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スタチン治療困難ケースの治療選択について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチン使用困難患者の別個の治療.jpg
今月のJAMA誌にウェブ掲載された、
スタチンが使用困難な患者さんにおける、
コレステロール降下治療の選択肢を検証した論文です。

スタチンはコレステロールの合成を阻害する薬で、
動脈硬化に関連する病気の予防のためには、
最も有用な薬と考えられています。

従って、動脈硬化による病気を発症した方や、
発症はしていないけれどその危険性の高い方では、
スタチンを服用することにより、
その危険を軽減することが、
有効な治療として世界的に推奨されています。

しかし、スタチンは副作用や有害事象のない薬ではありません。
その中で最もその頻度が高いのは、
筋肉に関連する有害事象です。

スタチンを使用することにより、
筋肉の痛みや脱力などの症状が発症することがあります。
症状は使用開始時に出現することもあり、
また増量した時に発症することもあります。

上記文献に引用されている海外統計によれば、
その頻度はスタチン使用者の5から29%に認められています。

こうした筋肉関連症状の一部では、
血液中のCPKという、
筋肉逸脱酵素が上昇します。

その上昇は軽度に留まることが多いのですが、
更にそのうちのごくわずかでは、
CPKの上昇は高度になり、
横紋筋融解症と呼ばれる状態が生じることがあります。

医療者の中にも、
スタチンによる筋肉関連症状では、
必ずCPKが上昇すると、
認識されている方がいらっしゃいますが、
実際にはCPKの上昇がなくても、
スタチンにより誘発される筋肉痛などが存在していて、
スタチンの中止により改善し、
再投与により再燃する場合には、
スタチンによる筋肉関連症状と診断されます。

明確なスタチンによる筋肉関連症状があれば、
その程度にもよりますが、
スタチンの継続的な使用は困難となります。

問題はその患者さんのその後の治療をどうするかです。

現状の選択肢としては、
スタチンを少量もしくは隔日で使用して様子を見るか、
アゼチミブ(商品名ゼチーア)という、
コレステロールの吸収を抑える薬に変更する、
というのが主なものですが、
いずれの方法も、
スタチンの通常量と比較すると、
そのコレステロール降下作用は弱く、
充分な動脈硬化性疾患の予防効果は期待出来ない、
という欠点があります。

最近PCSK9阻害剤という、
新たなメカニズムのコレステロール降下剤が開発され、
日本でもその発売が秒読みの段階に入っています。

この薬は2から4週間に一度の注射薬で、
肝臓へのLDLコレステロールの取り込みを促進する、
というこれまでにないメカニズムの薬剤です。
その効果は概ね高用量のスタチンに相当し、
またスタチンへの上乗せ効果も認められています。

ただ、まだ長期の安全性は確立されていないことと、
臨床試験がスタチンへの上乗せのみで行われているので、
その適応は日本においても、
スタチンとの併用に限って認められるようです。

しかし、前述のように、
スタチンが筋肉関連の有害事象のため使用困難なケースでは、
PCSK9阻害剤に変更することが、
有望な選択肢として考えられるのです。

そこで今回の研究では、
スタチンを使用して筋肉関連の有害事象のため、
使用を中断することになった491名の患者に、
まずアトロバスタチンというスタチンの1日20ミリグラムか、
もしくは偽薬を、
患者にも主治医にも分からないようにくじ引きで使用し
(試験はクロスオーバーで行われています)、
結果として再び筋肉関連の有害事象が出現した患者に対して、
今度はエゼチミブの1日10ミリグラムと、
PCSK9阻害剤であるエボロクマブ(商品名レパーサ)を、
4週に一度420ミリグラム、
これも偽薬や偽の注射を使用して、
患者にも主治医にも分からないようにくじ引きで使用し、
24週間の経過観察を行なっています。

その結果…

まずスタチンが一旦筋肉系の有害事象で使用困難となった場合に、
少し時間を置いて再投与した結果ですが、
アトルバスタチン再投与群では、
その42.6%で筋肉系の症状が再発し、
その一方で偽薬では症状の出現はありませんでした。

次に筋肉系の有害事象の生じた患者さんに対して、
スタチンの代わりにエゼチミブとエボロクマブを使用した際の、
その効果と安全性についてですが、
エゼチミブでは平均でLDLコレステロールは16.7%低下し、
実際のコレステロールの低下量は平均で31.0mg/dlでした。
一方でエボロクマブ群では、
平均で54.5%LDLコレステロールは低下し、
実際のコレステロールの低下量は平均で102.9mg/dlでした。

筋肉痛などの筋肉系の有害事象の発症率は、
エゼチミブ群で28.8%、エボロクマブ群で20.7%に認められました。
ただ、CPKの上昇はエゼチミブ群で1例(1.4%)、
エボロクマブ群で4例(2.8%)のみで、
症状のための治療中断は、
エゼチミブ群で5例(6.8%)、
エボロクマブ群で1例(0.7%)のみでした。

この試験は偽薬を用いてくじ引きを行ない、
しかも本物の薬と偽物を交互に用いるという、
非常に厳密なスタイルのものです。

その結果分かったことは、
1つには筋肉系の有害事象というのは、
別に気のせいのようなものではなく、
CPKの上昇を伴わなくても、
再現性のある症状だ、ということです。
ただし、症状の半数は常用量のスタチンの再開で、
特に問題が起こっていませんから、
CPKの高度の上昇を伴うものでなければ、
患者さんの同意の上で一度は再開を試みることも、
意義のある選択肢ではあると考えられます。

スタチンの使用が困難な場合には、
エゼチミブの単独ではその効果は不十分で、
PCSK9阻害剤の単独使用が、
スタチンの高用量に匹敵する効果があり、
その安全性も24週程度の期間では問題はなさそうです。

ただ、問題は長期の安全性がまだ担保されていない、
と言う点と、
動脈硬化性疾患の予防効果などの長期の有効性も、
まだ未知数であるという点です。

更には日本では保険採用がされても、
当面はスタチンとの併用でないと、
保険診療が認められないので、
スタチン使用困難事例での使用については、
まだもう少し後にならないと、
認められることはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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