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2型糖尿病の小血管合併症が心血管疾患の予後に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マイクロバスキュラーコンプリケーション.jpg
今月のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
糖尿病の合併症が、
その後の心血管疾患の予後に与える影響についての論文です。

2型糖尿病で患者さんの予後に大きな影響を与えるのが、
糖尿病性の合併症の存在です。

この糖尿病に伴う合併症には、
小血管の合併症と、
大血管の合併症の2種類があります。

小血管の合併症というのは、
細い血管を中心として起こる、
糖尿病特有の合併症のことで、
眼底出血などの目の網膜に起こる糖尿病性網膜症と、
腎機能が低下する糖尿病性腎症、
そして手足のしびれや感覚の鈍麻などの糖尿病性神経症の、
3種類の臓器に起こる合併症を、
通常糖尿病の3大合併症と呼んでいます。

僕が大学にいた20年くらい前には、
糖尿病の合併症というのは、
もっぱらこの3大合併症のことでした。

しかし、その後2型糖尿病の患者さんの予後は、
むしろこの小血管合併症より、
全身の動脈硬化の進行に伴って生じる、
心筋梗塞や脳卒中などの、
いわゆる心血管疾患によって決まることが徐々に明らかになりました。

しかも、糖尿病の血糖コントロールにより、
3大合併症はかなり抑制されますが、
その一方で心血管疾患については、
血糖を下げてもあまり満足のゆく改善がありません。。
糖尿病の治療薬の多くは血液のインスリンを増加させ、
高インスリン血症は動脈硬化を進行させるので、
良かれと思って行っている治療が、
むしろ悪い影響を与えている可能性も、
指摘がされるようになりました。

それでは、
糖尿病における小血管の合併症と大血管の合併症との間には、
どのような関連があるのでしょうか?

たとえば腎症については、
小血管の病変が腎機能低下の原因となるのと同じように、
大血管の動脈硬化も、
当然腎機能低下の原因にはなりますから、
両者に一定の関連性のあることは間違いがありません。

しかし、実際には両者の関連についての、
実証的なデータはこれまであまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
イギリスの臨床医療のデータを活用して、
2型糖尿病の患者さんにおいて、
小血管の3大合併症の存在が、
心血管疾患の予後に、
どのような影響を与えるのかを検証しています。

対象となっているのは、
600の医療機関から成る医療のデータベースのデータで、
2型糖尿病の患者さんトータル49027名が登録されています。
中間値で5.5年の経過観察期間中に、
そのうちの5.8%に当たる2822名が、
心血管疾患により死亡するか、
心筋梗塞もしくは脳卒中を発症しています。
(これが本研究における心血管疾患のリスクの定義です)

そして、主だった心血管疾患のリスクを補正した上で、
糖尿病の3大合併症の有無との関連を見ると、
網膜症のあることで心血管疾患のリスクは、
1.39倍(1.09から1.76)有意に増加し、
神経症のあることで1.40倍(1.19から1.66)、
腎症のあることで1.35倍(1.15から1.58)、
それぞれ有意に増加していました。

3大合併症がない場合と比較して、
それが1つあると1.32倍(1.16から1.50)、
2つあると1.62倍(1.42から1.85)、
3つあると1.99倍(1.70から2.34)、
心血管疾患のリスクはそれぞれ有意に増加していました。

通常今後の心血管疾患のリスクを算出する際には、
糖尿病の3大合併症の有無は考慮はされていませんが、
それを試験的に付加することにより、
心血管疾患のリスク予測がより精度の高いものとなることが、
今回のデータから確認されました。

つまり、
2型糖尿病の患者さんにおいて、
今後の心血管疾患のリスクを推定する場合には、
3大合併症のあるなしが少なからず影響を与えるので、
その点を勘案した方が、
より正確な推定となる可能性が高い、
ということになります。

これはまあ当たり前と言えば当たり前の結果なのですが、
今まであやふやにされることが多かった両者の関係が、
かなり明確になったことの意義は大きく、
糖尿病の患者さんのケアにおいては、
重要な情報の1つであることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

スタチンでコレステロールはどのくらい下げるのが適当なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
LDLコレステロールの目標値.jpg
今月のJAMA Intern Med誌にウェブ掲載された、
二次予防のコレステロール値は、
どのくらい下げるのが妥当かを検証した論文です。

スタチンはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
その使用により血液のコレステロールは強力に低下します。

スタチンによりコレステロールを下げることにより、
特に心筋梗塞などを発症した場合には、
その再発を予防する効果のあることが、
多くのこれまでの臨床データにより確認されています。

ただ、問題となるのは、
どのくらいコレステロールを下げることが必要なのか、
ということです。

なるべくコレステロールを下げれば下げるほど、
予防効果が高いという考え方がある一方、
コレステロールの数値と予防効果は、
必ずしも関連しない、という考え方もあります。

ヨーロッパの心臓病学会のガイドラインでは、
心筋梗塞後の患者さんの再発予防のためには、
LDLコレステロールの数値を70mg/dL以下にすることが推奨されています。

日本の現行のガイドラインにおいては、
こうした場合のLDLコレステロールの目標値は、
100mg/dL未満にすることが推奨されています。

その一方で2013年のアメリカのガイドラインにおいては、
LDLコレステロールの目標値を設定せず、
高強度のスタチンを使用することのみが推奨されています。

このように、
二次予防としてのコレステロールの目標値は、
それを設定するべきかを含めて、
まだ統一した見解が得られていません。

今回の研究はイスラエルにおいて、
医療サービスの登録データを活用する方法で、
虚血性心疾患の受傷後で、
1年以上スタチンによる治療を継続している患者さんを、
そのLDLコレステロールレベルによって分類し、
コレステロール値と予後との関連性を検証しています。

対象者は30から84歳で、
心筋梗塞、不安定狭心症、心臓カテーテル治療やバイパス手術の既往があり、
1年以上スタチンによる治療を継続している、
トータル31619名の患者さんで、
LDLコレステロール値は、
70mg/dL以下の低値群と、
70.1から100.0mg/dLの中間値群、
そして100.1mg/dLから130.0mg/dLの高値群に、
分類して比較検証しています。
130mg/dLを越える数値の患者さんは除外されています。

その結果、
平均で1.6年間の経過観察において、
心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、カテーテル治療やバイパス手術、
そして総死亡を併せたリスクは、
70.1から100.0mg/dLの中間群が最小で、
それよりLDLコレステロールが高値では明らかに増加しますが、
70より低くすることのメリットは確認されませんでした。

つまり、今回の結果からは、
心筋梗塞などの再発予防のLDLコレステロールの目標値は、
70から100mg/dLの範囲が適切だ、
ということになります。

こうしたデータはこれまでにあまり類のないものです。
少なくとも心筋梗塞の再発予防においては、
LDLコレステロールは低ければ低いほど予防効果が高い、
という考えが一般的に信じられていて、
そうしたデータが多く発表されて来たからです。

この問題はまだ未解決なので、
今回のデータのみで、
LDLコレステロールの適正値が70から100とは言い切れませんが、
この問題はまだまだ解決までには紆余曲折がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

アメリカにおける経鼻インフルエンザワクチンの推奨取り消しについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザワクチンとその違い.jpg
2015年のPediatrics誌に掲載された、
経鼻インフルエンザワクチンの効果についての論文です。

現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは、
スプリットワクチンと言って、
バラバラにしたウイルス抗原を、
そのまま注射するというもので、
それ以前の全粒子型のワクチンと比較すると、
その効果は落ちますが、
安全性が高く、重篤な有害事象の少ないのが特徴です。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」の流行時には、
迅速に流行株の抗原をワクチンにしたので、
その有効性は非常に高く、
インフルエンザワクチンの有効性を再認識させました。

ただ、このタイプのワクチンは、
血液での抗体は誘導しても、
粘膜の抗体は誘導しないため、
感染自体を阻止することは出来ない、
という意見や、
成人と比較して小児への有効性が低い、
という意見、
少しでも流行しているウイルス抗原が、
ワクチン抗原と異なっていると、
その有効性が低くなる、
というような意見などがあって、
特に小児に対しては、
より有効性の高いワクチンが必要だ、
という考えが根強くありました。

その有力な候補として考えられたのが、
経鼻のインフルエンザ生ワクチンです。

経鼻インフルエンザ生ワクチンは、
低温馴化ウイルスと言って、
鼻の粘膜では増殖するけれど、
それを超えて肺炎などを起こすことはないように、
その働きを弱くしたインフルエンザウイルスそのもので、
その表面の抗原タンパク質は、
流行の予測される抗原を、
遺伝子工学の技術を用いて入れ替えて作られています。

このウイルスを、
スプレータイプの器具を用いて、
鼻の粘膜に噴霧します。

すると、
鼻の粘膜のみにインフルエンザのワクチン株による感染が起こり、
それが粘膜と血液の両方の免疫を誘導する、
という仕組みです。

これが経鼻インフルエンザ生ワクチンで、
商品名はフルミストと言われるものが、
2003年にアメリカで承認され、
2011年にはヨーロッパでも承認されました。

このワクチンは何よりも注射ではなく、
点鼻で接種が可能である、ということが利点で、
それに加えて注射の不活化ワクチンとは異なり、
粘膜の免疫を誘導することから、
特に小児においては、
有効性の高いことが期待されました。

実際、アメリカで発売後に施行された臨床データにおいては、
80%以上という高い有効性が報告されました。

このため、アメリカでは2014年、
2から8歳の小児では不活化ワクチンではなく、
経鼻生ワクチンの接種が推奨されることになりました。

日本においてもこの頃から、
一部の小児科のクリニックなどでは、
輸入したフルミストを、
自費で接種するような試みが行われました。

ここまでは良いこと尽くめの経鼻生ワクチンで、
向かうところ敵なしと感じられたのですが、
2013年から14年のシーズンに、
2009年に「新型インフルエンザ」と呼ばれたのと同じタイプのウイルスが流行し、
それに対して経鼻生ワクチンは、
全くの無効であったことが、
その後の解析で明らかになると、
ちょっと風向きが変わり始めます。

2015年のシーズンにおいて、
アメリカの予防接種諮問委員会(ACIP)は、
2から8歳の年齢層において経鼻生ワクチンを優先する、
という方針を切り替え、
生ワクチンでも不活化ワクチンでも、
どちらでも良いという指針に後退します。

上記文献はCDCが主導したもので、
2010年から14年の4シーズンのそれぞれにておいて、
経鼻生ワクチンと従来の不活化ワクチンの注射との有効性を、
比較検証したものです。

その結果は驚くべきもので、
どのシーズンにおいても不活化ワクチンと比較して、
生ワクチンの方がよりインフルエンザを予防した、
という結果はなく、
特に2009年に流行したH1N1に関しては、
はっきり無効と言って良い結果となり、
明確に不活化ワクチンよりその効果は劣っていました。

更に2015から16年のシーズンの解析においては、
2歳から17歳の年齢において、
トータルな経鼻インフルエンザ生ワクチンの有効率は3%で、
それに対して従来の不活化ワクチンは63%でした。
3%というのは要するに無効ということです。

この結果を受け、
つい最近出たACIPのステートメントにおいては、
2016年のシーズンにおいて、
明確に全年齢において、
経鼻生ワクチンの推奨を取り下げました。

現状のフルミストは、
季節性インフルエンザの予防としては、
完全に推奨を外れる結果となったのです。

けいゆう病院の菅谷先生の論考によれば、
これは経鼻生ワクチンそのものの構造的な欠陥の可能性が高く、
単純にワクチンと流行の抗原が一致しない、
というような性質のものではないようです。

理屈から言えば、
弱毒化した生ワクチンで、
抗原のみを不活化ワクチンと同じ流行株に置換しているのですから、
間違いなく不活化ワクチンより効果があると思われるのですが、
実際には不活化ワクチンの方が有効性が高い、
という辺りに、
ワクチンというものの不確かさというか、
今ある知識のみでは計れないものを、
感じる思いがします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

SGLT2阻害剤の腎保護作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エンパグリフロジンと腎機能低下.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
SGLT2阻害剤という糖尿病の新薬の、
比較的長期の腎機能に与える影響についての論文です。

2型糖尿病において、
糖尿病性腎症やその他の原因による腎機能の低下は、
海外データですが、
患者さんの35%に発症するという頻度の高い合併症で、
その有無は患者さんの生命予後にも大きく影響をします。

糖尿病には小血管の合併症と大血管の合併症があると言われます。

小血管の合併症というのは、
通常3大合併症と呼ばれる網膜症と神経症と腎症で、
大血管合併症は、
動脈硬化の進行による、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患です。

このうちで小血管の合併症については、
血糖コントロールを強化して、
HbA1cが7%を切るくらいにすると、
その発症が予防されることが確認されています。
その一方でより厳格なコントロールを行なっても、
大血管の合併症は十分には抑制されません。

糖尿病に合併する腎機能低下は、
腎症による部分もありますが、
動脈硬化が影響している部分もあります。

従って、
尿中アルブミンなどのマーカーを利用した試験では、
血糖コントロールにより一定の予防効果が確認されるのですが、
腎機能自体の低下を、
血糖コントロールのみで充分に予防出来るかというと、
その知見は限られていて、
明確な結論が得られていません。

エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)は、
SGLT2阻害剤と呼ばれるタイプの経口糖尿病治療薬です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させます。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されるのです。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているという訳です。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
このエンパグリフロジンの3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下していました。

今回の研究では、
2015年のNew England…誌の研究の二次解析として、
エンパグリフロジンの腎機能に与える影響を検証しています。

その結果…

平均の観察期間3.1年間において、
微小アルブミン量の出現、
血液のクレアチニン濃度が2倍になる、
透析導入、腎臓病による死亡を合わせたリスクは、
偽薬群では18.8%に発症したのに対して、
エンパグリフロジン群では12.7%の発症に留まっていて、
エンパクリフロジンにより上記の腎臓リスクは、
トータルで39%(0.53から0.70)有意に低下していました。

経過中に血液のクレアチニン濃度が倍になる頻度は、
エンパグリフリジン群の1.5%、
偽薬群の2.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクは44%有意に低下していました。

経過中に透析導入になる頻度は、
エンパグリフロジン群の0.3%、
偽薬群の0.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクも55%有意に低下していました。

微小アルブミン尿の出現については、
両群で有意な差は認められませんでした。

SGLT2阻害剤は強制的に尿にブドウ糖を排泄するので、
尿路の感染や脱水を来たしやすく、
その意味では腎機能を悪化させる要因となるように、
普通は考えておかしくはありません。

ただ、今回のデータからは、
これまでの糖尿病治療薬より腎臓の保護作用がある、
という結果になっています。

この結果が事実であるかどうかは、
まだ即断は出来ませんが、
今後別個のSGLT2阻害剤においても、
同様の結果が再現されるようであれば、
今のところ決定打のない腎症の進行予防において、
SGLT2阻害剤の意味付けは、
大きく変わることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「10 クローバーフィールド・レーン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は映画です。
それがこちら。
10クローバーフィールドレーン2.jpg
比較的地味に公開されている映画ですが、
謎めいた予告編が気になって思わず観に行ってしまいました。

これは普通にとても面白かったです。

「クローバーフィールド HAKAISHA」という映画があり、
それと若干の関連はあるようなのですが、
基本的には別物です。

どういうものかと言うと、
基本的におバカ映画です。

80年代くらいに良くあった、
ジョー・ダンテやスピルバーグ印の、
B級SFサスペンスアクション映画に似たテイストで、
音楽も演出も意図的に古めかしい感じを狙っています。

それが今の映画の目まぐるしい感じの編集と比べると、
とても落ち着いて観ることが出来ます。

こうした映画の定番としてダブルクライマックスになるのですが、
SFXなどのクオリティも非常に高いので、
ラストまで途切れることなくワクワクしながら観ることが出来るのです。

主人公はただのデザイナーの筈なのに、
最後は歴戦の女戦士のようになってしまうので、
相当に滅茶苦茶なのですが、
これはそうしたデタラメも呑み込んだ上で、
非現実の世界に遊ぶのがありなのだと思います。

こうしたB級SF映画やB級サスペンスが好きな方には、
とてもお薦めです。

予備知識なしに是非お楽しみ下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

青年団「ニッポン・サポート・センター」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ニッポンサポートセンター.jpg
青年団の平田オリザさんの新作による本公演が、
今吉祥寺シアターで上演されています。

青年団としては箱も大きくロングランなのですが、
すぐに追加公演が決まるなど連日満員の盛況です。

平田オリザさんは、
色々な意味で現在の演劇界を牽引している存在ですが、
最近劇団への新作はなかったので、
今回は待望の公演ということになります。

演劇団は1990年代の初め頃から、
所謂「静かな演劇」の旗手として注目を集め、
駒場アゴラ劇場を拠点として精力的な活動を展開していました。

僕は正直当時はあまり好みではありませんでした。

1995年の「火宅か修羅か」、
1996年の「南へ」と「冒険王」、
1998年の再演版の「東京ノート」を観ています。

作品はほぼ地明かりのみの照明で、
音効もありません。
1幕1場の形式で物語は展開され、
ある日常的な風景がそのまま切り取られるようなドラマです。
作品の流れの中で、
登場人物が大声を出したり激高したりすることもあるのですが、
ほぼ瞬間的なもので、
日常的な時間が分断されるということもありません。
役者は通常の会話を普通の声でそのままに語り、
客席を真正面から見て、
観客に向かって台詞を言うようなこともしません。

こういう日常を切り取ったような演劇は、
他にもない訳ではなかったのですが、
ここまでその様式に徹底したものは、
それまでにはなかったと思いますし、
その後もあまり例がないと思います。
駒場アゴラ劇場の上演では、
肉声を聞かせるために、
上演開始と共に、
エアコンも停止させるという徹底ぶりです。

平田オリザさんは一種の政治家的な手腕や、
教育者としての手腕のある方のようで、
多くの若手の演劇人を育て、
独立した演劇人達が設立した劇団や団体が、
いずれも成功して現在の演劇界を支えています。

また多くの演劇関連のプロジェクトを進め、
アジアを中心として世界の演劇人とも交流を深め、
教育の現場への演劇の導入にも、
積極的に関わっています。

本拠地の駒場アゴラ劇場は、
主に若手の演劇人に広く開放されていて、
その上演作品の幅の広さにも感心します。
今最も小劇場らしい小劇場は、
駒場アゴラ劇場だと思います。

今回の上演では本当に久しぶりに青年団の公演に足を運びました。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台はDVなどの一時避難を扱うNPO法人の事務所が舞台で、
正面に事務所のサポートスタッフなどが談話するスペースがあり、
奥に3つの面談室の扉があります。

例によって作品の時間の流れと上演時間は一致していて、
2時間のNPO法人事務所の日常が、
そのまま2時間の上演時間となり、
照明の観客に分かるような変化も、
音効の活用もありません。

NPO法人は行政の委託を受けているのですが、
公的なものではないための不安定さもあります。
センターのサブリーダーの女性の夫が盗撮で逮捕され、
そのために法人は存続が危ぶまれる事態となります。
そんな中でも法人の日常は展開し、
DVで避難を求める妻の元に、
夫が探しに訪れたり、
風変わりな女性が相談に訪れてクレームを付けられたり、
商社を適応障害で退職したエリートサラリーマンが、
斡旋された仕事が、
ゆるキャラの着ぐるみの中に入る仕事であったりというような、
些細なそれでいて本人達にとっては深刻なドラマが、
例によって淡々と展開し、
ラストはそれぞれの問題の解決のための話し合いが、
後ろの閉ざされた3つの面談室の向こうで、
見えない中で進行される中、
舞台の正面では残されたメンバーが、
やや唐突に「やまと寿歌」を歌い、
歌い終わるとキャストが立って終わりになります。

舞台の区民会館的な雰囲気が、
吉祥寺シアター自体の建物とマッチしていて、
その雰囲気が自然に導入される辺りは巧みです。
また、背後に中の見えない面談室を3つ用意して、
そこでの面談と、
正面の舞台での出来事をシンクロさせる、
という劇構造もさすがに巧みに出来ています。

役者は今回はオールキャストと言って良い豪華さで、
皆抜群に上手いので安心して観ることが出来ます。

1990年代の作品では、
今回も出演されている山内健司さんが、
作品のポイントとなる台詞を必ず言うのがお約束で、
今回も淡々と語られる貧困や社会問題の、
奥底にあるものを、
最後に山内さんの台詞で語らせる、
という趣向になっていました。

以前の作品と比較すると、
大分普通の演劇に近付いているな、
という印象で、
ベテランの松田弘子さんの芝居などは、
そのデフォルメの感じが、
大衆演劇的なスタンスに近くなっているのを感じました。
1990年代くらいの青年団の作品だと、
山内さんが登場して寒い感じのギャグを言っても、
それが他の役者さんには、
間合いとしては引き継がれずに流れる、
という感じがあったのが、
今回の作品では、
台詞のリズムが重視されていて、
ギャグも次の台詞に引き渡される感じになっています。
観る側としては観やすくなった反面、
かつてのようなリアリズム重視の姿勢、
敢くまで日常をそのままに切り取る、
という姿勢は後退しているように感じました。

それが演劇としての進歩であるのかどうかは、
今回だけでは良く分かりませんでした。

ラストに歌を持ってくるのは、
そこだけは間違いなく非日常的な感じなので、
皆で歌うという必然性もありませんし、
歌自体の性質上、
極めて分かりやすいメッセージ性が成立してしまうので、
個人的には納得がゆきませんでした。

もっとさりげない、
日常の時間が、
神様の鋏でフツッと切断されるような、
そうしたラストの方が良かったのではないでしょうか?

パンフレットでは平田さんは、
「ゆっくりと滅びの道を歩む日本の、影絵のような芝居になればと願っている」
という記載をされていて、
それはちょっときつい言い方過ぎないかしら、
と感じました。

多くの青少年に演劇を教えている方なのですから、
そうしたことを文章でパンフットに残されるのは、
ちょっとそれは違うのではないかしら、
と感じたのです。

ただ、これは敢くまで個人的な感想なので、
そう思われない方も多いと思います。

久しぶりに観た青年団は、
色々と考えさせられました。

「ゆっくりと滅びの道を歩む日本」で、
僕も何かしらの生き方を、
もっと必死に選択するべきなのかも知れません。

それでは2本目の記事に続きます。

「クリーピー 偽りの隣人」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
クリーピー.jpg
大好きな黒沢清監督の新作が公開されたので、
これは絶対観なければと、
押取刀で映画館に駆け付けました。

これはかつてのサイコスリラーの傑作として、
世評も高かった「CURE キュア」に、
非常に近い味わいの作品で、
黒沢監督の昔からのファンとしては、
とても懐かしい感じのする1本です。

予告編や宣伝の映像は、
それが監督自身の意図であるかはともかくとして、
間違いなく意図的に、
やや軽妙な感じで画面も明るいタッチになっているのですが、
実際には同じ場面でも、
本編はもっとダークで、
全編がどす黒い緊張感に満ちています。
笑いや軽妙さの要素は微塵もありません。

これは黒沢監督独特のタッチの世界で、
随所に監督一流のこだわりが満載されています。
そのため、決して観やすい映画とは言えないのですが、
監督の映画がお好きな方は、
「これこそ黒沢映画だ!」
という感想を持たれると思いますし、
黒沢監督の映画が初めてという方は、
なるべく体調の良い時に、
是非神経を研ぎ澄ませて、
シネマスコープの画面の隅々まで、
何も見逃さないという気合を持って、
疲れると思いますが鑑賞して頂きたいと思います。
その苦労は多分報われます。

この作品には原作がありますが、
映画は原作と同じ場面は幾つかありながら、
基本的には全くの別物と考えて頂いて良いので、
映画と原作とどちらを先に経験しても、
特に問題はありません。
原作の「意外性」の部分は、
映画ではカットされています。
ただ、どちらかと言えば、
原作を先に読むことをお勧めします。
それで映画が退屈になることは全くありません。

以下、ネタバレを含む感想です。

西島秀俊演じる主人公は、
サイコパスの心理分析にのめり込み過ぎて、
犠牲者を出したため警察を辞めた元警察官で、
転職して大学の先生になるのですが、
そこで再び隣人としてのサイコパスに遭遇する、
という話で、
少しニュアンスの違う部分はありますが、
かつての「CURE キュア」や「カリスマ」で、
役所広司さんが演じた刑事を、
彷彿とさせるものがあります。

主人公は竹内結子さん扮する妻と、
寂れた郊外の町に引っ越して来るのですが、
夫婦の関係は最初から微妙な緊張状態にあり、
そこに香川照之が演じる謎の隣人が、
不気味な影のように覆いかぶさります。

原作は同題のミステリー小説ですが、
主人公の周辺の複数の事件が、
最初は関連性がないように思われるのに、
次第により合わさって行く感じに妙味があり、
構造が判明した後半は、
犯人が何処に消えたのか、
という謎で興味をつなぎ、
如何にもミステリーという解決編に繋がります。

それをこの映画では、
ミステリー的な仕掛けの部分をバッサリと切って、
概ね原作の前半部分のみで作品を構成しています。

映画を観る前には、
本当にそんな単純化をして大丈夫なのか、
と危惧を感じたのですが、
実際に観てみると、
原作の設定は一種の導入に過ぎず、
後半は黒沢監督が信奉するホラー映画、
モンスター映画の世界が、
以前より深化した形で展開されることになります。

黒沢監督がトビー・フーパーの
「悪魔のいけにえ」が大好きであることは、
広く知られていますが、
今回の作品ではおそらく最も直接的に、
このホラーの名作が形を変えて引用されています。

隣人としての「殺人家族」は、
フーパー映画の殺人鬼一家の再現で、
殺人機械が作動する地下室への入り口は、
「悪魔のいけにえ」の屠殺部屋への入り口の鉄扉の再現です。
若い刑事がそこに紛れ込むカットは、
「悪魔のいけにえ」とほぼ同一の間合いで描かれ、
同じ鉄の扉がガラガラと開いた時点で、
監督の意図したものが何であるかが明瞭に伝わるのです。

ご丁寧にその後では、
原典にある風車が回転するというカットまであります。

殺人一家が西島夫婦を連れ、
新たな居場所を目指してバンで移動するカットは、
そのまま撮れるのにわざわざスクリーンプロセスを用いていて、
これも「悪魔のいけにえ」のオープニングの車の場面を、
彷彿させるように撮られています。

この映画は最近多く発生している、
監禁した人間を支配し、
支配した人間同士で殺し合いを演じさせる、
という悪夢のような事件をモチーフにしています。

原作ではただの被害者にしか過ぎない、
女子高生や主人公の妻を、
支配を受けた環境では、
平気で他人を虐待し殺害する人格として描いていて、
支配されて言いなりになっていた女子高生が、
犯人が殺された瞬間に、
喜々として犬と共に姿を消す場面は、
おそらくこの映画で最も戦慄的な瞬間です。

1カットで事件を起こす、
というのが、以前からの黒沢監督のこだわりですが、
最後の主人公による射殺場面を含めて、
随所にそのこだわりは活かされ、
一瞬も息の抜けない、
緊張感の高い画面構成が持続します。

映像手法は基本的にはこれまでの監督の引き出しから、
出された感じのものが多いのですが、
完成度は高く完成形としての見応えがたっぷりです。
中ではドローンで住宅地の地表から、
俯瞰に至る1カットのカメラワークは、
「新作」でした。

印象的なのはラストの竹内結子さんの慟哭で、
これは監督の発言によれば、
竹内さんの発案のアドリブに近い芝居ということですが、
黒沢監督のこれまでの映画の中でも、
最も深い感銘を観客に与える場面に昇華していたと思います。

アドリブの筈ですが、
その構図はフーパーの「スペースバンパイア」や、
バーヴァの「白い肌に狂う鞭」でお馴染みの、
串刺しのポーズと同じになっているのが、
黒沢映画のファンとしては、
監督の深い狙いを感じました。

いずれにしても、
黒沢監督の神髄が感じられるこだわりの1本で、
観る方によっては退屈に感じられるかも知れませんが、
あまり類例のない映画体験となることは、
間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

リラグルチドの心疾患疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リラグルチド.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
GLP1アナログと呼ばれる糖尿病の注射薬の、
2型糖尿病の患者さんの心血管疾患予防効果についての論文です。

2型糖尿病の治療の目的は、
合併症の予防にあります。

そのうち網膜症や神経症については、
HbA1cが7%を切るような血糖コントロールを継続することにより、
その発症は一定レベル予防されることが確認されています。
腎症については、
尿への微量蛋白の発症というような指標を用いれば、
そうしたコントロールにより予防可能ですが、
それで腎機能の低下が抑制されるかについては、
あまり明確には証明されていません。

もっと問題が多いのは動脈硬化の進行に伴う、
心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患です。

心血管疾患のリスクは2型糖尿病により増加しますが、
そのリスクはHbA1cが7%台のコントロールでは、
十分には低下しません。
しかし、それを下回るような強化コントロールは、
今後は低血糖の増加を招き、
却って患者さんの生命予後の低下に結びついてしまうのです。

インクレチンは一種の消化管ホルモンで、
食後のみのインスリン分泌を刺激して、
インスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンの低下作用を併せ持っています。

インクレチン関連薬には、
インクレチンそのものであるGLP1アナログという注射薬と、
その分解酵素の阻害剤である、
DPP4阻害剤の2種類があります。

このインクレチン関連薬は、
血糖値の上昇時のみに働くので、
低血糖のリスクが少なく、
動物実験では膵臓のインスリン分泌細胞を増加させるなど、
これまでの糖尿病治療薬にはない特徴も有しています。

そのためインクレチン関連薬を使用することにより、
心血管疾患の予後が改善することが期待されました。

しかし、
これまでの複数のDPP4阻害剤
(アログリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン)や、
GLP1アナログであるリクセナチドに関する臨床試験では、
その上乗せによる心血管疾患の予防や予後の改善効果は、
確認はされませんでした。

今回の研究はGLP1アナログのリラグルチド(商品名ピクトーザ)の、
心血管疾患の予後に対する効果を検証したものです。

対象は2型糖尿病でHbA1cが7%以上の患者さんで、
未治療の患者さんも、
他の経口糖尿病薬やインスリンなどを使用している患者さんも、
共に対象となっています。
更に50歳以上で1つ以上の心血管疾患に受傷しているか、
60歳以上で1つ以上の心血管疾患のリスクを持っていることが、
その条件となっています。

本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方はリラグルチドを1.8ミリグラム注射し、
もう一方は偽薬の注射をして、
最低でも42か月間、
最長で60か月の治療を継続し、
中止後は30日は経過を観察します。

患者さんは世界32か国の410の専門施設で登録され、
トータルの例数は9340名です。
観察期間の中央値は3.8年です。

観察期間中の心血管疾患の死亡と心筋梗塞、
および脳卒中の発症を合わせた頻度は、
偽薬群では14.9%であったのに対して、
リラグルチド群では13.0%で、
リラグルチドは心血管疾患をトータルで13%、
有意に抑制していました。(0.78から0.97)

心血管疾患による死亡のみで見ると、
偽薬群よりリラグルチド群は、
死亡リスクを22%有意に低下させていました。
(0.66から0.93)

総死亡のリスクについても、
リラグルチド群で15%の低下が有意に認められました。
(0.74から0.97)

ただ、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院については、
偽薬群とリラグルチド群との間に、
有意な差は認められませんでした。

有害事象としては、
リラグルチド群で腹痛や嘔吐などの消化器症状が多く、
インクレチン関連薬の有害事象として指摘されることのある、
膵炎の発症については、
リラグルチド群での増加はありませんでした。
ただ、有意ではないものの、
偽薬群で5件に対してリラグルチド群では13件と、
膵臓癌の発症はややリラグルチド群で増加していました。

今回の結果では、
インクレチン関連薬としては初めて、
その使用による心血管疾患の死亡リスクと、
総死亡のリスクの低下が認められました。

これはかなり画期的なことですが、
それでは何故これまでの同様の臨床試験で、
それが認められなかったのか、
という点は疑問として残ります。

また、心不全や死亡に至らない心筋梗塞や脳卒中のリスクは、
有意な差がないのに、
死亡リスクのみが差が付いている、
という点の解釈も難しいところです。

1つのポイントとしては、
これまでの研究の殆どでは、
メトホルミンの上乗せで試験が行われていたのに対して、
今回は初期治療で単独の使用の事例も、
含まれているという点が影響している可能性があります。

いずれにしてもインクレチン関連薬で、
こうした心血管疾患の予後改善効果が得られた意義は大きく、
今後の更なるデータの蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

高齢者糖尿病の血糖コントロールをどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者糖尿病の血糖コントロール.jpg
今月のBritish Medical Journal誌の解説記事ですが、
高齢者の糖尿病の管理についての、
基本的な考えがまとめられています。

今年の5月20日に、
日本糖尿病学会は「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」
というステートメントを出しました。

これまでの日本のガイドラインでは、
基本的に年齢により血糖のコントロール目標を変える、
という視点はありませんでした。

糖尿病の患者さんにおける血糖コントロール目標は、
1から2か月の血糖コントロールの指標である、HbA1cを、
3段階に分けて設定していました。

血糖正常化を目指す際の指標としては6.0%未満、
合併症予防のための目標としては7.0%未満、
そして治療強化が困難な際の目標としては、
8.0%未満です。

これは意味合いとしては、
高齢者においても、
その方がお元気であれば、
7.0%未満を目標として考え、
その方が他の病気を持っていたり、
認知症があったり、
薬の副作用で低血糖が起こりやすかったりした場合には、
8.0%未満の目標を用いる、
というように概ね理解されています。

僕はこの考え方が決して間違っているとは思わないのですが、
具体性があまりないので、
たとえば85歳でSU剤を使用していて、
HbA1cが6.5%であり、
実際には低血糖による転倒を繰り返したりしていても、
外来を受診される患者さんがお元気であると、
そのまま処方が継続される、
というケースを生むことが多くなります。

これは全ての慢性疾患の薬物治療に言えることですが、
薬の効果は若い年齢の方が高く、
高齢になるほどその影響は低くなります。
その一方で概ね薬の副作用や有害事象は、
高齢であるほど起こりやすくなりますから、
ある時点で薬を減量し、
可能であれば中止する、
という必要性が生じてくるのです。

しかしどうしても継続して患者さんを診ていると、
同じ薬をそのまま継続する、
ということになりがちで、
そうした対応をしないまま、
ダラダラ処方が継続される事態となります。

つまり、上記の85歳の患者さんの場合、
どう考えてもSU剤は減量し、 
場合によっては他の低血糖を起こしにくい薬に変更する、
また場合によっては処方を中止して経過を見る、
というような対応をするべきですが、
それが行われないことは、
実際には多いと想定されます。

これが一般の臨床医の怠慢であることは一面の真理ですが、
専門の先生や学会のレベルにおいて、
どのくらいの年齢でどのような状態になれば、
どのような方法で処方を変更するのか、
というような具体的な指針が、
存在していない、ということも、
同じくらい大きな怠慢である、
と言うことが出来ます。

病気のガイドラインは、
その病気のみを単体で見ていて、
その患者さんをトータルで、
かつ時間的な有限の存在とは見ていない、
という点が大きな問題なのです。

さて、それでは先月、
高齢者糖尿病の血糖コントロールは、
どのように変更されたのでしょうか?

基本的には3段構えになっています。

まず、認知機能が正常でADLが自立している場合、
このケースではHbA1cが7.0%未満を、
原則としては目標に設定しますが、
インスリンやSU剤など、
低血糖を起こしやすい薬が処方されている場合には、
65歳以上75歳未満では6.5(下限)から7.5%未満、
75歳以上では7.0(下限)から8.0%未満、
という指標になっています。

次に軽度の認知機能低下があったり、
ADLの軽度の低下が認められる場合には、
これも原則としては7.0%未満ですが、
SU剤などが使用されている場合には、
7.0(下限)から8.0未満と引き上げられています。

更に中等度以上の認知機能低下やADLの高度の低下、
併発する内臓疾患などがある場合には、
HbA1cの目標値は8.0%未満とし、
SU剤などが使用されている場合には、
7.5(下限)から8.5%未満が目標となります。

欧米では、こうした高齢者糖尿病の血糖コントロールのガイドラインが、
2000年代の初めには色々な形で作成されていて、
2011から2012年くらいにほぼ決定されています。

アメリカ糖尿病学会(ADA)の指標は、
今回の日本の指針と同じように高齢者の状態を3種類の区分していて、
要するにそれをパクッて日本の基準は遅ればせで作られたのですが、
HbA1cの数値については、
元気な高齢者が7.5%未満、
軽度の認知症などがある場合には8.0%未満、
高度の認知症などがある場合には8.5%未満、
というように数値は微妙に違っています。

ヨーロッパの糖尿病作業部会の指針では、
70歳以上の高齢者において、
毎年その身体機能や認知機能をチェックした上で、
SU剤であるグリベンクラミド(商品名オイグルコンなど)は、
用いないことを条件として、
85歳以下では心血管疾患リスクも算出しています。
その結果として、
血糖コントロールの意義が大きい場合には、
7.0から7.5%を目標とし、
身体状態や認知機能が低下している場合には、
7.6から8.5%を目標としています。

それでは、一体どのような薬をどのように使って、
この目標をクリアすれば良いのでしょうか?

ガイドラインとは称していても、
その辺りの具体策はあまり記載はされていません。

高齢者糖尿病の治療の難しさは、
合併症予防を目的とするような、
厳密なコントロールはもう必要はなく、
低血糖を起こすことは極力避けたいのですが、
その一方で平均血糖値が200mg/dLを超えるような過血糖も、
糖尿病性昏睡などのリスクを考えると、
極力避けたい、というジレンマがあることです。

7.6から8.5などという都合の良いことを言っても、
それを継続的に達成することは、
そう簡単なことではないように思います。

日本の指針の場合、
まだ詳細は明らかにされていませんが、
日本老年医学会の、
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を、
参照として薬剤の決定をする、
というようなニュアンスが書かれています。

そこで「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を読んでみると、
全ての高齢者に対して、
SU剤、ビグアナイト剤、チアゾリジン薬、α‐グルコシダーゼ阻害剤、
SGLT2阻害剤、インスリン製剤は、
いずれも中止を考慮するべき薬剤という括りになっています。

これをまともに読むと、
インクレチン関連薬以外の糖尿病治療薬は、
全て高齢者には不適である、
ということになります。

このガイドラインにおける高齢者は、
基本的に65歳以上ということのようですから、
それを鵜呑みにすると、
全ての2型糖尿病の患者さんは、
65歳を超えた瞬間に、
インクレチン関連薬に治療薬をスイッチすることが望ましい、
ということになってしまいます。

これはどう考えても現実的とは言えません。

欧米においては、
2型糖尿病の治療薬の第一選択はビグアナイト系のメトホルミンで、
これは高齢者においても変わりません。
ただ、日本では添付文書上、
高齢者への使用は慎重投与の扱いで、
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」でも、
75歳以上から開始する場合は原則使用はするな、
という記載になっています。

それではどうすれば良いのでしょうか?
75歳以上での糖尿病の治療は、
全てDPP4阻害剤というのが正解なのでしょうか?

単剤で様子を見るとすれば、
DPP4阻害剤は悪い選択肢ではないと思います。

ただ、メトホルミンも当然候補としては残すべきだと思います。
上記薬物療法のガイドラインは、
海外の臨床試験の成績と、
日本の大して根拠のない添付文書の記載とを、
それほど区別することなく羅列して、
1つでも問題のある記載があれば、
「中止するべき薬剤」に含めるという、
実地の臨床をほぼ無視したような記述になっています。
これでは、
1人の医者に取材して、
「僕はDPP4阻害剤は嫌いだから出さない」
というコメントをもらうと、
それを根拠として、
「糖尿病では薬を飲むな!」というような記事に仕立てる、
週刊誌の安手の医療特集と質はそれほど変わりません。
データの重み付けを無視して、
1つでも否定的なデータや見解があれば、
「使用不可」の薬剤に分類して羅列する、
という手法自体は同一だからです。

メトホルミンを不可とする根拠は、
日本の添付文書以外には引用されていないのにも関わらず、
他のデータの根拠の殆どは海外データです。
そして、その海外データではメトホルミンが第一選択なのです。

これでは観念的な砂上の楼閣としては意味をなしても、
実地の臨床においては、
混乱を招くことにしかならないように思います。

個人的な考えとしては、
75歳以上の年齢層においては、
グリベンクラミドのような古いタイプのSU剤は禁忌として考え、
それ以外の薬剤については、
なるべく低用量を使用して、
HbA1cが8%をなるべく超えないようにコントロールする、
というくらいが妥当な判断であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

男性ホルモン補充療法の長期効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は何もなければゆっくり過ごす予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テストステロン補充療法の長期効果.jpg
今月のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
男性ホルモン補充療法の長期効果についての論文です。

この問題については過去にも何度も記事にしています。
しかし、まだ結論は出ていません。

女性に更年期があり、
様々な体調不良の原因となるように、
男性にも更年期のような、
男性ホルモンの低下が加齢に伴って起こり、
それによって、
多くの体調不良が起こっているのではないか、
という推測は、
以前よりされてきました。

具体的には疲労感や抑うつ、
運動機能の低下、
性欲や性機能の低下などが、
男性ホルモンの低下と関連のある可能性を指摘されていました。

しかし、
それでは男性ホルモンの補充により、
そうした症状が改善するのか、
と言う点については、
性欲や性機能には一定の効果は見られるものの、
それ以外の症状については、
これまであまりポジティブな結果が得られていません。

それどころか、
心血管疾患のリスクが、
男性ホルモンの補充により増加するのでは、
という弊害を示唆するようなデータも発表されています。

日本では2007年にLOH症候群という名称の元に、
男性更年期を血液の遊離テストステロン濃度で診断し、
主に注射薬の男性ホルモン製剤で、
その治療を行なうというガイドラインを発表し、
一時的はテレビや週刊誌などでも、
画期的な治療として盛んに取り上げられました。

しかし、この日本の独自基準には多くの問題があり、
今ではあまりその通りに治療をされる先生は、
ガイドラインの作成に関わった先生の中でも、
あまりいらっしゃらないようです。

ただ、それではどんな場合においても、
高齢者に対する男性ホルモン補充療法が無意味で有害なのか、
というと、
そうは決してそうは言えないと思います。

男性ホルモンの使用により、
心血管疾患のリスクが増加するという知見にしても、
そうした増加はない、
という報告も存在しています。

2003年にアメリカ医学研究所(IOM)は、
男性ホルモン補充療法の厳密な検証の必要性を提言しています。

それを受ける形で、
2016年2月のthe New England Journal of Medicine誌に、
高齢者への男性ホルモン補充療法の効果についての、
精度の高い臨床研究が発表されました。

65歳以上で、
血液の男性ホルモンであるテストステロンの濃度が、
275ng/dL未満と低値であり、
うつ傾向や性欲低下、身体能力、疲労感などの指標が、
病気ではないものの低下を示していて、
男性更年期の症状が疑われる、
トータル790例を登録し、
対象者にも実施担当者にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方はテストステロンのゲル剤を毎日塗布し、
もう一方は偽薬を塗布して、
1年間の経過観察を行なっています。

前立腺癌の既往や、
前立腺癌のリスクの高い場合、
3ヶ月以内の心筋梗塞や脳卒中の発症、
不安定狭心症や高度の心不全、
収縮期圧が160を超えるような高血圧、
顕性のうつ病などの患者さんは、
対象から除外をされています。
こうした項目に当て嵌る人は、
男性ホルモンの補充により、
リスクがあると想定されるからです。

その結果…

テストステロンゲルの使用により、
血液のテストステロン濃度は、
19から40歳の年齢層の基準値まで上昇しました。
このテストステロン値の増加は、
対象者の性欲や性衝動、勃起機能の改善と相関していました。
ただ、この性機能の改善は、
あまり持続的なものではなく、
勃起機能の改善は、
バイアグラのような勃起機能の改善のための薬剤の効果より、
低い有効性しか示してはいませんでした。

身体機能試験では、
解析法により若干の差が認められ、
活力試験では有意差はなく、
うつ尺度でも若干の差が認められました。

有害事象は副作用については、
両群で差がありませんでした。

男性ホルモン濃度の低い高齢者に、
男性ホルモンの補充療法を行なうと、
性欲の改善以外にも、
気力や体力に若干の改善が認められます。

ただ、その差は軽微なもので、
最も差が明瞭な性欲の改善についても、
勃起機能に限定すれば、
バイアグラのような薬剤に劣る程度の効果です。

1年程度の使用においては、
リスクのあるような事例を除外すれば、
比較的安全な治療だと考えられます。

ここにおいて問題になるのは、
1年を超える長期間の使用における安全性です。

今回の研究はカナダにおいて、
66歳以上の男性でテストステロンの補充療法を行なった、
10311名を、
年齢などをマッチさせた28029名のコントロールと比較して、
中央値で5年を超える経過観察を行なっています。

トータルで見ると、
テストステロンの補充療法継続群は、
未施行群と比較して、
総死亡のリスクが12%有意に低下していました。
(0.84から0.93)

ここでテストステロンの補充期間を、
その長さで3群に分けると、
補充期間の中央値が60日間の最小期間群では、
総死亡のリスクが1.11倍(1.03から1.20)、
心血管疾患のリスクが1.26倍(1.09から1.46)、
未施行と比較してそれぞれ有意の増加していました。

また、前立腺癌の発症リスクも、
補充期間の中央値が35ヶ月という最長期間群では、
未施行と比較して、
40%有意に低下していました。
(0.45から0.80)

つまり、
これまでの疫学データにおいては、
男性ホルモン補充療法は、
心血管疾患のリスクを高め、
死亡リスクにも悪影響を与え、
前立腺癌のリスクも増加させると考えられていました。

しかし、
今回のデータにおいては、
補充期間が2ヶ月程度の短期間では、
確かにそうしたリスクは増加しているものの、
3年以上という長期間においては、
総死亡のリスクも心血管疾患のリスクも、
更には前立腺癌のリスクも低下させている、
という意外な結果になっています。

これまでのデータは1年程度と、
確かに短期間のものでしたから、
これまでのデータとの整合性も保たれているのです。

ただ、これが事実であるとしても、
1年程度の短期間においてのリスク増加は否定出来ないため、
男性ホルモン補充療法においては、
矢張り心血管疾患や前立腺癌のリスク管理は、
重要であることは間違いがありません。

男性更年期の治療の是非は、
まだまだ確定的な答えが得られるものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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