So-net無料ブログ作成

インクレチン関連薬と心不全リスクについて(2016年の大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インクレチン関連薬の心不全リスク.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
今広く使用されている糖尿病の飲み薬が、
心不全のリスクを上昇させるかどうかを検証した、
大規模な疫学データの論文です。

この話題はこれまでにも何度か記事にしています。
まずはおさらいです。

DPP-4阻害剤は、
インクレチン関連薬というタイプの、
経口糖尿病治療薬で、
シタグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)、
ビルダグリプチン(エクア)、
アログリプチン(ネシーナ)、
リナグリプチン(トラゼンタ)、
サキサグリプチン(オングリザ)、
テネリグリプチン(テネリア)、
アナグリプチン(スイニー)
などがそれに当たります。

このタイプの薬は、
海外では第一選択薬のメトホルミンに次ぐ、
第2選択薬の1つという位置付けです。
血糖降下作用自体はマイルドなのですが、
低血糖を起こしにくく、
使い易いことが利点です。
そのため、
日本ではより広く使用がされていて、
第一選択薬と言っても良いような、
使用のされ方をしています。

このことを、
口汚く罵るような医師の方もいらっしゃるのですが、
日本人では肥満の2型糖尿病は欧米ほど多くないので、
個人的には誤りとは言い切れないと思います。
ただ、医療コスト的な面では、
問題ではあるかも知れません。

その一方で、
膵炎や膵臓癌のリスクを増加させるのではないか、
という報告と、
心不全のリスクを増加させるのではないか、
という報告とがあり、
その安全性について、
疑義が寄せられるようにもなっています。

2013年のNew England…誌に掲載された、
SAVOR-TIMIという大規模臨床試験の結果では、
DPP-4阻害剤のサキサグリプチンの使用により、
心不全による入院のリスクが、
1.27倍有意に増加していました。
その後行われたアログリプチンとシタグリプチンについての、
同様の診療試験では、
心不全による入院リスクの増加は認められませんでした。
つまり、DPP-4阻害剤に、
心不全を悪化させるような作用があるかどうかについては、
現時点で明確な結論が得られていません。

最近では今年の2月のBritish Medical Journal誌に、
これまでの臨床データをまとめて解析した、
所謂メタ解析の論文が発表されています。
  
それによると、
心不全そのもののリスクを扱った、
38の介入研究と言われる精度の高い臨床試験のデータを、
まとめて解析した結果として、
心不全のリスクに、
DPP-4阻害剤と偽薬との間で、
差はないという結果が得られました。
一方で心不全による入院のリスクについて、
検討されている5つの介入研究をまとめて解析すると、
1.13倍(1.00から1.26)と、
非常にわずかながらDPP-4阻害剤の使用による、
リスクの増加が認められました。
介入試験よりは精度の低い、
観察研究のデータでは、
シタグリプチンの検討のみにおいて、
やや心不全入院リスクの増加傾向が認められましたが、
統計的には有意なものではありませんでした。

結論としては、
現時点で心不全による入院が、
DPP-4阻害剤により増加するという、
明確な根拠はないのですが、
データによってはやや増加した、
という結果は散見され、
特に心不全のリスクとなるような、
心臓の疾患を持っていたり、
そのリスクが高いような患者では、
よりその影響は大きいことが示唆されています。

ただ、この問題を解決するには、
介入試験などの臨床試験のデータのみでは、
情報量が不足しているという点が否めません。

そこで今回の研究では、
カナダ、アメリカ、イギリスの、
糖尿病患者の大規模な疫学データを、
まとめて解析するという手法で、
この問題を再検証しています。
心不全により入院した患者さん1人に対して、
最大20例の対照をマッチングさせ、
インクレチン関連薬の使用と、
心不全による入院との関連性を解析しています。

インクレチン関連薬はDPP4阻害剤と共に、
注射薬であるGLP1アナログも解析の対象となっています。
インクレチン関連薬以外の2種類以上の糖尿病の飲み薬を、
使用していた患者さんが、
コントロールとして設定されています。

対象となっているのは、
トータルで1499650例の糖尿病の患者さんで、
観察期間中に29741名の患者さんが、
心不全により入院しています。
これは年間1000人当たり9.2件という頻度です。

データを解析した結果、
インクレチン関連薬と心不全の入院との間に、
明確な関連は認められず、
そのリスクの上昇は認められませんでした。
心不全をもともと持っている患者さんと、
持っていない患者さんを分けて解析しても、
DPP4阻害剤とGLP1アナログを分けて解析しても、
その結果は変わりませんでした。

今回の結果はかなり明確に、
インクレチン関連薬による心不全リスクの増加を否定したもので、
勿論現状では心不全の既往のある患者さんでは、
その使用は慎重であるに越したことはないと考えますが、
そのリスクは、
少なくとも全ての糖尿病の患者さんに、
一般化されるようなものではなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
メッセージを送る