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コレステロールを測定せずにスタチンを使用する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コレステロールを測定しないコレステロール低下療法.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
中等度の心血管疾患リスクのある人に、
コレステロール降下剤であるスタチンを使用して、
その予防効果を検証した論文です。

この研究はHOPE3と名付けられた大規模な臨床研究で、
10年間に動脈硬化性の病気になる確率が、
5から10%くらいという、
欧米では中等度リスクの対象者に対して、
まだそうした病気を起こしていない段階で、
降圧剤やスタチンという、
動脈硬化性の病気の予防効果のある薬剤を、
一次予防として使用して、
その効果を見たものです。

ポイントは高血圧の治療薬を使用していても、
特に血圧の管理をする訳ではなく、
コレステロールの降下剤であるスタチンを使用していても、
特にコレステロールの測定も行わない、
ということです。

要するに定期的な診察などなしに、
単純に薬だけを継続的に処方して、
それでどの程度の予防効果があったのかを、
偽薬と比較して検証しよう、
という研究なのです。

医療費削減という観点から、
薬局で薬だけを買ってもらい、
そのまま放任して様子をみよう、
という今後の医療のあり方を見据えているのです。

医者の端くれとしては、
こうしたある種の「医者不要論」には抵抗があるのですが、
1つの流れとしては仕方のないことなのかも知れません。

同じ紙面に同じ研究結果をまとめた、
3篇の論文がまとめて掲載されています。

今日ご紹介するものは、
スタチンを使用した試験で、
同様にして降圧剤として、
ARBというレニン・アンジオテンシン系の阻害剤と利尿薬を、
併用した試験と、
更に降圧剤とスタチンを併用した試験が、
それぞれ別個に報告されています。

ただ、結論から言うと、
一次予防としての効果が確認されたのは、
スタチンの試験のみで、
降圧剤の試験では心血管疾患の予防効果はなく、
併用にも降圧剤の上乗せ効果は確認されませんでした。

対象となっているのは、
55歳以上の男性もしくは65歳以上の女性で、
心血管疾患リスク
(ウエスト/ヒップ比による内臓脂肪増加、
HDLコレステロールの低値、
喫煙歴、耐糖能異常、
心血管疾患の家族歴、軽度腎障害)
のうちの1つ以上を持つ人です。
60歳以上の女性で2つ以上の心血管疾患リスクを持つ人も、
そこに追加されています。

そうした対象者に対して、
特にコレステロール値などを勘案することなく、
ロスバスタチン(商品名クレストールなど)というスタチンを、
1日10ミリグラムで使用して、
それをくじ引きで偽薬を使用する群と比較します。

平均の観察期間は5.6年で、
この間に心血管疾患による死亡と、
心筋梗塞と脳卒中のリスクを合わせた頻度を比較します。

その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中を合わせた累積の発症率は、
偽薬では4.8%に発症したのに対して、
スタチン使用群では3.7%に発症していて、
スタチンの使用によりそのリスクは24%有意に低下していました。
そこに更に心停止と心不全、冠動脈のカテーテル治療を追加した発症率も、
偽薬では5.7%のところ、スタチン群では4.4%で、
25%有意に低下していました。

つまり、降圧剤の使用については、
矢張り血圧値を見ながらの、
より調節的な降圧治療でないと、
心血管疾患の予防には繋がらないのに対して、
スタチンはただ処方するだけで、
量の調整も検査も何もしなくても、
一定の予防効果が認められた、
ということになります。

それが必ずしも正しい方向性であるとは、
にわかには思えないのですが、
「リスクがあればとりあえずスタチン」
というのが世界の心血管疾患予防の、
1つのトレンドであることは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

慢性腎臓病における塩分制限の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後とも、
いつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
慢性腎臓病における尿中ナトリウム排泄と病気.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
慢性腎臓病の患者さんにおける、
塩分制限の効果を検証した論文です。

先日高血圧の患者さん以外では、
塩分制限は心血管疾患の予後を改善せず、
むしろ1日7.6グラムを切るような塩分制限は、
その予後を悪化させる可能性がある、
という論文をご紹介しました。

ただ、そのデータは腎機能が低下した患者さんは、
その対象から除外しています。

慢性腎臓病においては、
減塩をすることにより、
その進行が抑えられ、
患者さんの予後に良い影響を与えることが、
これまでの臨床データにより示唆されています。

ただ、意外にまとまったデータは少なく、
高血圧などの影響を除外しても、
そうした関連が成り立つかどうかは、
これまで明らかではありませんでした。

特に腎機能の低下が抑制されるという面では、
その効果はほぼ間違いがありませんが、
心血管疾患のリスクや生命予後については、
それほどクリアなデータが存在している訳ではありません。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
21歳から74歳の、
軽症から中等症の慢性腎臓病の患者さんを登録し、
尿中のナトリウム排泄量を何度か測定して、
心血管疾患のリスクとの関連を検証しています。

対象となっているのは、
腎機能の指標である推計の糸球体濾過量という数値が、
20から70mL/分/1.73㎡という数値の患者さんです。

要するに、
ごく軽症な方から、
かなり進行した方まで含まれていますが、
透析をされている方や、
それに近いような腎不全の方は除外されています。

対象者はトータルで3757名で、
平均の観察期間は6.8年です。
心血管疾患の発症率は、
心筋梗塞、心不全、脳卒中の合算です。

その結果…

塩分摂取量の指標となる、
1日の尿中ナトリウム排泄量を4分割すると、
一番少ない区分は1日2894ミリグラム未満で、
最も多い区分は4548ミリグラム以上でした。

一番少ない区分での心血管疾患の発症率が18.4%で、
2番目の区分が16.5%、
3番目の区分が20.6%で、
最も多い区分の発症率が29.8%となっていました。

尿中ナトリウム排泄が2894ミリグラムというのは、
食塩の摂取量として7.35グラム程度と換算されます。
4548ミリグラムというのは、
食塩摂取量で11.55グラム程度と換算されます。

今回のデータにおいては、
4分割すると2番目の群が最も病気の発症リスクは低い、
というように見えるのですが、
統計的にはこの範囲においては、
ほぼ直線的にリスクが増加していると推定されています。

ただ、以前ご紹介したデータと同じように、
高血圧の患者さんと同様に慢性腎障害の患者さんにおいても、
矢張り食塩摂取量の換算で、
1日10グラム未満では、
その心血管疾患予防効果は、
あまり明瞭ではなく、
7グラムを切るくらいのレベルになると、
悪影響を与える影響も否定は出来ません。

確かに高血圧の患者さんと同じように、
慢性腎障害の患者さんにおいても、
減塩の意義はそれ以外の健康な方よりは大きいのですが、
極端な減塩は心血管疾患の予防という観点からは、
良い影響は与えない可能性があることも念頭に置き、
その判断をすることが、
今後は必要になるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「スキャナー記憶のカケラをよむ男」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
今日は新国立の「ローエングリン」を聴きにゆく予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
スキャナー.jpg
先日「スキャナー記憶のカケラをよむ男」を、
映画館で見て来ました。

これは僕がミステリーが好きで、
脚本の古沢良太さんが好きなので、
古沢さんのオリジナルの脚本でのミステリー映画ということで、
見逃せないなと思い、
ちょっと無理をして出掛けたものです。

古沢さんは舞台の「趣味の部屋」も面白かったですし、
「相棒」や「リーガルハイ」のドラマ台本もひねりのあるもので、
本物のミステリードラマの書ける、
日本では数少ない脚本家だと思います。

ミステリーやサスペンスの映画というのは、
勿論国内外で数多くありますが、
本当にオリジナルの台本による作品というのは、
まあ滅多にはなく、
それでかつ作品として優れているというミステリー映画は、
それ自体奇跡というべき偉業なのです。

それで、何となく宣伝のビジュアルには、
不安を感じながらも、
新しいミステリー映画を期待して、
劇場に足を運びました。

見終わった感想としては、
正直失望感の強いものでした。

手で物に触れると、
その「記憶」が再現されるという、
極めて手垢の付いた平凡な設定の超能力者を、
野村萬斎さんがいつもの「不自然の帝王」のような演技で演じ、
サポートするかつての相方に宮迫博之さんという、
非常に暑苦しく濃厚なコンビが主役です。

ピアノ教師の木村文乃さんが、
謎の白いワンピースに黒髪の女に、
襲われて連れ去られるという事件を、
教え子の杉咲花さんの依頼で、
一度は解散したコンビの主役2人が、
超能力で捜査する、という話です。

オープニングに事件の原因となった、
過去の情景がまず描かれ、
それから現在に時間が飛ぶのですが、
構成は物凄く平凡ですし、
過去の描写が映像的にとても魅力の乏しいものなので、
この巻頭の10分を見ただけで、
「こりゃダメだ」という感じになります。

謎の黒髪の白いワンピースの女、
というだけで、
大体結末の想像が付いてしまいますし、
登場人物は少ないので、
それで犯人になる可能性のあるのは、
それも1人しかいないなあ、
とすぐに分かってしまいます。

ただ、それにしては、
その人を犯人とする伏線らしきものが、
何も設定されていないので、
ひょっとして違うのかしらと思うと、
結局は想像した通りの結末で、
伏線らしきものは何もない、
という脱力するラストに至りました。

ある意味テレビの2時間ドラマより質の低いこんな脚本を、
どうして古沢さんほどの才人が書いたのか、
余程時間がなかったのかしら、
それとも自分の思い通りの作品が書けないような、
そうした制作環境であったのかしらと、
色々と考えてしまいました。

演出も凡庸に感じましたし、
キャストも魅力に欠けていました。

個人的には見るべきところが、
カケラもないような作品で、
ガッカリした気分で劇場を後にしました。

でも、ミステリー映画は好きなので、
また同じような映画があれば、
奇跡を期待して、
またノコノコと出掛けてしまうと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

イキウメ「太陽」(2016年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
イキウメ「太陽」.jpg
2011年に青山円形劇場他で初演された、
イキウメの代表作の1つ「太陽」が、
今三軒茶屋のシアタートラムで再演されています。

ほぼ1ヶ月のイキウメとしては一番のロングランではないでしょうか?
僕が観劇したのは水曜日で平日でしたが、
ほぼ満席の盛況でした。

劇団員が初演と同じ役を演じ、
それに清水葉月さんと中村まことさんが加わるという、
こんな言い方は失礼ですが、
キャストだけで集客が出来るようなメンバーではなく、
実力とアンサンブル優先のキャストです。

それでこの集客というのは、
間違いなく作品の力だと思います。

この作品は震災の2011年の秋に初演され、
その後改訂版が蜷川幸雄さんの演出で、
綾野剛さんや前田敦子さんら、
集客の出来るメンバーで大々的に上演されました。
映画の公開も予定されていますし、
作者による小説版も発表されています。

初演も蜷川演出の上演も観ているのですが、
正直初演はそれほど面白いとは思いませんでした。

僕はそれまでのイキウメの、
トリッキーでどんでん返しのある作風が好きだったので、
そうした部分のまるでない、
擬似未来のSFのような設定が、
どうしても違和感があったのです。

震災後の暗さが写し取られたような、
希望の欠片もないような暗いムードも、
初演の当時は好きになれませんでした。

それが、蜷川さんの演出により改訂されスペクタクル化された、
「太陽2068」と題された舞台を観ると、
この作品の世界が、
これまで考えていたより遥かに大きく、
そして深いものであることが分かりました。

今回の再演は、
殆ど初演と同じキャストにより、
初演版がより深化した形で上演されていて、
非常に感銘を受けましたし、
これまでのイキウメの作品の中でも、
僕が観た舞台では間違いなくベストと言って良いと思います。

通常舞台は先入観なく観劇した方が良いと思うのですが、
この作品に限っては、
先入観のない初見よりも、
作品の設定や構造を理解した上で、
再見した方が、
より面白く感銘も深いのではないかと思います。

この作品で前川さんが構築された架空世界は、
かなり複雑で緻密なものなので、
初めて作品を観ると、
その世界の仕組みを理解するのが精一杯で、
なかなか作品の中に生きるキャラクターの心情にまで、
心が届かないのです。

以下ネタバレを含む感想です。

作品の世界はバイオテロによるウイルス感染によって、
人口の激減した近未来の世界で、
そこではノクスという新たな人種が現れます。

ノクスは吸血鬼のイメージで描かれ、
太陽を浴びると死滅してしまいます。
人間はバイオテロの原因となったウイルスに感染すると、
殆どは死んでしまうのですが、
生還して体内にウイルスに対する免疫が成立すると、
トランスフォームしてノクスになるのです。

ノクスは旧人類とは違って老いることがなく、
人間的な感情を持たないので、
感情に左右されて争うようなこともありません。

そのうちにウイルスに対するワクチンが開発され、
ワクチンを接種して抗体を誘導してから、
血液でウイルスを感染させると、
死ぬことなく旧人類はノクスにトランスフォームすることが可能となります。

世界は次第にノクスに支配されるようになり、
旧人類はくじ引きで当選した者のみが、
ノクスへのトランスフォームを許されるという仕組みが成立します。

旧人類は感情的な対立を繰り返し、
高齢化して衰退に向かっているのですが、
ノクスは生殖能力が低いので、
自分達だけで子孫を増やすことが出来ず、
旧人類を売買して自分の子供にすることにより、
その種を維持するしかない、という欠点があります。

こうした背景のもとに、
長野県の村で物語は始まります。

その村にはノクスを憎む男がいて、
ノクスの1人を太陽で焼き殺して逃亡してしまいます。
そのため、その村はノクスからの支援を受けられなくなり、
人口は減少して高齢化し、
衰退して行きます。

10年後に村の閉鎖は解かれるのですが、
その村はほぼ壊滅に向かっていて、
そこに暮らす少女と少年が、
ノクスになる道を選ぶのか、
それとも旧人類のままでいるのかの選択を迫られるのです。

ノクスの門番と交流した少年は、
最初はノクスになることを切望していながら、
最後はその選択を放棄し、
ノクスを嫌っていた少女は、
ノクスである自分の母親の元で、
ノクスにトランスフォームします。
少女の父親と交流のあったノクスの医師は、
ノクスの限界に絶望し、
夜明けの太陽を待つという選択をします。

それほど劇的なことはあまり起こりません。
ただ、主人公の少年の心情が、
極めて繊細かつ的確に描かれていて、
絵空事の設定であるのにそこに引き込まれ、
その苦悩を現実の出来事のように、
観客に体感させる劇作の巧さと、
役者の演技が優れています。

キャストの1人1人が非常に深い部分まで役柄を理解していて、
初演より間違いなく深く、その人物を演じています。
この作品の演技に関しては、
全てのキャストが「名優」であったと思います。

作品は架空の世界ですが、
震災後の暗い気分や、
感染症や放射能に恐怖する心、
先の見えない世界で、
脱出するべき出口を探す若者の足掻きなど、
日本の今が抱える問題の多くが、
そこに形を変えて描かれています。

くだらないアジテーションや、
安易な敵の造形などはなくても、
心情の中に「今」を描くことは可能なのだと、
この作品は示しているのだと思いますし、
それこそが演劇の可能性だと、
僕は信じて疑いません。

いずれにしても、
イキウメという集団が到達した、
演劇史に残る名品であることは間違いなく、
東京公演は明日までですが、
これはもう是非にお薦めしたいと思います。

傑作です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

蛋白同化ステロイドによるテロミアの延長について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ダナゾールによるテロミアの延長.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ダナゾールというステロイドホルモンの一種の治療薬により、
遺伝子の老化のサインとも言えるテロミアが延長した、
というかなりセンセーショナルな発表です。

テロミアというのは、
複製されるDNAの両端にある、
染色体の末端を保護するような構造です。

こちらをご覧下さい。
テロメアの構造の図.jpg
テロミアの構造を示した画像です。

左上にある青いXの形をしている構造が、
DNAの折り畳まれた構造物である染色体です。

この染色体の両端に赤く図示されているのが、
テロミアという構造で、
染色体という紐の両端に付いたキャップのように見えます。

これをほぐしてみると、
そこにはTTAGGGという6個の塩基が、
繰り返しの配列を作っています。
その先端にはループ状の構造があり、
テロミラーゼという、
テロミアの繰り返しを合成する酵素が存在しています。

細胞は分裂を繰り返していて、
その時に遺伝情報であるDNAは複製されます。

ただ、その複製の時に、
完全に全てのDNAが複製はされず、
テロミアの部分のみが少し短縮します。

従って、分裂を繰り返す毎に、
テロミアは短縮してゆき、
テロミアの構造がなくなって、
複製されるDNAがむき出しになると、
もうその細胞は分裂が出来なくなります。

これがその細胞の一種の寿命と考えられます。

ただ、出生時のテロミアの長さはおおよそ11000塩基対あり、
90歳での平均のテロミアの長さが6000塩基対くらいですから、
通常の人間の寿命の中で、
細胞が分裂不能になる、
という事態は通常は起こらないのです。

テロミアの先端にはテロミラーゼという、
テロミアを合成して伸ばすことの出来る酵素が存在しているのですが、
それが機能しているのは、
生殖細胞や血液の細胞の元になる造血幹細胞など、
一部の細胞のみで、
多くの体の細胞では、
テロミアは短縮することはあっても、
再び伸びることはありません。

さて、そのメカニズムには不明の点がありますが、
テロミアが異常に短縮するという病態があり、
再生不良性貧血などの造血系の異常や、
肺線維症、肝硬変などにおいて、
遺伝子異常に伴う、
血液細胞におけるテロミアの短縮が認められます。
その多くにおいて、
テロミアに関連する遺伝子の変異が確認されています。

男性のステロイドホルモンの一種である、
蛋白同化ステロイドは、
細胞内のテストステロンを増加させる作用があり、
また再生不良性貧血などの造血系の疾患において、
その有効性が示されています。

最近、この蛋白同化ステロイドに、
テロミラーゼを活性化させるような作用があるのではないか、
という知見があります。

今回の研究においては、
再生不良性貧血のようなテロミア関連疾患があり、
テロミアの短縮が確認された患者さんにおいて、
蛋白同化ステロイドであるダナゾールを、
1日800ミリグラムで2年間使用し、
患者さんのリンパ球のDNAにおけるテロミアの短縮が、
通常の予測より20%以上抑制されるかどうかを、
判定するという方法で研究が行われました。

正常な状態では、
1年間に平均で60塩基対のテロミアが短縮します。
テロミア関連の遺伝子異常のある患者さんでは、
年間120塩基対の短縮がおおよそ認められます。
従って120の8割に当たる96塩基対より少ない短縮が、
1年間で認められれば、
短縮は20%以上抑制された、
というように判定するのです。

その結果はかなり驚くべきものでした。

27名の患者さんが登録され、
研究は全ての患者さんで2年間の観察を行なう、
という予定で始まりましたが、
予定より早期に、
先に終了した12名の患者さん全例で、
テロミア短縮が、
20%以上抑制されることが確認されたため、
研究は早期に終了されました。

この効果のあった12名の患者さんのうち11名では、
テロミアは短縮するどころか、
平均で386塩基対の伸長が認められました。

その時点での解析で、
1年間の観察を終えた18例中でも、
16例でテロミアは延長していて、
半年の観察を終えた21例中でも、
16例でテロミアの延長が認められました。

どうやらダナゾールには、
テロミア合成酵素であるテロミラーゼの遺伝子の発現を刺激して、
テロミアを伸長するような効果があるようです。

テロミラーゼの刺激は、
発癌などに結び付く可能性もありますから、
単純にこの結果が全ての患者さんで有用である、
というようには言い切れないのですが、
簡単な方法では伸長することは出来ないと考えられていたテロミアが、
実は性ホルモンの刺激により簡単に反応する可能性がある、
という知見は非常に興味深く、
生命の神秘の一端に触れる思いがありますし、
今後の研究の進捗にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

高齢者の血圧の目標値はどのくらいか?(SPRINT試験のサブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SPRINT試験の高齢者解析.jpg
今月のJAMA誌にウェブ掲載された、
75歳以上の高齢者における血圧の目標値についての論文です。

高血圧が心筋梗塞や脳卒中などの、
動脈硬化性疾患の大きなリスクになる、
ということは、
複数の大規模な疫学データによって、
厳密に立証された事実です。

つまり、高血圧は身体に悪いのです。

大規模な疫学データにおいては、
収縮期血圧が115mmHgを越えるレベルから、
心筋梗塞などの発症リスクは増加するとされています。
これまでの多くのデータをまとめて解析した文献でも、
同様の結果が得られています。

それでは、血圧の目標値も収縮期血圧が120未満くらいに、
するのが望ましいのでは、と考えられますが、
一方でACCORDと呼ばれる、
糖尿病の患者さんを対象とした大規模臨床試験の結果では、
上の血圧を140未満を目標とするコントロールと、
120未満を目標とするコントロールとの間で、
心筋梗塞などの発症リスクについて、
明確な違いは認められませんでした。

この結果は多くの研究者に失望を与えましたが、
自然の血圧が低めであるということと、
高血圧の患者さんの血圧を、
薬で強制的に下げることとは、
全く異なる事項ですから、
臨床の世界ではこうしたことは往々にして起こることなのです。

このように、大規模で精度の高い臨床試験においては、
収縮期血圧を140より下げることによる、
明確な生命予後の改善や、
心血管疾患のリスクの低下は、
昨年まで確認されてはいなかったのです。

そのため、
一時期は120から130代が目指された血圧の治療目標値は、
2014年に改訂された、
JNC-8と呼ばれるアメリカのガイドラインにおいては、
糖尿病などの病気の有無に関わらず140とされ、
60歳以上の年齢では150に引き上げられました。

そんな中で前述のACCORD試験と、
血圧コントロールと予後に関しては、
ほぼ同じようなプロトコールで行われたのが、
昨年のNew England…誌に発表されたSPRINT試験です。

アメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較します。
平均観察期間は5年間とされていました。
年齢的には75歳以上の患者さんも、
両群とも1300名以上登録されています。

血圧コントロールのやり方は、
ACCORD試験と同じ方法で、
数種類の降圧剤を、
血圧値を測定しながら組み合わせて行きます。

ACCORD試験との最も大きな違いは、
ACCORDが糖尿病の患者さんのみを対象としているのに対して、
SPRINT試験は糖尿病の患者さんを除外していることです。
また効果判定の指標としている病変で、
ACCORD試験では心不全が含まれておらず、
また死亡リスクに関しては、
SPRINNT試験より幅の広く、
心血管疾患の可能性が否定出来ない死亡事例が、
含まれているという違いがあります。
更には脳卒中の既往のある方も除外されています。

この試験は本来はまだ観察期間中である筈でした。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していました。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

この内訳をみると、
心筋梗塞の発症には有意差はなく、
心不全及び心血管疾患による死亡リスクの低下が、
より明瞭に認められています。
総死亡リスクについても、
強化コントロール群で27%有意に低下していました。
(Hazard Ratio 0.73 : 95%CI 0.60-0.90)

こうした強化血圧コントロールによる予後の改善効果は、
試験開始後1年で明確化し、
年数が増す毎にその差は開いていることが確認されます。
従って、実際には中途で終了されましたが、
より長期間の観察により、
更にその効果が大きくなったことはほぼ確実です。
しかもこの影響は75歳以上の高齢者で、
より強く認められています。

その一方で、
強化コントロールを行なうことによる問題点も浮上しています。

低血圧やそれに伴う失神などのリスクは、
強化コントロール群でより多く認められています。
低ナトリウム血症や高カリウム血症などの電解質異常も、
強化コントロール群でより多く認められています。
一番の問題は急性の腎障害や腎不全が、
強化コントロール群で多く発症していることで、
元々腎障害のない患者さんで、
eGFRという腎機能の指標が、
降圧により30%以上低下して、
慢性腎臓病の基準に達するリスクは、
強化コントロール群で通常コントロール群の3.49倍(2.44から5.10)
有意に増加していました。

この腎機能に対する有害事象は、
降圧剤として利尿剤や、
レニン・アンジオテンシン系に作用する、
ACE阻害剤やARBと呼ばれる降圧剤が、
多く使用されていることによると想定されます。
電解質の異常もその影響です。

発表された上記文献の記載によれば、
その影響は降圧に伴う一時的なもので、
降圧剤の中止や減量により、
回復が可能なものだと記載されています。

このSPRINT試験のデータのポイントは、
基本的な理解として、
収縮期血圧値は120未満くらいが、
最も心血管疾患の発症リスクが低いことは間違いがなく、
有害事象なく降圧が可能であるとすれば、
治療の目標としても、
年齢には関わりなく、
それを目指すことが望ましいということです。

ただ、実際には強力に降圧を行なえば、
有害事象も増えるのは利の当然で、
問題はどのような条件の患者さんが、
そうした降圧のメリットが大きく、
どのような患者さんはそれほどではないのか、
その辺りのこれまでより詳細な線引きにあるのではないかと思います。

この研究は、
ACCORD試験と一体で考えるべき性質のものです。
ACCORD試験のデータも、
サブ解析などをよくよく見ると、
傾向としては強力な降圧により、
心血管疾患のリスクが低下する傾向を示していることには、
違いはなく、
一番の問題は糖尿病の患者さんを対象とした時には、
糖尿病自体が心血管疾患の強力なリスクになり、
血圧降下の影響が、
トータルな予後に与える重みが、
糖尿病のない患者さんより少ない、
という点にあるように思います。

さて、このSPRINT試験は、
医療界のみならず一般にも大きな反響を呼びました。

どちらかと言えば、
「そんなに血圧を下げることが良いとは思えない」
というような感情的な批判が多かったと思います。

ここで1つ問題になるのは、
75歳以上の高齢者においても、
本当にこのような強力な降圧治療にメリットがあるのだろうか、
ということです。

統計的に差のついているのは間違いがないのですが、
高齢者においては、
内臓機能の低下もあり、
また身体機能が脆弱で、
低血圧による転倒や意識消失などの、
リスクもより高いということが想定されます。

そうした高齢者特有の条件を勘案しても、
本当に高齢者において、
収縮期血圧が120未満にすることを目標とするような、
降圧治療は安全でメリットがあるのでしょうか?

今回の論文は、
その疑問に答える目的で施行された、
SPRINT試験のサブ解析で、
この試験の対象者のうち75歳以上の2636名をその対象としています。

このうちの1317名は収縮期血圧が120未満を目標に、
厳密な血圧コントロールを行い、
残りの1319名は140未満を目標とする、
一般的な血圧コントロールを行います。

対象者の平均年齢は79.9歳で、
3.14年の経過観察を行なっています。

その結果…

観察期間中の心筋梗塞や脳卒中、急性心不全の発症と、
心血管疾患による死亡は、
通常コントロール群では148件発生したのに対して、
強化コントロール群では102件発生していました。
強化コントロール群では通常コントロール群と比較して、
心血管疾患リスクが有意に34%有意に低下した、
ということになります。

総死亡についても、
通常コントロール群の死亡数が107件であったのに対して、
強化コントロール群の死亡数は73件で、
これも強化コントロールにより、
総死亡のリスクは33%有意に低下していました。

重篤な有害事象の発症には両群で有意差はなく、
対象となっている高齢者の身体脆弱性についても、
両群で差はありませんでした。

今回のデータでは、
SPRINT試験への疑念が、
全てではないにしても、
幾分解消されたという内容になっています。

僕なりにそれを解釈するとこういうことです。

高齢者への降圧治療は、
矢張り若年者よりリスクのあるものなのです。
その証拠に、今回のデータにおいても、
少なからずの対象者で、
低血圧や失神、電解質異常や急性腎障害という、
有害事象は認められています。
ただ、そのリスクは一般的な降圧であっても、
強化コントロールであっても、
それほどの差はないものである一方、
心血管疾患のリスクについては、
明確な差が認められているので、
今回のデータのみからの解釈としては、
80歳くらいの年齢層においても、
矢張り一定の条件を満たす患者さんに対しては、
収縮期血圧が120未満というコントロールを目指すことに、
一定の正当性があるように思います。

ただ、これはもう少し別個のデータで、
同じことが証明されないと、
まだ確実と言えるようなものではありませんし、
高齢者に対しての強化血圧コントロールは、
よりメリットの大きい対象に、
条件を絞るべきではないかとも思います。

今後の知見の蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

塩分はどのくらい制限するのが健康的なのか?(2016年の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ナトリウム排泄と心血管疾患リスク.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
塩分の摂取量と心血管疾患のリスクとの関連についての論文です。

塩分は毎日どのくらい摂るのが最も健康的なのでしょうか?

これはまだ完全には解決されていない問題です。

日本人は欧米人と比較すると、
伝統的な食生活においては、
塩分が多く脂質は少ないという特徴がありました。

かつての日本人は平均で1日20グラム以上という、
非常に沢山の塩分を摂っていて、
そのために脳卒中や胃癌が多かったのです。

その一方で欧米では、
塩分の摂取はそれほど多くない一方で、
脂質の摂取量は多く、
そのために心筋梗塞が多かったのです。

高血圧は脳卒中のリスクにもなり、
また心筋梗塞のリスクにもなりますが、
塩分の摂取量を減らすことにより、
高血圧の患者さんでは血圧が減少することが実証され、
そのことから、
塩分は制限すればするほど健康的である、
という考えが一般にも広まりました。

WHOは2025年までに、
塩分の摂取量を1日5グラム未満にすることを目標に掲げています。

ところが、2011年のJAMA誌に、
びっくりするような論文が発表されました。

高血圧の患者さんにおいて、
塩分摂取量の目安になる尿中のナトリウムの排泄量を、
病気のリスクと比較検証したところ、
尿中ナトリウム排泄量が4から6グラムの間が、
最も心筋梗塞や心不全、脳卒中による入院のリスクが小さくなり、
それより多くても少なくても、
そのリスクは増加する、
という結果が得られたのです。

尿中ナトリウム排泄が4グラムと言うのは、
食塩の1日の摂取量が10グラムくらいに相当します。

つまり、1日10グラムを切るような塩分制限は、
却って有害な可能性がある、という結果になっていたのです。

ただ、このデータは高血圧の患者さんの臨床試験のデータを、
後から解析したものなので、
病気による影響が否定出来ません。

それで、
高血圧の方もそうでない方もひっくるめて、
10万人余という対象者を登録して、
前向きにその予後を観察するという研究が、
同じ研究者のグループによって、
2014年8月のNew England…誌に発表されました。

対象者は世界中からエントリーされていますが、
42%は中国からの登録です。
それを含めて半数はアジアという布陣です。

24時間のナトリウム排泄量は、
平均で4.93グラムで、
カリウム排泄量は平均で2.12グラムです。
このナトリウム排泄量は、
食塩摂取量が12.5グラムに相当します。

3.7年の観察期間中に、
3.3%に当たる3317名に、
心血管疾患の発症や死亡が起こっています。

これをナトリウム排泄量から推測される食塩摂取量と対比させると、
ナトリウム排泄量が3から6グラム
(食塩摂取量で推定7.6グラムから15.2グラム)
の間が最も死亡と心血管疾患の発症リスクが低く、
それより高くても低くても、
リスクが増加することが確認されました。
一方でカリウムの排泄量に関しては、
それが少ないほどリスクは増加し、
排泄量が2グラムを越えると、
そのリスクの低下はなだらかになりますが、
ナトリウムのように逆転する傾向は認められていません。

この傾向は高血圧や基礎疾患のあるなしに関わらず、
同じように存在していましたが、
高血圧が存在していると、
ナトリウム排泄量と予後との関連はより強いものとなり、
その場合にはナトリウム排泄量が3グラム未満であっても、
ナトリウム排泄量が増えるほど、
リスクの増加は認められました。

要するに、2011年のJAMA誌の報告とほぼ同じように、
塩分摂取は多くても少なくても心血管疾患のリスクになっているのです。

今回発表された研究は、
同様の検討を、
高血圧のある患者さんと、ない人とに最初から分類して、
心血管疾患のリスクと尿中ナトリウム排泄量との関連を、
再度多数例で検証したものです。

対象となっているのは、
4つの疫学研究の対象者をプールしたもので、
トータルで133118名で、
高血圧とそうでない対象者が、
ほぼ同数含まれています。

そして、尿中のナトリウム排泄量と、血圧値、
心血管疾患の発症と総死亡のリスクが、
検証の対象となっています。

この場合の高血圧の対象者というのは、
登録時の血圧が140/90以上であるか、
降圧剤を継続的に内服中であることで定義しています。

その結果はこちらをご覧下さい。
ナトリウムの摂取量と心血管疾患リスクの図.jpg
これは一番上の図が、全体での解析で、
真ん中の図が高血圧の対象者のみでの解析、
そして、下の図が高血圧のない対象者のみでの解析を示しています。

トータルで見ると、
これまでの報告と同じように、
尿中のナトリウム排泄量が4から5グラムくらいで、
心血管疾患や死亡のリスクは最も低くなっていて、
排泄量が7グラム以上であったり、
3グラムより低いと、
そのリスクは増加しています。

これを高血圧の患者さんのみで解析すると、
ほぼ全体の解析と同等の関連性が見て取れます。

ところが、
これを高血圧のない対象者のみで解析すると、
驚いたことには尿中のナトリウム量が7グラム以上でも、
心血管疾患と総死亡のリスクは増加することはなく、
その一方で3グラムを切ると、
明確にそのリスクは増加していました。

もう1つのポイントは、
この図にはありませんが、
高血圧の患者さんではそうでない対象者と比較して、
尿中ナトリウムが増加することによる血圧の上昇が、
50%近く大きいという関連が認められていることです。

このデータの意味するものは、
要するにこういうことです。

塩分摂取が心血管疾患のリスクになるのは、
塩分の過剰により血圧が上昇することが主な要因ですが、
こうした現象が顕著であるのは、
高血圧の患者さんに限ったことで、
血圧が正常な人では、
塩分の摂取が少ないことは心血管疾患のリスクになっても、
多いことはリスクにはならないのです。

尿中のナトリウム排泄が4から6グラムというのは、
食塩の摂取量としては、
10から15グラムくらいに相当しますから、
高血圧の患者さんであっても、
そのくらいの食塩摂取量で充分で、
それより減塩をすれば、
心血管疾患のリスクは上昇してしまいます。
高血圧のない方では、
塩分を摂ることによる心血管疾患のリスクの増加は、
ほぼ起こらないと想定されるので、
こうした病気の予防という観点では、
減塩の必要性は全くない、
ということになる訳です。

ただし…

これは敢くまで心血管疾患と総死亡のリスクのみを検証した結果です。

たとえば腎機能低下時には、
減塩による腎機能の保持における有用性は、
別個に示されていると思いますし、
塩分が過剰であることによる、
胃癌などのリスクの増加については、
また別個に考える必要があります。

従って、常に塩分制限にリスクがあるとは言えないのですが、
「塩分を控えるほど健康に良い」
という考え方が、
実際にはかなり迷信に近いものではあることは、
どうやら確かなことで、
1日10グラムを切る塩分制限
(特に7.6グラムを切る塩分制限)を行なう際には、
その目標と根拠を、
明確にしてから施行することが、
今後は必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

COPDに対する併用吸入剤の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDに対するLABA・LAMAの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
COPDに対する気管支拡張剤と吸入ステロイドの、
2つの頻用されている組み合わせの優劣を、
直接検証した論文です。

臨床に直結した有用なデータではあるのですが、
少しずつ条件を変えて、
色々な製剤を色々ややり方で比較した研究が沢山あり、
それぞれの結果がまた微妙に違っているので、
直接患者さんに処方する臨床医の端くれとしては、
データが出るだけまた悩ましい、
という面があります。

COPDは慢性閉塞性肺疾患のことで、
主には喫煙の継続によってもたらされる、
肺の慢性の変化を総称した用語です。
その中には肺気腫や慢性気管支炎などが含まれ、
炎症などによる悪化を繰り返しながら、
徐々に呼吸機能が低下して行くのが特徴です。

このCOPDと良く似ているのが気管支喘息で、
こちらはアレルギー性の炎症が気道に起こり、
治療により呼吸機能自体は、
正常な状態に改善することが特徴です。

しかし、実際には気道の感染を繰り返して、
呼吸機能も低下することはありますし、
COPDが喘息と似通った病態を、
同時に呈することも稀ではありません。

ほんの10年くらい前には、
気管支拡張剤も吸入のステロイド剤も、
どちらも気管支喘息の薬で、
COPDへの使用は推奨されてはいませんでした。

しかし、近年になりCOPDにも、
まず抗コリン剤と呼ばれる吸入剤が有用だ、
という話になり、
それから長時間作用型のβ2刺激剤という薬が、
有用だという話になりました。

そして、まだ議論はありますが、
吸入のステロイド剤も、
COPDに使用されるようになりました。

つまり、喘息治療薬の多くが、
COPDにもその有用性を認められるようになったのです。

この抗コリン剤とβ2刺激剤はいずれも気管支拡張剤で、
吸入ステロイドは気道の炎症を抑える薬です。

いずれの薬剤もその使用により、
COPDの患者さんの息切れなどの症状を改善し、
急性増悪と呼ばれる一時的な状態の悪化を、
抑制する作用があるとされています。

しかし、患者さんの生命予後を改善したり、
呼吸機能の悪化を抑制したりする効果があるのかについては、
まだ明確な結論が得られていません。

シンプルに言えば、
COPDというのは進行性の病気なのですが、
その進行を明確に止めるような薬は、
未だ存在していないのです。
現状の薬の効果は、
あくまで症状の緩和と、
急性増悪の予防とに限られています。

COPDの患者さんが息切れなどの症状を訴えれば、
医者はまず3種類の吸入薬のうちどれかを開始します。

そして単剤の治療で不充分であれば、
もう1種類、更にもう1種類と薬が上乗せされることになります。

実際に製薬会社はこの3種類のうちの2種類を、
組み合わせた合剤を発売していて、
それが臨床で広く使用されているのです。

COPDによる症状が重度であれば、
3種類の薬全てが使用されることもあります。

この場合ガイドラインによれば、
最後に上乗せされるのは吸入ステロイドです。

現行のGOLDと呼ばれる国際的なガイドラインでは、
COPDで急性増悪のリスクのある患者さんでは、
第一選択の治療は、
持続型のβ2刺激剤と吸入ステロイドの合剤か、
もしくは持続性の抗コリン剤の吸入のいずれかとなっています。

ただ、現在β2刺激剤とステロイドの合剤以外に、
持続性のβ2刺激剤(LABA)と、
持続性の抗コリン剤(LAMA)の合剤の吸入薬が、
発売され使用されているのですが、
比較的重症で単剤の吸入でコントロールの困難な患者さんに対して、
そのうちのどちらがより有用であるのか、
という直接比較のデータはまだ限られています。

そこで今回の研究では、
比較的重症のCOPDの患者さんに対して、
吸入ステロイドとβ2刺激剤の合剤と、
持続性のβ2刺激剤と抗コリン剤の合剤の、
直接比較を行なっています。

使用されているのは、
吸入ステロイドとβ2刺激剤の合剤としては、
サルメテロール50μgとフルチカゾン500μgを1日2回吸入する、
というもので、これはグラクソ社の製品で、
日本での商品名はアドエア500です。

持続型β2刺激剤と抗コリン剤の合剤は、
インデカロール110μgとグリコピロニウム50μを1日1回吸入する、
というもので、これはノバルティス社の製品で、
日本での商品名はウルティブロです。

要するにこの試験は、
アドエア500とウルティブロの直接比較試験です。

対象者は1年以内に急性増悪を1回以上起こした、
COPDの患者さんで、
患者さんにも主治医にも分からないように、
ウルティブロの吸入群とアドエア500吸入群とに分け、
52週間の経過観察をしています。

吸入薬のタイプは違うのですが、
偽の吸入器を2種類用意して、
どちらが使われているのかが、
分からないようにするのです。

患者さんはウルティブロ群が1680名、
アドエア500群が1682名です。

その結果…

アドエア500群と比較して、
ウルティブロ吸入群では観察期間中の急性増悪は、
11%減少していました。
両群の比較としては、
ウルティブロの非劣性ばかりでなく、
優位性が認められたという結果です。

もう1つのポイントは、
血液の好酸球数2%以上であるかどうかで、
その効果の比較をしていることで、
結果は特に差は認められませんでした。

こうしたサブ解析を行なっているのは、
COPDにおいても、
好酸球数が多いケースでは、
アレルギー性の炎症の関与があり、
より吸入ステロイドの有用性が高かった、
というデータが報告されているからです。

吸入ステロイドの使用において、
有害事象として問題になるのは、
肺炎のような感染症のリスクの増加ですが、
今回のデータではウルティブロ群の肺炎の発症率が、
3.2%であったのに対して、
アドエア500群では4.8%と、
吸入ステロイド群で肺炎の発症率は増加していました。

今回のデータにおいては、
特に急性増悪のリスクの高いCOPDの患者さんでは、
血液の好酸球数には関わらず、
アドエア500よりウルティブロの方が、
急性増悪の抑制効果は高く、
肺炎のリスクはアドエア500群の方が高くなっていました。

ただ、この結果は敢くまで急性増悪の発症率のみを見ているものなので、
実際に生命予後を含めて、
トータルに患者さんにウルティブロの方がメリットがあるかどうかは、
まだ現時点では分かりません。

ただ、COPDに対しては、
吸入ステロイドの使用、特に高用量での使用は、
これまで以上に慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

新規抗血小板剤チカグレロルの脳卒中予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
チカグレロルの脳卒中予防効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
チカグレロルという新規抗血小板剤と、アスピリンを、
軽症の脳卒中の二次予防に使用して比較検証した論文です。

脳を栄養する血管が閉塞する脳梗塞や、
一時的に閉塞して開通する、
一過性脳虚血発作(TIA)は、
一旦そうした症状が起こると、
その後90日以内では高率に再発することが知られています。

そのため、発作は軽症であっても、
再発予防のために、
通常抗血小板剤というタイプの薬が使用されます。

この目的で、最も広く使用されているのは、
1日50から325ミリグラムという、
低用量のアスピリンです。

ただ、このアスピリンの効果は、
必ずしも満足のゆくものではありません。

発作後90日間の再発率は、
アスピリンを使用していても、
全体の10から15%に発生していて、
再発は22%しか抑制されていない、
というデータが報告されています。

その一方でアスピリンには、
消化管出血などの出血系の合併症があり、
そのリスクは1.5から3.1倍と報告されています。

抗血小板剤としては、
アスピリン以外にクロピドグレル(商品名プラビックス)や、
シロスタゾール(商品名プレタール)などがありますが、
明確にアスピリンより再発予防に有用であった、
というデータはあまり得られていません。

2010年の「Lancet Neurology」誌に掲載された、
日本人を対象とした臨床研究では、
シロスタゾールはアスピリンとの比較において、
同等かやや高い再発予防効果があり、
出血系の合併症はアスピリンの半分程度に抑制されていた、
という結果になっています。

シロスタゾールは日本開発の薬で、
日本人のデータが比較的豊富なことより、
日本では脳卒中の再発予防としては広く使用されています。

ただ、脈拍を上げ心臓にはやや負担を掛けるという欠点があり、
海外ではアスピリンやクロピドグレルの方が、
より多く使用されています。

今回の研究でアスピリンと比較されているチカグレロルは、
P2Y12受容体に直接作用して血小板の働きを阻害するという、
新しいタイプの抗血小板剤で、
肝臓の代謝酵素などの影響を受けず、
内服後30分以内に抗血小板作用が出現するなどの特徴があります。

アメリカやヨーロッパでは、
急性冠症候群の予後改善や再発予防に、
その効果が確認され使用されていますが、
日本での臨床試験では、
有効性が確認されなかったことなどもあり、
まだ承認はされていません。

今回の臨床試験においては、
現時点で明確ではないチカグレロルの、
脳卒中に対する二次予防効果を、
アスピリンとの直接比較で検証しています。

対象は世界33ヵ国の674の専門施設において、
比較的軽症の脳梗塞もしくは一過性脳虚血発作を来たした、
トータル13199名の患者さんを、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分け、
一方はアスピリンを使用し、
もう一方はチカグレロルを使用して、
発作後90日間の経過観察を行なっています。
心房細動などによる心原性の脳梗塞は、
抗凝固剤の適応となるため除外されています。

その結果…

初回発作から90日以内の、
脳卒中の再発、急性心筋梗塞、もしくは死亡は、
アスピリン群では全体の7.5%に当たる497名に発症した一方、
チカグレロル群では全体の6.7%に当たる442名に発症していました。
わずかな差はあるようにも見えますが、
統計的には両群に有意差はついていません。
致死的な出血は両群とも0.1%に見られていて、
重篤な出血も0.5から0.6%で差はついていません。

つまり、
アスピリンと比較して特にチカグレロルの優位性は示されなかった、
という結果です。

現状日本での対応として、
心原性以外の脳梗塞後の再発予防としては、
アスピリンもしくはシロスタゾールを、
心機能などの問題があればアスピリンを、
消化管出血や出血性梗塞のリスクが高ければシロスタゾールを、
というように、個々の患者さんの状態に合わせて、
選択することが妥当だと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

Wけんじ企画「ザ・レジスタンス、抵抗」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
レジスタンス抵抗.jpg
城山羊の会の山内ケンジさんが作・演出を務め、
同名の青年団の山内健司さんが主役を務めた、
城山羊の会の番外公演的なWケンジ企画の公演が、
駒場アゴラ劇場で先日上演されました。

城山羊の会は昨年、
「仲直りするために果物を」という作品を観たのですが、
まったりとしたテンポで、
即物的な暴力描写の連続する、
あまり趣味が良いとは言いにくい作品で、
僕は好みではありませんでした。

しかし、今回は安部公房を思わせる不条理な世界で、
適度にエロチックで、
適度にユーモラスでふざけていて、
通常の起承転結を無視した自由奔放な展開の中に、
「息の詰まるような時代の空気」のようなものを、
濃厚に漂わせた快作で、
非常に感心しましたし、
ワクワクしながら全編を観通すことが出来ました。

とても面白かったです。

以下ネタバレを含む感想です。

舞台はホテルの寝室のようなビジュアルで、
背景の壁にはルソーの密林の絵画が、
かなり緻密に描かれています。

主人公は山内健司さんが演じる、
大手の自動車メーカーの部長で、
同年代の妻と1人の大学生くらいの息子と一緒に暮らしています。
彼には会社に愛人がいて、
最近EDに悩んでいて、
会社ではドイツの親会社の不祥事の処理と、
年下の部下とのコミュニケーションギャップに悩んでいます。

それなりに会社でも家庭でも、
成功者であり権力者でもある筈なのですが、
どうも将来を見通せない得体の知れない空気のようなものが、
彼の心を蝕んでいて、
漠とした不安の中、
ある種の妄想に引き込まれてゆきます。

物語は自宅の寝室で、
主人公が妻と寝ているところから始まり、
成就することなくセックスは終わってしまいます。
そのまま舞台転換をすることなく、
舞台は主人公と会社の若い愛人との情事になり、
それからまた会社や病院へと、
背景はそのままに移行してゆきます。

要するに、主人公の半覚醒の、
意識の流れを舞台はたどっているようで、
エッチな妄想が浮かぶと、
それが現実の場面でも、
そのままに拡散されてゆきます。

この感じが独特で面白く、
適度にエロチックでシュールな妄想は、
安部公房の舞台やフェリーニの「女の都」などの映画を彷彿とさせます。

主人公はEDの治療のために病院を訪れますが、
対応した女医は奇怪なカウンセリングのようなものに興じていて、
主人公の役には立ってくれません。
そのうちに、妻は偶然出逢った同級生の医者と不倫旅行に出掛け、
息子はゲイであることをカミングアウトして、
海外に旅立ってしまいます。

作品のテーマはおそらく、
今の社会の持つ先の見えない重苦しさのようなもので、
それを明確に語ることなく、
この社会での成功者である筈の中年男の、
性への不安の中に曖昧に描いた構成が巧みです。

原発やデモ、政府への不満などが、
ちょこちょこと語られるのですが、
これは余計であったように個人的には思いました。

モヤモヤはモヤモヤのままであった方が、
より普遍的になるように思うからです。

キャストは皆好演で、
演出の意図に良く応えていたと思います。
ただ、エロチックなシーンや濡れ場については、
個人的にはもっと露出があっても良いように思います。
別に無理にヌードになる必要はないと思うのですが、
こうした作品で、エロスが1つのテーマであるのに、
消極的な描き方しかしないのであれば、
逆に不自然に感じてしまうからです。

時代の空気を写し取るというのは、
演劇にとって非常に重要な意義があり、
観客にとっても、
それだけで観る価値があると、
感じられるものではないかと思います。

変な自己主張やアジテーションをするのではなく、
人物画ではなく風景画や抽象画のような芝居が、
もっとあって良いように思いましたし、
今回は非常に新鮮に感じました。
その意図を明確に表していたのが、
背景の密林の絵画で、
こうした演出と装置と物語とが一体化したような瞬間に立ち会うと、
演劇の愉楽のようなものを感じるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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