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やせ型の糖尿病における膵臓の細胞変化について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
やせ型糖尿病の膵臓細胞変化.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
やせ型の糖尿病における膵臓の細胞の変化を解析した論文です。
カリフォルニア大学やメイヨ―クリニックの研究者によるもので、
最近流行りの「膵臓β細胞の脱分化」という考えに、
否定的な見解を示したものです。

これは興味深い点が2つあって、
1つは最近流行の糖尿病進行の仮説に対して、
明確に否定的な見解を取っていることで、
もう1つは日本で良く議論になる、
やせ型と肥満の2型糖尿病には、
その成因において差があるのかどうか、
という点についても検証されている、
ということです。

2型糖尿病という病気は、
肥満が先行してインスリン抵抗性が生じ、
インスリンの効きが悪くなるという病態が進行すると、
今度は膵臓からのインスリン分泌も悪くなって、
血糖値が上昇するという経過の病気と、
概ね考えられていました。

1型糖尿病というのは、
自己免疫などの要因により、
当初からインスリン分泌細胞が破壊されるので、
それが原因であることは明確なのですが、
2型糖尿病に関しては、
インスリン分泌細胞の減少が、
原因の1つであるのか、
それともある種の結果であるのか、
その辺りについても見解は割れています。

日本では、
やせ型で当初からインスリン分泌の低下した、
2型糖尿病の患者さんが意外に多いのですが、
欧米特にアメリカでは、
2型糖尿病における肥満は、
ほぼ必要条件的に想定されていて、
臨床試験における患者さんのBMIも、
30を超えるのが普通です。

これが果たして同じメカニズムで起こる病気であろうか、
というのは、
臨床医が常々疑問に思うことの1つだと思います。

記事でも何度かご紹介していますが、
近年2型糖尿病の成因として、
インスリンよりグルカゴンの役割がクローズアップされるようになりました。
患者さんの膵臓において、
インスリン分泌細胞が減少するのと軌を一にして、
グルカゴン分泌細胞が増加し、
グルカゴンを抑制することで、
インスリンを補充することなく血糖が正常化した、
という驚くべき報告がその端緒です。

そして、このグルカゴン分泌細胞の増加は、
実はインスリンを分泌するβ細胞が、
脱分化という変化を来して、
グルカゴンを産生する細胞にトランスフォームしたのではないか、
という仮説が提唱されました。

実際に最初はネズミにおいて、
それから解剖された人間の膵臓の細胞において、
糖尿病の発症前に、
β細胞から脱分化したことが想定される、
グルカゴン分泌細胞が見つかった、
という報告が複数発表されています。

しかし…

それに異を唱えているのが、
今回ご紹介する論文の執筆者らのグループです。

彼らは上記の文献に先立って、
亡くなって解剖されたご遺体の膵臓細胞を活用して、
糖尿病における膵臓の細胞の変化を解析し、
確かにインスリンを分泌しないような性質に変化した細胞が、
糖尿病の患者さんの膵臓では認められるけれど、
そうした細胞の全体における比率は非常に少なく、
インスリン分泌細胞の減少とつり合いは全く取れていないので、
脱分化が起こっている、
というような可能性は考えにくい、
という結果を報告しています。

これは肥満した2型糖尿病の患者さんが対象でした。

肥満が先行する2型糖尿病では、
血糖値の上昇により糖毒性が膵臓のβ細胞の壊死を誘導する、
というメカニズムが想定されていますが、
やせ型の糖尿病ではそうした想定は困難なので、
実はβ細胞の脱分化は、
やせ型の糖尿病でこそ起こっているのではないか、
という想定が可能です。

そこで今回の研究では、
同様にやせ型の糖尿病の患者さんの解剖された膵臓の組織10検体と、
年齢や体格をマッチングさせた糖尿病のない組織10検体を、
比較して細胞の変化の有無を検証しています。
更にやせ型の糖尿病のモデル動物のネズミを活用して、
膵臓における細胞の変化が、
糖尿病の発症に先行しているかどうかも検証しています。

その結果…

β細胞の脱分化の根拠とされる、
β細胞由来でホルモンを分泌しない細胞と、
グルカゴンなど複数のホルモンの発現が確認される細胞は、
人間のやせ型糖尿病の膵臓においても、
モデル動物の膵臓においても、
共にその存在が確認されました。
ただ、その比率は膵臓のβ細胞の減少数の2%以内に留まり、
更にモデル動物においては、
糖尿病状態でも前糖尿病状態でも、
同じような比率で認められました。

要するに、
仮に減少した膵臓のβ細胞が、
脱分化してグルカゴン産生細胞になるとすれば、
変化した細胞の比率はもっと大きく、
前糖尿病状態より糖尿病状態において、
より多くなっていなければ理屈に合いません。

しかし、実際にはそうはなっておらず、
同じような低い比率で糖尿病の進行とは関連なく存在しているので、
これは糖尿病の原因ではない可能性が高い、
ということになります。

上記文献の著者らの推論では、
こうした細胞は高血糖が原因で生じるのではなく、
ストレスによる細胞障害と再生の、
非特異的な変化を見ているの過ぎないのではないか、
ということになっています。

にわかにこのデータのみで、
膵臓β細胞脱分化説が、
否定されたという訳ではないのですが、
2型糖尿病で膵臓のβ細胞に何が起こっているのか、
という抜本的な問題は、
まだまだ解決には時間の掛かるもののようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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