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原発性副甲状腺機能亢進症の治療方針と骨折リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
副甲状腺機能亢進症と骨粗鬆症.jpg
今月のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
原発性副甲状腺機能亢進症の治療が、
骨折リスクなどに与える影響についての論文です。

副甲状腺は首の甲状腺の裏側に2対4個存在している小さな腺組織で、
甲状腺とは別個に、
そこから副甲状腺ホルモン(PTH)という、
血液のカルシウム濃度を調整するホルモンが分泌されます。

PTHは血液のカルシウム濃度が低下すると、
それに刺激されて分泌され、
骨吸収が亢進してカルシウムが遊離。
また、活性化ビタミンDを増加させて、
カルシウムの吸収も促進させます。
これにより血液のカルシウムは増加し、
正常化すると、PTH分泌は抑制されるため、
血液のカルシウム濃度は一定に保たれる、
という仕組みです。

単純に考えると、PTHが増加すると、
骨は壊れて骨量は減少することになるのですが、
持続的な増加は確かにそうした影響を及ぼしながら、
逆に間欠的にPTHが分泌されると、
骨形成が促進されて骨量は増加する、
という不思議なメカニズムがあり、
それを利用して副甲状腺ホルモンの注射薬が、
骨粗鬆症の治療薬として使用されています。

さて、何等かの理由で副甲状腺が腫瘍化し、
血液のカルシウム濃度に関わらず、
持続的にPTHを大量に分泌するという病気があります。

これが原発性副甲状腺機能亢進症です。

重症の原発性副甲状腺機能亢進症になると、
血液のカルシウムは増加し、
骨吸収は亢進して骨量は減少。
尿には大量のカルシウムが排泄されるため、
腎結石が起こり易くなります。
カルシウム濃度の上昇は軽度であれば脱水症になり、
高度であれば、意識障害や痙攣発作を引き起こします。

その治療は、
基本的には腫瘍化した副甲状腺を切除する、
手術療法しかありません。

このように、重症の原発性副甲状腺機能亢進症は、
手術による治療が必要であることは間違いがないのですが、
より軽症の原発性副甲状腺機能亢進症をどうするか、
と言う点については、
それほど明確な方針が定まっている、という訳ではありません。

軽症の副甲状腺機能亢進症では、
血液のカルシウム濃度の上昇は、
軽度に留まります。
従って、脱水や痙攣、意識障害などの問題は起こりません。

カルシウムの尿中排泄も、
大量でなければ結石などの原因にはなりません。

そうなると健康に対する問題は、
骨吸収の亢進に伴う、
骨量の低下と骨折の増加という、
その1点のみということになるのです。

軽症の原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんは、
特に症状はありませんから、
患者さん自身も積極的に手術を希望する、
ということはあまりありません。
そのために、医療者の判断はより治療に消極的なものになりがちです。

欧米のガイドラインにおいては、
血液のカルシウム濃度が11.5mg/dLを超える場合、
24時間の尿中カルシウム排泄が400ミリグラムを超える場合、
骨量のTスコアが-2.5を下回るような低下を示している場合、
そして年齢が50歳未満の場合に、
症状のない原発性副甲状腺機能亢進症にも、
手術治療を考慮するべきだ、
という指針を発表しています。

ただ、実際には必ずしもこの指針が、
臨床で守られている、という訳ではありません。

骨塩の減少のみが問題となる場合には、
骨粗鬆症の治療に準じて、
ビスフォスフォネートなどの骨粗鬆症治療薬が、
使用されることがあります。
理屈から言えば、
骨吸収を抑えることにより、
骨減少症の進行予防や骨折の予防に、
一定の有効性は期待が出来そうです。

しかし、実際にはこの病気に対するビスフォスフォネートの効果が、
しっかりと検証されている、という訳ではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカの医療サービスのデータを活用して、
原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんが、
手術を行なった場合と、
経過観察のみを行った場合、
そしてビスフォスフォネートを使用した場合において、
その後の骨折リスクにどのような差が生じたのかを検証しています。

この場合の原発性副甲状腺機能亢進症は、
腎機能低下のない患者さんで、
血液のカルシウム濃度が10.5mg/dLを超え、
血液のPTHが65ng/dLを超えた場合と定義されています。

複数回の骨塩定量検査を行なった2013名の患者さんの解析では、
副甲状腺腫の切除を行なった女性の患者さんで、
その2年以内に骨量は4.2%増加し、
ビスフォスフォネートの治療を行なった女性の患者さんでは、
その2年以内に骨量は3.6%増加していましたが、
未治療では8年を超える経過において、
女性で6.6%、男性で7.6%骨量の低下が認められました。

骨折の有無のデータが存在している、
6272名の患者さんの解析では、
未治療の原発性副甲状腺機能亢進症において、
1000人当たり10年間に55.9件の大腿骨頸部骨折が発症したのに対して、
副甲状腺腫の切除を行なうとそれが20.4件に減少し、
その一方でビスフォスフォネートの治療は、
その頻度を85.5件とむしろ高めていました。

これを全ての部位の骨折で見ると、
矢張り10年間の患者1000人当たりの発生数で、
未治療が206.1件であるのに対して、
副甲状腺腫切除後では156.8件に減少し、
その一方でビスフォスフォネートの治療では、
骨折頻度は302.5件と増加していました。

副甲状腺腫切除術の骨折予防効果を、
骨塩量の数値毎に見てみると、
骨減少症や骨粗鬆症のように、
骨塩量が減少しているグループで、
よりその効果は著明に見られている一方、
そうした患者さんでビスフォスフォネートの骨折の増加も、
より認められていました。

実際にはガイドライン通りに手術が行われていた訳ではなく、
軽症で症状のない患者さんにも手術は行われていた一方、
手術適応の患者さんがビスフォスフォネートのみで治療されていたケースも、
多く認められていました。
しかし、ガイドラインに合致しているかいないに関わらず、
手術後の骨折リスクの低下は変わらず認められました。

要するに、
原発性副甲状腺機能亢進症に患者さんに対して、
手術により病的な副甲状腺腫を切除すると、
その後10年間の大腿骨頸部骨折のリスクを64%、
部位に関わらない骨折のリスクを24%、
有意に低下させる効果が期待出来ます。
その一方で骨粗鬆症の治療薬であるビスフォスフォネートは、
未治療と比較して骨折のリスクを低下させないばかりか、
むしろ増加させるという結果が得られています。

通常の骨粗鬆症であれば、
ビスフォスフォネートの使用により骨折リスクは減る筈ですが、
今回のデータでは、
患者さんの骨塩量が少ないほど、
よりビスフォスフォネートの悪影響も大きい、
という意外な結果になっています。

今回のデータは個々の患者さんの経過を追ったものではないので、
ビスフォスフォネートが原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんにとって、
有害であるとは決めつけられないのですが、
個人的にはその可能性はあるように思います。

通常の骨粗鬆症における骨の変化と、
原発性副甲状腺機能亢進症のそれでは、
骨組織の状態が異なっている可能性があり、
一方には良い薬が他方には悪いということは、
充分想定が出来ることであるからです。

現状の無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症に対する対応としては、
骨量の値と骨代謝マーカーの値を重視して、
骨量が正常範囲である間は、
経過観察で問題はありませんが、
減少傾向が明確になった時点では、
なるべく速やかに手術を検討するのが、
骨折予防のためには望ましい対応であり、
ビスフォスフォネートはこうしたケースでは、
使うべきではないと、
考えた方が良いように思います。

問題は骨粗鬆症と診断された事例においても、
副甲状腺機能亢進症の患者さんが紛れている可能性があることで、
ある程度の骨塩量低下のある患者さんでは、
矢張り一度は副甲状腺ホルモンの測定が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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