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中性脂肪に関連する遺伝子と心筋梗塞リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
中性脂肪低下の遺伝子.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
中性脂肪の低下に関わる遺伝子と、
冠動脈疾患のリスクとの関係についての論文です。

特にそうした病気のリスクが高い人において、
血液のLDLコレステロールを下げることが、
心筋梗塞などのリスクの低下に繋がることは、
明確に実証された事実です。

ただ、スタチンという薬を主に使用して、
強力にコレステロールを低下させても、
疾患は3割程度予防されるだけで、
100%予防される、という訳ではありません。

コレステロール以外に、
血液中の中性脂肪も、
その数値が上昇することにより、
冠動脈疾患のリスクが増加することが知られています。

それでは、
スタチンの使用に加えて、
中性脂肪を下げるような治療を行なえば、
より冠動脈疾患は強く予防されるのではないでしょうか?

そうした臨床試験はこれまでに多く行われていますが、
コレステロールほどクリアな結果は出ていません。

その1つの理由は、
コレステロールにおけるスタチンにように、
確実かつ強力に中性脂肪を低下させるような薬が、
未だ存在していないという点にあります。

現状中性脂肪降下剤として使用されているのは、
フィブラートと呼ばれる薬剤ですが、
その単独での中性脂肪の低下作用は、
それほど強いものではなく、
患者さんの中性脂肪を正常化するには不十分です。
また、スタチンとの併用でないと、
あまり意味をなさない反面、
その併用は横紋筋融解症を増加させるリスクがあるため、
あまり積極的には行われていない、
というジレンマがあります。

臨床試験における冠動脈疾患の予防効果は、
従って、スタチンに比較するとかなり見劣りがします。

ここにおいて、
本当に中性脂肪を低下させることが、
冠動脈疾患の予防に直結していて、
スタチンによるコレステロール降下療法に、
上乗せのメリットがあるものなのか、
という疑問と、
もっと確実に中性脂肪を低下させるような、
治療薬が開発出来ないのか、
という疑問が残っているのです。

今回の研究で着目されているのは、
ANGPTL4と呼ばれるタンパク質の遺伝子です。

ANGPTLというのは、
アンジオポエチン様タンパク質と訳されています。

アンジオポエチンというのは、
血管の新生に関わるタンパク質ですが、
それに似た構造を持ち、
別個の働きをしているタンパク質のグループが、
総称としてANGPTLと呼ばれています。

このうちのANGPTL3とANGTPL4は、
いずれもリポ蛋白リパーゼ(LPL)という、
中性脂肪を分解する酵素の阻害作用を持っています。

つまり、こうしたタンパク質が活性化することにより、
中性脂肪の分解酵素が阻害されるので、
結果として血液中の中性脂肪は上昇しやすくなるのです。

それでは、このタンパク質の働きが弱いと、
中性脂肪の分解は促進され、
それによって中性脂肪は低下するのではないでしょうか?

今回の研究においては、
特にE40Kと呼ばれるANGPTL4遺伝子の、
不活化に働く変異に着目し、
この変異を持つ人の中性脂肪やHDLコレステロールの数値と、
冠動脈疾患の発症率との関連性を検証しています。
42930人のANGPTL4の遺伝子を解析し、
変異の有無と血清脂質との関連を検証。
更に冠動脈疾患の患者さん10552人を、
病気のない29223人と比較して、
遺伝子変異と冠動脈疾患との関連も検証しています。

その結果…

E40Kの変異遺伝子を2個持っていた人が17人、
そして1個持っていた人が1661人見つかりました。
それ以外に75人では、E40Kとは別個の、
矢張りANGPTL4を不活化する遺伝子が見つかりました。

E40K変異遺伝子を1つ以上持っている人は、
持っていない人に比較して、
血液の中性脂肪値が13%低く、
HDLコレステロール値は7%有意に高くなっていて、
冠動脈疾患の発症率は、
有意に19%低下していました。

補足的な実験として、
ネズミとサルにANGPTL4に対する抗体を使用し、
実験的にANGPTL4の働きを阻害すると、
血液の中性脂肪の低下が再現されています。

つまり、
リポ蛋白リパーゼの分解を阻害するような、
遺伝子変異によって、
中性脂肪は低下すると共に、
HDLコレステロールは増加し、
それにより冠動脈疾患が2割程度予防されることが、
ほぼ実証されたのです。

こうした知見は、
少数例の検討では、
以前から指摘はされていたのですが、
今回大規模な人間の遺伝子解析のデータによって、
その知見が裏付けられたのです。

それでは、
このタンパク質のモノクローナル抗体を作成し、
それを治療に活用することで、
冠動脈疾患の予防に結び付くのでしょうか?

この点については、
先行する動物実験のデータが存在しています。

ANGPTL4遺伝子を働かないようにしたネズミを作ったところ、
脂肪食の摂取により腹部の炎症が誘発され、
腹腔内のリンパ節が病的に腫大して、
大量の腹水が貯留したのです。

これは脂肪により誘発される炎症を、
ANGPTL4蛋白が抑制するような働きを、
持っているためと想定されています。

一方で人間でのANGPTL4遺伝子を抑制するような遺伝子変異は、
そうした炎症の誘発が確認されていません。

こうした脂質代謝に関わるタンパク質が、
中性脂肪低下療法の、
大きなターゲットであることは間違いがありませんが、
そうした治療の安全性については、
まだ今後の知見の積み重ねが必要なようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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