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抗甲状腺薬による無顆粒球症と遺伝子変異(2016年ヨーロッパの知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヨーロッパにおける抗甲状腺薬の副作用と遺伝子.jpg
今月のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
甲状腺機能亢進症の治療薬の、
比較的稀ですが重篤な合併症と、
それを起こし易い遺伝子のタイプを解析した論文です。

バセドウ病で症状のある甲状腺機能亢進症があると、
日本ではほぼ100%飲み薬による治療が、
まずは行われます。

日本で使用されているのは、
チアマゾール(MMI;商品名メルカゾール)と、
プロピルチオウラシル(PTU;商品名チウラジールなど)です。

基本的には妊娠初期を除いては、
第一選択としてはチアマゾールが使用されます。
これはチアマゾールがより効力が強く、
作用が安定していて、その持続も長いからです。

抗甲状腺剤(特にチアマゾール)は、
有用な薬剤ですが、
幾つか気を付けないといけない副作用が存在しています。

その中で頻度的にも0.2から0.5%と、
決してすくなくはなく、
非常に重篤な経過を取ることもあるのが、
無顆粒球症です。

要するに薬剤の影響により、
白血球が減少し、
特に細菌感染に対する身体の抵抗力の主体である、
顆粒球が著名に減少するので、
敗血症などの重症な感染症が起こるのです。

この抗甲状腺薬による無顆粒球症の原因は、
まだ明確ではありませんが、
好中球に対する抗体が検出されたり、
薬剤の代謝産物により、
自己免疫的な反応が起こるのでは、
というような知見もあります。

この無顆粒球症は遺伝素因が関連しているという報告が、
2015年のNature Cmmunications誌に掲載されています。

それがこちら。
メルカゾールの副作用の遺伝解析中国.jpg
これは台湾と香港に住民を対象とした疫学研究で、
42名の無顆粒球症の検体と、
1208名のバセドウ病の患者さんの検体を用いて、
免疫の個人差の指標であるHLA(ヒト白血球抗原)のタイプと、
ゲノムワイド関連解析という手法で、
全ゲノムのSNPという遺伝子の変異を一度に解析して、
そのSNPと無顆粒球症との関連を分析しています。

その結果、
HLA-B*38:02とHLA-DRB1*08:03という2種類のHLAのタイプが、
それぞれ独立に無顆粒球症のリスクと関連していました。
また、その遺伝子の部位に一致するSNPが、
それぞれ1か所ずつ同定され、
HLAのタイプと同一の意味を持つことが確認されました。

両者を足し合わせると、
何もない場合と比較して、
HLAのタイプを2つ持つことにより、
そのリスク(OR)は48.41倍となっていました。

このうちのHLA-DRB1*08:03については、
1996年のAnnals of Internal Medicine誌に日本での論文が出ています。
それがこちら。
メルカゾールの副作用の遺伝解析日本.jpg
HLAの検索としては早い時期のものとして、
意義のあるデータですが、
リスク(OR)は5.42倍で、
それ以外のHLAでは有意な関連はなかったというデータになっています。
ゲノムワイド関連解析も、
1996年なので行われていません。
現状では追試がしっかりされないと、
その価値は低くなってしまうと思います。

さて、今回の研究は2015年の台湾と香港のデータと同じことを、
ヨーロッパの白人種の検体で検証したものです。
HLAのタイピングと、
ゲノムワイド関連解析によるSNPの検出とが、
同時に行われています。
抗癌剤以外の原因による無顆粒球症の患者さん、
トータル234名の検体が解析されていて、
そのうちの39名が抗甲状腺剤によるものです。
ゲノムワイド関連解析では9380034個のSNPが解析され、
180のHLAのタイプが検証されています。

その結果…

特に抗甲状腺薬による無顆粒球症の発症とにおいて、
HLA-B*27:05というHLAのタイプが関連があり、
このタイプがあることにより、
無顆粒球症のリスク(OR)は、
正常コントロールとの比較で7.30倍(3.81-13.96)、
甲状腺機能亢進症の患者さんとの比較で16.91倍(3.44‐83.17)、
それぞれ増加していました。

ゲノムワイド関連解析では、
3つのSNPが無顆粒球症の発症と関連していて、
そのうちの1つはHLA-B*27:05と関連がありましたが、
残りの2つは無関係でした。
3つのSNPはいずれもHLAと同じ、
6番染色体に位置していました。

この3個のSNPとそのうちの1つと関連するHLAのタイプを、
全て併せて計算すると、
そのリスクは753倍(105-6812)となり、
抗甲状腺薬による無顆粒球症の発症のうち、
30%はこの3種類の遺伝子で予測可能であるという結果になりました。

この遺伝子検査による振り分けを行うことにより、
238名の患者さんの検査により、
1名の無顆粒球症が予防可能となる、
という結果も得られました。

この結果が事実とすると、
ヨーロッパの白人と中国系のアジア人や日本人とでは、
全く別個のHLAやSNPが、
その発症に関わっている、
ということになります。

今回の結果も2015年のNature Communications誌の結果も、
それなりに厳密で信頼性は高いものなのですが、
患者さんを直接診察したようなものではないので、
実際の臨床を何処まで反映しているのかは、
疑問の余地があります。

本当にこれだけの人種差があるとすれば、
対応も自ずと違わないといけない理屈になりますが、
その人種差の原因の検証を含めて、
この問題はまだまだ検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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