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若者の心臓突然死は予防出来るのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
若者の突然死の予防.jpg
いつも辛辣で示唆の富む記事の多い、
British Medical Journal誌の今年の解説記事ですが、
若いスポーツ選手の心臓突然死が、
事前に検診で予防可能か、
という問題を扱っています。

対象となっているのはスポーツ選手(アマチュアを含む)ですが、
取り上げられている問題自体は、
若い世代全体に共通するものです。

つい先日も芸能人の方が、
おそらくは心臓の突然の停止により、
死亡されたというニュースがありました。
その方は40代ですが、
20代でもこうした事例はあります。

心臓の病気は通常は中年以降に発症するものか、
生まれつきの症状があるものが殆どですが、
稀に運動中などに、
突然心臓が停止することにより、
発症するものがあります。

マラソンの最中に若者が突然死するようなケースは、
毎年報告されていますし、
サッカー選手が練習中に心臓発作を起こして、
還らぬ人になった、
というような事例も報道されました。

こうした事例というのは、
実際にはどのくらいあるものなのでしょうか?

一般人口の0.3%では、
場合によっては心臓突然死に結び付くような、
先天性と後天性の双方を含む心臓病を持っていると考えられます。
しかし、実際にはその殆どは症状のないままに一生を終え、
ごく一部が眩暈や意識消失などの症状から、
精査を受け診断されます。

そうした病気を持つアスリートのうち、
1%程度が、心臓突然死を来して初めて、
そうした病気の可能性を疑われることになるのです。

本当に安静時より運動時に心臓突然死が多いことを示す、
正確なデータは存在していませんが、
運動がそうした発作の引き金になることは、
経験則としては信じられています。

若いアスリートにおける心臓突然死の頻度については、
正確な統計はありません。
最近のイギリスの推計では、
12歳から35歳のアスリートにおける年間の心臓突然死の発症率は、
10万人に1人程度とされています。

それでは、
運動の前に健康チェックや心臓の検査などを行なうことにより、
こうした若いアスリートの心臓突然死を、
予防することは可能なのでしょうか?

一般の方の感覚から言うと、
検診というのは病気を未然に防ぐために行うのですから、
心臓関連の検査を事前に行えば、
当然突然死は予防されるように思います。

ただ、実際にどのような病気が原因で、
心臓突然死が起こるのかを考えると、
そう簡単ではないように思います。

突然死の原因として想定されるのは、
重篤な不整脈の発作や、
肥大型心筋症、
先天性の血管の異常に基づく心筋梗塞、
冠動脈の何等かの要因による高度の攣縮などですが、
そのいずれもが、
安静時の心電図検査や問診などの簡単な検査では、
特定が困難なものばかりです。

比較的同定が簡単なのは、
肥大型心筋症だと思いますが、
軽度のものはスポーツ心臓による変化と、
見分けることは困難ですから、
検診によって肥大型心筋症を振り分ける、
ということになると、
実際には問題のない多くのアスリートが、
運動を制限されるような事態になってしまいます。

前述のように、
こうした病気があっても、
それが心臓突然死に結び付くのは、
そのうちの極少数に過ぎないので、
検診を事前に導入することが、
正しいとはとても言えないのです。

健診で心臓突然死が予防可能かどうかを、
厳密に検証するには、
事前健診をした場合としない場合とで、
その後の病気の発症を比較するような介入試験が必要ですが、
実際にはそうした試験はこれまで行われていません。

健診の導入前後で発症が減ったかどうか、
というような時間的な比較のデータしかないのですが、
そうした研究結果として、
唯一肯定的な結果が報告されているのは、
イタリアのヴェネト州で、
1979年から26年に渡り行われた、
若いアスリートに対する強制的な検診の効果です。

これは12誘導の心電図を計測することにより、
10万人当たり3.6件の心臓突然死が、
10万人当たり0.4件に低下した、
というデータです。
何と心臓突然死が9割近く低下した、
というちょっと信じられないような結果です。

ただ、このデータについては、
検診施行前の発症率が、
極めて少数例の報告から計算されたもので、
高く見積もられ過ぎているのではないか、
という疑念があり、
またデータもその全てが開示されていないなど、
欧米の専門家から多くの疑義が呈されています。

このデータ以外の同様の検討では、
欧米の各地域において、
こうした検診の効果は確認されていません。

従って現状では、
症状のない対象に対して、
心臓の検診を行なうことにより、
突然死が予防されるとは、
考えない方が妥当なようです。

以前ご紹介したように、
成人の突然死のケースでは、
死に至るような発作の前に、
胸痛や動悸などの何らかの前兆のあることが多く、
その時点で救急受診など対応していると、
突然死のリスクが低下する、
という報告があります。

現時点では、
症状がないのに色々と検査を積み重ねるよりは、
体調に無理のない運動を行い、
胸痛などの症状が出現した場合に、
速やかに対応することが、
最善の予防法のように思います。

これは結果論になりますが、
前述の芸能人のケースでも、
突然死の同日に胸痛が認められていたようで、
矢張りそうしたケースで、
すぐに対応することが、
現状では最も大切なことのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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