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月刊「根本宗子」第12号「忍者、女子高生(仮)」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
忍者女子高生.jpg
若手気鋭の女座長、
根本宗子さんの個人劇団、
月刊「根本宗子」の新作公演が、
今下北沢のスズナリで上演されています。

今回は傑作だった昨年の「もっと超越したところへ」と、
同じ劇場同じキャストで、
果たしてどのような発展形を見せてくれるのかと、
その期待は高まります。

今回は家庭劇で、
ちょっとした演出上の仕掛けと、
予想外の展開が用意されています。

ただ、その仕掛けと趣向が成功しているかと言うと、
それはやや微妙なところで、
一時のポツドール風の緻密な青春群像劇が、
最近の作品では、
小劇場風前衛の変化球に傾斜していて、
仕上げが緻密さや繊細さに欠けるところが、
今回も少し残念な思いがありました。

この役者陣でこの話というのは、
少し無理があったのではないでしょうか?

以下ネタバレを含む感想です。

舞台は比較的裕福な資産家であるらしい、
安曇野家のリビングに固定されていて、
3人のマザコン兄弟と、
年の離れた高校生の妹がいます。
マザコン兄弟は3人とも結婚していて、
1人は娘がいますが、他の2人は子供はいません。

4人の兄妹の母親というのが、
58歳という設定ですが、
なかなかの女傑で、
女子高生の娘の、
自分の息子より若い担任教師と恋仲になり、
結婚する、という話になります。

マザコン兄弟も件の女子高生も、
勿論皆がその結婚には反対なのですが、
母親は強引に結婚を推し進め、
その顔合わせの日から舞台は始まります。

いつもの根本宗子組の面々が若い夫婦を演じ、
主人公の女子高生は、
主催の根本宗子さんが制服姿で演じます。

母親役はどうするつもりかと思っていると、
何と男優陣が場面ごとに入れ替わりの女装で演じ継ぐ、
という趣向になっています。

結局結婚直前で母親は急死し、
残された兄弟と担任教師は、
文字通りのバトルを演じ、
何かリアルと妄想がないまぜになった混乱のうちに、
ある種の奇跡が起こって、
幕が下ります。

親が子供より年の若い婚約者を連れてくる、
というのは、
その逆の設定では、
三谷幸喜さんの「君となら」という名作がありますし、
テレビドラマなどでも、
ある種定番の家庭劇の設定です。

ただ、おそらくはそれを、
当事者の女子高生の、
妄想を交えた歪んだ色眼鏡で見直そう、
というのがおそらくこの芝居のベースにある趣向で、
母親は息子の女装としてしか登場しませんし、
女子高生は忍者にかぶれていて、
家を忍者屋敷のように改造し、
ラストはゲームもどきの対決アクションになります。
別にどんでん返しではないのですが、
舞台の彩が一変するのは、
シベリア少女鉄道を彷彿とさせます。

面白い趣向であり新傾向ですが、
それほど成功しているとは思えません。

キャストが昨年のような青春群像劇としてはバッチリですが、
こうした家庭劇としては違和感があります。
女優陣は全員がほぼ同年代に見えますし、
これまでそうした役を演じていたので、
根本さんだけが女子高生というのが、
どうにも違和感があります。
全員が高校生なら、
それはそれで成立すると思うのですが、
家庭劇というのは、
年齢差が重要な要素なので、
それが不明瞭なキャストでは、
成立しないと思うのです。

特にオープニングで長男夫婦の会話などは、
未整理で面白みも希薄ですし、
長男のお嫁さんに生活感が希薄なので、
設定がなかなか呑み込めませんし、
何より舞台が弾みません。

母親を息子の女装で入れ替わりに演じる、
という趣向も、
母親という存在が作品の肝なので、
やはりそれなりに母親を感じさせる役者さんが、
演じないとまずかったように感じました。

総じて、このキャストで何故この作品なのか、
という点が一番の疑問です。

作品自体は悪くないと思います。
三男の嫁くらいのポジションを根本さんが演じて、
母親役にはそれなりの年齢の役者さんを配し、
女子高生役にもそう見える10代の役者さんを起用すれば、
より根本さんの意図が、
十全に観客に伝わるような作品になったのではないでしょうか?

ただ、こうした感想は保守的で心得違いのものかも知れません。
根本さんの劇作はまだこれから進歩を続ける性質のものだと思うので、
今後の展開に期待したいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

サディスティックサーカス 2016 「ギンザ大宴会」 [演劇]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には廻る予定です。

今日は祝日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
サディスティックサーカス春.jpg
銀座のフェティッシュバーが企画する、
アブない藝の祭典「サディスティックサーカス」の、
小規模で番外編的な春の催しが、
先日銀座の老舗ビアホールで行われました。

大好きなゴキブリコンビナートが出演するので、
それを目当てに、
嫌がる妻を強引に誘って参戦しました。

これはまあ、ディナーショー的な企画で、
自由席の長テーブルにお客さんが皆で座り、
企画したバーのお姉さんの接客を受けながら、
飲み食いをしながら奇怪なショーを楽しむ、
という代物です。

ストリップと切腹を組み合わせた、
早乙女宏美さんの「切腹ショー」がトリで、
それ以外にバーレスクやエッチな活弁ショー、
パントマイムに芸者ショーなどがあって、
後半でゴキブリコンビナートは、
「ツタンカーメン」という演目を演じました。

これは要するに金粉ショーなのですが、
全身に金粉を塗ってマスクを被り、
ツタンカーメンの金色のマスクに扮した男の集団が、
呪いのミイラという体で、
男の下半身や底辺の恨みつらみを、
歌とも呪詛とも付かない絶叫で綴る、
というものです。

内容は前半は恨みつらみなのですが、
「下着なの水着なの?」という、
雑誌のグラビアネタがあって、
ラストは「兄貴の娘」という、
親戚の子供に懸想して、
バラバラにして食べてしまうという、
サド侯爵の悪徳の栄えのような世界に着地します。

正直いつもと比較すればかなり穏当で、
場所の制約があって、
そう汚したりすることも出来ないので、
何も飛んでくるようなことはなく、
安心して見ていられる反面、
物足りなく感じる部分もあります。

ただ、破れかぶれのようでありながら、
統一の取れたテンションの持続の仕方や、
途中で乱入する金粉女優陣も含めて、
その動きの表現や質感は、
紛う事なきアングラの香気が濃厚に漂っていて、
どうにもウキウキとした気分になってしまうのです。

全体に今回の催しは穏当なもので、
場所のコードがあって仕方のないことだと思うのですが、
食い足りない感じはありました。

ただ、料理も結構沢山出て来ましたし、
アルコールも含めて全て飲み放題でこの価格というのは、
コスパ的には非常に良質のイベントだったように思います。

秋のサディスティックサーカスも楽しみですが、
今年はまだ告知のない、
ゴキブリコンビナートの本公演には、
是非期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

SGLT2阻害剤の効果と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SGLT2阻害剤のメタ解析.jpg
今年のLancet Diabetes Endocrinol誌に掲載された、
SGLT2阻害剤という糖尿病の新薬の、
効果と安全性を検証したメタ解析の論文です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
SGLT2阻害剤の3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下しています。
実際に使用されているのは、
SGLT2阻害剤の1つである、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)です。

SGLT2阻害薬のもう1つの特徴は、
血圧の低下作用のあることです。

この薬は一種の利尿剤のようなものですから、
血圧が降下することはある意味当然ですが、
2型糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧を合併していますから、
血糖と共に血圧を降下させる作用のあるSGLT2阻害剤は、
一石二鳥という面があります。

ただ、その一方でSGLT2阻害剤はグルカゴンを上昇させ、
LDLコレステロールを増加させる可能性があり、
骨折リスクを増加させる可能性や、
泌尿器系や婦人科系の感染症を増加させるなど、
その安全性に危惧がないという訳ではありません。

現状のSGLT2阻害剤について、
最も知りたいことの1つは、
心血管疾患の予後を改善するという知見が、
エンパグリフロジンのみで成り立つ特性なのか、
それとも全てのSGLT2阻害剤で成り立つことなのか、
ということです。

この薬の個々の特徴をみてゆくと、
血糖減少や体重減少、血圧低下などは、
確かに心血管疾患のリスクを下げる方向に働きそうですが、
その一方でLDLコレステロールの増加やグルカゴンの増加は、
心血管疾患のリスクを上げる方向に働く指標だからです。

そこで今回の論文では、
2015年の9月までの最新のデータを含む、
これまでの臨床データをまとめて解析することで、
SGLT2阻害剤のトータルな効果と安全性とを検証しています。

その結果…

SGLT2阻害剤は全体として、
心血管疾患のリスクを16%、
心血管疾患による死亡のリスクを37%、
心不全のリスクを35%、
そして総死亡のリスクを29%、
それぞれ有意に低下させていました。

致死性ではない心筋梗塞や狭心症のリスクに対しては、
一定の傾向は示さず、
脳卒中(非致死性)については、
むしろリスクは増加する傾向を示しました。

ただ、こうした心血管疾患のリスクの低下は、
主にエンパグリフロジンのデータが元になっていて、
他のSGLT2阻害剤においてそうしたリスクの低下が、
同じように認められることを、
否定するような結果はなかったものの、
現時点で同等の効果があるとする、
明確な根拠は認められませんでした。

有害事象については、
矢張り性器感染症は有意に2倍を超えて増加していましたが、
データによりかなりその程度にはばらつきが見られました。

SGLT2阻害剤は非常に興味深いメカニズムの薬で、
2型糖尿病の治療薬としては、
これまでにない特徴を多く持っているのですが、
エンパグリフロジンの心血管疾患リスク改善のデータに関しては、
まだ単独の結果と考えて、
それがSGLT2阻害剤の特徴であるかどうかは、
今後の研究を待つ必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

若者の心臓突然死は予防出来るのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
若者の突然死の予防.jpg
いつも辛辣で示唆の富む記事の多い、
British Medical Journal誌の今年の解説記事ですが、
若いスポーツ選手の心臓突然死が、
事前に検診で予防可能か、
という問題を扱っています。

対象となっているのはスポーツ選手(アマチュアを含む)ですが、
取り上げられている問題自体は、
若い世代全体に共通するものです。

つい先日も芸能人の方が、
おそらくは心臓の突然の停止により、
死亡されたというニュースがありました。
その方は40代ですが、
20代でもこうした事例はあります。

心臓の病気は通常は中年以降に発症するものか、
生まれつきの症状があるものが殆どですが、
稀に運動中などに、
突然心臓が停止することにより、
発症するものがあります。

マラソンの最中に若者が突然死するようなケースは、
毎年報告されていますし、
サッカー選手が練習中に心臓発作を起こして、
還らぬ人になった、
というような事例も報道されました。

こうした事例というのは、
実際にはどのくらいあるものなのでしょうか?

一般人口の0.3%では、
場合によっては心臓突然死に結び付くような、
先天性と後天性の双方を含む心臓病を持っていると考えられます。
しかし、実際にはその殆どは症状のないままに一生を終え、
ごく一部が眩暈や意識消失などの症状から、
精査を受け診断されます。

そうした病気を持つアスリートのうち、
1%程度が、心臓突然死を来して初めて、
そうした病気の可能性を疑われることになるのです。

本当に安静時より運動時に心臓突然死が多いことを示す、
正確なデータは存在していませんが、
運動がそうした発作の引き金になることは、
経験則としては信じられています。

若いアスリートにおける心臓突然死の頻度については、
正確な統計はありません。
最近のイギリスの推計では、
12歳から35歳のアスリートにおける年間の心臓突然死の発症率は、
10万人に1人程度とされています。

それでは、
運動の前に健康チェックや心臓の検査などを行なうことにより、
こうした若いアスリートの心臓突然死を、
予防することは可能なのでしょうか?

一般の方の感覚から言うと、
検診というのは病気を未然に防ぐために行うのですから、
心臓関連の検査を事前に行えば、
当然突然死は予防されるように思います。

ただ、実際にどのような病気が原因で、
心臓突然死が起こるのかを考えると、
そう簡単ではないように思います。

突然死の原因として想定されるのは、
重篤な不整脈の発作や、
肥大型心筋症、
先天性の血管の異常に基づく心筋梗塞、
冠動脈の何等かの要因による高度の攣縮などですが、
そのいずれもが、
安静時の心電図検査や問診などの簡単な検査では、
特定が困難なものばかりです。

比較的同定が簡単なのは、
肥大型心筋症だと思いますが、
軽度のものはスポーツ心臓による変化と、
見分けることは困難ですから、
検診によって肥大型心筋症を振り分ける、
ということになると、
実際には問題のない多くのアスリートが、
運動を制限されるような事態になってしまいます。

前述のように、
こうした病気があっても、
それが心臓突然死に結び付くのは、
そのうちの極少数に過ぎないので、
検診を事前に導入することが、
正しいとはとても言えないのです。

健診で心臓突然死が予防可能かどうかを、
厳密に検証するには、
事前健診をした場合としない場合とで、
その後の病気の発症を比較するような介入試験が必要ですが、
実際にはそうした試験はこれまで行われていません。

健診の導入前後で発症が減ったかどうか、
というような時間的な比較のデータしかないのですが、
そうした研究結果として、
唯一肯定的な結果が報告されているのは、
イタリアのヴェネト州で、
1979年から26年に渡り行われた、
若いアスリートに対する強制的な検診の効果です。

これは12誘導の心電図を計測することにより、
10万人当たり3.6件の心臓突然死が、
10万人当たり0.4件に低下した、
というデータです。
何と心臓突然死が9割近く低下した、
というちょっと信じられないような結果です。

ただ、このデータについては、
検診施行前の発症率が、
極めて少数例の報告から計算されたもので、
高く見積もられ過ぎているのではないか、
という疑念があり、
またデータもその全てが開示されていないなど、
欧米の専門家から多くの疑義が呈されています。

このデータ以外の同様の検討では、
欧米の各地域において、
こうした検診の効果は確認されていません。

従って現状では、
症状のない対象に対して、
心臓の検診を行なうことにより、
突然死が予防されるとは、
考えない方が妥当なようです。

以前ご紹介したように、
成人の突然死のケースでは、
死に至るような発作の前に、
胸痛や動悸などの何らかの前兆のあることが多く、
その時点で救急受診など対応していると、
突然死のリスクが低下する、
という報告があります。

現時点では、
症状がないのに色々と検査を積み重ねるよりは、
体調に無理のない運動を行い、
胸痛などの症状が出現した場合に、
速やかに対応することが、
最善の予防法のように思います。

これは結果論になりますが、
前述の芸能人のケースでも、
突然死の同日に胸痛が認められていたようで、
矢張りそうしたケースで、
すぐに対応することが、
現状では最も大切なことのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

2型糖尿病の治療法とその違い(2016年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
2型糖尿病治療の効果のメタ解析.jpg
今月のAnnals of Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
2型糖尿病の治療法とその効果と安全性についての論文です。

現状の2型糖尿病の治療は、
欧米のガイドラインにおいては、
第1選択薬がメトホルミン(商品名メトグルコなど)という薬で、
メトホルミンが使用困難であったり、
充分量を使用しても血糖の低下が充分ではない場合に、
単独もしくは上乗せとして使用される第二選択の薬として、
SU剤、チアゾリジン系の薬剤、インスリン注射などが使用されます。

その後にDPP4阻害剤やGLP1アナログの注射薬、
そして、尿に糖を多く排泄する薬であるSGLT2阻害剤などの新薬が、
続々と発売されていますが、
そのデータはまだ一般臨床においては少なく、
メトホルミンと比較してその効果を云々したような報告は、
まだあまりありません。

そこで今回の研究では、
2015年までの文献を幅広く集めて、
それをまとめて解析する手法で、
新薬を含めた糖尿病治療薬の比較を行なっています。

その結果…

2型糖尿病において、
長期予後で最も問題になるのは、
網膜症などの小血管合併症と、
心血管疾患の発症及びその生命予後です。

ただ、実際には多くの糖尿病の治療の試験は、
短期間の血糖の低下の程度のみで判定されていて、
より長期の有効性や安全性についての知見は、
それほど多くはありません。

今回の検証において、
SU剤との比較ではメトホルミン単独療法は、
より心血管疾患の死亡リスクを低下させていました。
ただ、全死亡のリスクや心血管疾患の発症リスク、
そして、小血管合併症のリスクについては、
その比較には不充分なデータしか存在していませんでした。

HbA1cの低下効果については、
メトホルミン、チアゾリジン、SU剤の単独治療は、
相互の比較で明確な差はなく、
DPP4阻害剤はその効果においてやや劣っていました。
メトホルミンにSGLT2阻害剤やGLP1アナログ、DPP4阻害剤を含む、
他の薬剤を上乗せした治療同士の比較においては、
どれが特に優れている、
という明確な差は認められませんでした。

体重はメトホルミン、DPP4阻害剤、
GLP1アナログ、SGLT2阻害剤では、
減少もしくは維持されていて、
SU剤、チアゾリジン、インスリンでは、
体重は増加していました。

有害事象では、
低血糖はSU剤でより多く、
吐き気や下痢などの消化器系の合併症は、
メトホルミンとGLP1アナログで多く認められました。
SGLT2阻害剤では性器の真菌感染症の増加が認められました。

最近一部のSGLT2阻害剤で、
心血管疾患のリスクの低下が報告されていますが、
まだこうしたメタ解析では、
そうしたデータは反映はされないようです。

現時点での判断としては、
矢張りメトホルミンが第一選択で、
SU剤はその使用は極力限定し、
メトホルミン単独で不充分である場合には、
SGLT2阻害剤とGLP1アナログ、チアゾリジンが、
通常は併用療法として有用性があります。
DPP4阻害剤も上乗せの選択肢としては有用ですが、
血糖降下作用は他の薬剤に劣るので、
概ね欧米では評価は辛いようです。

欧米の2型糖尿病は、
肥満の比率が高く、
インスリン抵抗性が病変の主体である一方、
日本では初期からインスリン分泌が低下する、
肥満のない2型糖尿病が多いので、
メトホルミンよりDPP4阻害剤を第一選択とすることが妥当ではないか、
という見解もあながち誤りとは言い切れません。

基本的には欧米のガイドラインと知見を基本として、
そこに適宜患者さんの特性や、
医療の社会的な状況に合わせて、
修正を加えてゆくのが、
現状では最善であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

抗コリン剤による認知症リスクと脳の変化について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗コリン剤の脳機能低下のメカニズム.jpg
今月のJAMA Neurology誌に掲載された、
抗コリン剤という薬の高齢者での使用と、
それによる脳の機能低下のリスクを検証した論文です。

抗コリン作用と言うのは、
副交感神経に代表される、
アセチルコリン作動性神経の働きを抑えるというもので、
非常に多くの薬剤がこの作用を持っています。

その中には抗コリン作用そのものが、
薬の効果であるものもありますし、
副作用として抗コリン作用を持つものもあります。

アセチルコリン作動性神経により、
胃や気管支、膀胱などの平滑筋は収縮しますから、
胃痙攣を抑える目的で使用されたり、
気管支拡張剤として、
また過活動性膀胱の治療薬として使用されます。
パーキンソン症候群の補助的な治療薬として、
使用されることもあります。

その一方で、
鼻水や痒みを止める抗ヒスタミン剤や、
抗うつ剤や抗精神薬は、
副作用としての抗コリン作用を持っています。

この抗コリン作用は基本的に末梢神経のものですが、
脳への作用も皆無ではありません。

一方で認知症では脳のアセチルコリン作動性神経の障害が、
早期に起こると考えられています。

そのために、
現在認知症の進行抑制目的で使用されている、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)は、
脳内のアセチルコリンを増やす作用の薬です。

抗コリン剤はアセチルコリン作動性神経を抑制する薬ですから、
これがそのまま脳に働けば、
脳のアセチルコリン作動性神経の働きを弱め、
認知症のような症状を出すであろうことは、
当然想定されるところです。

実際に高齢者に抗コリン剤を使用することにより、
せん妄状態や、記憶障害や注意力の障害など、
認知症様の症状が急性に見られることは、
良く知られた事実です。

通常こうした急性の症状は、
薬剤の中止により回復する、
一時的なものと考えられています。

しかし、
高齢者が長期間こうした薬剤を使用している場合はどうでしょうか?

それが認知症の発症に繋がるようなことはないのでしょうか?

この点については、
あまり長期間の観察を行なったようなデータが、
これまで存在していませんでした。

それが2015年のJAMA Internal Medicine誌に注目すべきデータが掲載されました。
その時点でブログ記事にしています。

文献ではアメリカにおいて、
高齢者の大規模な健康調査のデータを活用することにより、
抗コリン剤の長期処方と、
認知症の発症との関連を検証しています。

65歳以上の認知症のない高齢者、
3434名を登録し、
平均で7.3年間の経過観察を施行。
その間に23.2%に当たる797名の方が認知症を発症し、
そのうちの637名はアルツハイマー病(疑いを含む)と判断されました。

この間の処方箋から、
抗コリン剤の使用を調査すると、
最も使用されていたのは、
風邪薬や花粉症、めまいや酔い止めなどとして処方される、
抗ヒスタミン剤で、
全体の64.8%に当たる2224名が処方されていました。
一度でもこうした薬を飲めばカウントされるのですから、
これでも少ないくらいかも知れません。
次に多かったのは、
ブチルスコポラミン(商品名ブスコパンなど)のような筋痙攣の治療剤で、
45.6%に当たる1566名、
3番目に多かったのはめまい止めでした。
しかし、過活動性膀胱の治療薬や、抗うつ剤の処方も、
少なからず認められました。

合算の投薬量毎に認知症の発症率を見ると、
年齢などで補正した数値として、
最も多い3年以上毎日常用量を使用した患者さんにおいては、
認知症全体の発症リスクが1.54倍(1.21から1.96)、
アルツハイマー病の発症リスクが1.63倍(1.24から2.14)、
有意に増加していました。
必ずしも薬剤の種別による違いは認められず、
用量的には合算で3ヶ月未満ではリスクの増加はなく、
それを超えるとやや傾向としては認められ、
3年以上で初めて有意になる、
という結果でした。

つまり、
65歳以上の高齢者が、
3年以上常用量の抗コリン作用のある薬を使用すると、
その薬の種別に関わらず、
認知症のリスクの増加が生じる可能性がある、
ということになります。

これはたとえば2種類のそうした薬剤を使用していれば、
1年半でも同様のリスクが生じる可能性がある、
という意味合いです。

さて、このように疫学データからは、
抗コリン剤の高齢者への使用により、
認知症のリスクが高まる可能性が示唆されました。

ただ、これはまだこの時点では、
統計的に薬の使用と病気との間に関連があった、
という知見に過ぎないものです。

これが事実であるとするなら、
抗コリン剤を使用し続けることにより、
脳の機能や形態に、
それに伴った変化が起こっている、
ということになります。

それはどのような変化なのでしょうか?

今回研究では、
認知症についての高齢者の2つの疫学データを活用して、
機能性MRIやブドウ糖の脳への取り込みを見るPET検査、
そして認知機能検査などの変化と、
抗コリン剤の使用との関連性を検証しています。

その結果…

抗コリン剤を使用していると、
平均32ヶ月程度の観察期間において、
記憶再生などの脳機能は低下し、
両側の海馬のブドウ糖の取り込みも低下。
MRIの詳細な解析において、
総脳皮質容積と側頭葉の皮質厚が減少。
側頭室の増大を認めました。

勿論観察期間はそれほど長くはありませんから、
有意とは言えその変化は極軽度のものです。

ただ、それでも抗コリン剤の使用により、
おそらくは脳内のアセチルコリンの低下が、
脳の機能に悪影響を与える可能性は無視出来ません。

それでは、今回の研究で対象となっている抗コリン剤は、
具体的にどのようなものなのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
抗コリン剤の使用薬剤の表.jpg
アトロピンや抗ヒスタミン剤のクロルフェニラミンは当然ですが、
ソリフェナシン(ベシケア)、トルテロジン(デトルシトール)といった、
比較的新しいタイプで、
高齢者に頻用されている、
過活動性膀胱や排尿障害の治療薬が、
多く含まれている点は、
重く受け止める必要があると思います。

ただ、COPDや喘息に使用されている、
吸入の抗コリン剤は含まれていません。
従って、現時点では経口薬と同一視はするべきではないと思います。

高齢者への抗コリン剤の内服薬の使用は、
色々な意味で問題があり、
今後は必要な短期間に、
限定する必要があるのではないでしょうか?

最後に補足ですが、
現状65歳以上で抗コリン剤を継続的に使用されている方は、
決して自分のみの判断で中断はせず、
主治医の先生にご相談をして下さい。
海外でも処方が全て中止されている、
という訳ではなく、
これは1つの注意喚起としての意味合いが大きい知見なので、
個々の患者さんの状態によって、
継続が望ましい場合も当然あると思います。
どうかその点は、
ご配慮の上注意深くお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「レヴェナント 甦えりし者」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

今日は何もなければ一日のんびり過ごすつもりです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
レヴェナント.jpg
ディカプリオのアカデミー賞でも話題の「レヴェナント」を観てきました。

これは年代的には西部劇で、
アメリカ開拓時代の物語です。

ディカプリオはバッファロー狩りのハンターで、
狩猟の最中に先住民に襲われ、
逃げる途中でクマに襲撃されて重症を負うと、
トム・ハーディ演じる仲間に裏切られて、
同行した息子を殺された上に置き去りにされます。

そこからディカプリオの決死のサバイバルが始まり、
生還すると、
今度はトム・ハーディへの追跡と復讐劇が展開されます。

本当にシンプルにそれだけの筋が、
3時間近い上映時間で展開されるのですが、
舞台設定や背景などの説明は一切なく、
台詞も非常に少なく切り詰められていて、
感覚的で強烈な映像のみが主役、
という性質の作品です。

ジャンルとしては、
「ラスト・オブ・モヒカン」とか、
「グリーン・デスティニー」の系譜の作品で、
超人的な登場人物が、
復讐のような極めて人間的で底の浅い激情のドラマを、
過酷な大自然の中で、
いつ果てるともなく続けるうちに、
人間界を離れ、
いつしか神の世界に達する、
という話です。

僕はこういうタイプの話がとても好きで、
あまり小説などでは出会えないタイプの興奮と感動があるので、
映画の本質的な部分ではないかしら、
というように思っています。

そんな訳で、
疲れていると観るのはしんどい感じはあるのですが、
映像は圧倒的で、
ラストはもうひと押しあっても良いのではないか、
という気はしましたが、
まずまず納得して劇場を出ることが出来ました。

ラストはディカプリオは敵を倒し、
人間の世界を離れて、
妻の待つ神の領域に踏み込む訳で、
俗な言い方をすれば死ぬ訳ですし、
別の言い方をすれば、
置き去りにされた時点で、
人間としては死んでいて、
その後の人間離れした行動は、
全て幻想のような幽霊のような、
そうしたものかも知れないという訳です。
それをどちらでもなく表現出来るのが、
ある意味映画の魔術であり、
最も魅力的な部分なのです。

これはそうした映画です。

映像は過去の色々な映画的遺産を、
巧みに取り込んでいるように思いました。
水の流れを延々と追ったり、
壁画の残る破壊された教会で、
壊れた鐘が動き続けているイメージカットなどは、
露骨にタルコフスキーですし、
オープニングの戦闘の質感は、
「プライヴェート・ライアン」や「フルメタル・ジャケット」だと思います。
吹雪の荒野を先住民と2人で彷徨うのは、
「デルス・ウザーラ」ですし、
ラストの2人の対決は、
ちょっとマカロニ・ウェスタンが入っていて、
カメラのレンズに血が飛んだりするカットもあります。

それでいて意外に統一感が取れているのが、
監督の腕で、
ワンカットで途中から動物が出て来たりするのは、
絶対にCGだと思うのですが、
そう感じさせない質感で、
白い大自然の風景に溶け込んでいます。

ただ、個人的には、
長回しで途中から動物との格闘になったり、
途中で延々と崖を落ちたりするのは、
少しやりすぎのように感じました。
そんなことをワンカットで出来る訳がないので、
結局は画面を加工してCGも使っているのだな、
ということが分かってしまい、
長回しのワクワク感が減弱してしまうからです。

そうしたカットは、
あのクマに襲われる場面のみで良かったのではないでしょうか?

ディカプリオは熱演で、
アカデミー賞は納得ですが、
普段のディカプリオとの落差が評価されるのは、
本末転倒のようにも思います。
もっと役柄の中での振幅が、
評価されるべきではないでしょうか?
トム・ハーディも良かったのですが、
彼は矢張りマックスのようなヒーローで観たいですね。
個人的には2人のキャストが逆であった方が、
映画としては落ち着いたような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

細川徹「あぶない刑事にヨロシク」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で石原が研修会出席のため、
午前午後とも石田医師が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
あぶない刑事にヨロシク.jpg
大人計画の精鋭を中心としたキャストに、
作・演出を細川徹さんが勤めた、
大人計画の番外公演的な公演が、
明日まで下北沢の本多劇場で上演されています。

これはまあ、
お分かりのように「あぶない刑事」のパロディなのですが、
オープニングから楽しい趣向が満載で、
お客さん参加や観客いじりが、
きちんと藝になっているのが嬉しいのです。

細川徹さんの台本は、
物語性が高くて、
個々のディテールはギャグ満載で楽しいのですが、
物語は結構まっとうなものなので、
それを追うのがしんどくなるという欠点があります。

今回も残念ながらそうした欠点はあって、
主人公の刑事たちの宿敵の暴力団との抗争劇が、
段取りを踏んで展開されるのですが、
ギャグを補足して楽しむので精いっぱいで、
後半は筋を追うのが面倒になってしまいます。
筋自体に意外性のないのもその気分を強くしています。

ただ、その点を除けば、
パロディとしても良く出来ていますし、
濃厚なキャラ祭りとしては、
最高に楽しめます。

テレビでは2枚目半的な役割もこなし、
少し垢抜けた感じになった荒川良々さんですが、
今回は以前のような狂気に満ちた役回りで、
主人公の皆川猿時さんを、
さんざんに危ない目に遭わせるのが楽しく、
その上司に村杉蝉之介さん、
不必要にセクシーを振りまく女刑事に池津祥子さん、
部下に近藤公園さんという鉄板の布陣です。

なかなか楽しいお芝居に仕上がっているので、
気楽に楽しみたい方にはお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

低用量アスピリンの一次予防ガイドライン(2016年アメリカのデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アスピリンの使用ガイドライン.jpg
今月のAnnals of Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
アメリカ予防医学作業部会(USPSTF)による、
アスピリンの予防的な使用を、
どのような患者さんに対して使用するべきかの、
ガイドラインの最新版です。

低用量のアスピリン(1日81から100ミリグラム)の継続的な使用には、
心筋梗塞や脳卒中の予防効果と、
腺癌、特に大腸癌の予防効果が認められています。

ただ、その一方でアスピリンには、
出血系の合併症があり、
その代表は胃潰瘍などの消化管出血と脳内出血です。

今回のガイドラインのたたき台となった最新のデータでは、
まだ病気を起こしていない状態でのアスピリンの使用により、
その後の心筋梗塞を17%、
脳卒中を14%、男女共に減少させる効果が確認されています。
また10年を超える継続使用により、
大腸癌のリスクは40%の低下が認められています。
その一方でアスピリンの使用は、
重症の消化管出血を58%、
出血性梗塞を27%増加させます。

ですから、
仮に同じくらいの確率で、
その人が心筋梗塞と出血性梗塞を起こすとすれば、
アスピリンの使用は、
出血のリスクがより高くなるので、
メリットが少ないということになります。

アスピリンの使用によりメリットがあるのは、
従って、心筋梗塞や脳卒中を起こす可能性が高く、
その一方で重症の出血を起こす危険性は低い、
という場合です。

10年を超える使用により、
明確な効果が現れて来るとすれば、
なるべく早期にその使用を開始した方が、
よりその予防効果は期待出来る、
という計算になります。

臨床試験や疫学のデータを元にして、
個々の場合のリスクを算出し、
年齢が40から79歳で10年間の心血管リスクが1から20%である、
架空の集団にそれを当て嵌めるという手法で計算を行ったところ、
以下のような結果が得られました。

単なる寿命ではなく、
QOLが保たれた生活を延長する効果は、
10年間の心血管疾患リスクが1から20%の、
年齢が40から69歳の男女において、
アスピリンの使用により確認されました。

また、寿命の延長効果は、
10年間の心血管リスクが1%の女性を除いて、
40から59歳では心血管疾患が低くても認められ、
60から69歳においては、
10年間の心血管リスクが10%を超える時のみ、
その効果が確認されました。

その一方で心血管疾患リスクに関わらず、
70歳以上の年齢層(70から79歳)においては、
寿命の延長効果は認められませんでした。

つまり、40代から50代に低用量アスピリンを開始して、
それを最低でも10年間、
通常は20年以上継続することにより、
その心血管疾患のリスクはそう高くなくても、
それにより心筋梗塞や脳卒中、そして大腸癌が予防されることの効果は、
使用による出血系の合併症の影響を上回り、
一定レベルの寿命延長と、
病気のない生活の延長を期待出来るけれど、
60代からの開始ではその効果は微妙になり、
70歳以上から開始しても、
その効果はあまり有害な影響を超えるものには成り得ない、
ということになります。

これはただ、仮想のアメリカ国民を対象としたもので、
それがそのまま日本人に適応可能とは言い切れません。

ザックリと見れば、
同一の傾向のあることは間違いはないと思います。

ただ、アメリカと比較すれば、
日本では心筋梗塞と大腸癌は少なく、
その一方で脳卒中は多く、
更に出血性梗塞も多い、
という違いは歴然とあります。

以前ご紹介したことのある日本の疫学データでは、
その精度にやや問題はあるものの、
60歳以上の年齢層でのアスピリンの使用には、
明らかなメリットがなかった、
という結果になっています。

現状の考えとしては、
高血圧やLDLコレステロール高値など、
1つ以上の心血管疾患のリスクのある、
40代から50代の年齢層から開始したアスピリンの使用は、
10年を超える使用であれば、
一定の有効性は期待出来る、
というくらいに考えた方が良いように思います。
勿論血圧が治療の有無には関わらず安定しているなど、
出血のリスクが少ないことが条件になります。
60歳以上の年齢層では、
全ての方にはメリットはなく、
糖尿病の患者さんへの使用を別個に考えるかどうかは、
まだ相反する意見があり一定はしていません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

スタチンの糖尿病は予知出来るのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンの糖尿病とそのリスク.jpg
今年のJAMA Cardiology誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤の使用と、
その副作用である糖尿病の発症に、
関連する因子を検証した論文です。

スタチンはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
特にLDLコレステロールを低下させることにより、
心血管疾患、特に心筋梗塞の予防に有用な薬剤です。

ただ、この薬には新規の糖尿病の発症を、
わずかながら増加させるという副作用のあることが知られていて、
それは主にこの薬剤の基本的な性質である、
酵素の阻害と結び付いていると考えられています。

糖尿病は強力な心血管疾患の危険因子ですから、
良かれと思ってスタチンを使用していても、
それで糖尿病を発症してしまったとすれば、
心血管疾患の予防効果は、
無効とは言えないまでもかなり減殺されますし、
何より糖尿病の管理という、
大きな負担が患者さんに掛かることになってしまいます。

仮にスタチンで糖尿病が誘発され易い条件なり、
体質なりが、
事前に予測可能であれば、
そうした条件に当て嵌まる患者さんに対するスタチンの使用は、
より慎重に考える、という選択肢が生まれます。

2012年のLancet誌に、
JUPITER試験とよばれた、
スタチンの大規模な臨床試験のデータを、
再解析し、
どのような患者さんで、
スタチンによる糖尿病発症リスクが高まり、
どのような患者さんで、
スタチンの有効性がそのリスクを上回るのかを、
検証した結果が報告されています。

JUPITER試験というのは、
ロスバスタチン(商品名クレストールなど)を用いた、
スタチンについての大規模な臨床試験です。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

まず、
スタチンによる糖尿病の発症リスクの増加は、
糖尿病の一般的な発症リスクとされる、
メタボリックシンドローム、
BMIという指標が30を超える肥満、
血糖コントロールの指標である、
Hba1cという数値が6%(NGSP値)を超える場合や、
食膳血糖が正常よりやや高めの所謂前糖尿病状態の患者さんで、
より高い傾向にあり、
そうした患者さんを除外した検討では、
スタチンによる糖尿病発症リスクの有意な増加は、
認められませんでした。

そして、
糖尿病リスクのある患者さんにおいても、
心疾患や脳卒中の発症を相対リスクで39%低下させていて、
糖尿病の発症リスク増加の28%を差し引いても、
充分有用性は確保されている、
という結果でした。

今回のデータは同じJUPITER試験の再解析なのですが、
最近注目されている、
LPIR(lipoprotein insulin resistance )スコア、
という脂質の指標を用いて解析を行なっている、
と言う点がポイントです。

LPIRスコアというのは、
血液中のリポ蛋白と呼ばれる、
6種類の脂質の重みづけをして数値化したもので、
その数値が高いほど、
インスリン抵抗性が高いと判断されます。

この場合の6種類のリポ蛋白は、
通常サイズのVLDL、HDL、LDL、
そして大きなサイズのlarge VLDL、large HDL、
そして小さなサイズのsmall LDL、
の6種類です。

何故脂質でインスリン抵抗性が分かるのかと言うと、
たとえば、インスリンはlargeVLDLの肝臓での合成を抑制するので、
インスリン抵抗性が増すとVLDLは増加するのです。
このような変化が個々の脂質において起こるので、
6種類の脂質を重みづけとして数値化することにより、
インスリン抵抗性の指標になるのです。

今回の解析によると、
スタチン(ロスバスタチン)の使用により、
LPIRスコアは改善しています。
つまり、スタチンによってインスリン抵抗性は改善しているのです。

そして、
偽薬群でもスタチン使用群でも、
LPIRスコアは観察期間中の糖尿病の発症と、
有意な関連を持っていました。

要するに今回の解析においても、
糖尿病のリスク因子があるほど、
スタチンによる糖尿病の誘発もより多い、
という結果です。
その一方でインスリン抵抗性の高い人では、
よりスタチンによるメリットも大きいのですから、
悩ましいところがあります。

現状はスタチンの使用は、
適応の事例では積極的に行ないながらも、
インスリン抵抗性が高いなど、
糖尿病の発症リスクが高い患者さんでは、
スタチンによる糖尿病の発症にも留意しつつ、
治療を継続する、
という方針しかないように思います。

現状スタチンによる誘発される糖尿病に、
それを予知するような指標はないと、
そう考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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