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メトロニダゾール(フラジール)関連脳症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトロニダゾール関連脳症.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌の、
症例の画像提示の記事ですが、
これから日本でも増える可能性のある病態のため、
今日は取り上げることにしました。

メトロニダゾール(商品名フラジールなど)は、
寄生虫症や難治性の腸炎などの、
限られた用途で使用されてきた抗菌剤ですが、
最近日本ではピロリ菌の二次除菌に使用されるようになり、
一気にその使用量が増加しました。

この薬は比較的安全に使用出来る抗菌剤ですが、
特に高用量を比較的長期間使用した場合に、
稀に発症する副作用が、
メトロニダゾール関連脳症です。

上記記事に記載されている事例をご紹介します。

患者さんは原因の特定出来ない肝硬変症を持つ58歳の男性で、
ディフィシル菌という細菌による難治性の腸炎に対して、
1日1500ミリグラムのメトロニダゾールを、
長期間継続的に使用していました。

ある時から歩行時のふらつきとろれつの回らない、
という症状が出現し、
転倒とそれに伴う意識の混乱のために救急搬送となりました。

入院時の頭部MRI画像が、
最初にお示ししたものです。

向かって左側のAが入院時のものですが、
矢印の先の小脳の歯状核という部分に、
フレアという条件の画像で、
両側性に白く映る病変が認められます。

これが脳症の所見で、
この場所の神経細胞障害と浮腫を示していると思われます。

小脳という場所は平衡感覚や運動機能を司っているので、
そこの障害によって、
ふらつきや歩行障害が起こるのです。

次に右側の画像をご覧下さい。
同じ患者さんのメトロニダゾール中止後1ヶ月での、
同じ条件のMRI画像です。

完全に回復しているのがお分かりになるかと思います。

このように、多くのメトロニダゾール脳症は、
すぐにその使用を中止すれば、
比較的速やかに回復するのです。

メトロニダゾールの使用で、
何故脳症が起こるのでしょうか?

これはまだ完全には解明されてはいないようです。

ただ、この薬は血液脳関門を通過して脳へ移行し、
脳に一定の毒性を持つことが、
動物実験などでは証明されています。

これまでの報告では、
メトロニダゾール脳症は累積の使用量が、
20グラムを超えるケースでその殆どが発症しています。

これは通常は多いのですが、
たとえばピロリ菌の除菌の場合、
健康保険で認められている用量は、
1日750ミリグラムで1週間ですから、
累積の使用量は5250ミリグラムです。

ただ、メトロニダゾールを1日1500ミリグラム使用して、
2週間の治療を行なうという方法も、
自費診療としては行われていて、
仮にそうした治療での累積使用量は、
21000ミリグラム(21グラム)になりますから、
この20グラムという量は、
決して桁外れに多い、という訳ではないのです。

また、肝障害がある患者さんでは、
薬剤が蓄積するため、
より少ない用量でも発症する可能性があります。

メトロニダゾール関連脳症は、
その薬剤の使用により改善するので、
その意味では予後の良い病気と考えられますが、
上記記事にある事例の患者さんは、
結果的にはカテーテルからの感染で亡くなっていて、
そうした意味では、
この脳症は患者さんの予後には、
少なからず影響を与える病気でもあるのです。

この病気は日本でのこの薬剤の使用の増加に伴い、
増加する可能性があります。

医師の1人としては、
この薬の適応により注意を払いたいと思いますし、
特に肝障害の患者さんに対する処方には、
より慎重でありたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

5年間のスタチン治療のその後の影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
20年間のスタチン治療の効果.jpg
今年のCirculation誌に掲載された、
5年間のスタチンの治療が、
その後の20年間の患者さんの予後に、
与える影響についての論文です。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の高値が、
心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の大きなリスクであり、
そのリスクの高い方に限定して治療を行えば、
スタチンというコレステロール降下剤により、
心筋梗塞などの予防効果のあることは、
多くの精度の高い臨床試験で実証された事実です。

ただ、実際の治療効果は、
概ね5年から10年程度の期間で検討されていて、
それを超える長期間の患者さんの予後については、
そのデータはまだ不足しています。

今回の研究はスコットランドにおいて、
45から64歳で心筋梗塞の既往がなく、
血液のLDLコレステロールの数値が平均で190mg/dL程度の、
トータル6595名の男性に対して、
くじ引きで2つの群に分け、
一方はプラバスタチン(商品名メバロチンなど)という、
スタチンを1日40ミリグラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
平均で4.9年の経過観察を行なったデータが元です。
その試験が終了後、
15年を超える経過観察を行い、
結果として治療期間を含め、
20年を超える経過観察を行われています。

これは5年間は治療群はプラバスタチンが使用されていますが、
その後は使用が継続されているケースもあり、
そうでないケースも混在しています。

その結果…

20年間を超える観察において、
5年間のプラバスタチンによる治療は、
総死亡のリスクを13%、
心血管疾患による死亡のリスクを21%、
それぞれ有意に低下させていました。

一方で癌による死亡リスクや、
心血管疾患以外による死亡リスクについては、
両群で有意な差はありませんでした。

観察期間の累積の冠動脈疾患による入院は18%、
心筋梗塞による入院は24%、
心不全による入院は35%、
こちらもプラバスタチン群で有意に低下していました。

つまり、
スタチンの治療を5年間行なった効果は、
20年に渡り心血管疾患による予後の改善に寄与する、
ということになります。

こうしたデータは実際には大規模なものは殆ど存在していないので、
非常に貴重なものだと思います。

スタチンの治療が心血管疾患の予防に有益であることは、
ほぼ間違いのない事実ですが、
問題はこの治療を一生続けるべきなのか、
それとも一定期間の治療の後に、
中止しても問題のないものなのか、
と言う点にあると思います。

今回のデータなどを見る限り、
最も必要性の高い時期に、
5から10年を目安に治療を行ない、
その間に病気の発症が認められなければ、
中止して様子を見るのも、
1つの考え方であるように思います。

病気を起こした場合の再発予防としては、
原則期限は決めずに継続の方針で良いと思いますが、
まだ病気を起こしていない場合の、
いわゆる一次予防としては、
どの程度の期間、どのタイミングで治療を行うことが、
最も効率的であるのかの検証が、
もっと行われるべきではないでしょうか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

血液型と血栓症のリスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血液型と血栓症.jpg
今年のCirculation誌に掲載された、
血液型と血栓症のリスクとの関連を検証した論文です。

所謂ABOの血液型は、
日本人には性格診断としてポピュラーですが、
医学の分野では、
主に輸血や臓器移植などの医療の際の、
適合の問題が重要視されています。

ただ、血液型と病気のリスクの差との関連も、
比較的最近注目されているテーマの1つです。

その中でほぼ事実として認識されているのは、
O型と比較して、
それ以外の血液型(非O型)は、
深部静脈血栓症や心筋梗塞、
脳血管障害、抹消の血管病変などの、
静脈や動脈の血栓症のリスクが高いという知見です。

欧米ではO型とA型が多く、
B型とAB型は少数なので、
4種類を比較するというより、
このようにO型とそれ以外を比較する、
という分類が多いようです。

複数のデータやメタ解析によって、
この事実は確認されています。
その原因は必ずしも明らかにはなっていませんが、
第8凝固因子やフォン・ヴィレヴランド因子と呼ばれる凝固因子が、
非O型において増加していることが、
その主な要因ではないかと考えられています。

ただ、これまでに単独のデータで、
そう大規模なものはなく、
どのような血栓症のリスクが、
どの程度増加するのか、
というような部分については、
まだ正確なデータが得られているとは言えませんでした。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制を取っている、
デンマークとスウェーデンにおける、
輸血ドナーの大規模なデータを活用して、
ABO血液型と血栓症のリスクとの関連を検証しています。

111万人の輸血ドナーを対象とする、
という非常に大規模なデータです。

その結果…

矢張りO型と比較して非O型は静脈及び動脈の血栓症のリスクが高い、
というデータが得られました。
最も疾患の中でリスクが高かったのは、
妊娠に伴う深部血栓症で、
非O型はO型の2.22倍(95%CI;1.77-2.79)、
次が深部静脈血栓症で1.92倍(95%CI;1.80-2.05)、
そして肺塞栓血栓症が1.80倍(95%CI;1.71-1.88)という順でした。

血液型毎の比較では、
特にAB型において、
血栓症リスクが高い傾向が認められました。

特に深部静脈血栓症に関しては、
その発症の3割が血液型に影響されている、
という結果になっていて、
従来考えられているより、
静脈血栓症における血液型の影響は、
大きなものであるようです。

O型と比較してそれ以外の血液型では、
血栓症、特に静脈血栓症のリスクが最大で2倍程度増加するので、
勿論それを心配し過ぎても仕方がありませんが、
リスクの計算等においては、
血液型の要素も取り入れる必要があるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

鴻上尚史「イントレランスの祭」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
イントレランスの祭.jpg
鴻上尚史さんのKOKAMI@networkとしての公演が、
今新宿のスペース・ゼロで上演中です。
一旦本日で終演ですが、
大阪を廻って、連休には再び東京公演があります。

鴻上さんは「偉大なる素人」というタイプの劇作家ですが、
切れ目なく活動を続けながら、
矢張り乗っている時期とそうでない時とがあると思います。

全てを観ているという訳ではないのですが、
昨年の「ベター・ハーフ」は定番の懐かしさはちゃんとありながら、
新たな方向に切り込んだ意欲的な作品でした。
主演の風間俊介さんとの相性も非常に良かったと思いましたし、
次が楽しみになりました。

今回は作品は2012年の再演ですが、
再び風間俊介さんと組み、
盟友の大高洋夫さんに、
久ヶ沢徹、藤田記子、福田転球という、
曲者役者に若手が絡むという、
かなり魅力的な布陣です。

内容も鴻上さんなりに、
今の日本の問題に真正面から切り込む、
という感じのものになっていて、
本当に大丈夫なの、
と心配になるようなところもあるのですが、
その怖いもの知らずな感じも、
さすが鴻上さんという感じがあります。

それでいてラストは、
いつもの第三舞台の感じに着地します。

勿論不満もあるのですが、
間違いなく鴻上さんが全力投球した1本で、
演出も意外に新しいことに取り組んでいます。
端役までキャラが立っていて、
かつての定番の恋愛ネタなどが、
復活している感じも嬉しいのです。

いつもロビーにいる鴻上さんに、
実際にはしませんでしたが、
初めて「良かったです」と、
声を掛けたくなりました。

何処を切っても鴻上さんという純度の高い芝居として、
まずはお薦めしたいと思います。

ただ、物語についての感想は、
観る人によってもかなり違うと思います。

以下少しネタバレがあります。

日本に10万人規模の宇宙人が亡命して来て、
人間のモデルのコピーとして、
政府公認で生活をしているという架空の日本が舞台です。

宇宙人は見かけは人間と変わりないのですが、
戸籍を見ればそうかどうかは確認出来るので、
有形無形の差別を受けています。

主人公の風間俊介さんは、
売れないストリート・アーティストなのですが、
同棲している岡本玲さん演じる女性は、
実は宇宙人で、
しかも宇宙人の女王の継承者です。

久ヶ沢徹さんが代表の、
日本から宇宙人を追い出そうとする団体があり、
宇宙人の差別意識が高まっていることに憂いた、
大高洋夫さん演じる宇宙人の団体のリーダーは、
岡本さんが女王に即位してそれを公表することにより、
宇宙人への差別をなくそうと考えて、
岡本さんに女王即位を促すのですが、
風間さんとのささやかな幸せが、
それで崩れることを岡本さんは危惧しています。

ここまでは、
あまりに宇宙人が在日外国人そのものなので、
宇宙人という設定自体が作家の逃げのように感じられて、
話に乗れなかったのですが、
岡本玲さん扮する女性が、
緊張の緩みにより藤田記子さんの外見に変貌する、
という仕掛けが加わって、
物語は一気に膨らみを増します。

風間さん扮する主人公は、
彼女が宇宙人であると知っても、
差別するという意識は生じないのですが、
彼女の外見が変貌すると、
中身は同じでも素直に愛することが出来なくなります。

差別意識というのは、
単独の事象に対して存在するものではなく、
もっと本質的な心の動きであって、
それを可視化させて考えてゆくことこそ、
それに立ち向かう第一歩なのです。

宇宙人排斥の団体と宇宙人の組織との対立を、
福田転球さん演じるテレビディレクターが煽り、
自体は衝突のギリギリまで追い込まれるのですが、
風間さんはそこで「泣いた赤鬼」的な手法で、
何とか危機を回避します。

物語にはかなり甘いところもあります。

ただ、単純な善悪でキャラクターを分けることなく、
双方を魅力的で複雑な存在として描いている姿勢に、
非常に好感が持てますし、
鴻上さんの筆の成熟を見る思いがします。

たとえば、久ヶ沢さんが演じる、
特撮ヒーローフェチでコスプレの宇宙人差別主義者は、
お弁当屋のバイトをしている宇宙人の岡本さんに、
ロマンチックな恋心を抱いていて、
彼女が宇宙人だと分かっても、
その愛情を捨てることが出来ません。
彼を思う早織さん演じる女闘士の謀略で、
宇宙人が虐殺をしていたというでっち上げに加担しようとしますが、
嘘を吐いてまで宇宙人を追い込むことには、
躊躇する心根を持っています。
要するに、色分けは悪役ですが、
単純な悪党にはしていません。

メディアの負の側面を体現している福田転球さんのディレクターは、
自らも日本人から差別される境遇でありながら、
宇宙人と地球人との対決を、
煽るような行動に出て恥じるところがありません。
それでいて、情に厚い面もあり、
立場により分け隔てしない心根を持っています。

善悪の区別なく全てのキャラを弱い存在として魅力的に描き、
そうした人々が共存する世界を是としているところに、
素直に共感出来る部分があるのです。

役者は皆好演で、
主役の風間さんは、
多分相当鴻上さんと相性が良いのだと思います。
鴻上さんの思いを素直に体現して好感が持てます。
久ヶ沢さんと福田さんの怪演は、
舞台の質を大きく高めていますし、
若手もそれぞれに過不足のない演技とアンサンブルを見せていました。

演出は再三舞台仕込みの、
ミュージカル風の展開も良いですし、
痴話喧嘩の表現などは懐かしいタッチが健在です。
それでいて、
キャラと同じ顔の人形に映像でしゃべらせたり、
ラストは一旦舞い降りた紙吹雪を、
逆に上空に巻き上げるなど、
結構新しいことをやっている点も意欲を感じました。

テーマはきわどい部分があり、
その理解も十全とは言えない気もします。
ただ、如何にも鴻上さんという切り込みと仕上げをした力作で、
一見の価値は充分にあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

(付記)
何となく新作と思っていたのですが、
虚構の劇団の2012年作の再演でしたね。
記述を少し直しました。
(2015年4月26日午後10時)

「ルーム」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
診療は午前中は石田医師が担当し、
午後は石原が担当します。

午前中には健康教室を予定しています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
ルーム.jpg
アイルランド出身の作家エマ・ドナヒューによるベストセラー小説を、
同じアイルランド出身のレニー・アブラハムソンが監督し、
若手女優のブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞に輝いた、
話題の映画「ルーム」が今公開されています。

公開から間もない時期に観て来ました。

これは非常に繊細で感覚的な作品で、
なかなか感銘を受けました。

勿論母親役のブリー・ラーソンも良いのですが、
その5歳の息子を繊細かつ説得力のある演技で堂々と演じた、
子役のジェイコブ・トレンブレイが圧倒的な見事さで、
女の子にも見えるという、
原作のイメージそのままです。

原作も「部屋」という題名の翻訳を読んだのですが、
訳文が非常に読みにくく、かなり苦労して読了しました。

原作は全て5歳の少年の視点で描かれていて、
文章もわざとたどたどしく、
ブロークンイングリッシュで書かれているという代物です。
それが一部分だけならいいのですが、
全編がそんな調子なので、
はっきり言えば、翻訳は不可能なタイプの小説だと思います。

訳文はそれなりに工夫されているのですが、
スペルの間違いのギャグを、
日本語のギャグに変えて訳したりしているので、
読んでいてかなり白けてしまいますし、
不必要に読みにくくてイライラします。

作者としては、同じアイルランドの文豪、
ジェイムズ・ジョイスを意識したのかも知れません。
子供の意識の流れを、
全編子供の文法で描く、という試みなのです。

ですから、
個人的には翻訳小説としてはあまり評価は出来ず、
この作品に関しては、
原文を読解出来る英語力のある方以外は、
原作を先に読むのではなく、
映画を観ればそれで充分のように感じました。

以下少しネタバレがあります。

ハイティーンの少女が男に誘拐されて監禁され、
監禁された生活の中で男の子供を2人妊娠します。
最初の子供は女の子で死産となり、
2人目の子供は男の子で、
母となった少女は監禁された部屋の中で、
たった1人でそのジャックという息子を5年間育てます。

物語の前半はその監禁された母と子の、
たった1つの部屋の中での、
奇妙な生活が描かれます。

そして、子供に死んだふりをさせての脱出劇から、
後半は外の世界で、
世間の誤解や心理的な葛藤と戦いながら、
真の意味で2人が「部屋」の呪縛から解放されるまでを描きます。

主人公の女性は、
監禁されるという極限の状況の中で、
監禁した相手の男の子供を生むのですが、
部屋の中では処女懐胎のような気持ちでいて、
子供の親は自分1人という幻想の中で生きることが出来たのです。
それが、外の世界に出ることにより、
その幻想のままでは生きられなくなります。

息子のジャックも、
性別のない世界で生きることを強いられて、
自分が男の子であるのか女の子であるのかも理解していません。

闇の中から広い世界に出ることで、
そうした自分達の抱えた矛盾を、
突きつけられた親子が、
そこから本当の意味で解放されるまでの経過が、
非常に繊細に描かれていて、静かな感動を呼びます。

この難しい素材に正攻法で取り組んだスタッフワークが見事で、
もっとお涙頂戴の物語にも出来るところを、
決してそうはしていない真摯な姿勢には共感が持てます。

原作はもう少し性的な要素が描かれ、
子供ももっと普通でない部分を多分に持っているのですが、
その辺りはかなり綺麗事で処理している感じはあります。
ただ、映画としてはそれで正解であったように思います。

正直、あまりに淡々と展開して、
山場に乏しいのでしんどい感じもあるのですが、
演出、台本、演技、映像表現の全てにおいて、
非常に高密度で高品質の映画であることは間違いがなく、
良質の映画としては推奨したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

経口ステロイドによる痛風治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
痛風発作とステロイド.jpg
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
痛風発作の治療法についての論文です。

痛風というのは、
過剰な尿酸が関節に結晶化して蓄積し、
それが一種の自己炎症というメカニズムによって、
炎症を起こして激しい痛みの発作を起こすという病気です。

足の親指の付け根が赤く腫れて熱を持ち、
触るだけで飛び上がるような、
激痛が起こるのが典型的な症状です。

この痛風発作の急性期には、
非ステロイド系消炎鎮痛剤と呼ばれる痛み止めの飲み薬を、
通常の痛みへの使用量よりも多い量で、
短期間使用することが一般的です。

また、発作の強烈な痛みが起こる前に、
その場所がムズムズしたりチクチクするような、
一種の前兆のような症状の起こることがあり、
その時点でコルヒチンという、
白血球の遊走を抑えるような薬を使用すると、
発作が予防されることが知られていて、
発作の初期にはそうした治療も行われます。

関節炎の炎症の治療という観点からは、
飲み薬のステロイド剤(プレドニンなど)も、
もう1つの治療の選択肢です。

短期間の使用で済むという前提であれば、
むしろ非ステロイド系消炎鎮痛剤よりも、
副作用も少なく使いやすいという側面もあります。

ただ、現行のガイドラインにおいては、
敢くまで非ステロイド系消炎鎮痛剤が、
急性の痛風関節炎の第一選択の薬剤で、
ステロイド剤は腎機能低下やワルファリン使用時など、
非ステロイド系消炎鎮痛剤が使用困難な場合に限って、
使用を検討すべき、というような記載になっています。

これは何故かと言えば、
非ステロイド系消炎鎮痛剤とステロイド剤を、
痛風関節炎の治療において直接比較したようなデータ殆どなく、
ステロイドの有効性についての根拠が乏しいからです。

そこで今回の研究では、
香港の複数の医療機関において、
416名の急性痛風関節炎の患者を登録し、
患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分け、
一方は非ステロイド系消炎鎮痛剤を使用し、
もう一方は経口ステロイドを使用して、
その後14日間の観察で、
2種類の薬剤の有効性と安全性とを検証しています。

非ステロイド系消炎鎮痛剤としては、
インドメタシンを使用し、
最初の2日間は1回50ミリグラムを3回使用し、
その後の3日間は1回25ミリグラムを3回使用します。
経口ステロイドとしては、
プレドニゾロンを使用し、
5日間30ミリグラムを1日1回で使用します。

その結果…

使用後2日および14日間の検討において、
両群の痛風発作への有効性には、
明確な違いは認められませんでした。
めまいや眠気などの有害事象は、
使用後2日の早期では、
ステロイド使用群でより多く認められましたが、
14日間の検証では有意な差は認められませんでした。

従って、今回の検証では、
初期治療としてステロイド剤を使用しても、
非ステロイド系消炎鎮痛剤を使用しても、
その効果には大きな差は認められませんでした。

実際的には、
糖尿病があれば非ステロイド系消炎鎮痛剤が第一選択となりますが、
それ以外のケースでは、
ステロイドが第一選択でも大きな問題はなく、
特に腎機能低下やワルファリン使用時、
胃潰瘍などの既往があるケースでは、
ステロイドを使用することが望ましいと考えられます。
日本での使用では、
多くの場合プレドニンは20ミリでも問題はなさそうですが、
5日間の短期使用であれば、
30ミリでも大きな問題は生じないのではないかと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

水痘ワクチンによる帯状疱疹の予防について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

先月水ぼうそう(水痘)ワクチンの添付文書が改訂され、
承認事項の一部変更という形で、
水痘ワクチンを、
高齢者の帯状疱疹予防ワクチンとして使用する、
という使用法が正式に認可されました。

水ぼうそうのワクチンが、
帯状疱疹の予防に効く、という話は、
テレビなどでも再三紹介されていましたから、
朗報と感じられた方も多いのではないかと思います。

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こします。

通常水ぼうそうのウイルスに感染したことがあるかどうかは、
血液の抗体の上昇で判断し、
抗体が上昇していれば、
再び水ぼうそうに感染することはないのですが、
身体に潜んでいるウイルスが、
帯状疱疹という形で再燃することは、
抗体が陽性であっても起こり得るのです。

水ぼうそう自体の予防は、
抗体があれば充分ですが、
帯状疱疹の予防には、
このウイルスの抗原に反応する、
CD4陽性のTリンパ球という、
免疫細胞の産生が必要と考えられています。

水ぼうそうに罹ってしばらくの間は、
こうした細胞も多く存在しているので、
帯状疱疹は予防されているのですが、
時間が経つと次第にその数は減り、
年齢と共にその産生能自体も低下するので、
帯状疱疹が発症し易くなる、
という理屈です。

さて、帯状疱疹を予防するには、
抗原刺激を与えて、
それに反応するリンパ球が増えれば良いということになります。

その方法として、
通常考えられるのはワクチンの接種です。

水痘ワクチンは生ワクチンで、
このウイルスを弱毒化したそのものです。

通常小さなお子さんに2回接種して、
水ぼうそう自体を予防することを目的としています。

それでは、
このワクチンを大人に打てば、
免疫は再び賦活され、
帯状疱疹が予防されるのではないでしょうか?

この目的で国産のワクチンより、
基準値としては10倍以上多い力価を持つワクチンが、
帯状疱疹予防用に開発され、
アメリカにおいて大規模な臨床試験が行われました。
商品名はZOSTAVAXです。
その結果は2005年のNew England…誌に発表されています。
(一部データはその後に発表)
それによると、
50から59歳の年齢層においては、
帯状疱疹用の強化水痘ワクチンの1回接種によって、
帯状疱疹の発症が70%抑制され、
60から69歳では64%、
70歳以上では38%の抑制が認められた、
という結果になっています。
打った場所の腫れや痛み以外には、
目立った副反応は見られていません。
ワクチンの有効性は接種後10年は維持されますが、
発症の抑制が有意に確認されているのは、
8年までというデータがあります。

このように、
強化水痘ワクチンを接種することによって、
ある程度の細胞性免疫の賦活が起こり、
帯状疱疹の発症が、
一定レベル予防されることは間違いがありません。

ただ、数字を見て頂くと分かるように、
満足の行く効果とは言えません。

日本においても1990年代の早い時期に、
国産の水痘ワクチンを高齢者に接種した場合、
50から69歳で約90%、
70歳以上で約85%で、
接種による細胞性免疫の上昇が認められた、
という研究結果が報告されています。

しかし、これは敢くまで細胞性免疫に動きがあった、
というだけのもので、
それが帯状疱疹の予防に充分なレベルであるのかを、
実際に確認しているものではありません。

日本の文献には国産の水痘ワクチンの力価は、
欧米の帯状疱疹予防用の物より、
基準値としては低いけれど、
実際にはその力価はかなり幅のあるものなので、
平均するとほぼ同等の効果が期待出来る、
という記載が多く見られ、
今回改訂された添付文書においても、
海外の帯状疱疹予防ワクチンと同等のもの、
という考えから、
臨床的な有効性のデータは、
海外データがそのまま引用されています。
しかし、直接比較をして効果を検証しているものではないので、
その真偽は定かではありません。

要するに、
国産のワクチンを帯状疱疹予防に使用しても、
有効であるかどうかの、
精度の高いデータは存在していないのです。

今回日本においては、
通常の水痘ワクチンが、
そのまま帯状疱疹にも適応拡大となった訳ですが、
その改訂された添付文書を読む限り、
臨床成績として引用された、
帯状疱疹予防としての効果のデータは、
上記の高齢者の細胞性免疫の上昇を確認したもののみです。

おそらく小規模な臨床試験は行われていると思いますが、
一般に公開されているものではないようです。
大規模な試験や、
実際に帯状疱疹がどの程度予防されたのかを確認したような臨床試験は、
行なわれていないと思います。
(もし事実誤認であればご指摘をお願いします)

さて、前述の海外データでも分かるように、
水痘の生ワクチンを高齢者に使用した場合、
その効果は高齢になるほど減弱し、
70歳以降での接種の意義はあまり大きいとは言えません。
また、生ワクチンという性質上、
高度に免疫の低下した患者さんや、
骨髄幹細胞移植後の患者さんなどは禁忌となっています。

そこでより効果が高く、
高齢者や免疫の低下した患者さんにも、
使用の可能なワクチンの開発が進められました。

その第3相臨床試験の結果が2015年のNew England…誌に掲載されました。
これはその時点で記事にしています。

使用されたワクチンは、
グラクソ社のもので、
HZ/suワクチンと命名されています。

これは水痘・帯状疱疹ウイルスの一部の糖蛋白抗原に、
細胞性免疫の強い増強作用のある、
AS01Bという免疫増強剤(アジュバント)を添加したものです。

このワクチンを2ヶ月間隔で、
2回筋肉注射をして、
その後平均で3.2年の経過観察を行ない、
その間の帯状疱疹の発症を、
偽ワクチン接種群と比較しています。

トータルの事例数は年齢50歳以上の15411例で、
それを7698例のワクチン接種群と、
7713例の偽ワクチン群にくじ引きで振り分けます。

結果は全体と、
50から59歳、60から69歳、70歳以上という、
年齢毎に解析もされています。
これは勿論、
強化水痘生ワクチンの臨床試験の結果と比較するためです。

その結果…

トータルでは観察期間中に、
偽ワクチン群では210例(年間1000人当たり9.1例の発症率)
の帯状疱疹が発症したのに対して、
ワクチン接種群では6例(年間1000人当たり0.3例)に留まっていて、
ワクチンの有効率は97.2%(93.7から99.0)と算定されました。

これを年齢層毎に見ると、
50から59歳の有効率が96.6%、
60から69歳の有効率が97.4%、
70歳以上の有効率が97.9%で、
年齢に関わらずに高い有効率が維持されていることが分かります。

両群の有害事象の頻度は、
ワクチン接種群が高くなりましたが、
その多くは接種部位の腫れや痛みで、
自己免疫疾患の発症や死亡リスクなどについては、
両群で明らかな差は認められませんでした。

帯状疱疹の予防という観点では、
ここまで有効なワクチンはこれまでになく、
この結果はかなり画期的なものと言って良いと思います。

ただ、帯状疱疹自体が感染するものでもなく、
致死的な病気でもないので、
ワクチンの安全性については、
より慎重な検証が、
今後必要となるように思いました。

このように、
海外においては現時点でも、
かなり積極的に50歳以上の年齢における、
帯状疱疹予防のためのワクチンの接種が行われていますが、
使用されているワクチンは、
今回日本で適応が拡大されるものとは別物です。

それが抗原量を増やした強化型の水痘ワクチンと、
仮に同じ効果を持つと考えると、
50代においてその有効性は最も高く、
70代以降に関しては、
その効果はかなり限定的と考えた方が良いと思います。

日本の水痘ワクチンが、
本当にどの程度帯状疱疹を予防出来るのか、
精度の高い臨床試験による検証を、
是非とも期待したいと思いますが、
おそらく実現は難しいように思います。

もし予防効果がしっかりと検証されないのだとすれば、
効果がしっかりと確認をされている、
海外ワクチンを輸入して接種した方が良いのではないでしょうか?

日本でこのワクチンを帯状疱疹予防に接種される方は、
その安全性には大きな問題はないと思いますが、
その効果については、
明確な臨床的有効性が示されているのは、
海外の帯状疱疹予防専用ワクチンでのデータであり、
日本のワクチンに同等の効果があるかどうかは未知数である、
ということを、
事前に良く理解をした上で、
接種を検討されることが良いのではないかと思います。
その予防効果は、
最も有効性が期待される50代で、
70%程度かそれ以下と想定するのが妥当です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

原発性副甲状腺機能亢進症の治療方針と骨折リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
副甲状腺機能亢進症と骨粗鬆症.jpg
今月のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
原発性副甲状腺機能亢進症の治療が、
骨折リスクなどに与える影響についての論文です。

副甲状腺は首の甲状腺の裏側に2対4個存在している小さな腺組織で、
甲状腺とは別個に、
そこから副甲状腺ホルモン(PTH)という、
血液のカルシウム濃度を調整するホルモンが分泌されます。

PTHは血液のカルシウム濃度が低下すると、
それに刺激されて分泌され、
骨吸収が亢進してカルシウムが遊離。
また、活性化ビタミンDを増加させて、
カルシウムの吸収も促進させます。
これにより血液のカルシウムは増加し、
正常化すると、PTH分泌は抑制されるため、
血液のカルシウム濃度は一定に保たれる、
という仕組みです。

単純に考えると、PTHが増加すると、
骨は壊れて骨量は減少することになるのですが、
持続的な増加は確かにそうした影響を及ぼしながら、
逆に間欠的にPTHが分泌されると、
骨形成が促進されて骨量は増加する、
という不思議なメカニズムがあり、
それを利用して副甲状腺ホルモンの注射薬が、
骨粗鬆症の治療薬として使用されています。

さて、何等かの理由で副甲状腺が腫瘍化し、
血液のカルシウム濃度に関わらず、
持続的にPTHを大量に分泌するという病気があります。

これが原発性副甲状腺機能亢進症です。

重症の原発性副甲状腺機能亢進症になると、
血液のカルシウムは増加し、
骨吸収は亢進して骨量は減少。
尿には大量のカルシウムが排泄されるため、
腎結石が起こり易くなります。
カルシウム濃度の上昇は軽度であれば脱水症になり、
高度であれば、意識障害や痙攣発作を引き起こします。

その治療は、
基本的には腫瘍化した副甲状腺を切除する、
手術療法しかありません。

このように、重症の原発性副甲状腺機能亢進症は、
手術による治療が必要であることは間違いがないのですが、
より軽症の原発性副甲状腺機能亢進症をどうするか、
と言う点については、
それほど明確な方針が定まっている、という訳ではありません。

軽症の副甲状腺機能亢進症では、
血液のカルシウム濃度の上昇は、
軽度に留まります。
従って、脱水や痙攣、意識障害などの問題は起こりません。

カルシウムの尿中排泄も、
大量でなければ結石などの原因にはなりません。

そうなると健康に対する問題は、
骨吸収の亢進に伴う、
骨量の低下と骨折の増加という、
その1点のみということになるのです。

軽症の原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんは、
特に症状はありませんから、
患者さん自身も積極的に手術を希望する、
ということはあまりありません。
そのために、医療者の判断はより治療に消極的なものになりがちです。

欧米のガイドラインにおいては、
血液のカルシウム濃度が11.5mg/dLを超える場合、
24時間の尿中カルシウム排泄が400ミリグラムを超える場合、
骨量のTスコアが-2.5を下回るような低下を示している場合、
そして年齢が50歳未満の場合に、
症状のない原発性副甲状腺機能亢進症にも、
手術治療を考慮するべきだ、
という指針を発表しています。

ただ、実際には必ずしもこの指針が、
臨床で守られている、という訳ではありません。

骨塩の減少のみが問題となる場合には、
骨粗鬆症の治療に準じて、
ビスフォスフォネートなどの骨粗鬆症治療薬が、
使用されることがあります。
理屈から言えば、
骨吸収を抑えることにより、
骨減少症の進行予防や骨折の予防に、
一定の有効性は期待が出来そうです。

しかし、実際にはこの病気に対するビスフォスフォネートの効果が、
しっかりと検証されている、という訳ではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカの医療サービスのデータを活用して、
原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんが、
手術を行なった場合と、
経過観察のみを行った場合、
そしてビスフォスフォネートを使用した場合において、
その後の骨折リスクにどのような差が生じたのかを検証しています。

この場合の原発性副甲状腺機能亢進症は、
腎機能低下のない患者さんで、
血液のカルシウム濃度が10.5mg/dLを超え、
血液のPTHが65ng/dLを超えた場合と定義されています。

複数回の骨塩定量検査を行なった2013名の患者さんの解析では、
副甲状腺腫の切除を行なった女性の患者さんで、
その2年以内に骨量は4.2%増加し、
ビスフォスフォネートの治療を行なった女性の患者さんでは、
その2年以内に骨量は3.6%増加していましたが、
未治療では8年を超える経過において、
女性で6.6%、男性で7.6%骨量の低下が認められました。

骨折の有無のデータが存在している、
6272名の患者さんの解析では、
未治療の原発性副甲状腺機能亢進症において、
1000人当たり10年間に55.9件の大腿骨頸部骨折が発症したのに対して、
副甲状腺腫の切除を行なうとそれが20.4件に減少し、
その一方でビスフォスフォネートの治療は、
その頻度を85.5件とむしろ高めていました。

これを全ての部位の骨折で見ると、
矢張り10年間の患者1000人当たりの発生数で、
未治療が206.1件であるのに対して、
副甲状腺腫切除後では156.8件に減少し、
その一方でビスフォスフォネートの治療では、
骨折頻度は302.5件と増加していました。

副甲状腺腫切除術の骨折予防効果を、
骨塩量の数値毎に見てみると、
骨減少症や骨粗鬆症のように、
骨塩量が減少しているグループで、
よりその効果は著明に見られている一方、
そうした患者さんでビスフォスフォネートの骨折の増加も、
より認められていました。

実際にはガイドライン通りに手術が行われていた訳ではなく、
軽症で症状のない患者さんにも手術は行われていた一方、
手術適応の患者さんがビスフォスフォネートのみで治療されていたケースも、
多く認められていました。
しかし、ガイドラインに合致しているかいないに関わらず、
手術後の骨折リスクの低下は変わらず認められました。

要するに、
原発性副甲状腺機能亢進症に患者さんに対して、
手術により病的な副甲状腺腫を切除すると、
その後10年間の大腿骨頸部骨折のリスクを64%、
部位に関わらない骨折のリスクを24%、
有意に低下させる効果が期待出来ます。
その一方で骨粗鬆症の治療薬であるビスフォスフォネートは、
未治療と比較して骨折のリスクを低下させないばかりか、
むしろ増加させるという結果が得られています。

通常の骨粗鬆症であれば、
ビスフォスフォネートの使用により骨折リスクは減る筈ですが、
今回のデータでは、
患者さんの骨塩量が少ないほど、
よりビスフォスフォネートの悪影響も大きい、
という意外な結果になっています。

今回のデータは個々の患者さんの経過を追ったものではないので、
ビスフォスフォネートが原発性副甲状腺機能亢進症の患者さんにとって、
有害であるとは決めつけられないのですが、
個人的にはその可能性はあるように思います。

通常の骨粗鬆症における骨の変化と、
原発性副甲状腺機能亢進症のそれでは、
骨組織の状態が異なっている可能性があり、
一方には良い薬が他方には悪いということは、
充分想定が出来ることであるからです。

現状の無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症に対する対応としては、
骨量の値と骨代謝マーカーの値を重視して、
骨量が正常範囲である間は、
経過観察で問題はありませんが、
減少傾向が明確になった時点では、
なるべく速やかに手術を検討するのが、
骨折予防のためには望ましい対応であり、
ビスフォスフォネートはこうしたケースでは、
使うべきではないと、
考えた方が良いように思います。

問題は骨粗鬆症と診断された事例においても、
副甲状腺機能亢進症の患者さんが紛れている可能性があることで、
ある程度の骨塩量低下のある患者さんでは、
矢張り一度は副甲状腺ホルモンの測定が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

スタチン治療困難ケースの治療選択について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチン使用困難患者の別個の治療.jpg
今月のJAMA誌にウェブ掲載された、
スタチンが使用困難な患者さんにおける、
コレステロール降下治療の選択肢を検証した論文です。

スタチンはコレステロールの合成を阻害する薬で、
動脈硬化に関連する病気の予防のためには、
最も有用な薬と考えられています。

従って、動脈硬化による病気を発症した方や、
発症はしていないけれどその危険性の高い方では、
スタチンを服用することにより、
その危険を軽減することが、
有効な治療として世界的に推奨されています。

しかし、スタチンは副作用や有害事象のない薬ではありません。
その中で最もその頻度が高いのは、
筋肉に関連する有害事象です。

スタチンを使用することにより、
筋肉の痛みや脱力などの症状が発症することがあります。
症状は使用開始時に出現することもあり、
また増量した時に発症することもあります。

上記文献に引用されている海外統計によれば、
その頻度はスタチン使用者の5から29%に認められています。

こうした筋肉関連症状の一部では、
血液中のCPKという、
筋肉逸脱酵素が上昇します。

その上昇は軽度に留まることが多いのですが、
更にそのうちのごくわずかでは、
CPKの上昇は高度になり、
横紋筋融解症と呼ばれる状態が生じることがあります。

医療者の中にも、
スタチンによる筋肉関連症状では、
必ずCPKが上昇すると、
認識されている方がいらっしゃいますが、
実際にはCPKの上昇がなくても、
スタチンにより誘発される筋肉痛などが存在していて、
スタチンの中止により改善し、
再投与により再燃する場合には、
スタチンによる筋肉関連症状と診断されます。

明確なスタチンによる筋肉関連症状があれば、
その程度にもよりますが、
スタチンの継続的な使用は困難となります。

問題はその患者さんのその後の治療をどうするかです。

現状の選択肢としては、
スタチンを少量もしくは隔日で使用して様子を見るか、
アゼチミブ(商品名ゼチーア)という、
コレステロールの吸収を抑える薬に変更する、
というのが主なものですが、
いずれの方法も、
スタチンの通常量と比較すると、
そのコレステロール降下作用は弱く、
充分な動脈硬化性疾患の予防効果は期待出来ない、
という欠点があります。

最近PCSK9阻害剤という、
新たなメカニズムのコレステロール降下剤が開発され、
日本でもその発売が秒読みの段階に入っています。

この薬は2から4週間に一度の注射薬で、
肝臓へのLDLコレステロールの取り込みを促進する、
というこれまでにないメカニズムの薬剤です。
その効果は概ね高用量のスタチンに相当し、
またスタチンへの上乗せ効果も認められています。

ただ、まだ長期の安全性は確立されていないことと、
臨床試験がスタチンへの上乗せのみで行われているので、
その適応は日本においても、
スタチンとの併用に限って認められるようです。

しかし、前述のように、
スタチンが筋肉関連の有害事象のため使用困難なケースでは、
PCSK9阻害剤に変更することが、
有望な選択肢として考えられるのです。

そこで今回の研究では、
スタチンを使用して筋肉関連の有害事象のため、
使用を中断することになった491名の患者に、
まずアトロバスタチンというスタチンの1日20ミリグラムか、
もしくは偽薬を、
患者にも主治医にも分からないようにくじ引きで使用し
(試験はクロスオーバーで行われています)、
結果として再び筋肉関連の有害事象が出現した患者に対して、
今度はエゼチミブの1日10ミリグラムと、
PCSK9阻害剤であるエボロクマブ(商品名レパーサ)を、
4週に一度420ミリグラム、
これも偽薬や偽の注射を使用して、
患者にも主治医にも分からないようにくじ引きで使用し、
24週間の経過観察を行なっています。

その結果…

まずスタチンが一旦筋肉系の有害事象で使用困難となった場合に、
少し時間を置いて再投与した結果ですが、
アトルバスタチン再投与群では、
その42.6%で筋肉系の症状が再発し、
その一方で偽薬では症状の出現はありませんでした。

次に筋肉系の有害事象の生じた患者さんに対して、
スタチンの代わりにエゼチミブとエボロクマブを使用した際の、
その効果と安全性についてですが、
エゼチミブでは平均でLDLコレステロールは16.7%低下し、
実際のコレステロールの低下量は平均で31.0mg/dlでした。
一方でエボロクマブ群では、
平均で54.5%LDLコレステロールは低下し、
実際のコレステロールの低下量は平均で102.9mg/dlでした。

筋肉痛などの筋肉系の有害事象の発症率は、
エゼチミブ群で28.8%、エボロクマブ群で20.7%に認められました。
ただ、CPKの上昇はエゼチミブ群で1例(1.4%)、
エボロクマブ群で4例(2.8%)のみで、
症状のための治療中断は、
エゼチミブ群で5例(6.8%)、
エボロクマブ群で1例(0.7%)のみでした。

この試験は偽薬を用いてくじ引きを行ない、
しかも本物の薬と偽物を交互に用いるという、
非常に厳密なスタイルのものです。

その結果分かったことは、
1つには筋肉系の有害事象というのは、
別に気のせいのようなものではなく、
CPKの上昇を伴わなくても、
再現性のある症状だ、ということです。
ただし、症状の半数は常用量のスタチンの再開で、
特に問題が起こっていませんから、
CPKの高度の上昇を伴うものでなければ、
患者さんの同意の上で一度は再開を試みることも、
意義のある選択肢ではあると考えられます。

スタチンの使用が困難な場合には、
エゼチミブの単独ではその効果は不十分で、
PCSK9阻害剤の単独使用が、
スタチンの高用量に匹敵する効果があり、
その安全性も24週程度の期間では問題はなさそうです。

ただ、問題は長期の安全性がまだ担保されていない、
と言う点と、
動脈硬化性疾患の予防効果などの長期の有効性も、
まだ未知数であるという点です。

更には日本では保険採用がされても、
当面はスタチンとの併用でないと、
保険診療が認められないので、
スタチン使用困難事例での使用については、
まだもう少し後にならないと、
認められることはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

デノスマブ(プラリア)による副甲状腺ホルモン上昇とそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デノスマブによるPTH上昇とその影響.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
骨粗鬆症の治療薬によるホルモン系の異常と、
その影響についての論文です。

骨粗鬆症の治療薬は近年多くの新薬が登場し、
活況を呈していますが、
その一方でどの薬をどのような患者さんに対して、
どのように使用するのがベストの選択であるのか、
臨床の現場では当惑することも多くなっているのが、
実情ではないかと思います。

大雑把な分類としては、
骨粗鬆症の治療薬は、
骨形成を刺激する薬と、
骨吸収を抑制する薬とに大別されます。

要するに、骨を作る働きを高めて骨を丈夫にするのか、
骨を壊す作用を抑えることによって、
骨粗鬆症の進行を抑えるのか、
そのどちらかということになります。

ただ、実際には骨形成を刺激することが、
明確に立証されている薬は、
テリパラチド(商品名フォルテオ、テリボン)の一種類です。

このテリパラチドは、
副甲状腺ホルモンの誘導体で、
副甲状腺ホルモンは持続的に骨を刺激する場合には、
骨を壊す方向に働きますが、
その一方で間欠的に刺激すると、
骨を作る方向に強力に働くという性質があります。

その一方でそれ以外に薬は、
最も広く使用されているビスフォスフォネートにしても、
古くから使用されている女性ホルモンとその誘導体にしても、
新薬であるデノスマブ(商品名プラリア)にしても、
いずれもそのメインの作用は骨吸収(乞破壊)の抑制にあります。

しかし、副甲状腺ホルモンの誘導体は、
長期の使用で発癌の誘発に働くのではないか、
という危惧が完全には否定されていないため、
その使用は1年半に制限されるなど、
どのような患者さんに対して、
どのようなタイミングで使用をするべきかについての、
議論はまだ解決に至っていません。

もう1つの新薬であるデノスマブは、
抗RANKL抗体というまた別個のメカニズムの薬剤で、
骨吸収に関わる破骨細胞の分化自体を、
強力に抑制する作用を持つ薬です。
半年に一度の注射で持続的な効果がある、
という点が大きなメリットですが、
その長期の安全性については、
まだ未知数の部分を残しています。

デノスマブに特徴的な副作用の1つとして、
指摘されているのが、
血液の副甲状腺ホルモンの上昇です。

副甲状腺ホルモンは、
血液のカルシウムを維持するホルモンなので、
血液のカルシウム(イオン化カルシウム)の濃度が低下すれば、
刺激されて上昇します。

デノスマブには血液のカルシウムを、
一時的に低下させる作用があるので、
理屈から言えばそれに伴って、
副甲状腺ホルモンが上昇してもおかしくはありません。

しかし、これまでの報告では、
デノスマブがカルシウム濃度を介さずに、
副甲状腺ホルモンの分泌を刺激するのでは、
ということを示唆する報告もあり、
副甲状腺ホルモンの上昇の程度やその時期についてのデータもまちまちで、
混乱を招くものとなっていました。

今回の研究では、
69名の閉経後骨粗鬆症の患者さんを、
くじ引きでデノスマブ使用群と、
テリパラチド使用群とに分け、
半年の経過観察を行ない、
3ヶ月の時点では骨生検を行なって、
薬剤による骨組織の変化と、
骨代謝マーカーや副甲状腺ホルモンの数値との関連性を検証しています。

例数は各群で30名余と少ないのですが、
骨生検で直接的に骨の組織の変化を比較している点が特徴です。

その結果…

副甲状腺ホルモンであるテリパラチド使用群では、
その使用後に内因性の副甲状腺ホルモンは低下したのに対して、
デノスマブの使用群では、
その投与後1ヶ月の時点で、
副甲状腺ホルモン値は有意に増加していて、
その後は徐々に低下しますが、
投与後半年の段階でも、
投与前よりは上昇していました。

具体的には投与前のインタクトPTH(副甲状腺ホルモン)の濃度が、
平均で38.1pg/ml出会ったのに対して、
投与後1ヶ月では平均で63.5と増加が認められています。

しかし、骨形成のマーカーは増加はせず、
投与後3ヶ月での骨生検では、
テリパラチド使用群に見られるような、
骨形成の刺激所見は認められませんでした。

要するに、デノスマブによる副甲状腺ホルモンの上昇は、
テリパラチドを使用した時のような、
骨形成の亢進とは関連のない可能性が高い、
という結果です。

このデータの欠点は、
血液のカルシウム濃度が薬剤投与後に測定されていないことで、
副甲状腺ホルモンの上昇が、
カルシウム濃度と関連があるのかそうでないのかが、
判定不能となっている、ということです。

現状では骨粗鬆症に対する治療薬の選択は、
病状の重症度のみで決められることが多く、
副甲状腺ホルモンを含めたカルシウム代謝的な検証は、
治療前には行われないことが多いと思うのですが、
少なくともデノスマブとテリパラチドは、
副甲状腺ホルモンやカルシウム値に、
大きな影響を与える薬剤であるので、
今後はそうした検証を元に、
薬剤を選択する必要があるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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