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女性ホルモン補充療法の開始時期とその効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ホルモン療法の時期とその効果.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
閉経後の女性ホルモンの使用と、
その開始時期による心血管疾患の予防効果についての論文です。

女性ホルモンには動脈硬化を予防するような働きがあり、
そのため女性が閉経して女性ホルモンが低下すると、
それに伴って動脈硬化が進行し、
心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の発症が増加します。

そのため、閉経した女性に女性ホルモン剤を補充することにより、
心血管疾患を予防する、
という治療が試みられるようになりました。

1980年代に行われた複数の疫学データによれば、
こうしたホルモン補充療法により、
50%近く心血管疾患が減少することが示唆されました。

ところが…

より精度の高い臨床試験である、
介入試験という方法で女性ホルモンの効果を検証したところ、
その有効性は意外なことに確認されませんでした。

心血管疾患を持つ閉経後の女性に、
女性ホルモンの補充を行なって経過をみたところ、
開始後1年では心血管疾患の発症リスクは増加し、
長期的にも発症リスクは低下しませんでした。

疫学データからは、
女性ホルモンが減少すると、
動脈硬化に起因する病気が増加することは間違いがないのに、
何故心血管疾患を持つ女性に、
閉経後に女性ホルモンの補充を行なっても、
良い結果が出ないばかりか、
リスクが増加するとの結果まで出るのでしょうか?

この問題は未だ解決には至っていません。

勿論女性ホルモンの補充療法は、
年齢を選んで行えば、
骨粗鬆症などの予防にもなり、
総死亡のリスクも低下させることが確認されていますから、
心血管疾患のリスク低下が確認はされなくても、
トータルには有効性のある治療として評価されています。
貼り薬などの使用により、
その副作用もかなり軽減されています。

ただ、それでも、
心血管疾患への予防効果に関する混乱したデータは、
当然ながら再検証される必要性は大きいのです。

この矛盾を解消する1つの鍵は、
女性ホルモンを補充するべきタイミングと、
その女性の動脈硬化の進行度にあるのではないか、
という見解があります。

女性ホルモンの有効性が確認されなかった臨床試験は、
心血管疾患を持っていた患者さんで、
それも閉経後年数が経った患者さんが主に対象となっていたのですが、
女性ホルモンの有効性は、
敢くまでまだ動脈硬化が進行していない血管の、
その進行の予防にあるので、
もう動脈硬化が進行して病気を発症しているような状態では、
女性ホルモンが無効であってもおかしくはありません。

また、
女性ホルモンの血管にある受容体は、
女性ホルモンが長期間存在しない状態では、
その数が減り女性ホルモンの作用が発症しにくくなる、
という実験レベルの知見も存在しています。

こうしたことから考えると、
閉経後の女性ホルモンの補充療法は、
閉経から間もない時期に、
動脈硬化性の病気がまだ進行していない対象者に、
行なった場合に限って、
有効であるという可能性があるのです。

この可能性を検証する目的で、今回の研究では、
心血管疾患のない閉経後の女性643例を、
閉経後6年未満でホルモン療法を開始するグループと、
閉経後10年以上で開始するグループに分け、
更にそれぞれをホルモン治療群と、
偽薬群にくじ引きで割り付けます。

ホルモン療法はエストロゲン製剤として、
17βエストラジオールを1日1ミリグラム使用し、
子宮のある女性では、
膣の粘膜の萎縮を抑える目的で、
プロゲステロンの経膣ゲルを併用します。

半年毎に頚動脈の超音波検査による、
内中膜複合体の厚みを、
動脈硬化の進行度の指標として活用し、
中央値が5年の観察期間が終了時には、
冠動脈CTで冠動脈の石灰化や狭窄を評価しています。

その結果…

閉経後6年未満で女性ホルモンを開始した群では、
偽薬との比較で頚動脈の指標の進行が、
有意に抑制されていました。
この差はプロゲステロンの併用の有無には関わりなく、
認められていました。

一方で閉経後10年を経過して以降に、
ホルモン補充療法を開始した群では、
偽薬と比較して頚動脈の動脈硬化の指標に、
差は認められませんでした。

また、冠動脈CTにおける石灰化や狭窄については、
閉経後6年未満からの女性ホルモンの使用群を含めて、
全ての群で有意な差は認められませんでした。

つまり、
閉経後の女性ホルモン療法は、
閉経後早期であれば、
動脈硬化の予防に、
一定の効果がある可能性がありますが、
閉経後10年以降の開始では、
あまりそうした効果は期待出来ないことを示唆する結果です。

ただし、
その指標となっているのは、
敢くまで頚動脈の超音波の指標のみで、
CT所見では違いはなく、
病気の発症率などは比較されていないので、
これで本当に動脈硬化の予防の証明になっているのか、
というのは極めて疑問です。

従って、
現状では閉経後のホルモン療法が、
明確に動脈硬化性疾患の予防に有効だ、
ということを示す根拠はなく、
ただ、動脈硬化の病気のない女性に、
閉経後6年未満に開始されたホルモン療法であれば、
その使用に危険はないと、
そのくらいに考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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