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心臓手術時のアスピリンの継続とその安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日のため、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アスピリンの中断とそのリスク.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心臓手術直前のアスピリンの使用と、
その有効性とリスクを検証した論文です。

心臓の手術を受けるような患者さんでは、
アスピリンのような抗血小板剤や、
ワルファリンなどの抗凝固剤を、
狭心症発作の予防や心筋梗塞の再発予防のために、
内服しているケースが多いと思います。

それでは、
術前にはこうした血が固まり難くなる薬を、
どのようにすれば良いでしょうか?

従来行われていた方法は、
手術の1週間くらい前から薬剤を中止し、
術後落ち着いてから再開する、
と言う方法でした。

しかし、手術などの侵襲のある時には、
血液は凝固し易くなり、酸化ストレスも高まるので、
それだけ心筋梗塞なども起こり易くなります。
従って、
むしろ手術や処置などの際には、
アスピリンのような薬は継続した方が良いのではないか、
という意見が最近は強くなっています。
また、特にワルファリンで言われていることですが、
一時的な中断により、
その時期の血栓症のリスクが、
急上昇する、
というような知見もあり、
そうした点からも、
極力一旦継続した抗血小板剤や抗凝固剤は、
安易に中断しない、
というのが近年のコンセンサスになっています。

ただ、抜歯や胃カメラの時の生検でしたら、
慎重に止血を確認すれば問題はないと思いますが、
心臓バイパス手術のような大きな手術の場合には、
血が止まり難いことが患者さんの予後に本当に影響を与えないのか、
出血の合併症が増えるのではないか、
という危惧が簡単には拭い去れません。

そこで今回の研究では、
世界5か国の19の専門施設(オーストラリアが中心です)において、
心臓の冠動脈の手術を行なう予定の2100人を登録し、
くじびきで2群に分けると、
一方は術前1から2時間前にアスピリン100ミリグラムを使用し、
他方は偽薬を使用して、
術後30日間の予後を比較しています。
(トラネキサム酸の効果も同時に検証されていますが、
今回の論文ではデータは開示されていません)

アスピリンを登録の時点で継続していた患者さんでは、
4日前にはその使用を一旦中止しています。
中止したアスピリンは、
概ね術後24時間以内には再開されています。
ワルファリンやクロピドグレルを使用していた患者さんでは、
手術の7日前には一旦中止されています。
それ以外の抗凝固剤や抗血小板剤については、
主治医の判断にその中止の有無は任されています。

その結果…

アスピリンを使用してもしなくても、
術後30日の予後には有意な差はありませんでした。
術中術後の出血系の合併症のリスクには差はなく、
その一方で術中術後の血栓症の発症や死亡のリスクにも、
有意な差は認められませんでした。

今回の結果は悩ましいもので、
手術の直前にアスピリンを使用しても、
使用しなくても、
その後の急性期の経過には、
あまり影響はなかった、というデータになっています。

ただ、今回の研究では、
薬の管理の多くは主治医の判断に委ねられていて、
実際にはアスピリン以外の抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんが、
比率的に高かったので、
アスピリンの術前中断の影響は、
相対的に低くなってしまった可能性があります。

これまでのデータの蓄積から考えれば、
基本的にはアスピリンの中止はせずに、
心臓手術は行った方が、
患者さんの予後に良い影響を与えるか、
少なくとも悪い影響はない可能性が高い、
と考えて頂くのが、
現状では良いように思います。

ただ、侵襲の高い手術に関しては、
患者さんの状態により、
どちらのリスクを高く見積もるのかについては、
専門医の高度な判断が必要になることは確かで、
一般論として決めることは、
適切ではないような気もします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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