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唐十郎「ビニールの城」(2016年金守珍演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中が石田医師の外来で、
石原は健康教室を担当し、
午後は石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ビニールの城.jpg
1985年に第七病棟が上演して非常に世評の高かった、
唐先生の「ビニールの城」が、
新宿梁山泊の金守珍の演出で、
蜷川幸雄追悼公演としてシアターコクーンで上演されています。

蜷川さんが生前に成立した企画ですが、
亡くなられたために、
金守珍さんが急遽演出となりました。
ただ、出演者の顔ぶれを見れば、
当初から織り込み済みだったのかな、
と思わなくもありません。

戯曲が初演された1985年は、
僕が一番演劇にのめり込んでいた時期で、
唐先生の芝居も新作(1つは改訂)が4本上演されました。

春公演は「ジャガーの眼」で、
状況劇場の本公演でしたが、
李礼仙さんが出演しないという変則的な座組でした。
その代わりに「ご注意遊ばせ」という新作が、
山崎哲さんの演出で、
李礼仙主演で吉祥寺の劇場で上演され、
そこには唐先生も出演しました。
通常状況劇場は春と秋の2回公演をテントでするのですが、
その年の秋は、
若衆公演と銘打って、
旧作の「少女都市」を大幅に改訂して、
「少女都市からの呼び声」を新宿の小劇場で初演しました。
秋のテント公演は行われませんでした。
そして更に同じ時期に書き下ろしで上演されたのが、
この「ビニールの城」です。

唐先生の中で絶対ヒロインであった李礼仙の役割が揺らぎ、
状況劇場における金守珍さんと六平直政さんの役割が大きくなって、
新宿梁山泊の旗揚げにも結び付く、
そんな時代でした。

この4本のうち僕は3本を観ています。
NHKの録画もされた「ジャガーの眼」は、
前後数年の状況劇場の作品の中では、
最も充実した芝居でしたし、
秋の「少女都市からの呼び声」が、
小劇場での低予算の芝居でありながら、
唐芝居の神髄とも言える傑作で、
非常な感銘を受けました。
その一方で「ご注意遊ばせ」は、
演劇としては面白みに乏しい凡作で、
とてもガッカリしたことを覚えています。

「ビニールの城」は迷ったのですが、
結局行けませんでした。
当時は松本に住んでいて、
秋に2回芝居を観に東京へ行くのは、
なかなか経済的にも時間的にも厳しかったのです。

しかし、その後「ビニールの城」は絶賛を浴び、
1980年代の演劇を代表する1本、とまで言われたので、
僕は心底観なかったことを後悔しました。

その後この作品は再演はなく、
第七病棟自体も2000年を最後に公演はしていません。
残念無念と歯噛みをしましたが、
過去は戻っては来ないのでどうしようもありません。

そして、今回の再演です。

不安と期待の半々で劇場に出掛けましたが、
予想通りと言うか、
あまり伝説の再現というような舞台にはなっていませんでした。

まず戯曲ですが、
唐先生としてはテント芝居より文学に傾斜した芝居で、
新宿梁山泊に書き下ろした「風のほこり」にも似た感触があります。
ただ、文学系の芝居としては、
視覚的な見せ場が多いことが特徴です。
腹話術の人形と人間との三角関係というのは、
「少女仮面」を代表として、
唐芝居ではお馴染みのディテールの1つですが、
それが増幅されて出現するような感じがあり、
もう一方の極に「ビニ本の女」がいて、
対立の構図も綺麗に仕組まれています。
主人公の腹話術師は、
徹底して積極的な行動を起こせない消極キャラで、
こうしたキャラクターも唐芝居の定番ではありますが、
この作品ほど消極的で、
ヒロインの誘惑に全く反応しない、
というのも珍しいと思います。

そして観客論というのか、
その消極的な主人公が、
物言わぬ人形としての観客に対して、
革命闘争的なアジテーションをする、
という不思議な場面もあります。
おそらく直接的な観客へのアジテーションが存在する、
今のところ最後の唐作品なのではないかという気がします。

今回の舞台では、
初演では緑魔子が演じたビニ本のヒロインを、
宮沢りえさんが演じ、
初演では石橋蓮司さんが演じた、消極的な腹話術師を、
森田剛さんが演じました。

2人ともかなり頑張って演じていたと思うのですが、
元々が個人への当て書きなので、
ハードルはかなり高かったように感じました。

宮沢さんは線が細く、
低姿勢の場面をとても低姿勢のままで演じてしまうので、
トレンチコートやドレスですっくと立ち、
そこに大容量のスポットがドカンと当たっても、
堂々とした感じがあまり出ません。
つまり、飛翔するという感じに乏しいのです。

森田さんはニヒルで屈折した感じが、
昔の根津甚八さんに良く似ていて、
その意味では唐芝居のヒーローにはドンピシャリという感じがします。
ただ、今回の役柄はある種の卑屈さとユーモラスな感じがないと、
しっくり来ないような役柄なので、
セリフは少し空回りをしていたように感じました。
僕の観た日は声が嗄れていて、
腹話術の場面や歌などはかなり悲惨でした。

一方で脇役陣は非常に充実していました。
金守珍と六平直政さんのかつての状況劇場コンビが、
幼児性のある悪党を演じるのは抜群ですし、
鳥山昌克さん、柳ユウレイさん、広島光さんの腹話術トリオの、
水際立ったセリフ廻しも唐芝居の香気に満ちています。

活き人形の荒川良々さんも新境地の感がある快演ですし、
江口のりこさんが小さな役で身体を張っているのも、
とても贅沢な感じがします。

演出は期待はしていなかったのですが、
全体的にはまずまずだったと思います。
作品世界をそれなりに忠実に形にしていました。

赤い月が上がったり、
ヒロインを大容量のスポットでドーンと抜いたり、
蜷川演出を意識した場面もありました。

ただ、いつもの悪い癖も出て、
場面転換に大音量のロックを流すのは場違いと思いますし、
低身長の役者さんに人形を演じさせ、
そのためのなくもがなの場面をつけ足したり、
舞台転換に唐先生の「吸血姫」の劇中歌を、
皆で唐突に歌うのは、
幾らなんでもひどいと感じました。
ラストのビニールの城が立ち上がる場面も、
せっかく美しい仕掛けなのに、
時間を掛け過ぎて、
宮沢りえを載せたセリが上がったり下がったりを繰り返すので、
途中でダレてしまったのも良くありませんでした。
もっと瞬間で勝負しなければいけないと思います。
初めて御覧になった方は、
何か全体の流れと無関係な場面や、
不似合いな音楽などに違和感を持たれたのではないかと思いますが、
その違和感の原因の多くは、
そうした演出による戯曲の恣意的な改変にあるのです。
また、この芝居の雰囲気には、
劇場は大き過ぎると感じました。

蜷川さんであれば、
そうしたギャップをどのようにしてクリアしたのでしょうか?
何も違いはなかったかも知れませんし、
結構大きな差のある舞台になったかも知れません。

そんな訳で、
ちょっと物悲しい、
「あー、30年前に観ておけば良かった」
とそんな思いが残る観劇でしたが、
それなりに見応えはありました。
ただ、唐芝居の初心者には、
かなりハードルは高い芝居だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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