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鴻上尚史「イントレランスの祭」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
イントレランスの祭.jpg
鴻上尚史さんのKOKAMI@networkとしての公演が、
今新宿のスペース・ゼロで上演中です。
一旦本日で終演ですが、
大阪を廻って、連休には再び東京公演があります。

鴻上さんは「偉大なる素人」というタイプの劇作家ですが、
切れ目なく活動を続けながら、
矢張り乗っている時期とそうでない時とがあると思います。

全てを観ているという訳ではないのですが、
昨年の「ベター・ハーフ」は定番の懐かしさはちゃんとありながら、
新たな方向に切り込んだ意欲的な作品でした。
主演の風間俊介さんとの相性も非常に良かったと思いましたし、
次が楽しみになりました。

今回は作品は2012年の再演ですが、
再び風間俊介さんと組み、
盟友の大高洋夫さんに、
久ヶ沢徹、藤田記子、福田転球という、
曲者役者に若手が絡むという、
かなり魅力的な布陣です。

内容も鴻上さんなりに、
今の日本の問題に真正面から切り込む、
という感じのものになっていて、
本当に大丈夫なの、
と心配になるようなところもあるのですが、
その怖いもの知らずな感じも、
さすが鴻上さんという感じがあります。

それでいてラストは、
いつもの第三舞台の感じに着地します。

勿論不満もあるのですが、
間違いなく鴻上さんが全力投球した1本で、
演出も意外に新しいことに取り組んでいます。
端役までキャラが立っていて、
かつての定番の恋愛ネタなどが、
復活している感じも嬉しいのです。

いつもロビーにいる鴻上さんに、
実際にはしませんでしたが、
初めて「良かったです」と、
声を掛けたくなりました。

何処を切っても鴻上さんという純度の高い芝居として、
まずはお薦めしたいと思います。

ただ、物語についての感想は、
観る人によってもかなり違うと思います。

以下少しネタバレがあります。

日本に10万人規模の宇宙人が亡命して来て、
人間のモデルのコピーとして、
政府公認で生活をしているという架空の日本が舞台です。

宇宙人は見かけは人間と変わりないのですが、
戸籍を見ればそうかどうかは確認出来るので、
有形無形の差別を受けています。

主人公の風間俊介さんは、
売れないストリート・アーティストなのですが、
同棲している岡本玲さん演じる女性は、
実は宇宙人で、
しかも宇宙人の女王の継承者です。

久ヶ沢徹さんが代表の、
日本から宇宙人を追い出そうとする団体があり、
宇宙人の差別意識が高まっていることに憂いた、
大高洋夫さん演じる宇宙人の団体のリーダーは、
岡本さんが女王に即位してそれを公表することにより、
宇宙人への差別をなくそうと考えて、
岡本さんに女王即位を促すのですが、
風間さんとのささやかな幸せが、
それで崩れることを岡本さんは危惧しています。

ここまでは、
あまりに宇宙人が在日外国人そのものなので、
宇宙人という設定自体が作家の逃げのように感じられて、
話に乗れなかったのですが、
岡本玲さん扮する女性が、
緊張の緩みにより藤田記子さんの外見に変貌する、
という仕掛けが加わって、
物語は一気に膨らみを増します。

風間さん扮する主人公は、
彼女が宇宙人であると知っても、
差別するという意識は生じないのですが、
彼女の外見が変貌すると、
中身は同じでも素直に愛することが出来なくなります。

差別意識というのは、
単独の事象に対して存在するものではなく、
もっと本質的な心の動きであって、
それを可視化させて考えてゆくことこそ、
それに立ち向かう第一歩なのです。

宇宙人排斥の団体と宇宙人の組織との対立を、
福田転球さん演じるテレビディレクターが煽り、
自体は衝突のギリギリまで追い込まれるのですが、
風間さんはそこで「泣いた赤鬼」的な手法で、
何とか危機を回避します。

物語にはかなり甘いところもあります。

ただ、単純な善悪でキャラクターを分けることなく、
双方を魅力的で複雑な存在として描いている姿勢に、
非常に好感が持てますし、
鴻上さんの筆の成熟を見る思いがします。

たとえば、久ヶ沢さんが演じる、
特撮ヒーローフェチでコスプレの宇宙人差別主義者は、
お弁当屋のバイトをしている宇宙人の岡本さんに、
ロマンチックな恋心を抱いていて、
彼女が宇宙人だと分かっても、
その愛情を捨てることが出来ません。
彼を思う早織さん演じる女闘士の謀略で、
宇宙人が虐殺をしていたというでっち上げに加担しようとしますが、
嘘を吐いてまで宇宙人を追い込むことには、
躊躇する心根を持っています。
要するに、色分けは悪役ですが、
単純な悪党にはしていません。

メディアの負の側面を体現している福田転球さんのディレクターは、
自らも日本人から差別される境遇でありながら、
宇宙人と地球人との対決を、
煽るような行動に出て恥じるところがありません。
それでいて、情に厚い面もあり、
立場により分け隔てしない心根を持っています。

善悪の区別なく全てのキャラを弱い存在として魅力的に描き、
そうした人々が共存する世界を是としているところに、
素直に共感出来る部分があるのです。

役者は皆好演で、
主役の風間さんは、
多分相当鴻上さんと相性が良いのだと思います。
鴻上さんの思いを素直に体現して好感が持てます。
久ヶ沢さんと福田さんの怪演は、
舞台の質を大きく高めていますし、
若手もそれぞれに過不足のない演技とアンサンブルを見せていました。

演出は再三舞台仕込みの、
ミュージカル風の展開も良いですし、
痴話喧嘩の表現などは懐かしいタッチが健在です。
それでいて、
キャラと同じ顔の人形に映像でしゃべらせたり、
ラストは一旦舞い降りた紙吹雪を、
逆に上空に巻き上げるなど、
結構新しいことをやっている点も意欲を感じました。

テーマはきわどい部分があり、
その理解も十全とは言えない気もします。
ただ、如何にも鴻上さんという切り込みと仕上げをした力作で、
一見の価値は充分にあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

(付記)
何となく新作と思っていたのですが、
虚構の劇団の2012年作の再演でしたね。
記述を少し直しました。
(2015年4月26日午後10時)
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