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「ポケモンGO」による脇見運転リスクの解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ポケモンGoの影響.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載されたレターですが、
「ポケモンGo」を運転中に使用している頻度を、
ツィッターから解析したという小ネタです。

「ポケモンGO」は日本でもアメリカでも、
大ヒットしたスマホのゲームとして、
一種の社会現象を巻き起こしています。

現実の町でポケモンを見付けてそれを捕獲して集めるという、
シンプルな構造が面白く、
現実に場所を移動しないとゲームが進行出来ないので、
運動不足の解消や、
引きこもりの解消にも、
効果があるのではないかという意見もありました。

その一方でスマホの画面に集中するあまり、
歩行者の転倒や、
自動車、自転車などの事故に結びつくのではないか、
というような危険も当初から指摘をされていました。

特に自動車運転中にゲームをすることは、
脇見運転のリスクが非常に高く、
ゲームの運営側もその点には配慮して、
移動速度が速いと、
ゲームが進まなくなるような制限を付けています。

しかし、それでゲームによる事故が防げるとは考え難く、
対応は不充分ではないかという声が大きくなっています。

今回の報告は、
2016年の7月10日から19日までの10日間の、
ツィッターのデータを解析し、
ポケモンや車、運転などのワードで検索を掛けて、
抽出された345433件のツイートを検証するとともに、
その10日間の自動車等の事故の事例にも検索を掛けています。

その結果…

たった10日間でドライバーや乗客、歩行者が、
ポケモンGOで注意を逸らされているケースが、
113993件見つかり、
全ツイートの18%では、
ドライバーが脇見運転をしていることが明確でした。
その一方で安全に関する警告のメッセージは、
13%でしか確認はされませんでした。
この10日間に、14件のポケモンGO実施中の交通事故が、
報道されています。

こうしたゲームに脇見運転のリスクがあることは間違いなく、
より大規模な調査が必要であると記事は結んでいます。

レターとは言え内科の専門誌に、
こうした記事が載ることも、
如何にもアメリカという感じがします。

個人的にはゲーム自体は、
熱を帯び過ぎなければ問題はないものと考えますが、
何にせよあっと言う間にネットで拡散して、
皆が同じ行動を取るという今の世界では、
安全対策も常に先回りをするような、
敏感な対応が必要になるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

脳出血急性期の血圧コントロール目標(2016年の介入試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
脳出血後の血圧コントロール.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
脳出血の急性期の血圧コントロールについての論文です。

脳出血は非常に深刻な影響を身体に与える、
いわゆる脳卒中の一種で、
高血圧などの要因により脳内の血管が破綻し、
脳内に出血の起こる病気です。

この脳内出血の急性期には、
血圧をどのくらいにコントロールすることが適切なのでしょうか?

実はこれは正確には分かっていません。

高血圧は脳内出血の原因でもありますから、
血圧を正常にすることが、
再発を予防するには重要と考えられます。
また、脳内の出血が起こって、
血の塊である血腫が出来ていますから、
それを大きくしないためにも、
血圧を下げることが重要であると思われます。

その一方で、
多くの降圧剤は脳の血管を拡張させるような作用がありますから、
止血がまだ完成していない段階で血管が広がり、
血流が増加することが、
脳内の圧力である脳圧の亢進に繋がり、
患者さんの予後を悪化させるという危惧があります。

また、降圧により逆に脳の血流が低下することも想定され、
そうなると脳の機能低下が進行するという危惧もまた生じます。

概ね降圧剤で血圧を下げた方が、
患者さんの予後は良好であったという報告が、
後ろ向きのデータとしては複数存在しているのですが、
それではどのような薬を使用して、
どのくらいのレベルまで血圧を下げることが、
最も患者さんの予後に良い影響を与えるのか、
というような具体的な事項については、
精度の高いデータは殆ど存在していないのが実際です。

概ね現行のガイドラインにおいては、
収縮期血圧が180mmHg未満を目標にして、
降圧治療を行なうと記載がされていますが、
その根拠もそれほど明確なものではないのです。

2013年のNew England…誌に、
INTERACT2という臨床試験の結果が発表されています。

これはこの問題を検証した数少ない厳密な介入試験で、
症状出現後6時間以内の脳内出血の患者さんをくじ引きで2群に分け、
一方はガイドライン通りの収縮期血圧180mmHg未満を目標とした降圧を行い、
もう一方は140mmHg未満を目標とした降圧を行なって、
その予後を比較検証したものです。
その結果はより低い目標の降圧により、
生命予後には良い傾向が認められましたが、
統計的に有意ではない、というものでした。

この結果を受けて2015年版の日本のガイドラインでは、
「収縮期血圧140未満を目標として降圧を行っても良い」
という改訂を行っていますが、
強い推奨という扱いにはなっていません。

今回の研究は上記のものとは少しデザインを変え、
より多数例でのこの問題の検証を行ったものです。

対象は血腫量60cm3未満の脳内出血を起こした、
発症早期のGCSスコアが5以上の患者さん1000例を、
くじ引きで500例ずつの2群に分け、
一方は収縮期血圧を110から139mmHgとする強化コントロールを行い、
もう一方は140から179mmHgとする標準的なコントロールを行なって、
登録後3ヶ月の時点での予後を比較しています。
治療は発症から4.5時間以内として、
ニカルジピンの静注を行なっています。

その結果…

試験は当初より早く終了となりました。
中間解析の結果として、
強化コントロール群と通常コントロール群との間で、
明確は差はなく、
当初決められた基準に達しないことが明らかとなったからです。
腎機能低下などの有害事象については、
強化コントロールでより多く認められました。

現状では脳出血の発症早期において、
血圧値で140未満を目指すようなコントロールが、
患者さんの予後に良い影響を与えるという根拠は、
現状はないと考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

新規GLP1アナログ セマグルチドの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
セマグルチドの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
糖尿病の新薬の臨床試験の結果をまとめた論文です。

2型糖尿病の治療の目標は、
心血管疾患のリスクを低減して、
患者さんの予後を糖尿病のない人に近づけることですが、
実際には治療により血糖自体は低下しても、
心血管疾患のリスクや総死亡のリスクを、
治療により低下させるというデータのある治療薬はごくわずかです。

最近精度の高い臨床試験により、
GLP1アナログという種類の糖尿病治療薬である、
リラグルチド(商品名ビクトーザ)が、
その使用による心血管疾患のリスク低下と、
総死亡のリスク低下を報告して大きな話題となりました。

しかし、その結果が他のGLP1アナログ製剤においても、
同じように成り立つかどうかは、
今の時点では明らかでありません。

セマグルチドはノボ・ノルディスク社の開発による、
週1回皮下注のタイプのGLP1アナログ製剤でですが、
現時点では2型糖尿病治療薬としての適応は、
アメリカでも通っておらず、
日本でも発売はされていません。
ただ、この薬は内服薬としても治験をされていて、
内服で週1回の薬剤として発売されれば、
その市場は確実に拡大すると思われます。

今回のデータはアメリカでの適応を目指して施行された、
臨床試験の結果です。

世界20か国の230の医療機関において、
通常の治療を行なっていても、
HbA1cが7.0%以上である2型糖尿病の患者さん、
トータル3297名をくじ引きで2つの群に分け、
一方はセマグルチドを1日0.5mgもしくは1.0mgで週1回皮下注し、
もう一方は薬効のない偽薬を同じように注射して、
104週間(概ね2年間)の経過観察を行っています。

患者さんの登録時のHbA1cの平均は8.7%で、
治療薬としてはメトホルミンが70%程度、
インスリンが58%程度、
SU剤が40%程度使用されています。

その結果…

HbA1cは前値の8.7から、
セマグルチド0.5mgで7.6%、
セマグルチド1mgで7.3%まで低下しています。

そして、
心血管疾患による死亡と非致死性の心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクは、
偽薬と比較してセマグルチド群で26%(0.58から0.95)
有意に低下していました。
このうち非致死性の心筋梗塞は、
偽薬群で3.9%、セマグルチド群で2.9%発症していて、
セマグルチドにより26%(0.58から1.08)と、
低下はしているものの有意差はありませんでした。
非致死性の脳卒中については、
偽薬群で2.7%、セマグルチド群で1.6%発症していて、
セマグルチドにより39%(0.38から0.99)と、
こちらは有意に低下していました。
心血管疾患による死亡については、
両群で有意差はありませんでした。

小血管の合併症については、
腎症の発症や悪化は、
セマグルチド群で36%(0.46から0.88)と有意に低下していましたが、
網膜症に伴う出血などのリスクについては、
セマグルチド使用群において、
1.76倍(1.11から2.78)と有意に増加が認められました。

今回の結果は正直リラグルチドの同様の結果と比べると見劣りがします。

総死亡のリスクにも、心血管疾患の死亡リスクにも、
差は付いていませんし、
心筋梗塞のリスクも有意ではありません。
症例数は実際には少ないものの、
網膜症の悪化がセマグルチド群で多かったという点も気になります。

個人的には今回の対象者には、
インスリンやSU剤の使用者が多く、
そこにGLP1アナログを上乗せしているので、
予期せぬ血糖の急降下や、
心血管疾患の増加に、
繋がりやすかったのではないか、
というようにも感じます。

一応今回の結果は、
アメリカFDAの新薬の審査基準は満たしているようですが、
リラグルチドの有効性のデータが、
再現性のあるものであるかを含めて、
GLP1アナログの有効性と安全性については、
今後の更なる検証が必要だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

限局性前立腺癌の治療方針と予後(イギリスでの10年間の観察結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
前立腺がんの10年予後.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
転移がなく前立腺内に留まった前立腺癌の治療方針と、
その予後との関連を検証した論文です。

遠隔転移のない前立腺癌の、
最も適切な治療は何でしょうか?

前立腺癌は高齢男性に多い、
基本的には予後の良い癌です。
勿論その一部は全身に転移するなどして、
そのために命を落としたり、
骨転移による痛みなどの苦しめられる、
というケースもあるのですが、
比率的には多くの癌は、
特に症状を出すことなく、
その方の生命予後にも影響しない、
というように考えられています。

それでは、
前立腺の被膜内に留まった形で癌が発見された場合、
どのような治療方針が最適と言えるでしょうか?

神様的な視点で考えれば、
その後転移するような性質の悪い癌のみに、
手術や放射線などの治療を行ない、
転移しないような癌は放置するのが、
最善であることは間違いがありません。

しかし、実際には生検の結果である程度の悪性度は評価出来ても、
その癌が転移するかどうかは分かりません。

従って、このことを重視すれば、
全ての患者さんに治療を行なうということになり、
それは本来放置していても生命予後には問題のなかった、
多くの患者さんを「過剰に」治療するという結果に繋がります。
治療は無害ではなく、
合併症などで体調を却って崩すこともありますし、
医療コストも膨大になってしまいます。

そこで1つの考えとしては、
積極的な治療以外に、
当面は無治療で経過観察を行い、
定期的な最小限の検査は施行をして、
悪化が強く疑われれば、
治療をその時点で考慮する、
という方法が次善の策として考えられました。

これを無治療経過観察(積極的監視療法)と呼んでいます。

この無治療経過観察では、
通常は腫瘍マーカーであるPSAを、
定期的に測定し、
それが一定レベル以上上昇すれば、
治療を考慮します。
ただ、このPSAも確実に病勢を反映しているとは言えず、
そうした経過観察によって、
どの程度ただの無治療と比較して、
患者さんの予後が改善するのかも明確ではありません。

この問題を検証する目的で、今回の研究では、
イギリスで50歳から69歳の男性にPSA検査を行い、
そこから振るいに掛けて2664名の限局性前立腺癌を診断しました。
そして同意の得られた1643名をくじ引きで3つの群に分け、
第1群は治療はすぐにせずに無治療経過観察を行い、
第2群は前立腺の全摘手術を行い、
第3群は放射線治療とその後に一定期間のホルモン療法を行います。
そして、10年間の経過観察を行い、
3つのグループの生命予後は病変の進行、
転移の有無を比較検証しています。

対象となった患者さんの年齢は中央値で62歳で、
登録時のPSAは中央値で4.6ng/mL、
実際には3.0から19.9に分布していました。
腫瘍の悪性度の指標であるグリソン・スコアは、
6点が全体の77%でした。
76%はT1cという、
針生検で癌が発見されるレベルのものでした。
これは比較的低リスクの癌が多いことを示しています。

無治療経過観察の方法は、
最初の1年は3か月毎にPSAの測定を行い、
その後は6から12か月に1回の測定を継続します。
1年で50%を超えるPSAの増加があれば、
陽性所見として他の検査も施行します。

放射線治療はトータルで74グレイを照射し、
3から6か月の短期間のホルモン療法を併用します。

その結果…

10年間に17例の前立腺癌による死亡が確認されました。
無治療経過観察群で8例(年間1000人当たり1.5人の死亡)、
手術群で5例(年間1000人当たり0.9人の死亡)、
放射線治療群で4例(年間1000人当たり0.7人の死亡)となり、
死亡率には有意な差は認められませんでした。
また、総死亡のリスクにも差はありませんでした。
一方で転移は、
無治療経過観察群で33例(年間1000人当たり6.3件)、
手術群で13例(年間1000人当たり2.4件)、
放射線治療群で16例(年間1000人当たり3.0件)となり、
転移は有意に無治療経過観察で多い、と言う結果になりました。
癌の進行も同様に無治療経過観察群で有意に多くなっていました。

これは死亡に差が付くには、
もう少し長期の経過観察が必要で、
前立腺癌のゆっくりとした進行を考えれば、
10年はまだ短過ぎた、
というのが通常の判断になるかと思います。
ただ、10年という比較的短期間においても、
癌の進行や転移には明確な差が付いていて、
より長期の観察を行なえば、
治療群との間には有意差が付く可能性が高いと推測されます。

それでは、この結果をどう考えれば良いのでしょうか?

比較的悪性度の低い限局性の癌であっても、
未治療での経過観察では、
治療の倍を超える程度の転移や癌の進行が認められます。
従って、治療を行なうことに一定の意義はある訳です。
ただ、10年では生命予後の差は付かないという点から考えて、
余命が10年に満たないと考えられるケースでは、
積極的な治療は適応にはならない、
と考えた方が良さそうです。

現状は上記の情報を患者さんに提示した上で、
経過観察か治療かの選択を、
医療者と患者さんが一緒に行うことが、
妥当なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

頭痛と高血圧との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
頭痛と高血圧の関連.jpg
2016年9月のAmerican Journal of Hypertension誌に掲載された、
頭痛と高血圧との関連を検証した論文です。

高血圧と頭痛との関係を、
皆さんはどうお考えになりますか?

クリニックで診察をしていると、
血圧が高いことは以前から言われていたが、
最近頭痛がするので心配になった、
というような訴えでお見えになる方が時々います。

血圧が比較的急激に上昇すると、
確かに頭が重い感じの頭痛と、
肩こりやめまい、吐き気などの症状が出現することがあります。

時には高血圧性の脳症や、
くも膜下出血の時に、
強い頭痛を伴う全身症状が出現することがあります。

ただ、一般的に言えば、
高血圧の患者さんで頭痛が特に多いという印象はなく、
血圧が高い方がむしろ調子が良く、
降圧剤で血圧を下げると、
むしろその時に頭痛が生じることの方が、
多いという印象があります。

それでは、これまでのデータはどうなっているのでしょうか?

本態性高血圧症の多くが無症状で、
その中では最も典型的な症状が頭痛であることは、
古くから報告があります。

それでは、頭痛のある高血圧の方が、
より重症であったり、より血圧の数値が高値であるのか、
という点については、
必ずしも報告は一定していません。

頭痛の関連で言うと、
片頭痛が脳梗塞のリスクになることは、
ブログでも記事にしたことがありますが、
最近のメタ解析の結果として報告されています。
ただ、これは高血圧の患者さんのデータではなく、
心筋梗塞などの他の心血管疾患については、
そうした関連は認められていません。

高血圧の治療薬のうち、
β遮断剤、サイアザイド系利尿薬、ARB、ACE阻害剤は、
治療による頭痛の改善が認められていて、
その一方降圧作用の強いカルシウム拮抗剤は、
頭痛の改善効果が認められていません。
これはカルシウム拮抗薬の血管拡張作用が、
頭痛の発症にも繋がっているからで、
僕は患者さんにカルシウム拮抗薬を処方する時は、
飲み始めに頭痛が出ることがあるが心配は要らない、
というようなお話をしています。

要するに、
これまでに高血圧の患者さんを対象にして、
血圧値と予後と頭痛との関連を、
大規模に調査したようなデータは、
実際にはこれまでにあまり存在していなかったのです。

そこで今回の研究では、
外来での血圧の収縮期が160を超えるか、
もしくは拡張期が95を超えている高血圧の患者さん、
トータル1914名を、
フランス、リヨンの単独施設で登録し、
登録の時点で頭痛の有無とその性質を問診して、
30年という長期の経過観察を行なっています。

頭痛と高血圧との関係を見るだけのために、
こうした研究が行われた訳ではなく、
別個の血圧に関する臨床研究のデータを、
それについて別個の解析したものです。

頭痛の有無は登録の時点の問診で分類しています。
頭痛のあった頭痛群が850名で、
頭痛のない非頭痛群が1064名です。
頭痛群は更に、
片頭痛と毎日症状のある習慣性頭痛、
そしてそれ以外の頭痛に分類されています。
この分類は現行使用されている頭痛の分類とは同一ではなく、
問診の項目より分類可能な独自のものとなっています。

降圧治療は頭痛群、非頭痛群のいずれにおいても、
46%程度の患者さんに施行されています。
要するに半数近くの患者さんは、
登録の時点で降圧剤による治療を受けています。

登録時点の解析では、
頭痛は女性に有意に多く、
特に片頭痛ではその傾向は顕著です。
収縮期血圧と頭痛との関連は見られませんでしたが、
拡張期血圧は高いほど頭痛は伴いやすい、
という傾向が見られました。
重度の高血圧性網膜症は頭痛群で1.32倍と、
有意ではないけれど高い傾向を示し、
習慣性頭痛でも1.76倍と有意に高くなっていましたが、
それ以外の頭痛と、頭痛群のトータルでは、
一定の傾向を示しませんでした。
トータルの頭痛群とそれ以外の頭痛群では、
糖尿病のリスクが低下していましたが、
片頭痛や習慣性頭痛ではそうした傾向はなく、
その意味は不明です。

そして、
30年の経過観察においては、
頭痛群は非頭痛群と比較して、
総死亡のリスクが18%(0.73から0.93)、
心血管疾患による死亡リスクが20%(0.68から0.95)、
それぞれ有意に低下していましたが、
脳卒中による死亡リスクの低下は認められませんでした。

頭痛の種別においては、
片頭痛、習慣性頭痛、その他の頭痛で、
いずれも同じ傾向は示しましたが、
有意差は認められませんでした。

端的に言えば、
頭痛と高血圧との間には、
それほど強い関連はなさそうですが、
頭痛のある患者さんは下の血圧が高く、
臓器障害もより進んでいる可能性は示唆されます。
ただ、その一方で長期間の予後を見てみると、
登録時に頭痛のあった患者さんの方が、
その生命予後は良い傾向が認められました。

これは矛盾しているような奇異なものとも感じられますが、
上記文献の著者らの見解としては、
医療機関で取られたデータであり、
頭痛のある患者さんの方が、
症状のある分自分の体調にも敏感で、
降圧治療にも積極的に取り組み、
また主治医の方も病状をより気にするので、
それが結果として、
長期予後の改善に繋がったのではないか、
という説が述べられています。
ただ、それを補強するような、
具体的な患者さんの診療態度などが、
データとして示されている訳ではないので、
敢くまで仮説に留まるものだと思います。

高血圧の患者さんにおける、
重症高血圧や脳症が疑われるような、
急性の状態以外の頭痛症状は、
必ずしも患者さんの高血圧の状態と、
関連の深いものとは言えないのですが、
主治医がそうした症状にも気を配って診療することは、
長期的に患者さんの予後に、
良い影響を及ぼす可能性があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

第13回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

今日は告知をさせて下さい。
こちらです。
13回健康教室.jpg
来月10月15日土曜日の午前10時から、
クリニック2階の北品川健康スクエア(図書室兼研修室)で、
第13回の健康教室を開催します。

今回のテーマは脳卒中で、
予防から治療まで、
なるべく最新のデータを元にして、
お話をしたいと思います。

参加は無料です。

参加希望の方は10月13日の午後6時までに、
お電話かメールでご予約をお願いします。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

川村毅「荒野のリア」(2016年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
荒野のリア.jpg
2014年に初演された「荒野のリア」の、
一部キャストを変えての再演である、
吉祥寺シアターでの公演に足を運びました。

これはやや遅れてきた武闘派で理論派の演劇人、
元第三エロチカの川村毅さんが、
シェイクスピアの「リア王」を大胆に再構成し、
麿赤児(兒)さんがリア王を演じるという意欲作です。

作品は娘に追われて荒野をリア王が彷徨うという、
原作の第3幕から始まり、
原作の後半のみを、
休憩なし1時間40分のダイジェストで上演する、
という趣向です。

男性キャストのみの「リア王」で、
女性で唯一登場の不可欠なコーデリアは、
道化との2役で演じられます。

確かにストーリーを後半のみにすれば、
女性役は殆ど登場しなくても済みますし、
リア王の狂気を完全に主軸に据えることが出来るので、
社会で孤立し子供に捨てられた老人の狂気として、
普遍的で密度の濃い上演が可能となります。
それに加えてこの作品では、
矢張り子供に裏切られて盲目になる、
グロスターを手塚とおるさんに演じさせて、
その対比で狂気を対象化しているのもクレヴァーな工夫です。

演出も荒野を地球の外のように設定して、
大量の砂がキャストを押し潰すように落ちて来たり、
ラストに背後の幕に巨大な地球が映し出されるなど、
蜷川演出的な工夫もありますし、
リアの2人の娘を、
ヌードのピンナップガールの映像で処理したり、
戦いはバットの殴り合いで、
結構暴力的に処理しているのは、
如何にも川村さんの演出という感じもあります。

ただ、それでは心躍るような弾む舞台になっていたかと言うと、
必ずしもそうではありませんでした。

問題は主役の麿さんのポジションにあります。
麿さんは勿論稀代の怪優で、
僕は勿論大好きです。
その凄みのある風貌が年を重ねた今の姿は、
今回のリア役にはうってつけです。

ただ、麿さんは普通の台詞を、
普通のリズムで話すというようなことは、
出来るタイプの役者さんではなく、
そのまま台詞を喋ると、
物凄く間延びした、
へんてこりんな感じになってしまいます。

大久保鷹さんと同じように、
矢張り唐先生の台詞だと、
抜群にフィットして驚くようなリズムを持つのですが、
それ以外の台詞では、
どうも持ち前の不器用さ(決して悪い意味ではありません)が、
悪く作用してしまうのだと思います。

今回も演出の川村さんは、
非常に気を遣った演出をしていたのですが、
長台詞が有効に機能しておらず、
かなり間延びのした残念な感じになっていました。

今回は構成は大きく変えても、
台詞自体は原典を変えない、
というのが基本的なコンセプトです。

ただ、「何と言うつらい定めだ。この場で心が張り裂けてしまいそうだ」
というような、モロに翻訳調の台詞が、
これはキャストの全てに言えることですが、
短調な台詞廻しでリズムなく発せられると、
それだけでゲンナリしてしまうような気分になるのです。

今回の場合、
役者の藝質に合わせて、
台詞は書き換えるべきでは、
なかったのではないでしょうか?
松岡さんの翻訳は、
こうした演出の芝居には不向きだと思います。
勿論こうした台詞を違和感なくこなすような、
特殊な資質の役者さんもいるのですが、
麿さんを始めとして、
今回のキャストはそうではなかったと思います。

そんな訳で乗り切れない部分はあったのですが、
アングラの香気漂う意欲作であることは間違いなく、
出来ればもっと練り上げられた、
麿さんの持ち味を巧みにコントロールした、
次回作を期待したいと思います。
これではちょっともったいないです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

2型糖尿病へのGLP1アナログとSGLT2阻害剤の併用療法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SGLT2とGLP1の併用.jpg
今月のLancet diabetes&endocrinology誌にウェブ掲載された、
近年注目されている2種類の糖尿病治療薬の、
併用治療の効果を検証した論文です。

これはアストロゼネカ社がお金を出して、
発売している2種類の薬剤の併用効果を、
厳密な方法で検証した臨床試験の結果です。

2型糖尿病の治療における、
国際的な第一選択薬はビグアナイト系のメトホルミンです。

メトホルミン単剤でHbA1cが7.0%未満にならない時には、
そこに他の薬剤を上乗せで使用することになります。

現行のガイドラインにおいては、
上乗せする薬剤には特に序列は設けられていません。

HbA1cを極力正常化することを目標と考えると、
血糖降下作用が強力であるのは、
飲み薬のSU剤と注射薬のインスリンです。

しかし、このいずれかをメトホルミンに上乗せして治療を行なうと、
高率に低血糖が有害事象として起こります。
そして、メタ解析の結果などを見ると、
インスリンやSU剤の使用は、
長期的に患者さんの生命予後を改善せず、
心血管疾患のリスクも減少はさせていません。
内臓肥満は2型糖尿病の大きな要因の1つですが、
インスリンやSU剤を使用すると、
高インスリン血症により内臓肥満はむしろ悪化します。

HbA1cは低下しても、体重は増加して、
生命予後や心血管疾患のリスクは改善しない、
というのが2型糖尿病の治療における、
大きな問題として残っているのです。

最近、比較的新しい糖尿病治療薬である、
GLP-1アナログのリラグルチドと、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジンが、
いずれもメトホルミンへの上乗せにより、
心血管疾患のリスクの低下と、
生命予後の改善を認めたとするデータが発表されました。
いずれも厳密な手法を用いた臨床試験で、
その真偽を含めて非常に注目を集めました。

この両者の薬剤は、
そのメカニズムは異なりますが、
いずれも体重減少をもたらす効果もあります。
また、低血糖も来たしにくいという特徴があります。

それでは、
このGLP-1アナログとSGLT2阻害剤を併用したら、
より相乗的な改善効果が得られるのではないでしょうか?

今回の研究は、
GLP-1アナログのエキセナチド(パイエッタ、ビデュリオン)、
SGLT2阻害剤のダパグリフロジン(フォシーガ)という、
両者の薬剤を持つアストラゼネカ社が、
それぞれをメトホルミンに単独で上乗せした場合と、
両者を併用して上乗せした場合との、
効果と安全性を比較したものです。

製薬会社主導の臨床試験である点は、
少し割り引いて考える必要があるのですが、
厳密な手法を用いた多施設の介入試験であり、
今後のメタ解析などの素材としても意義のあるものだと思います。

世界6カ国の109の専門施設において、
18歳以上の2型糖尿病の患者さんで、
メトホルミンを1日1500mg以上使用していても、
HbA1cが8から12%とコントロールが不良である695名の患者さんを、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで3つの群に分け、
第1のグループは週1回のGLP1アナログの皮下注射
(商品名ビデュリオン)と、
毎日1回内服のSGLT2阻害剤(商品名フォシーガ)を併用し、
第2のグループはGLP1アナログのみを使用し、
第3のグループはSGLT2阻害剤のみを使用します。
単剤のグループでは偽薬や偽の注射液を使用して、
どちらのグループであるのかが、
分からないように調整するのです。

薬剤の使用量は、
ビデュリオンが週に2mgの皮下注で、
フォシーガが1日10mgの内服です。
いずれも日本での使用可能な用量設定です。
(ビデュリオンは基準量で、フォシーガは上限量)

経過観察期間は28週間です。

その結果…

メトホルミン単独での平均HbA1cは9.3%です。
それがGLP1アナログとSGLT2阻害剤の併用群では、
使用前より2.0%(-2.1から-1.8)低下し、
GLP1アナログ単独群では1.6%(-1.8から-1.4)、
SGLT2阻害剤単独群では1.4%(-1.6から-1.2)、
それぞれ有意に低下しました。

併用療法により観察期間終了時に、
45%の患者さんが、
目標であるHbA1c 7.0%未満に達しており、
食前および食後血糖は有意な低下を示し、
33%の患者さんでは、
体重は5%以上減少していました。
これらの変化は、
単独群より有意に良好なものでした。

いずれの群においても、
重篤な低血糖は発症せず、
主な有害事象は、
GLP1アナログの使用では、下痢、吐き気、
接種部位のしこり、
そしてSGLT2阻害剤では尿路感染症でした。

これまでGLP-1アナログが良いと言っても、
主なデータはリラグルチドのみで、
SGLT2阻害剤が良いと言っても、
主なデータはエンパグリフロジンのみでしたから、
今回別個の広く使用されている2種の薬剤において、
その併用の効果と安全性が、
確認されたことの意義は大きいと思います。

ただ、これは心血管疾患のリスクや、
生命予後に踏み込んだデータではないので、
それについてはおそらく今後発表される、
追加の研究結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

マームとジプシー「クラゲノココロ」「モモノパノラマ」「ヒダリメノヒダ」(2016年3作品再構築上演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

朝から雨で涼しい日ですね。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
マームとジプシー.jpg
先日彩の国さいたま芸術劇場で行われた、
マームとジプシーの公演に足を運びました。

マームとジプシーは、
藤田貴大さんが構成・演出に当たり、
叙情的な世界をスタイリッシュでダンサブルな、
独特のセンスで舞台化している、
最近非常に評価の高い劇団です。

抽象的で鋭角な装置の中で、
白い衣装の役者さんが、
時には踊り、時には同じ動きや台詞を繰り返して、
ジグソーパズルのように、
細かい断章をつなぎ合わせるようにして、
全体を構成するという手法は、
非常に知的な感じはしますが、
個人的にはあまり好みではありません。

以前大絶賛された「Cocoon」という作品を観ましたが、
これなら原作の方が全然いいのに、
と思い、あまり乗れませんでした。

ただ、今回は好き嫌いは良くないと思い、
頑張って埼玉まで出かけてみました。

今回の作品は、
これまでに藤田さんが創作された、
「クラゲのココロ」、「モモノパノラマ」、「ヒダリメノヒダ」
という3つの作品を、
得意の構成力で組み合わせて、
1時間50分ほどの1つの作品としたものです。

いずれも中学生の、
生と死との狭間を揺れ動くような、
感受性の豊かな体験をドラマとしたもので、
7人の役者さんと1人のドラマーが、
それを完成度の高いスタイリッシュな演出で、
唯一無二の知的な作品にしています。

方法論自体は、
矢張りあまり好きにはなれないのですが、
今回は話も明確でわかりやすかったですし、
死と向かい合う中学生のスケッチは、
とても真摯に繊細に描かれていて、
とても心に滲みました。

今回はとても良かったです。

個人的には藤田さんは原作ものや、
古典の再構成より、
オリジナルのドラマの方が、
よりその資質に合っているのではないかと感じました。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台は帯状に前方から後方まで3つの部分(レーン)に分かれ、
その間には素通しの額縁のような枠が置かれ、
その枠は横に3つ並んでいるので、
舞台は素通しの枠のみで9つの同じ大きさの小舞台に分かれています。
後方ににはドラムなどの生演奏スペースがあり、
その上方には3つのスクリーンが掲げられています。

3つのレーンはこの作品が、
元々3つの作品を再構築して作られていることを、
示しているように思われます。
3つのドラマのパートが、
同時に3つのレーンで演じられることもあり、
ただ、常にそれでは観ていてきついので、
通常は1つのレーンが中心となってドラマが展開されます。

印象的な転倒して起き上がるような動作などはありますが、
基本的には通常の動作と自然な演技が主体で、
同じ台詞や動作の繰り返しは多いのですが、
それほど不自然に感じるようなしつこさはありません。

発達障害でてんかん持ちの少年が自殺する話と、
左目の視力が落ちている少女が、
見える右目を塞いで左目だけで世界を見ていたところ、
存在しない少女を幻視する話、
そしてモモという猫を飼って育てる話などが、
互いに連鎖しながら進行して行きます。

思春期に近づく死の匂いが濃厚に舞台に漂うのですが、
ただ暗いというようなイメージではなく、
現実を超えた世界の存在であるとか、
他者の死を乗り越えて生きてゆくというイメージが、
前向きのものとして描かれていて、
個人的にはとても共感し、また感銘を受けました。

空間構成はとても巧みです。
役者さんも皆演出の意図を十全に心得ているので、
完璧なタイミングで全ては進行してゆきます。

豚の目玉を解剖したり、
幻視した少女の写真を暗室で現像したりする場面があり、
かなり具象的で生々しいのですが、
それを舞台中央の、
一番客席から遠い部分で処理して、
その一部は背後のスクリーンに映像で表現される、
というように、
生々しい表現をしながら、
それを距離を持って描いて、
全体のスタイリッシュなトーンと、
微妙なバランスを取っているのです。
この辺のさじ加減も感心しました。

総じて繊細で情感に溢れた佳品で、
その手法には必ずしも賛同出来ないのですが、
観劇後には重いけれど清々しい余韻が残りました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

メラトニンと日内リズムと糖尿病 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で外来は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メラトニンと糖尿病.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌の解説記事で、
メラトニンと日内リズムと2型糖尿病との関連について、
基礎実験と臨床との関係を解説したものです。

ここで主に取り上げられている文献は、
以前にも一度ご紹介したことがあります。
こちらです。
メラトニンによる血糖上昇効果.jpg
今年のCell Metabolism誌に掲載された論文ですが、
睡眠リズムを形成するホルモンであるメラトニンが、
血糖を上昇させる原因になるという、
ちょっとビックリするような報告です。

2型糖尿病は生活習慣病の1つで、
多くの遺伝要因と環境要因が、
複雑に絡み合って発症すると考えられています。

150を超える遺伝子変異が、
糖尿病の発症を上げるリスクとして同定されています。

そうした遺伝子の変異の中には、
糖尿病との関連がメカニズム的にも明確で想定可能なものと、
そうではないものがあります。

メカニズムが不明な遺伝子変異の中で、
興味深いものの1つが、
MTNR1Bという遺伝子の変異で、
この遺伝子はMT2という細胞表面の受容体をコードしています。

そして、このMT2は、
睡眠を誘導するホルモンである、
メラトニンの受容体として知られています。

メラトニンが結合する受容体には、
MT1、MT2、MT3の3種類があることが知られていて、
そのうちMT1とMT2はいずれも睡眠の誘導に関連があります。

実はこのうちのMT2受容体は、
インスリン分泌細胞である、
膵臓のβ細胞の表面にも発現していることが判明し、
その受容体が増えるような変異が、
糖尿病の発症リスクを増加させることが、
2009年に報告されています。

この時点では両者の関係は不明であったのですが、
2016年のCell Metabolism誌の論文により、
そのメカニズムが解明に向かいます。

こちらをご覧下さい。
メラトニン受容体の変異と糖尿病の図.jpg
これはNew England…誌の解説記事に添付されたものですが、
上の図は遺伝子変異のない状態で、
下の図がMTNR1Bの変異のある状態のインスリン分泌細胞です。

もともと細胞表面のMT2受容体にメラトニンが結合すると、
それは細胞内のリン酸化シグナルを介して、
インスリン顆粒の分泌を抑制する方向に働きます。

睡眠中はインスリンの必要量は減りますから、
これは理に適った仕組みと言えなくもありません。

一方でこの受容体に関わる遺伝子の変異があると、
下の図のようにMT2受容体の数が増加し、
その反応が高まるので、
メラトニンによるインスリン分泌の抑制が、
より強くなるものと考えられます。

ただ、実際にこの経路が、
どの程度の影響を与えるのでしょうか?
膵臓のホルモン分泌細胞の表面には、
300を超える受容体が存在していることが確認されていますから、
こうしたメカニズムがあるとしても、
それが臨床的に問題のあるものとは、
簡単に言い切ることは出来ないのです。

そこで上記の論文では、
メラトニンを1日4ミリグラムで3ヶ月間使用し、
その前後で糖負荷試験を行なって結果を比較しています。
その結果、第1相のインスリン分泌が、
メラトニンの使用により減弱し、
その反応は遺伝子変異のある人で強かったと記載されています。

しかし、ネズミの基礎実験がメインの論文なので、
臨床データの詳細は明らかではなく、
現状は不充分なものです。

一方でシフトワークで夜勤が多かったり、
海外渡航が多かったりすると、
それも2型糖尿病のリスクになることが報告されています。

従って、メラトニンのサプリメントとしての使用は、
適正であればむしろ糖尿病のリスクを、
低下させる方向に働くとも考えられるのです。

もう1つ糖尿病の治療薬のターゲットとして、
このMT2を活用したらどうか、
という想定も可能です。

メラトニンの受容体にはMT1もあるので、
MT2のみを阻害するような薬を開発すれば、
睡眠には影響を与えずに、
インスリンの分泌を刺激する薬が、
開発可能となるかも知れません。

いずれにしても、
メラトニンと糖尿病との関連は興味深く、
まだ臨床的には不明の点が多いのですが、
今後の知見の積み重ねに注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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