みの芝居は、
見ないことにしようと決めたのです。

ただ、今にして思うと「本牧マクベス」に既に、
台詞と動きをバラバラに構成する感じとか、
洋の東西の古典を融合するという意図、
組み合わせパズルのような演出手法は、
「マハーバーラタ」の萌芽のようなものが、
既に現れていたようにも思えます。

その後「ク・ナウカ」というユニットを立ち上げて、
月蝕歌劇団の名花であった、
人気者の美加里さんをメインとして、
ギリシャ悲劇などの古典劇を、
台詞と動きを別々の人間が分担するという、
義太夫狂言の変法のようなことを始めます。

古典の再構成と読み換えと言うと、
鈴木忠志さんがすぐに頭に浮かびます。
重くて暗くて理屈っぽくてへんてこりんで、
俺は知的なんだぞ、とばかりに偉そうで、
僕はあの世界が大嫌いなので、
これでもうすっかり萎えてしまって行くのを止めました。

それがその後非常に評価を高め、
国外のフェスティバルなどにも精力的に出演しました。

鈴木忠志さんとも交流が生まれたようで、
2007年からはその後継者として、
静岡のSPACという舞台芸術センターの芸術監督に就任したのです。

そんな訳で、
僕はスズキ・メソッドもどきが本家を含めて大嫌いなので、
宮城聡さんのお芝居は観なくてOKと思っていたのですが、
毎回皆さんが絶賛されるので、
どうしても気にはなって来ます。

今回は「SPACが奈良にやって来た」ということなので、
これは良い機会ということで弾丸ツアーで足を運びました。

演目はク・ナウカ時代の2003年に初演され、
その後SPACでも再演されて、
海外公演も繰り返しつつ練り上げられた、
宮城聡さんの代表作の1つ、
「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」です。

結果は、
最初に書いたように大変素晴らしい舞台でした。

観客を取り巻く、
360度のリングのような野外舞台で、
打楽器主体の演奏ピットの上を、
役者が縦横無尽に走り回ります。

物語は典型的な貴種流離譚で、
ナラ王と王妃ダマヤンティの、
美男美女の理想的夫婦が、
悪魔のはかりごとで王が国を追われ、
夫婦も引き離されて森をさまよいます。
それが色々と人知を超えた冒険の末に、
2人は再び出会い、
王国も復活するのです。

このシンプルで古典的な物語を、
折り紙をモチーフとした白い衣装や小道具で、
美しくポエジーに構成し、
打楽器を主体としたリズミカルな生演奏に乗って、
多くの役のセリフの大部分を、
浄瑠璃語りを思わせる男優が1人で語り、
美しくかつダイナミックな動きの芝居で、
役者が演じます。
ただ、歌舞伎の義太夫狂言と同じように、
役者がそのまま自分の台詞を喋る部分もあり、
それが語り役に途中で引き継がれるような部分もあります。
神様や悪魔などは仮面を被っていて、
台詞は喋りませんが、
生身の役者は自分の台詞のパートもあるのです。

印象的な場面は数多いのですが、
まずオープニングでは、
正面の舞台の後方に本物の大きな木があり、
そこが背景のホリゾントと化して、
役者の影の列が木の葉に幻想的に映し出されます。

生演奏の効果音は躍動的で素晴らしく、
それに合わせて、役者は縦横無尽に360度の舞台を駆け巡ります。

ナラ王役の大高浩一さんは、
隆々たる肉体で独特の畸形の演技を見せ、
美加里さんは見事なまでに愛らしく、
ナラ王との再会を、
舌で感じて驚愕し、
二人羽織のような奇妙な動きから、
身体が波打って躍動し、
そのまま舞台を駆け巡る体技の美しさと奇怪さには、
陶然として見入る以外にはありませんでした。

欲を言えば、
広い舞台の割にはチマチマした感じの演出が多く、
スケールを感じさせる構図が少ないようには感じました。

せっかく頭上は青天井でそのまま本物の月が輝き、
周辺の野原には遮るものがなく、
遥か遠方には平城宮の復元建造物が、
ライトアップされて聳えているのに、
その空間の大きさが、
あまり活かされている感じはありません。

その辺りは非常に勿体なく感じました。

また、象を鼻だけで表現したり、
蛇を人間の連なりで表現したりするのは、
「ライオンキング」のミニチュア版のようで、
少し貧相に感じてしまいました。
もう少し違ったアプローチで、
巨大なものを想像力で見せるようなところが、
あっても良かったのではないでしょうか?
確かに象は鼻だけで巨体を表現している訳ですが、
あれでは当たり前過ぎて詰まらないのです。
もっと底知れぬ巨大さが、
幻想的に表現されても良かったと思いました。

いずれにしても、
宮城聡さんの2つのルーツとでも言うべき、
野田秀樹的世界と鈴木忠志的世界が、
上手く咀嚼されて一体化していて、
ポップでありながら重厚で、
前衛でありながら古典的な世界は、
非常に幸福な観劇体験をもたらしてくれるのです。

宮城聡さん、
先入観で長いこと観劇を怠り申し訳ありません。
今度また是非舞台に足を運ばせて下さい。

来月は維新派の最終公演です。
これも弾丸ツアーで駆けつける予定です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

腎機能低下時のスタチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンと腎機能.jpg
今年7月のLancet diabetes-endocrinology誌にウェブ掲載された、
腎機能低下時のスタチンの有効性についての論文です。

非常に広範に使用されている薬の、
一般臨床においても知りたい情報を教えてくれる、
興味深い知見です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力なコレステロール降下作用を持ち、
広く心血管疾患の予防薬として使用されている薬剤です。

この薬は慢性腎臓病の進行の予防にも、
その効果が確認されていて、
腎機能低下の患者さんにも広く使用されています。

ただ、透析患者さんを含む、
高度に腎機能が低下した状態においては、
その使用には議論があり、
一定の結論には達していません。

高度に腎機能の低下した状態では、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患のリスクは増加しますが、
スタチンの副作用や有害事象も増えると想定され、
その効果も限定的であると想定されるからです。

今回の研究はこれまでのスタチン治療の効果を見た、
精度の高い28の臨床データを、
個別の患者さんのデータとしてまとめて解析したもので、
腎機能のレベル毎のスタチンの効果の違いを検証しています。

トータルで183419例のデータをまとめて解析した結果として、
まず腎機能に関わらず全ての患者さんで見ると、
スタチンの使用によりLDLコレステロールを、
1mmol/L(38.7mg/dL)低下させる毎に、
主要な心血管疾患のリスクは、
21%(0.77から0.81)有意に低下していました。
これを推算糸球体濾過量という腎機能の数値毎にみてみると、
正常である60mL/min per 1.73㎡以上では、
22%(0.75から0.82)の低下であるのに対して、
45から60未満では24%(0.70から0.81)、
30から45未満では15%(0.75から0.96)、
30未満で透析未施行では15%(0.71から1.02)と有意ではなくなり、
透析施行でも有効性は認められませんでした。

また心血管疾患による死亡のリスクや総死亡のリスクの低下は、
推算糸球体濾過量が60mL以上でのみ有意に認められました。

要するに、
心血管疾患の予防という観点からは、
推算糸球体濾過量が45mL未満ではその効果はかなり減弱し、
30mL未満ではその有用性は殆ど確認出来なくなります。
生命予後の改善という意味ではもっと厳しく、
60mL未満では明確な効果は確認されません。

ただ、このデータのみをもって、
腎機能低下時のスタチンの使用は一切無駄、
というようにも言い切れず、
このデータはデータとして、
他の要因も勘案しつつ、
スタチンの使用を検討する必要があるのではないかと思います。

個人的な意見としては、
心血管疾患の一次予防におけるスタチンの使用は、
推算の糸球体濾過量が30mLを切る状態では、
よほどの必要性がない限りは、
中止するのが妥当であるように思います。
二次予防については、
より微妙で慎重な判断が必要です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

帝王切開とお子さんの肥満との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カイザーと肥満の関係.jpg
今月のJAMA Pediatrics誌に掲載された、
帝王切開とお子さんの肥満との関連を検証した論文です。

帝王切開は膣からの通常分娩が、
何らかの理由で困難な場合に、
下腹部から子宮の一部を切開して、
そこから赤ちゃんを取り出す手術です。

最も広く施行されている手術ですが、
手術である以上、
母体には血栓症や感染などのリスクがあります。

取り出される赤ちゃんにも、
呼吸障害などのリスクがあることが知られています。

そして、命に関わるような合併症ではないのですが、
以前から通常分娩と帝王切開との違いとして、
複数の報告があるのが、
帝王切開で生まれた子供には肥満が多い、
というちょっと不思議なデータです。

2013年と2014年にメタ解析の論文が発表されていて、
帝王切開での肥満のリスクは経膣分娩の1.22倍、
というようなデータが発表されています。

ただ、元になっている臨床データは比較的少数例のものが殆どで、
母体のBMIなどの影響する因子が、
両者できちんと補正されていないなど、
メタ解析としての信頼性は、
それほど高いものとは言えませんでした。

そこで今回の研究では、アメリカにおける。
お子さんの成長についてのコホート研究の大規模データを活用して、
帝王切開と経膣分娩のお子さんの肥満への影響を解析しています。

15271名のお母さんが出産した、
トータルで22068名のお子さんを対象としていて、
そのうち4921名が帝王切開での出産となっています。
肥満の有無は、
お子さんが9歳から14歳の時と、
20歳から28歳の時に評価されています。

その結果…

観察期間の終了時に肥満であるリスクは、
母体のBMIなどの因子を補正した結果として、
経膣分娩と比較して帝王切開では、
15%(1.06から1.26)有意に高いというデータが得られました。

同一家族内の検索においては、
帝王切開したお子さんは、
経膣分娩の兄弟姉妹と比較して、
64%(1.08から2.48)有意に肥満のリスクが増加していました。

つまり、
帝王切開児が思春期までの肥満のリスクを、
一定レベル上げることは間違いがないようです。

それでは、
何故帝王切開は肥満になりやすいのでしょうか?

現時点で一番有力な仮説は、
腸内細菌叢の発達と関連があるのではないか、
というものです。
経膣分娩では母体の膣の常在菌や、
腸管の常在菌に胎児が接触しつつ分娩されるのに対して、
帝王切開では、
より無菌的に分娩され、
皮膚や外界の菌との接触が主体になるので、
それにより腸内細菌叢の組成が変わり、
肥満のリスクの差になるのでは、
という仮説です。

ただ、何となくありそうな説である反面、
本当に短時間の接触の違いで、
そんな腸内細菌叢に差が生じるのか、
という点はまだ実証はされていないと思います。

いずれにしても、
分娩の形態の違いが、
青年期までの肥満の有無に影響を与えるという知見は興味深く、
今後の研究の推移にも注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

妊娠中のインフルエンザワクチン接種の新生児予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザワクチンの妊娠中の使用.jpg
今月のLancet Infectious Diseases誌に掲載された、
妊娠後期の女性に季節性インフルエンザワクチンを接種して、
母体と新生児の感染を予防しようという、
臨床研究の結果を報告した論文です。

インフルエンザは軽い風邪程度の症状で、
改善する感染者も多いのですが、
その流行期に問題になるのは、
重症化しやすい妊娠中の女性や赤ちゃんの予防です。

しかし、現行のインフルエンザワクチンは、
生後6か月未満のお子さんには、
その有効性は確認されておらず、
推奨もされていません。

妊娠中の女性への安定期以降におけるワクチン接種は、
以前では胎児への影響など副反応の危惧もあって、
あまり推奨はされていませんでしたが、
特に2009年の「新型インフルエンザ」騒動の時の知見などが蓄積され、
妊娠中のインフルエンザ感染による重症化のリスクと比較すれば、
有害事象の生じるリスクは極めて少ないことと、
その効果も低くはないことが確認されると、
その接種はむしろ積極的に推奨されるようになりました。

そうした妊娠中の母体への接種の効果として注目されたのは、
母体自身のみならず、
間接的に胎児へも抗体が移行し、
新生児の感染予防にも有効性のあることが、
報告されたことです。

妊娠中にインフルエンザワクチンを接種することが、
その後生まれる赤ちゃんの感染の予防にもなるという知見です。

これは特に新生児死亡の多い途上国において、
そのリスクの軽減のために、
より有用な方策ではないかと考えられました。

母体と新生児の両方を守るという、
一石二鳥の結果が期待されるからです。

今回の研究は西アフリカのマリ共和国において、
妊娠28週以降の女性を2つの群に振り分け、
一方はサノフィ社の3価季節性インフルエンザワクチンを接種し、
もう一方は髄膜炎菌のワクチンを接種して、
妊娠中から出産後半年までの、
お母さんとお子さんのインフルエンザ感染の有無を、
比較検証したものです。

試験は2011年から2014年に掛けて行われ、
3シーズンの季節性インフルエンザワクチンが、
その都度に接種されています。
個々のシーズンの総計で、
4193名の妊娠された女性が対象となっています。
インフルエンザの診断は遺伝子検査を用いて確定されています。

その結果、
インフルエンザワクチンの接種を、
妊娠中に受けた母体から生まれた赤ちゃんの、
初回のインフルエンザ感染の予防効果は、
接種時期に限らない場合には、
33.1%(13.7から53.9)(intention-to-treat解析)で、
少なくとも出産の2週間以上前に限定すると、
37.3%(7.6から57.8)(per-protocol解析)でした。

お母さんのインフルエンザ予防効果は、
観察期間全体では70.3%(42.2から85.8)で、
妊娠中に限ると76.6%(28.4から94.3)、
出産後の時期に限ると70.1%(28.0から89.1)でした。

ワクチンの胎児の体重などに対する影響は、
特に認められませんでした。

こうしたデータはこれまでにもあるのですが、
ここまで厳密に施行されたものは少なく、
とても興味深いものです。

この集団においては、
7割を超える有効率はインフルエンザワクチンとしては、
かなり高いものなのですが、
その場合母体への有効率の半分程度の有効率が、
胎児にも認められるという結果になっています。

従って、
母体に接種することで、
お子さんにも一定の予防効果はあるのですが、
それほど有効率が高いものではないので、
これを常に成り立つ効果として、
妊娠中のワクチン接種を推奨して良いのか、
と言う点については、
まだ確定的なものではないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

心房細動の長期予後を考える(2016年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心房細動の心血管疾患リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心房細動の患者さんの予後を多角的に検証した論文です。

心房細動は高齢者の1割に発症する、
というデータのあるほど多い不整脈で、
心臓の一種の加齢変化ですが、
患者さんの生命予後に大きな影響を与えることが知られています。

心房細動が特に慢性に存在すると、
心臓の内部に血の塊である血栓が出来やすくなり、
それが脳の血管に詰まって、
脳塞栓という脳卒中の原因になります。
心房細動があると、
どのくらい脳塞栓が増えるのかという点については、
ない場合の5倍という数値が、
よく引用されています。

この脳塞栓の予防のためには、
抗凝固剤による治療が有効です。
適切なコントロールによる抗凝固剤の使用により、
脳塞栓の発症は6割程度予防されると考えられています。

そのため、
洞調律に戻すことが困難な慢性心房細動の治療は、
抗凝固療法による脳塞栓の予防がその主体として考えられて来ました。

しかし…

心房細動の患者さんに抗凝固剤を使用した臨床試験においては、
多くの患者さんが脳塞栓ではなく、
心不全や心筋梗塞など、
別の心血管疾患のために亡くなっています。
勿論長期の心房細動の持続は、
心不全のリスクの増加に繋がることは、
以前から知られている事実ですが、
これまでの慢性心房細動の治療は、
心不全の予防という点にはあまり重点が置かれていませんでした。

そこで、脳卒中以外の心房細動における、
長期予後を検証する目的で、
今回の研究では、
これまでのデータをまとめて解析する手法で、
その比較検証を行っています。

104のコホート研究における、
トータルで587867名の心房細動の患者さんを、
まとめて解析した結果として、
心房細動の患者さんはコントロールと比較して、
総死亡のリスクが1.46倍(1.39から1.54)有意に増加していました。

そして、心血管疾患関連のリスクでは、
心血管疾患による死亡リスクが2.03倍(1.79から2.30)、
主要な心血管疾患リスクが1.96倍(1.53から2.51)、
虚血性心疾患のリスクが1.61倍(1.38から1.87)、
心臓関連の突然死のリスクが1.88倍(1.36から2.60)、
慢性腎臓病のリスクが1.64倍(1.41から1.91)、
抹消動脈疾患のリスクが1.31倍(1.19から1.45)、
それぞれ有意に増加していました。

脳卒中に関しては、
脳卒中全体の発症リスクが2.42倍(2.17から2.71)、
虚血性梗塞のリスクが2.33倍(1.84から2.94)、
とそれぞれ有意に増加していましたが、
出血性梗塞のリスクには有意な増加はなく、
脳卒中自体のリスクも、
従来言われているより低い数値になっていました。

その一方で、
心不全のリスクは4.99倍(3.04から8.22)と最も高く算出され、
総死亡のリスクに与える影響についても、
脳卒中より高く、
実際の頻度も心房細動によって上乗せされる脳卒中の頻度が、
年間患者1000人当たり3.6件(3.0から4.3)であったのに対して、
同様に算定される心不全の頻度は、
年間患者1000人当たり11.1件(5.7から20)に達していました。

つまり、
心房細動の患者さんの予後を、
本当の意味で改善するには、
脳卒中の予防と共に、
心不全の予防が非常に重要で、
そのための有効な治療や予防法の確立が、
急務であるという結果です。

心不全の進行のメカニズムを含めて、
今後の知見の蓄積が必要であると思いますし、
より心不全の予防と管理に重点を置いた、
心房細動の治療の進歩を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

CPAPの心血管疾患への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後とも、いつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
CPAPの心血管疾患への効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
睡眠時無呼吸症候群の治療が、
心血管疾患の予後に与える影響についての論文です。

睡眠時無呼吸症候群というのは、
睡眠中に10秒以上の呼吸の停止(無呼吸)や、
低呼吸と呼ばれる、
酸素が充分肺に入らないような呼吸の低下が、
1時間に5回以上認められる状態のことです。

肥満などの要因により気道が狭くなることが、
その主な要因と考えられていますが、
顎の形や口呼吸などが原因となることもあり、
必ずしも肥満による病気、と言う訳ではありません。

睡眠時無呼吸症候群があると、
眠りの質が悪化するので、
眠っていても熟睡感がなく、
昼に強い眠気が生じます。

そのため、居眠りの原因となり、
仕事に差し支えたり、
運転中の居眠りが事故に繋がったりすることが、
社会問題になっているのは、
皆さんもご存じの通りです。

そして、患者さんの睡眠の状態の改善のため、
主に行なわれている治療が、
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)と呼ばれるものです。

これは特殊なマスクを鼻に付け、
そこから少し圧力を掛けて空気を鼻に送り込むことにより、
夜間の呼吸状態の悪化を改善するというものです。

このCPAPによって、
多くの睡眠時無呼吸の患者さんでは、
夜間の呼吸状態が改善し、
昼間の眠気や居眠りが予防されます。

そこまでは問題がありません。

睡眠時無呼吸症候群は、
他の多くの病気と関連があると考えられていて、
それを示唆する疫学データも多く発表されています。
その中には心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化の病気や、
糖尿病、脂肪肝炎などが含まれています。
血圧特に拡張期血圧の上昇もしばしば見られる所見です。

テレビに登場するような「名医」の先生は、
脳卒中や心筋梗塞などが無呼吸によって起こり、
無呼吸をCPAPで治療することにより、
そうした病気の予防になるような話をしています。
無呼吸によって突然死が起こり、
それが治療により予防されるような言い方もされることがあります。

しかし、実際にはそれは明確に証明された事実ではありません。

事例を観察してCPAPにより病状が改善した、
というような文献は多数存在しています。

しかし、症例を登録して治療と未治療とをくじ引きで決め、
本当に治療により病気が予防された、
というような報告は殆どなく、
治療により患者さんの生命予後が改善した、
というような報告もないのです。

証明されているのは、
せいぜい血圧が若干低下する、
ということくらいです。

こちらをご覧下さい。
CPAPの高血圧への影響JAMA.jpg
これは2012年のJAMA誌の論文で、
無呼吸症候群の合併症や生命予後についての、
数少ない介入試験です。

723名の無呼吸の患者さんを、
CPAPを施行する群と、
施行しない群との2つに分け、
平均で4年間の経過観察を行なっています。

しかし、急性心筋梗塞や脳卒中の発症や、
新規の高血圧の発症に、
CPAP治療と未治療とで違いはありませんでした。

ただ、4年を越えて治療を継続した場合には、
発症率に差が付いた可能性が示唆されていて、
今後の観察の継続により、
もう少し明確な結果が将来的には出る可能性があります。

そこで今回の研究では、
45歳から75歳で中等度から高度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群があり、
冠動脈疾患や脳卒中の既往のある2717名の患者さんを、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方は通常の治療のみを行い、
もう一方はそれに加えてCPAPを施行して、
平均で3.7年の観察期間中の、
心血管疾患の発症と予後を比較検証しています。

その結果、
観察期間中の心血管疾患による死亡と、
心筋梗塞、脳卒中の発症、
不安定狭心症による入院、心不全、
一過性脳虚血発作を合わせた頻度は、
CPAP群の17.0%、CPAP未施行群の15.4%に発症し、
そのリスクにCPAP施行の有無による有意な差はありませんでした。

これはCPAPによる心血管疾患の、
二次予防の効果を見たものですが、
通常の治療に上乗せしても、
明確な上乗せ効果はなかった、
という意味合いです。

ただ、この研究において平均の1晩のCPAPの使用時間は、
3.3時間にとどまっていて、
その使用はそれほどしっかりと行われていません。

掲載雑誌の解説記事では、
もっとしっかりとCPAPが多くの患者さんで長時間使用されていれば、
結果は変わったのではないか、
という意味のことが書かれています。

つまり、
まだCPAPの心血管疾患の予防効果は、
完全に否定された、
ということではなさそうです。

しかし、現時点でその根拠が乏しいこともまた事実で、
現行眠気などの症状が強かったり、
酸素の低下が高度の患者さんでは、
CPAPの適応は揺るがないところですが、
症状のない患者さんに対する、
心血管疾患の予後改善を目的とした使用については、
現時点では推奨されないと、
考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

倉持裕「家族の基礎~大道寺家の人々~」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
家族の基礎.jpg
M&Oplaysプロデュースとして、
倉持裕さんの作・演出による新作「家族の基礎」が、
今シアターコクーンで上演されています。

倉持さんは、
元々はかなりシュールで前衛的で、
観客にやや苦痛を強いるようなお芝居を、
小劇場で上演されていたのですが、
最近ではドラマの台本を書いたり、
舞台でもかなり商業的で大きな規模の舞台を任されて、
誰にでも楽しめる舞台にシフトされているようです。

ただ、商業演劇としてはちょっと地味で、
ひねくれたところがあるので、
大衆化されているとも言い切れないことがあります。

今回の作品は、
ケラと三谷幸喜の作品を足して2で割ったような感触で、
こんな表現をすると、
あまり褒めていないように思われるかも知れませんが、
ケラさんと三谷幸喜さんの、
それほど良くない時の作品と同じくらいには、
楽しめる作品になっていたと思います。

内容的には一種のクロニクルで、
大道寺家という一家の年代記が、
アーヴィングの小説のような、
マジックリアリズム的な手法で綴られてゆきます。

ただ、アメリカの小説などの場合には、
ベトナム戦争やフラワームーブメントなど、
その時折々の歴史的な背景が、
作品に反映するような感じになるのですが、
日本では過去の歴史に「色」が付いてしまっていて、
あまりそうしたことが出来ないのが辛いところです。
今回の作品も、
一応現実の日本とリンクはしているようで、
何か仮想現実的な軽さがあります。

作品自体はそんな訳で、
それほど傑出したものではないのですが、
破綻なく3時間をまとめ上げている部分は、
職人芸的な技量を感じます。

優れているのは演出で、
テレビでも見慣れたキャストが、
次々に印象的に登場し、
歌える人はちゃんと歌も歌いますし、
見せるものはしっかり見せて、
テンポよく舞台を進行させる手際には感心しました。

役者さんは皆好演で、
特に主役の松重豊さんは、
かつての舞台でのギスギスした感じからは脱却し、
ドラマでの経験も活きて、
非常に安定感と説得力のある芝居で、
とても良かったと思います。
夏帆さんも黒川芽衣さんも可愛かったですし、
若い男優さん達の素直な芝居も良かったと思います。
六角精児さんもさすがの安定感です。

そんな訳で結構拾い物の感じがあって、
とても楽しく観劇しました。

残念ながら集客は芳しくないようで、
チケットサイトでも安売りをしていましたし、
それでも3分の2くらいしか埋まっていませんでした。

もしご興味があれば、
意外に悪くないのでお勧めします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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