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アポEの遺伝子変異と小児脳の発達との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アポEの遺伝子変異と脳の発達.jpg
今年のNeurology誌に掲載された、
認知症のリスクとして知られている遺伝子変異と、
小児の脳の発達との関連についての論文です。

アルツハイマー型老年認知症の発症要因として、
アポEという遺伝子の変異は、
最も広く知られているものです。

アポリポ蛋白というのは血液中で脂質を運ぶ働きを持つ蛋白質で、
アポEは脳の神経細胞への脂肪の取り込みを、
1つの大きな役割にしています。

このアポEにはε2とε3、
そしてε4という3種類の遺伝子のタイプ(アレル)があり、
このうちε4という遺伝子を持っていると、
アルツハイマ-病になるリスクが増加する、
ということが知られています。

このε4の遺伝子を1個持っていると、
持っていない人と比較して、
将来アルツハイマー病になる確率が3倍になり、
2つ持っていると10倍以上になる、
というデータが報告されています。

最近このアポEの遺伝子型と、
脳の発達や成長などにも関連がある、
というデータが複数報告されています。

そこで今回の研究では、
小児の脳神経の発達成長の疫学データを活用して、
脳のMRI所見と遺伝子型の分析を対比させることによって、
アポEの遺伝子多型と、
脳の発達との関連性を検証しています。

対象は登録時に3歳から20歳の健康な小児1187名で、
MRIにて脳構造の詳細な検証を行い、
アポEεの6つの遺伝子型との相関を計測しています。

その結果…

アポEのε4の遺伝子を持っているお子さんの中でも、
そのタイプにより脳構造の特徴は様々で、
ε2ε4のタイプが海馬の容積は最も小さく、
7歳未満のε4ε4のタイプでは、
脳の正常な機能の1つの指標と考えられる、
異方性比率(fractional anisotropy; FA)という数値が、
右の海馬において最も低値を示していましたが、
それ以降はその差は消失していました。

ε3ε4のタイプでは眼窩前頭皮質が最も大きく、
年齢に伴う嗅内皮質の菲薄化は、
ε4ε4のタイプで最も顕著に認められました。

7歳までのε4ε4のタイプでは、
実行機能と作業記憶の機能が他のタイプに比べ低く、
8歳以上ではその差は見られなくなります。
また9歳までのε2ε4のタイプでは、
集中を要するような作業の効率が最も低かったのですが、
10歳以降ではそうした傾向はなくなっていました。

つまり、
大きな括りで言うと、
ε4ε4とε2ε4というアポEの遺伝子型においては、
小さなお子さんの時期から、
その脳の発達においての違いが存在しているようです。

ただ、その違いの多くは、
年齢と共に小さなものとなり、
概ね10歳以降においては差が見られなくなっています。

アポEの遺伝子変異は、
脳の成長発達の一種の遅延と、
アルツハイマー病の発症リスクとに、
共に関わっているという意味で非常に興味深く、
今後のデータの蓄積を注視して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

化学療法の吐き気に対するオランザピンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オランザピンの吐き気への効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
癌の化学療法による吐き気に対して、
通常の治療に加えて、
オランザピン(商品名ジプレキサなど)を上乗せで使用した場合の、
有効性を検証した論文です。

抗癌剤による化学療法は、
多くの薬剤とその組み合わせが検証され、
進捗の著しい分野です。
その副作用として、
最もその頻度が多く、
かつ患者さんにとって辛い症状が、
強く吐き気と嘔吐です。

現在化学療法による吐き気や嘔吐に対して、
第2世代の5‐HT3阻害剤であるパロノセトロンが、
最も有効な治療薬として使用されています。

それでも、その効果は充分なものではありません。

オランザピンは抗精神病薬で、
主に統合失調症や難治性のうつ病の治療薬ですが、
セロトニン系とドーパミン系を共に調整するような作用があり、
抗癌剤による嘔吐や吐き気の症状の改善に対しても、
その有効性が期待されます。

これまでに単独施設での臨床試験が行われ、
一定の有効性が確認されたのですが、
それではデータとして不充分であったため、
今回第3相の臨床試験として、
多施設での検証が行われました。

アメリカの46の施設において、
シスプラチンなどの抗癌剤治療を行なった、
401名の患者さんを登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
2つの群に分けると、
一方は通常の吐き気に対する治療に加えて、
4日間毎日10ミリグラムのオランザピンを使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
吐き気に対する効果を比較しています。

その結果…

化学療法後24時間の吐き気がなかったのは、
オランザピン群では74%であったのに対して、
偽薬群では45%で、
オランザピンが有意に吐き気を予防していました。

化学療法後25から120時間においても、
オランザピン群では42%に吐き気がなかったのに対して、
偽薬群では25%で、
オランザピンにより吐き気は有意に抑制されていました。

オランザピン群での重篤な副作用はありませんでしたが、
過鎮静は一部で認められました。

オランザピンには強い鎮静効果があるため、
その使用は事例を選ぶ必要があると思いますが、
現行の治療では充分に予防することが困難な、
化学療法時の吐き気に対して、
その使用は一定の有用性のあることは間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

SU剤の種類による低血糖リスクの差について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SU剤と低血糖と腎機能.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
糖尿病治療薬の種類による、
低血糖のリスクと腎機能との関連についての論文です。

SU剤というのは、
飲み薬の血糖降下剤として、
最も強力な作用を持つ薬です。

日本で現在使用されている薬としては、
グリクラジド(商品名グリミクロンなど)、
グリベンクラミド(商品名オイグルコン、ダオニールなど)、
グリメピリド(商品名アマリールなど)が
がその代表です。

SU剤は膵臓のインスリン分泌細胞の受容体に結合して、
通常のインスリン分泌の仕組みを刺激することにより、
インスリンを分泌させ、
それにより血糖を降下させるのがそのメカニズムです。

SU剤の特徴はその強力な血糖降下作用と、
そのメカニズムがクリアであることです。
その一方で膵臓のインスリン分泌細胞が、
一定レベル以上死滅しがような状態で、
その効果は発揮されず、
血糖値とはあまりかかわりなく、
強制的かつ持続的にインスリン分泌を刺激するので、
低血糖が多いことがその欠点です。

近年低血糖が2型糖尿病の患者さんの予後を、
大きく左右するという考え方が認知され、
そのため低血糖を起こし易いSU剤は、
その評価が低下しているのが実際です。

特に高齢者や腎機能が低下した状態では、
SU剤やその代謝物が身体に蓄積するので、
より低血糖が起こり易くかつ遷延することが想定されます。

日本ではグリメピリドが、
他のSU剤と比較して低血糖を来たしにくい、
というメーカーの宣伝がされ、
それが定着していて、現在ではもっぱら使用されています。
一方で欧米ではグリクラジドが、
代謝物が活性を持たないことなどから、
低血糖のリスクが低いと考えられて、
他のSU剤より安全性が高いと考えられています。

ただ、実際に複数のSU剤の安全性を、
厳密に比較したようなデータは、
これまであまり存在していませんでした。

今回の研究では、
イギリスのプライマリケアのデータベースを活用して、
年齢が18歳以上で、
少なくとも1種類のインスリン以外の血糖降下剤を使用している、
トータル120803名の糖尿病の患者さんを対象として、
個々の薬剤の低血糖のリスクを検証しています。

その結果…

SU剤を単独で使用している患者さんは、
メトホルミンを単独で使用している患者さんと比較して、
2.50倍(2.23から2.82)有意に増加していました。
そのリスクは腎機能が低下するほど増加していて、
腎機能の指標である推計の糸球体濾過量が、
30mL/min//1.73㎡未満であると、
4.96倍(3.76から6.55)とより高くなっていました。

SU剤の用量が多いほどそのリスクは高く、
薬剤間の比較では、
グリベンクラミドが7.48倍(4.89から11.44)と最も高くなっていましたが、
それ以外の薬剤では大きな差はなく、
グリクラジドもグリメピリドも、
そのリスクには有意な差はありませんでした。

要するに、
SU剤ではメトホルミンと比較した低血糖のリスクは高く、
特に腎機能が低下するほど、
そのリスクは高くなります。
従って、原則推計の糸球体濾過量が30mL/min//1.73㎡未満であれば、
SU剤の使用は行わないことが妥当であると考えられます。
グリベンクラミドは最も強力なSU剤で、
そのため低血糖のリスクも最も高いのですが、
それ以外にSU剤には大きな差はなく、
グリクラジドやグリメピリドを、
他剤より安全性が高いとする見解には、
それほどの根拠はないと、
考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「シング・ストリート 未来へのうた」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
シングストリート.jpg
アイルランドのジョン・カーニー監督が、
1985年のアイルランド、ダブリンを舞台に、
自分の青春を重ね合わせて、
14歳の少年が音楽と出合い、
バンド活動で成長する姿を描いた、
「シング・ストリート 未来へのうた」を観て来ました。

これはもう本当に、
純度100パーセントの青春音楽映画で、
1985年という過去を舞台にしてはいますが、
大人が過去を回想するようなノスタルジックな感じではなく、
敢くまでリアルタイムの青春を見せてくれます。

父親は失業して母親は不倫に走り、
兄はミュージシャンを目指して挫折し腐っています。
そんな中で主人公の14歳の少年は、
一目ぼれしたちょっと尻軽のモデルの女の子の、
気を引くだけの不純な目的で、
友達を募ってバンド活動に乗り出します。

平凡と言えばこれ以上平凡な話はないくらいの物語ですが、
語り口は巧みなので最初から引き込まれます。
実際にオリジナル曲が5曲以上も使われ、
その1つ1つの誕生に至る段取りが、
主人公の恋とも連動していて、
それぞれ手製のミュージックビデオで完結する、
という構成も巧みです。

主人公の兄がもう1人の主人公とも言え、
音楽の何たるかを弟に伝えると、
最後に自作の詩を、
弟に託して新しい世界に送り出す、
という趣向も良く出来ています。

ある意味主人公の少年は自己中心的で無責任で、
最後の決断も仲間を放り出して、
自分だけで夢を追う、という感じがあるのですが、
観ているとそれが不快とは感じませんし、
そうした青春の身勝手さも、
そのままに描いている点が面白いのです。

何より素晴らしいのがオリジナルの楽曲で、
適度にアマチュア的で素朴なそのメロディが、
観終わった後も強く心に残ります。

思わず、すぐにサントラCDを買ってしまいました。

青春音楽映画の佳作として、
広くお薦めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

松尾スズキ「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

何もなければ1日のんびり過ごすつもりです。
それから溜まっている仕事を前に進めたいと思います。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ゴーゴーボーイズ.jpg
大人計画の松尾スズキさんの、
久しぶりの新作公演が、
何度目かのシアターコクーン、オンレパートリーとして、
今渋谷のシアターコクーンで上演されています。

シアターコクーンでの松尾スズキ作品というと、
最初の「キレイ」が何と言っても強烈に印象に残っています。
この作品はその後2回同じコクーンで再演されましたが、
そのいずれもが優れた舞台でした。

「キレイ」はそれまでの松尾スズキさんの劇作の、
集大成という感があり、
登場人物の持つ妄執のようなものが魅力的で、
ロマネスク的な展開や、
地下に長く幽閉されていた少女が、
そこに置いて来た自分の半身と、
最後に出会うという叙情性、
歪んだ巨大な世界を描出する筆力と、
何処を取っても極め付きの傑作でした。
特にオープニングで伊藤ヨタロウさんが作曲したテーマ曲が、
ヒロインによって歌われる瞬間は、
本当に永遠に忘れたくない、
演劇の至福の1つでした。

その後先代勘九郎とのコラボ作品や、
大竹しのぶさんや染五郎さんとのコラボ作品など、
意欲的な新作が幾つかコクーンで上演されましたが、
「キレイ」の興奮を再現するようなものではありませんでした。

今回の作品は3時間の2幕劇で、
過去のシアターコクーン上演作品と同じ規模の大作ですが、
「キレイ」のような架空世界そのものの年代記を綴るような、
ロマネスク的な感じはなく、
倒錯的な愛憎や、
非日常的な世界で自分を見失い、溶けてゆくような感覚、
障害者の性などの問題を扱って、
かつての「ファンキー」あたりと似通った感覚の世界です。

ただ、「ファンキー」のような、
ヒリヒリするような切迫感や、
生死のスレスレの世界に遊ぶような危ない感じは希薄で、
テロが日常となった現代を描いているようで、
そうした世界への切り込みも甘い、
という印象を持ちました。

正直、ちょっと物足りなく感じたのです。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公は阿部サダヲさん演じるベストセラー作家の永野と、
その妻で2時間ドラマで死ぬ役が得意という、
売れない女優の寺島しのぶさん演じるミツコです。
永野は自分の先輩のジャーナリスト(しかし風俗専門)である、
吹越満さん演じるヤギが、
アジアの某国でゲリラの人質になったために、
彼を救おうと現地に赴きます。
そこは人身売買が横行する異世界で、
ヤギ3頭と美少年が交換され、
実はそのヤギは死んだ人間が転生した姿なのです。
その異世界で永野は、
死んだら自分の皮を材料とした、
有名デザイナーの椅子になりたい、
と願う岡田将生さん演じる美少年のトーイと出会い、
一緒にヤギを探す旅に出ますが、
実はヤギは既に殺されて本当のヤギになっていて、
戦争が激しくなり、
帰国が困難となった永野を助けるために、
今度は妻のミツコが異国に渡ります。

最終的に精神を病んでロボトミー手術を受けたミツコと、
精神病院で永野は再開し、
美少年のトーイは死んで椅子になります。

如何にも松尾スズキという異様な世界です。

ただ、何となく物足りなく感じるのは、
永野という主人公にもミツコにも、
誰かに会いたい、という思い以外の妄執のようなものはなく、
妄執に取り憑かれているのは、
椅子になりたいと願う美少年のトーイのみだ、
というところです。

2役でミツコのマネージャーのオカザキを岡田将生さんが演じ、
その姿形がいつの間にか変容していたり、
ミツコが地獄巡りを繰り返して、
次第に怪物化していったり、
生死の境がぼんやりとして来る感じなどは、
松尾さんならではの魅力があるのですが、
主人公達の行動原理が不明瞭なので、
それほど盛り上がる感じにはなりません。

作品世界も人質事件などが扱われていながら、
人種や宗教と言った、
取り扱いの困難な要素は排除されているので、
何となく絵空事のようにしか見えません。

途中で手足のない男性の性欲を満たすことを、
ミツコが強要される、
というような場面があるのですが、
あまりそうした場面が登場する必然性に乏しく、
「まだ過激なこともやっているんですよ」
というような言い訳めいた場面になっていたのは残念でした。

ヤギが沢山登場して、
社会批判みたいなものを繰り広げる、
「動物農場」みたいな場面があるのですが、
お説教臭く、野田秀樹さんみたいなタッチであったのにも、
「社会派の要素もありますよ」
と言っているようで、
これも必然性はあまりない場面で面白くありませんでした。

総じて、作劇は悪くなく、
役者陣の怪演も面白いのですが、
「無理に過激をやっている」というような感じ、
それでいて本当に過激な部分には腰の引けている感じが、
観ていてしっくり来ないものを感じて、
何となく乗り切れませんでした。

多分過激に傾斜したような心情は、
実際にはもう松尾さんの頭の中にはあまりないような気がするので、
むしろ純愛メロドラマみたいなものを、
過激な要素一切なしで描いた方が、
面白い作品になるのではないか、
というように感じました。

伊藤ヨタロウさんの音楽は、
とても楽しみにしていたのですが、
何と長唄を主体とした邦楽になっていて、
それでいて戦争の場面で「花は何処へ行った」が、
ほぼそのまま歌われるなど、
全編非常な違和感があり、
あまり作品に合っているようにも思えず、
これはとても残念でした。

そんな訳で個人的にはあまり乗り切れなかったのですが、
松尾さん以外では決して描けない作品であることは確かで、
役者さんは皆好演ですし、
昔の大人計画のような、
硬質な感じのセットや構成も悪くないので、
観て損はない作品には仕上がっているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「パオロ・ファナーレ 」テノール・リサイタル [コロラトゥーラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
パオロ・ファナーレ.jpg
イタリアの若手テノール、パオロ・ファナーレのリサイタルが、
先日紀尾井ホールで行われました。

パオロ・ファナーレは御覧の通り、
若手で美形のテノール歌手で、
最近その評価は高まっています。

確か来日のリサイタルは3回目になると思います。
毎回東京のリサイタルには足を運んでいますが、
伸長著しく、回を追う毎にその歌声の迫力と、
歌いまわしや情感の精度とスケールは、
どんどん増しているように思います。

今のところオペラでは、
「ファルスタッフ」のフェントンとか、
「ドン・ジョバンニ」のドン・アッターヴィオのような、
軽い声の役柄を持ち役にしていて、
今後ヘンデルやロッシーニのオペラのような、
コロラトゥーラの技巧を尽くしたような役柄も歌うのか、
それともヴェルディやプッチーニ、
ドニゼッティやベッリーニの、
比較的軽い声の諸役を歌うようになるのか、
どちらの道を歩むのかが、
まだ明確ではない段階にあるようです。

僕としては彼のような高音の軽いタッチが美しいテノールには、
コロラトゥーラの技巧的なアリアを極めて欲しいと思っているのですが、
何となく今回のリサイタルを聴いた印象としては、
ヴェルディやドニゼッティを主軸にしてゆく感じのようです。

今回のリサイタルの曲目は、
前半はトスティの歌曲のみを歌い、
後半はオペラアリアのみが並ぶ、
というスタイルで、
ロッシーニの「グリエルモ・テル」の技巧的なアリアや、
ハイC連発のドニゼッティの「連隊の娘」のアリア、
ベッリーニの「清教徒」のアリアと、
高音と技巧が必要な曲目が並んでいて、
非常に楽しみに当日を迎えました。

ただ、実際にはロッシーニは当日急遽歌うことを止め、
代わりにおそらくはアンコール用のヴェルディやプッチーニ、
前回も歌ったグノーを歌いました。
「連隊の娘」は順番を変えて、
どうにか歌ったことは歌ったのですが、
非常な短縮版の上に、
ハイCはかするくらいの歌い方で、
しっかりは出しませんでした。
ただ、ベッリーニは非常に良かったと思いますし、
高音もばっちりでした。
それで本人的にはきつい感じがあったのかも知れません。

前回も思ったのですが、
極め付けの美声で、
ピアニシモもとても綺麗で、
歌い回しは情感に溢れていて、
そうした点では素晴らしいのですが、
アジリタのような技巧はあまり得意ではないようです。
また、ハイCを超えるような高音は、
基本的には出さないようです。

当日はおそらく風邪をひいていたようで、
咽喉をしきりに鳴らして気にしていましたし、
慎重な歌い回しに終始していて、
あまり冒険はありませんでした。
絶好調であればロッシーニにもチャレンジしたのでしょうが、
それは難しいことだったようです。

以上はただ僕の推測で、
根拠のあるものではないので、
誤りがあればご指摘を頂きたいと思います。

前半のトスティは、
1曲毎に拍手が沸いていて、
これにはとてもガッカリしました。

歌曲は矢張り、
一連のものと考えて、
一区切りがついてから、
拍手をするべきではないでしょうか?

ただ、最近はこうしたリサイタルが多いように思います。

後半は客席もなかなか盛り上がっていて、
本人も嬉しそうだったのは何よりだと思いました。

素晴らしい素質のテノールだと思いますし、
ビジュアルにも恵まれているので、
是非その声を大切にして、
今回はややそうしたきらいがあったのですが、
不必要に声を張り上げたり、
無意味に伸ばして拍手を強要するような、
そうした悪いベテランのような歌は歌わないで欲しいな、
と思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

遊離テストステロンの測定と男性更年期症状との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テストステロンと男性更年期.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
男性ホルモンの測定法と、
いわゆる男性更年期症状との関連を検証した論文です。

この問題については、
これまでにも何度も記事にしています。

女性の更年期があるように、
男性にも更年期症状があるのではないか、
というような議論は以前からあり、
アンチエイジング的な考えでの男性ホルモンの補充は、
今でも国内外を問わず行われています。

ただ、医学的に女性における更年期治療と同じような意義が、
男性の更年期に対してもあるのかどうか、
また比較的高齢の男性や元気のない中年男性に、
男性ホルモンを補充することの効果と安全性はどうなのか、
というような点については、
正直見解は割れていて、
少なくとも積極的な適応としての男性ホルモンの使用は、
表立っては推奨されていないのが実状です。

経緯から言うと、
2000年代の前半くらいには、
男性更年期を男性ホルモンで治療することが、
一定の健康上のメリットのある治療として注目され、
盛んに行なわれたのですが、
2000年代の後半くらいからは、
今度はその効果を否定したり、
その安全性への危惧を示唆するような報告が相次ぎ、
男性ホルモン補充療法は、
推奨されない流れになりました。

その効果はあまり明確ではない反面、
前立腺癌のリスクの増加や、
心血管疾患のリスクの増加が指摘されています。

ただ、
先月のLancet Diabetes Endocrinology誌の論文では、
短期的にはリスクの増加が見られても、
3年間という長期の治療においては、
総死亡のリスクも、心血管疾患のリスクも、
更には前立腺癌のリスクさえ、
男性ホルモンの外用剤治療により、
低下させているという、
男性ホルモン補充療法を、
再評価するような結果が得られています。

男性更年期に対する男性ホルモン補充療法は、
有効なのでしょうか、それとも無効なのでしょうか?

この問題を考える上で重要なポイントは、
男性ホルモン補充療法の適応にあります。

日本においては2007年に男性更年期のガイドラインが発表されました。
LOH症候群という名前が付けられ、
テレビなどでも一時は盛んに取り上げられましたが、
その後海外で男性更年期の治療に対し、
批判的な報告が相次いだために、
何となく尻すぼみの感じになり、
発表後9年が経ちますが、
改訂すらされていないのが実状です。

専門家の無責任極まれりという実例の1つです。

この日本のガイドラインにおいては、
遊離テストステロンという数値が、
その判定に使用されています。
日本人独自のデータを取り、
その数値が8.5pg/mL未満の時にそう診断する、
という記載になっています。

ただ、例によって海外では別個の基準があり、
概ね遊離テストステロンより、
総テストステロンでの評価が一般的です。

男性ホルモンであるテストステロンは、
血液中ではアルブミンと性ホルモン結合グロブリンという、
2種類の蛋白質に、
その9割以上は結合した状態で存在しています。
そして、2から5%の遊離テストステロンが、
実際には活性を持っています。

年齢と共に、
血液中の総テストステロンは低下しますが、
その一方で性ホルモン結合グロブリンは増加するので、
実際の総テストステロンの数値以上に、
遊離テストステロンは減少しているという可能性があります。

ただ、遊離テストステロンの測定値の意義は、
必ずしも明確ではないため、
2010年のアメリカ内分泌学会のガイドラインにおいては、
朝の総テストステロンの数値をもって、
男性ホルモンの低下の基準とするように定められています。

しかし、総テストステロンの数値は、
結合蛋白の量によって変動しますから、
遊離テストステロンの測定が信頼のおけるものであれば、
遊離ホルモンを指標とする方が、
より理に適っている、という見解は根強くあったのです。

そこで今回の研究では、
ヨーロッパの高齢者疫学研究のデータを活用して、
中年以降の男性の総テストステロンと遊離テストステロンを測定し、
男性更年期の症状や、各種の指標との関連性を検証しています。
遊離テストステロンは、
総テストステロンと性ホルモン結合グロブリンから、
換算するという方法が取られています。

対象者は40歳から79歳の男性一般住民、
トータル3334名です。

総テストステロンは10.5nmol/L(3.03ng/mL)以上と正常とし、
遊離テストステロンは220pmol/L(63.5pg/mL)以上を正常と判定しています。

その結果…

総テストステロンが正常で遊離テストステロンが低値であると、
対象者はより高齢で健康上の問題を抱えていました。
性ホルモン結合グロブリンと黄体ホルモン値は増加していて、
性欲低下や意欲減退が強く、
ヘモグロビンと骨量も低下していました。

その一方で遊離テストステロンが正常で総テストステロンが低値のグループは、
対象者がより若く太っていて、
性ホルモン結合グロブリンは低値で黄体ホルモンは正常の傾向を示し、
性欲減退などの症状は示していませんでした。

以上の関連を図示したものがこちらになります。
テストステロン値と診断の図.jpg
今回の検証では、
総テストステロンより遊離テストステロンの値の方が、
より男性更年期の状態を正確に判定出来る、
という結果になっています。

ただ、この結果はこれまでの同様の検討とは、
異なる部分もあり、
今後データの蓄積を待たないと、
事実とまでは言い切れません。

日本の測定系と今回使用されたような欧米の検査とは、
その基準値も測定法も異なっているので、
同列に判定することが出来ず、
遊離テストステロン測定の信頼性も未知数であるので、
その点は十分考慮した上で、
考える必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

輸血の血液の種別と生命予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
輸血のドナーと予後.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
輸血の血液の性別や年齢と、
輸血を受けた患者さんの予後との関連についての論文です。

これはまだ実証されたような事項ではなく、
またその差も小さな物なので、
鵜呑みにはせず慎重にお読み頂くようにお願いします。

輸血というのは一種の臓器移植ですから、
その適応は慎重であるべきで、
特に他人からの輸血の適応は、
近年では非常に限定されたものとなっています。

ただ、矢張り応急的な場合には、
必要な救急処置であることは今でも違いはなく、
献血の血液が多くの命を救っていることもまた事実です。

献血の血液は病気のない不特定の方から集められる訳ですが、
その献血者の年齢や性別は、
輸血を受けた患者さんの予後に何等かの影響を与えるのでしょうか?

動物実験などにおいては、
若い血液と老人の血液を一緒にして還流すると、
老人の内臓疾患が改善した、
というような報告が存在しています。

こうしたデータからは、
ちょっと嫌な感じもする話になりますが、
若い人からもらった血液の方が、
高齢者の血液より健康的なのではないか、
というような推測も可能です。

それでは、
実際に献血者の年齢や性別と、
輸血を受けた患者さんの予後との間には、
何等かの関連や違いがあるのでしょうか?

今回の研究はアメリカの4か所の総合病院において、
赤血球の輸血を受けた患者さんの予後と、
その血液の由来との関連を検証しています。

2006年から2013年に掛けて、
30503名の患者さんが187960回の赤血球輸血を受け、
その血液は80755名の提供者から採取されています。

提供者の年齢との関連では、
40歳から49.9歳の提供者からの輸血を基準とした時に、
17歳から19.9歳の提供者からの輸血を受けた患者さんの死亡リスクは、
1.08倍(1.06から1.10)有意に増加していて、
20歳から29.9歳の提供者からの輸血でも、
1.06倍(1.04から1.09)死亡リスクが有意に増加していました。

また、男性からの輸血と比較して、
女性の提供者からの輸血でも、
その後の死亡リスクが1.08倍(1.06から1.09)有意に増加していました。

つまり、女性からの輸血と、
30歳未満の若年者からの輸血は、
そうでない場合と比較して、
若干ながら輸血後の死亡リスクが増加する、
という予想外の結果です。

これが何等かの意味を持つデータであるかどうかは、
まだ確かではありません。

1つの推論としては、
若年者は初回の輸血である可能性がより高く、
高齢者からの輸血は何回もしている方からのものが多いので、
結果として高齢者から提供された血液の方が、
病気のない人が多かったのでは、
という考えが記載されていますが、
いささか苦しい感じもあります。

いずれにしても、
従来あまり考慮されなかった、
献血者の年齢などの背景と、
輸血を受けた患者さんの予後との間に、
関連があるのではないかという指摘は興味深く、
今後より安全性の高い輸血のために、
こうした検証もまた必要なものではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「飲んではいけない薬」報道とその後の処方行動について [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンの報道の影響.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
スタチンという薬の安全性についての報道と、
その後の処方の変化について分析した論文です。

最近週刊誌に毎週のように、
「飲んではいけない薬」のような特集記事が載せられ、
大きな反響を呼んでいます。

内容はさほど新味のないものなのですが、
医療にはそれほどの経験のないライターの方が、
電話取材のコメントを繋ぎ合わせて、
かなり勢いで書きなぐったというような感じの記事で、
スタチンについては、
「心筋梗塞などのリスクの高くない人は、
飲むのは慎重に考えた方がいい」
というような比較的穏当な内容なのですが、
見出しは、
「コレステロール薬は無意味」であったり、
「使い続けると後遺症の出る生活習慣病薬」であったり、
「クレストールは筋肉がとける リピトールは床ずれに」
であったりと、
100%そうなるとしか思えないような過激なものになっているので、
読んだ人は自分がスタチンを飲んでいると、
これは絶対止めよう、
と思うのは自然なことなのです。

こうした記事が掲載されてから、
患者さんからも、不安なのでスタチンを飲むのを止めたい、
というような話が複数ありました。

以前はこうした時に、
腹を立てたり、ガッカリしたり、
患者さんに説明をしようと長い時間を掛けて、
結局理解が得られなかったり、
というような、
今思うと無駄に近い努力をしたのですが、
今は柳に風と、
あまり気に留めないようにしています。

所詮医者の力などその程度のもので、
週刊誌の過激な見出しには、
どう頑張っても勝つことは出来ないのですし、
勝とうと思うことは無意味以外の何物でもないのです。

ただ、そうした「週刊誌の呪い」も、
それほど長持ちのするものではないので、
呪いの解ける時期を待ち、
こちらは自分を信用してくれる人のために、
日々誠意を尽くすことしかないと心に決めています。

スタチンという薬が、
心筋梗塞を起こした患者さんの再発予防においては、
非常に高い有効性があり、
必須の薬剤であることを否定する人は、
医療関係者ではほぼいません。

ただ、これを一次予防、
つまりまだ心筋梗塞などの病気を起こしてはいない人に、
その発症の予防のために使用することの妥当性については、
まだ議論のあるところです。

基本的な考え方は、
スタチンは動脈硬化性疾患の予防薬なので、
心筋梗塞などの病気を、
今後起こすリスクの高いような人では、
その使用に意味があるのですが、
そのリスクの低い人が使用することは、
使用することの副作用の発症などと天秤に掛けると、
どちらが良いが難しいということになるのです。

スタチンは決して副作用や有害事象の少ない薬ではありません。
しかし、その効果は慢性疾患の治療薬としては、
かなり画期的なものなので、
将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い人が、
頻度の少ない副作用を恐れて使用を控える、
という態度はあまり科学的なこととは言えません。

ただ、ここでやや歯切れが悪くなるのは、
スタチンの一次予防としての使用の基準となる、
将来の心血管疾患のリスクの計算というものが、
必ずしもクリアなものではなく、
結構時代により変化したりすることがある、
ということです。

欧米では日本よりはしっかりとした、
スタチンの使用基準が定められている、
という点は進歩しているのですが、
それでもスタチンという薬に、
何かモヤモヤとした感じを抱く人が多いことは共通しているようです。

イギリスでは、
2013年のBritish Medical Journal誌に、
軽度から中等度のリスクの患者さんに対してのスタチンの使用は、
その副作用のデメリットを上回らない可能性がある、
という論文が掲載され、
それがデフォルメされた形で一般に報道されたので、
日本の週刊誌と同じような事態となりました。

スタチンを継続して飲んでいた患者さんが、
スタチンを使用することに不安を感じ、
その使用を中断する事例が多発したのです。

上記文献においては、
臨床のデータベースを活用して、
報道の後のスタチンの中止に動いた患者さんの動向と、
その特徴を解析しています。

それによると、
スタチンに対するネガティブな報道の影響で、
特に高齢者で長期間スタチンを継続している患者さんにおいて、
スタチンの使用の中止が増加しています。
その影響は半年程度持続してからほぼ元に戻っています。
その一方で新たにスタチンを開始するような患者さんの行動は、
報道によっての影響を受けてはいません。

こうした傾向はおそらく日本でも当て嵌るものだと思います。

高齢で長く同じ薬を飲まれている患者さんは、
その使用が本当に自分にメリットのあるものかどうかに、
不安を強く抱いているので、
その不利益についてのニュースなどに非常に敏感に反応するのです。
一方で高齢者の医療費が高すぎるとか、
薬が多すぎると言われているのですから尚更です。

スタチンは飲んでいてその効果が実感出来るような薬ではなく、
何か症状があったり体調の変化があれば、
それはむしろ副作用に関するものなのです。
そして、長期間の使用においては、
医者の方も惰性になりがちで、
患者さんへの丁寧な説明や継続の必要性について、
配慮を欠くという傾向があるように思います。

スタチンの適応については、
長期使用の患者さんにおいても、
ある程度定期的な再検証が必要なのではないかと思いますし、
そうしてスタチンのその時点でのメリットとデメリットを確認することが、
悪質な報道になどに対抗するための、
唯一の手段でもあるような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

アレンドロネートの長期の効果と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アレンドロネートの長期効果.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
骨粗鬆症の治療薬の長期の効果と安全性についての論文です。

最近抗RANKL抗体や副甲状腺ホルモン製剤など、
高価な注射薬が発売されてその有効性が注目されていますが、
現時点で最もその有効性が確立されている、
閉経後の骨粗鬆症の治療薬は、
ビスフォスフォネート製剤です。

ビスフォスフォネートは骨の表面に沈着して、
骨吸収を強力に阻害するタイプの薬です。
要するに骨を壊す仕組みをブロックする薬です。

現在では週に1回や月に1回のタイプの飲み薬が、
主に使用されています。

このビスフォスフォネートの、
閉経後骨粗鬆症に対する骨折の予防効果は、
大腿骨頸部骨折や脊椎の圧迫骨折については、
ほぼ確立していますが、
その一方で抜歯後に顎の骨が壊死する顎骨壊死や、
通常は少ない部位の病的な骨折の増加などの、
このタイプの薬に特徴的な有害事象も報告されています。

このビスフォスフォネートのうち、
臨床データが豊富でその有効性が確立されているのは、
アレンドロネート(商品名フォサマック、ボナロン)と、
リセドロネート(商品名ベネット、アクトネル)の2種類の薬剤です。

その有効性は5年程度の使用においては確立されていますが、
それを超える期間のデータはまだ限られています。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制が取られ、
薬剤の使用履歴や病気の診断履歴が使用可能な、
デンマークの医療データを活用して、
アレンドロネートの長期の有効性と安全性を検証しています。

対象となっているのは、
年齢が50から94歳でアレンドロネートによる骨粗鬆症治療を開始した、
トータル61990名の男女で、
8割以上は女性です。
アレンドロネートの使用期間の中央値は6.9年で、
15年以上の経過の患者さんも多く含まれています。

経過観察中の骨折を、
アレンドロネートの有効性がはっきりしている、
大腿骨頸部骨折と、
アレンドロネートによる有害事象の可能性が否定出来ない、
大腿骨転子下骨折と大腿骨骨幹部骨折の頻度と、
アレンドロネートの使用との関連性を検証しています。
薬剤の未使用のコントロールとの比較はしていないのですが、
アレンドロネートの服薬状況のデータがあり、
服薬が継続されている場合と、
服薬が不定期で十分ではない場合とが比較されています。
(この場合の定期的というのは、
薬を正しく飲んでいる回数が8割を超えているという意味で、
不定期というのは、それが5割を切っている、
という意味です)

その結果…

アレンドロネートの服用者では、
年間1000人当たり3.4件の有害事象の可能性のある病的骨折が発症し、
その一方で年間1000人当たり16.2件の、
薬剤で予防可能な大腿骨頸部骨折が発症していました。
アレンドロネートを定期的に服用している患者さんでは、
不定期に服用している患者さんと比較して、
病的骨折のリスクは低下していましたが、
関連する因子を補正すると有意差はありませんでした。
また病的骨折のリスクは、
10年以上の長期の使用者で、
短期の使用者より多くということはなく、
過去の使用者より現在の使用者が多い、
ということもありませんでした。

アレンドロネートの5年未満の使用と比較して、
5から10年の使用と、10年以上の使用では、
いずれも有意に26パーセント大腿骨頸部骨折のリスクは低下していました。

有害事象の可能性も想定される、
大腿骨転子部下骨折と大腿骨骨幹部骨折のリスクについては、
アレンドロネート5年未満の使用と比較して、
5年から10年の使用においては、
4%のリスクの増加が認められました。
ただ、10年を超えるような使用については、
そのリスクは3割低下していました。

これはアレンドロネートの使用が5年未満を基準とした時に、
5から10年の使用では、
大腿骨頸部骨折のリスクは、
38人の治療により1人の骨折を減らせるというレベルである一方、
大腿骨転子部骨折と大腿骨骨幹部骨折のリスクは、
1449人の治療により1人過剰発症するレベルである、
ということになります。

ただ、10年以上の使用においては、
そうした病的骨折のリスクは明らかではなく、
むしろそうした骨折も予防される可能性が示唆されます。

つまり、
今回のデータの範囲では、
アレンドロネートを継続的に使用することで、
少なくとも12年間は大腿骨頸部骨折のリスクは、
3割程度は低下し、
その間の病的骨折の全てがアレンドロネートによるものと仮定しても、
そのリスクより骨折予防のメリットが、
大幅に上回っていた、
という結果になっています。

12年を超えると症例数は大きく減り、
そのばらつきもかなり大きなものになるので、
有効性が有害事象を上回るとは言い切れないのですが、
少なくともそれまでの範囲においては、
アレンドロネートはトータルに骨折の予防において、
有用であると考えても良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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