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重症筋無力症に対する胸腺摘除術の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
MGにおける胸腺腫切除の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
重症筋無力症という病気に対する、
胸腺摘除術の効果についての論文です。

重症筋無力症というのは、
筋肉を使用しているうちに、
次第に力が入らなくなって来る、
という特徴的な症状を持つ病気です。

眼筋型と言って、
瞼を持ち上げる筋肉や目を動かす筋肉に、
主に症状が出るタイプでは、
朝は目がパッチリ開いているのに、
午後になると瞼が重くなって来て、
スムースに目が動かないので物が二重に見え、
上の瞼が下がり、
目を開けていることが出来なくなってしまいます。

足の太腿の筋肉に症状が出ると、
階段が登れなくなってしまいますし、
一番怖いのは呼吸に必要な筋肉の麻痺で、
重症になると呼吸が自力では出来なくなってしまいます。

この病気は神経から筋肉への信号が、
上手く伝わらなくなることで、
神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体に対する、
自己抗体が出来ることがその主な原因です。
また、他の神経伝達物質に対する抗体が、
出現することもあります。

このように重症筋無力症は自己免疫疾患の1つです。
ただ、他の自己免疫疾患にあまりない特徴として、
胸腺の病変を伴うことが多い、
ということがあります。

胸腺というのは、
胸の中央の胸骨の裏側で心臓の前にある、
リンパ組織で、
小児期の細胞性免疫の成立に大きな役割を果たし、
通常は30歳くらいまでに萎縮して脂肪に置き換わります。

しかし、重症筋無力症においては、
75%の患者で胸腺組織の過形成を認め、
10から15%の患者では胸腺が病的に腫大した胸腺腫が認められます。

ここで明確に胸腺腫が認められるような事例では、
その胸腺腫を切除する手術を行うことにより、
患者さんの予後が改善し、
治癒する事例も報告されています。
最初の報告は1939年ですから、
かなり歴史のある知見なのです。

従って、胸腺腫のある場合には、
その切除が重症筋無力症の標準的な治療なのですが、
問題は臨床的に胸腺腫は認められない場合の対処です。

最初に胸腺切除の効果を報告したBlalockという研究者は、
胸腺腫のあるなしに関わらず、
重症筋無力症では胸腺の切除が有効である、
という見解を持っていました。
しかし、その後薬剤による免疫療法が進歩したため、
胸腺腫のない事例では、
必ずしも胸腺の切除は推奨されない流れになりました。

ただ、実際には胸腺の切除と免疫療法とを、
胸腺腫のない患者さんで厳密に比較したような臨床試験は、
これまでには存在していませんでした。

従って、胸腺腫のない場合の胸腺摘除術の有効性については、
確認はされていないのが実際であったのです。

今回の研究はMGTX研究と題された、
この分野では初めての国際的なランダム化比較試験です。

発症後5年未満で全身型の重症筋無力症の18から65歳の患者さん、
トータル126例を対象として、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は胸腺を切除してプレドニンの隔日投与を行い、
もう一方はプレドニンの隔日投与のみを行って、
3年間の経過観察を行います。

その結果、
臨床症状においても、
プレドニンの必要量においても、
胸腺の切除を行った方が、
3年間の患者さんの予後は改善をしていました。
増悪による入院の事例も、
胸腺切除群では9%であったのに対して、
切除を行わなかった群では37%と、
明確な差が認められました。
ステロイドの使用量も胸腺切除群ではより少なく、
他の免疫抑制剤を使用するケースも、
少なく抑えられていました。

現状の胸腺腫のない場合の重症筋無力症の治療の主体は、
ステロイドや免疫抑制剤による、
免疫抑制療法ですが、
副作用や有害事象もその長期の使用においては少なからず生じるので、
早期に胸腺摘除術を施行することにより、
その使用量が減り、
予後の改善も見込めるとすれば、
手術は1つの選択肢としては、
今後よりその適応が拡大する流れにはなりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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