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抗コリン剤による認知症リスクと脳の変化について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗コリン剤の脳機能低下のメカニズム.jpg
今月のJAMA Neurology誌に掲載された、
抗コリン剤という薬の高齢者での使用と、
それによる脳の機能低下のリスクを検証した論文です。

抗コリン作用と言うのは、
副交感神経に代表される、
アセチルコリン作動性神経の働きを抑えるというもので、
非常に多くの薬剤がこの作用を持っています。

その中には抗コリン作用そのものが、
薬の効果であるものもありますし、
副作用として抗コリン作用を持つものもあります。

アセチルコリン作動性神経により、
胃や気管支、膀胱などの平滑筋は収縮しますから、
胃痙攣を抑える目的で使用されたり、
気管支拡張剤として、
また過活動性膀胱の治療薬として使用されます。
パーキンソン症候群の補助的な治療薬として、
使用されることもあります。

その一方で、
鼻水や痒みを止める抗ヒスタミン剤や、
抗うつ剤や抗精神薬は、
副作用としての抗コリン作用を持っています。

この抗コリン作用は基本的に末梢神経のものですが、
脳への作用も皆無ではありません。

一方で認知症では脳のアセチルコリン作動性神経の障害が、
早期に起こると考えられています。

そのために、
現在認知症の進行抑制目的で使用されている、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)は、
脳内のアセチルコリンを増やす作用の薬です。

抗コリン剤はアセチルコリン作動性神経を抑制する薬ですから、
これがそのまま脳に働けば、
脳のアセチルコリン作動性神経の働きを弱め、
認知症のような症状を出すであろうことは、
当然想定されるところです。

実際に高齢者に抗コリン剤を使用することにより、
せん妄状態や、記憶障害や注意力の障害など、
認知症様の症状が急性に見られることは、
良く知られた事実です。

通常こうした急性の症状は、
薬剤の中止により回復する、
一時的なものと考えられています。

しかし、
高齢者が長期間こうした薬剤を使用している場合はどうでしょうか?

それが認知症の発症に繋がるようなことはないのでしょうか?

この点については、
あまり長期間の観察を行なったようなデータが、
これまで存在していませんでした。

それが2015年のJAMA Internal Medicine誌に注目すべきデータが掲載されました。
その時点でブログ記事にしています。

文献ではアメリカにおいて、
高齢者の大規模な健康調査のデータを活用することにより、
抗コリン剤の長期処方と、
認知症の発症との関連を検証しています。

65歳以上の認知症のない高齢者、
3434名を登録し、
平均で7.3年間の経過観察を施行。
その間に23.2%に当たる797名の方が認知症を発症し、
そのうちの637名はアルツハイマー病(疑いを含む)と判断されました。

この間の処方箋から、
抗コリン剤の使用を調査すると、
最も使用されていたのは、
風邪薬や花粉症、めまいや酔い止めなどとして処方される、
抗ヒスタミン剤で、
全体の64.8%に当たる2224名が処方されていました。
一度でもこうした薬を飲めばカウントされるのですから、
これでも少ないくらいかも知れません。
次に多かったのは、
ブチルスコポラミン(商品名ブスコパンなど)のような筋痙攣の治療剤で、
45.6%に当たる1566名、
3番目に多かったのはめまい止めでした。
しかし、過活動性膀胱の治療薬や、抗うつ剤の処方も、
少なからず認められました。

合算の投薬量毎に認知症の発症率を見ると、
年齢などで補正した数値として、
最も多い3年以上毎日常用量を使用した患者さんにおいては、
認知症全体の発症リスクが1.54倍(1.21から1.96)、
アルツハイマー病の発症リスクが1.63倍(1.24から2.14)、
有意に増加していました。
必ずしも薬剤の種別による違いは認められず、
用量的には合算で3ヶ月未満ではリスクの増加はなく、
それを超えるとやや傾向としては認められ、
3年以上で初めて有意になる、
という結果でした。

つまり、
65歳以上の高齢者が、
3年以上常用量の抗コリン作用のある薬を使用すると、
その薬の種別に関わらず、
認知症のリスクの増加が生じる可能性がある、
ということになります。

これはたとえば2種類のそうした薬剤を使用していれば、
1年半でも同様のリスクが生じる可能性がある、
という意味合いです。

さて、このように疫学データからは、
抗コリン剤の高齢者への使用により、
認知症のリスクが高まる可能性が示唆されました。

ただ、これはまだこの時点では、
統計的に薬の使用と病気との間に関連があった、
という知見に過ぎないものです。

これが事実であるとするなら、
抗コリン剤を使用し続けることにより、
脳の機能や形態に、
それに伴った変化が起こっている、
ということになります。

それはどのような変化なのでしょうか?

今回研究では、
認知症についての高齢者の2つの疫学データを活用して、
機能性MRIやブドウ糖の脳への取り込みを見るPET検査、
そして認知機能検査などの変化と、
抗コリン剤の使用との関連性を検証しています。

その結果…

抗コリン剤を使用していると、
平均32ヶ月程度の観察期間において、
記憶再生などの脳機能は低下し、
両側の海馬のブドウ糖の取り込みも低下。
MRIの詳細な解析において、
総脳皮質容積と側頭葉の皮質厚が減少。
側頭室の増大を認めました。

勿論観察期間はそれほど長くはありませんから、
有意とは言えその変化は極軽度のものです。

ただ、それでも抗コリン剤の使用により、
おそらくは脳内のアセチルコリンの低下が、
脳の機能に悪影響を与える可能性は無視出来ません。

それでは、今回の研究で対象となっている抗コリン剤は、
具体的にどのようなものなのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
抗コリン剤の使用薬剤の表.jpg
アトロピンや抗ヒスタミン剤のクロルフェニラミンは当然ですが、
ソリフェナシン(ベシケア)、トルテロジン(デトルシトール)といった、
比較的新しいタイプで、
高齢者に頻用されている、
過活動性膀胱や排尿障害の治療薬が、
多く含まれている点は、
重く受け止める必要があると思います。

ただ、COPDや喘息に使用されている、
吸入の抗コリン剤は含まれていません。
従って、現時点では経口薬と同一視はするべきではないと思います。

高齢者への抗コリン剤の内服薬の使用は、
色々な意味で問題があり、
今後は必要な短期間に、
限定する必要があるのではないでしょうか?

最後に補足ですが、
現状65歳以上で抗コリン剤を継続的に使用されている方は、
決して自分のみの判断で中断はせず、
主治医の先生にご相談をして下さい。
海外でも処方が全て中止されている、
という訳ではなく、
これは1つの注意喚起としての意味合いが大きい知見なので、
個々の患者さんの状態によって、
継続が望ましい場合も当然あると思います。
どうかその点は、
ご配慮の上注意深くお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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