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水痘ワクチンによる帯状疱疹の予防について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

先月水ぼうそう(水痘)ワクチンの添付文書が改訂され、
承認事項の一部変更という形で、
水痘ワクチンを、
高齢者の帯状疱疹予防ワクチンとして使用する、
という使用法が正式に認可されました。

水ぼうそうのワクチンが、
帯状疱疹の予防に効く、という話は、
テレビなどでも再三紹介されていましたから、
朗報と感じられた方も多いのではないかと思います。

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こします。

通常水ぼうそうのウイルスに感染したことがあるかどうかは、
血液の抗体の上昇で判断し、
抗体が上昇していれば、
再び水ぼうそうに感染することはないのですが、
身体に潜んでいるウイルスが、
帯状疱疹という形で再燃することは、
抗体が陽性であっても起こり得るのです。

水ぼうそう自体の予防は、
抗体があれば充分ですが、
帯状疱疹の予防には、
このウイルスの抗原に反応する、
CD4陽性のTリンパ球という、
免疫細胞の産生が必要と考えられています。

水ぼうそうに罹ってしばらくの間は、
こうした細胞も多く存在しているので、
帯状疱疹は予防されているのですが、
時間が経つと次第にその数は減り、
年齢と共にその産生能自体も低下するので、
帯状疱疹が発症し易くなる、
という理屈です。

さて、帯状疱疹を予防するには、
抗原刺激を与えて、
それに反応するリンパ球が増えれば良いということになります。

その方法として、
通常考えられるのはワクチンの接種です。

水痘ワクチンは生ワクチンで、
このウイルスを弱毒化したそのものです。

通常小さなお子さんに2回接種して、
水ぼうそう自体を予防することを目的としています。

それでは、
このワクチンを大人に打てば、
免疫は再び賦活され、
帯状疱疹が予防されるのではないでしょうか?

この目的で国産のワクチンより、
基準値としては10倍以上多い力価を持つワクチンが、
帯状疱疹予防用に開発され、
アメリカにおいて大規模な臨床試験が行われました。
商品名はZOSTAVAXです。
その結果は2005年のNew England…誌に発表されています。
(一部データはその後に発表)
それによると、
50から59歳の年齢層においては、
帯状疱疹用の強化水痘ワクチンの1回接種によって、
帯状疱疹の発症が70%抑制され、
60から69歳では64%、
70歳以上では38%の抑制が認められた、
という結果になっています。
打った場所の腫れや痛み以外には、
目立った副反応は見られていません。
ワクチンの有効性は接種後10年は維持されますが、
発症の抑制が有意に確認されているのは、
8年までというデータがあります。

このように、
強化水痘ワクチンを接種することによって、
ある程度の細胞性免疫の賦活が起こり、
帯状疱疹の発症が、
一定レベル予防されることは間違いがありません。

ただ、数字を見て頂くと分かるように、
満足の行く効果とは言えません。

日本においても1990年代の早い時期に、
国産の水痘ワクチンを高齢者に接種した場合、
50から69歳で約90%、
70歳以上で約85%で、
接種による細胞性免疫の上昇が認められた、
という研究結果が報告されています。

しかし、これは敢くまで細胞性免疫に動きがあった、
というだけのもので、
それが帯状疱疹の予防に充分なレベルであるのかを、
実際に確認しているものではありません。

日本の文献には国産の水痘ワクチンの力価は、
欧米の帯状疱疹予防用の物より、
基準値としては低いけれど、
実際にはその力価はかなり幅のあるものなので、
平均するとほぼ同等の効果が期待出来る、
という記載が多く見られ、
今回改訂された添付文書においても、
海外の帯状疱疹予防ワクチンと同等のもの、
という考えから、
臨床的な有効性のデータは、
海外データがそのまま引用されています。
しかし、直接比較をして効果を検証しているものではないので、
その真偽は定かではありません。

要するに、
国産のワクチンを帯状疱疹予防に使用しても、
有効であるかどうかの、
精度の高いデータは存在していないのです。

今回日本においては、
通常の水痘ワクチンが、
そのまま帯状疱疹にも適応拡大となった訳ですが、
その改訂された添付文書を読む限り、
臨床成績として引用された、
帯状疱疹予防としての効果のデータは、
上記の高齢者の細胞性免疫の上昇を確認したもののみです。

おそらく小規模な臨床試験は行われていると思いますが、
一般に公開されているものではないようです。
大規模な試験や、
実際に帯状疱疹がどの程度予防されたのかを確認したような臨床試験は、
行なわれていないと思います。
(もし事実誤認であればご指摘をお願いします)

さて、前述の海外データでも分かるように、
水痘の生ワクチンを高齢者に使用した場合、
その効果は高齢になるほど減弱し、
70歳以降での接種の意義はあまり大きいとは言えません。
また、生ワクチンという性質上、
高度に免疫の低下した患者さんや、
骨髄幹細胞移植後の患者さんなどは禁忌となっています。

そこでより効果が高く、
高齢者や免疫の低下した患者さんにも、
使用の可能なワクチンの開発が進められました。

その第3相臨床試験の結果が2015年のNew England…誌に掲載されました。
これはその時点で記事にしています。

使用されたワクチンは、
グラクソ社のもので、
HZ/suワクチンと命名されています。

これは水痘・帯状疱疹ウイルスの一部の糖蛋白抗原に、
細胞性免疫の強い増強作用のある、
AS01Bという免疫増強剤(アジュバント)を添加したものです。

このワクチンを2ヶ月間隔で、
2回筋肉注射をして、
その後平均で3.2年の経過観察を行ない、
その間の帯状疱疹の発症を、
偽ワクチン接種群と比較しています。

トータルの事例数は年齢50歳以上の15411例で、
それを7698例のワクチン接種群と、
7713例の偽ワクチン群にくじ引きで振り分けます。

結果は全体と、
50から59歳、60から69歳、70歳以上という、
年齢毎に解析もされています。
これは勿論、
強化水痘生ワクチンの臨床試験の結果と比較するためです。

その結果…

トータルでは観察期間中に、
偽ワクチン群では210例(年間1000人当たり9.1例の発症率)
の帯状疱疹が発症したのに対して、
ワクチン接種群では6例(年間1000人当たり0.3例)に留まっていて、
ワクチンの有効率は97.2%(93.7から99.0)と算定されました。

これを年齢層毎に見ると、
50から59歳の有効率が96.6%、
60から69歳の有効率が97.4%、
70歳以上の有効率が97.9%で、
年齢に関わらずに高い有効率が維持されていることが分かります。

両群の有害事象の頻度は、
ワクチン接種群が高くなりましたが、
その多くは接種部位の腫れや痛みで、
自己免疫疾患の発症や死亡リスクなどについては、
両群で明らかな差は認められませんでした。

帯状疱疹の予防という観点では、
ここまで有効なワクチンはこれまでになく、
この結果はかなり画期的なものと言って良いと思います。

ただ、帯状疱疹自体が感染するものでもなく、
致死的な病気でもないので、
ワクチンの安全性については、
より慎重な検証が、
今後必要となるように思いました。

このように、
海外においては現時点でも、
かなり積極的に50歳以上の年齢における、
帯状疱疹予防のためのワクチンの接種が行われていますが、
使用されているワクチンは、
今回日本で適応が拡大されるものとは別物です。

それが抗原量を増やした強化型の水痘ワクチンと、
仮に同じ効果を持つと考えると、
50代においてその有効性は最も高く、
70代以降に関しては、
その効果はかなり限定的と考えた方が良いと思います。

日本の水痘ワクチンが、
本当にどの程度帯状疱疹を予防出来るのか、
精度の高い臨床試験による検証を、
是非とも期待したいと思いますが、
おそらく実現は難しいように思います。

もし予防効果がしっかりと検証されないのだとすれば、
効果がしっかりと確認をされている、
海外ワクチンを輸入して接種した方が良いのではないでしょうか?

日本でこのワクチンを帯状疱疹予防に接種される方は、
その安全性には大きな問題はないと思いますが、
その効果については、
明確な臨床的有効性が示されているのは、
海外の帯状疱疹予防専用ワクチンでのデータであり、
日本のワクチンに同等の効果があるかどうかは未知数である、
ということを、
事前に良く理解をした上で、
接種を検討されることが良いのではないかと思います。
その予防効果は、
最も有効性が期待される50代で、
70%程度かそれ以下と想定するのが妥当です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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