So-net無料ブログ作成

松尾スズキ「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

何もなければ1日のんびり過ごすつもりです。
それから溜まっている仕事を前に進めたいと思います。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ゴーゴーボーイズ.jpg
大人計画の松尾スズキさんの、
久しぶりの新作公演が、
何度目かのシアターコクーン、オンレパートリーとして、
今渋谷のシアターコクーンで上演されています。

シアターコクーンでの松尾スズキ作品というと、
最初の「キレイ」が何と言っても強烈に印象に残っています。
この作品はその後2回同じコクーンで再演されましたが、
そのいずれもが優れた舞台でした。

「キレイ」はそれまでの松尾スズキさんの劇作の、
集大成という感があり、
登場人物の持つ妄執のようなものが魅力的で、
ロマネスク的な展開や、
地下に長く幽閉されていた少女が、
そこに置いて来た自分の半身と、
最後に出会うという叙情性、
歪んだ巨大な世界を描出する筆力と、
何処を取っても極め付きの傑作でした。
特にオープニングで伊藤ヨタロウさんが作曲したテーマ曲が、
ヒロインによって歌われる瞬間は、
本当に永遠に忘れたくない、
演劇の至福の1つでした。

その後先代勘九郎とのコラボ作品や、
大竹しのぶさんや染五郎さんとのコラボ作品など、
意欲的な新作が幾つかコクーンで上演されましたが、
「キレイ」の興奮を再現するようなものではありませんでした。

今回の作品は3時間の2幕劇で、
過去のシアターコクーン上演作品と同じ規模の大作ですが、
「キレイ」のような架空世界そのものの年代記を綴るような、
ロマネスク的な感じはなく、
倒錯的な愛憎や、
非日常的な世界で自分を見失い、溶けてゆくような感覚、
障害者の性などの問題を扱って、
かつての「ファンキー」あたりと似通った感覚の世界です。

ただ、「ファンキー」のような、
ヒリヒリするような切迫感や、
生死のスレスレの世界に遊ぶような危ない感じは希薄で、
テロが日常となった現代を描いているようで、
そうした世界への切り込みも甘い、
という印象を持ちました。

正直、ちょっと物足りなく感じたのです。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公は阿部サダヲさん演じるベストセラー作家の永野と、
その妻で2時間ドラマで死ぬ役が得意という、
売れない女優の寺島しのぶさん演じるミツコです。
永野は自分の先輩のジャーナリスト(しかし風俗専門)である、
吹越満さん演じるヤギが、
アジアの某国でゲリラの人質になったために、
彼を救おうと現地に赴きます。
そこは人身売買が横行する異世界で、
ヤギ3頭と美少年が交換され、
実はそのヤギは死んだ人間が転生した姿なのです。
その異世界で永野は、
死んだら自分の皮を材料とした、
有名デザイナーの椅子になりたい、
と願う岡田将生さん演じる美少年のトーイと出会い、
一緒にヤギを探す旅に出ますが、
実はヤギは既に殺されて本当のヤギになっていて、
戦争が激しくなり、
帰国が困難となった永野を助けるために、
今度は妻のミツコが異国に渡ります。

最終的に精神を病んでロボトミー手術を受けたミツコと、
精神病院で永野は再開し、
美少年のトーイは死んで椅子になります。

如何にも松尾スズキという異様な世界です。

ただ、何となく物足りなく感じるのは、
永野という主人公にもミツコにも、
誰かに会いたい、という思い以外の妄執のようなものはなく、
妄執に取り憑かれているのは、
椅子になりたいと願う美少年のトーイのみだ、
というところです。

2役でミツコのマネージャーのオカザキを岡田将生さんが演じ、
その姿形がいつの間にか変容していたり、
ミツコが地獄巡りを繰り返して、
次第に怪物化していったり、
生死の境がぼんやりとして来る感じなどは、
松尾さんならではの魅力があるのですが、
主人公達の行動原理が不明瞭なので、
それほど盛り上がる感じにはなりません。

作品世界も人質事件などが扱われていながら、
人種や宗教と言った、
取り扱いの困難な要素は排除されているので、
何となく絵空事のようにしか見えません。

途中で手足のない男性の性欲を満たすことを、
ミツコが強要される、
というような場面があるのですが、
あまりそうした場面が登場する必然性に乏しく、
「まだ過激なこともやっているんですよ」
というような言い訳めいた場面になっていたのは残念でした。

ヤギが沢山登場して、
社会批判みたいなものを繰り広げる、
「動物農場」みたいな場面があるのですが、
お説教臭く、野田秀樹さんみたいなタッチであったのにも、
「社会派の要素もありますよ」
と言っているようで、
これも必然性はあまりない場面で面白くありませんでした。

総じて、作劇は悪くなく、
役者陣の怪演も面白いのですが、
「無理に過激をやっている」というような感じ、
それでいて本当に過激な部分には腰の引けている感じが、
観ていてしっくり来ないものを感じて、
何となく乗り切れませんでした。

多分過激に傾斜したような心情は、
実際にはもう松尾さんの頭の中にはあまりないような気がするので、
むしろ純愛メロドラマみたいなものを、
過激な要素一切なしで描いた方が、
面白い作品になるのではないか、
というように感じました。

伊藤ヨタロウさんの音楽は、
とても楽しみにしていたのですが、
何と長唄を主体とした邦楽になっていて、
それでいて戦争の場面で「花は何処へ行った」が、
ほぼそのまま歌われるなど、
全編非常な違和感があり、
あまり作品に合っているようにも思えず、
これはとても残念でした。

そんな訳で個人的にはあまり乗り切れなかったのですが、
松尾さん以外では決して描けない作品であることは確かで、
役者さんは皆好演ですし、
昔の大人計画のような、
硬質な感じのセットや構成も悪くないので、
観て損はない作品には仕上がっているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
メッセージを送る